堀田秋津グループ 京都大学 iPS細胞研究所 未来生命科学開拓部門 堀田研究室

現在の研究内容

iPS細胞を用いた遺伝子治療を実現させるためには、遺伝子変異や疾患の種類に応じて、様々な戦略を取る必要があります。我々の研究室では、ウイルスベクターや非ウイルスベクターを活用した遺伝子導入技術、およびTALENやCRISPRといったゲノム編集技術を応用することで、これらの課題に挑戦しています。

ゲノム手術による遺伝子変異修復

デュシェンヌ型筋ジストロフィーはジストロフィン遺伝子の異常によって引き起こされる先天性の進行性筋萎縮症です。ジストロフィン遺伝子は220万塩基もの長さがある巨大な遺伝子であり、途中にDNAの欠損が起きると、フレームシフトが起こりタンパク質が途中で途切れてしまいます。我々はジストロフィンタンパク質の全長を回復するために、TALENあるいはCRISPRと呼ばれる人工ヌクレアーゼ(DNAのメス)を利用して遺伝子を修復する研究を行っています。

CRISPRとは、細菌由来のDNA切断システムの一種で、右図においてターゲットDNA (赤色オレンジ)にgRNA (ガイドRNA, 紫色)が結合することでゲノム上のターゲット配列を見つけ出し、Cas9タンパク質 (緑色)のDNA切断ドメインによって狙った部位にDNA切断を誘導します。DNA結合を担うgRNAを自在に組み替えることで、ヒトゲノム上の任意の位置にDNA損傷を誘導ことで、塩基の欠損や任意の配列を挿入することが可能です。ジストロフィン遺伝子の変異部位付近をターゲットとするCRISPR-gRNAを利用することで、ジストロフィンタンパク質を回復させることを目指しました。

我々はまず、ヒトゲノム配列をコンピューター上でサーチして、ヒトゲノム上に一箇所しなかい10-16塩基長の短いDNA配列だけを抽出し、iGEATsデータベースを作製しました。このデータベースを用いる事で、TALENやCRISPRの認識配列が、ヒトゲノム上の一箇所だけを特異的にターゲットできる領域を見つけ易くしました。次に、筋ジストロフィー患者からiPS細胞を作製し、3通りの戦略を用いてジストロフィン遺伝子の変異を修復できることを示しました。さらに、TALENとCRISPRで修復効率を調べた所、どちらも遜色無い事が分かりました。さらには、遺伝子修復を行ったiPS細胞において、染色体の核型やDNAのコピー数変異、そしてタンパク質コード領域の塩基変異を解析した所、目立った致命的な変異は発見されませんでした。この結果は、TALENやCRISPRを正しくデザイン構築ができれば、iPS細胞においてほとんど副作用無く遺伝子修復が行えることを示しています。最後に、修復iPS細胞を筋肉細胞に分化させた所、患者由来の修復前iPS細胞ではジストロフィンタンパク質の発現が見られなかったのに対し、遺伝子修復後のiPS細胞ではジストロフィン遺伝子の局在およびサイズが健常人と同レベルまで回復していることを確認しました。この成果は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する全く新しい遺伝子治療の方法となることが期待されます。

以上の成果は、国際幹細胞学会ISSCRの機関誌Stem Cell Reportsに掲載されました。(2014年11月26日付)

この研究は、科学技術振興機構(JST)による戦略的創造研究推進事業「さきがけ」の助成を受けて行われました。[平成22年10月〜平成26年3月]

非ウイルスベクターによる遺伝子挿入

血友病Aは血液凝固因子(遺伝子)の異常によって引き起こされる先天性の血液凝固異常症です。重度の血友病患者は血液凝固因子活性が健常者の数%以下であり、出血が止まらなくなるため、高価な血液凝固因子製剤を定期的に注射で補充する因子補充療法が広く行われています。しかし、数日ごとに繰り返し製剤を注射するのは肉体的・経済的な負担が大きいため、新しい治療法の開発が期待されています。
血友病患者さん由来のiPS細胞から肝臓様細胞を作り出し、遺伝子導入技術を用いて血液凝固因子を高いレベルで分泌できるようになれば、患者さんの体内で長期に渡って血液凝集機構を正常に戻すことが可能であると期待できます。そこで当研究室では、長期間に渡って血液凝固因子を高発現させるために、トランスポゾンを利用した非ウイルスベクターの開発を行いました。

我々は、piggyBacと呼ばれる蛾由来のDNAトランスポゾンを利用して、これまでのウイルスベクターでは不可能だった全長型のヒト血液凝固第八因子を遺伝子導入することに成功しました。さらに、ハイドロダイナミック注入法を用いてpiggyBacベクターを血友病Aモデルマウスに導入することにより、血液凝固機能の改善に成功しました。

以上の成果は、オープンアクセス科学雑誌のPLOS ONEに発表しました。(2014年8月15日付)

この研究は、日本学術振興会(JSPS)による科学研究費補助金(研究活動スタート支援)[平成22年10月〜平成24年3月]の助成を受けて行われました。

過去の研究概要

体細胞に数種類の転写因子を導入することで作り出されるiPS細胞は、ES細胞と同等の分化能力を持つことから、分化多能性の研究、難病の発病機構の研究や治療法の開発、さらには再生医療への応用などが期待されています。しかしながら、ヒトiPS細胞の誘導効率は低く(〜0.02%)、また株によって分化多能性や品質にばらつきがあることが知られています。

そこで、より効率的で、しかもより均質なヒトiPS細胞樹立方法の開発を目指して、GFP(緑色蛍光タンパク質)などの目印となる遺伝子をES/iPS細胞だけで発現するレンチウイルスベクターの開発を行いました。マウス初期胚や未分化ES細胞で高発現しているEarly Transposon (ETn)由来のプロモーターに、Oct-4 (別名Pou5f1)のエンハンサー領域を三量化して連結することで、未分化な多能性幹細胞だけで特異的に発現するEOSレンチウイルスベクターの開発に成功しました。(Hotta et al., Nature Methods, 2009)

このベクターをヒト線維芽細胞へ導入した際にはGFPは発現しませんが、そこへ山中教授の発見された四種類の転写因子(OCT-4, SOX2, KLF4, C-MYC)を導入してiPS細胞の誘導を行うと、EGFPの発現が活性化され、緑の蛍光を発することを確認しました。さらに選択用の薬剤(ピューロマイシン)を添加することで、ヒトES細胞様のiPS細胞コロニーだけが選択的に増殖し、ヒトES細胞マーカー(TRA-1-81等)を発現する細胞の割合を70%以上にまで高めることが可能となりました。また、この方法を用いてレット症候群(MeCP2遺伝子の異常で起こる進行性の神経疾患)患者由来のiPS細胞樹立にも成功しました。このEOSベクターは、リプログラミングされたiPS細胞を特異的に選択するだけでなく、新しいヒトiPS細胞の誘導方法最適化や小分子化合物の探索にも利用可能であると期待されます。