iPS Cell Research Project for Regenerative Medicine – iPS細胞再生医療応用プロジェクト https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm iPS Cell Research Project for Regenerative Medicine Wed, 07 Dec 2022 07:03:45 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=4.9.7 ヒトiPS細胞由来のグリア系神経前駆細胞移植でALSモデルマウスの生存期間延長 https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1837 Fri, 04 Jul 2014 05:03:30 +0000 http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1837 近藤孝之研究員、井上治久教授(京都大学CiRA増殖分化機構研究部門)らの研究グループは、CiRA山中伸弥教授、京都大学大学院医学研究科高橋良輔教授、慶應義塾大学医学部岡野栄之教授(生理学)・中村雅也准教授(整形外科学)らのグループとともに、ALSのモデルマウスにヒトiPS細胞由来のグリア系神経前駆細胞を移植することで、ALSマウスの生存期間を延長する効果があることを見出しました。

この研究成果は2014年6月26日正午(アメリカ東部時間)に「Stem Cell Reports」のオンライン版で公開されました。

 

 

ポイント

  • ヒトiPS細胞由来のグリア系神経前駆細胞注1)を筋萎縮性側索硬化症(ALS)注2)のモデルマウスに移植することでマウスの生存期間が延長した
  • 移植細胞は多くがアストロサイトに分化し、神経栄養因子を増加させ脊髄環境を改善した
  • ALSの治療にiPS細胞が細胞源として有用である可能性が示された

 

1. 要旨

遺伝子(SOD1)の変異によるALSモデルマウスに、マウスおよびヒト胎児由来の神経前駆細胞を移植することで、運動神経細胞の変性や病態の進行が緩和することが知られていました。臨床の現場にこの成果を応用するためには、持続的に供給が可能であるヒトの細胞で研究を行う必要がありました。井上教授らのグループは、ヒトiPS細胞からグリア系神経前駆細胞を誘導し、それをALSマウスモデルの腰髄に移植しました。移植された細胞はアストロサイト注3)へと分化し、移植されたマウスのグループの生存期間は移植されていないマウスと比べて長くなりました。また、移植された細胞は、神経栄養因子が増加し、脊髄環境が改善されることが示唆されました。この結果は、ヒトiPS細胞を使うALSの細胞移植治療の可能性を示しています。

 

 

2. 研究の背景

ALSは運動神経細胞が変性してしまうことで、次第に筋肉が動かせなくなる疾患です。ALSのうち9割は孤発性で、残りの1割程度が遺伝性と言われています。遺伝性のうち、20%がSOD1という遺伝子が変異していることが知られています。変異したSOD1遺伝子をもつマウスやラットでは、ヒトのALSと同じような症状が見られ、ALSモデルとして使われてきました。

ALSは運動神経細胞の機能が失われることが原因の病気ですが、ALSモデルマウスや細胞レベルでの研究から、神経細胞以外の、グリア細胞注4)が病気の進行に関わっていることがわかってきました。グリア細胞の中でも特にアストロサイトは、孤発性のALSと遺伝性のALSの両方に関わっているのではないかと考えられています。

これまでに、胎児由来神経幹細胞を始めとしてさまざまな種類の細胞移植研究が試みられてきました。しかし移植用細胞の供給は限られており、倫理的な問題も有ることから、安定した調達は容易ではありませんでした。ヒト多能性幹細胞を用いた細胞移植治療は、患者さんにかける負担が少なくてすみ、必要な数まで増やすことができることから、移植用細胞の供給源として優れています。そこで井上教授らのグループは、ヒトiPS細胞からグリア系神経前駆細胞へと分化させる方法を確立し、ALSの細胞移植治療に使う細胞としての有用性を検証しました。

 

 

3. 研究結果

1) iPS細胞由来のグリア系神経前駆細胞移植はALSモデルマウスの生存期間を延長した

ALSの症状が出始めている生後90日のALSモデルマウスの腰髄部分にiPS細胞から誘導したグリア系神経前駆細胞をマウス1匹あたり8万個移植しました。実験はそれぞれ24匹(雄17匹、雌7匹)で行ない、生後何日まで生き延びるのか、生存期間を比較しました(Fig. 1)。その結果、コントロール群(細胞移植しなかったマウス)では平均生存期間が150.4±12.1日であるのに対して、細胞移植群では162.2±12.8日と7.8 %長くなっていることがわかりました。

 

 

Inoue_SCR_Fig1.png

 

図1 ALSモデルマウスの生存期間が延長した
PBS: コントロール群
hiPSC-GRNPs: グリア系神経前駆細胞を移植した群

 

2) 移植したグリア系神経前駆細胞はアストロサイトに分化した

生後140〜170日目(細胞移植後、50〜80日目)のマウスで、移植した細胞がどのような細胞へと分化しているのか調べました。移植したグリア系神経前駆細胞にはGFP(緑色蛍光タンパク質)を組み込んでおき、外から移植した細胞と元々のマウスの細胞とを見分けられるようにしておきました。細胞を移植した部位の組織切片を作成し、神経細胞やアストロサイト、オリゴデンドロサイトのマーカーを指標に免疫染色注5)を行いました(Fig. 2)。移植した細胞(緑色)はアストロサイトのマーカーであるGFAPやGLT1、ALDH1L1(赤色)と重なって黄色に観察される一方で、神経前駆細胞のマーカー(NESTIN)、オリゴデンドロサイトのマーカー(A2B5やCNPase)および神経細胞のマーカー(TUJ1やMAP2)とはほとんど重なっていませんでした。つまり移植したグリア系神経前駆細胞は主にアストロサイトに分化したと考えられます。また、観察した限りでは腫瘍の形成は見られませんでした。

 

 

Inoue_SCR_Fig2.png

 

図2 移植した細胞は主にアストロサイトに分化した

 

 

3) 細胞移植により神経栄養因子が増加した

治療効果の機序を検討するために神経栄養因子の発現量を検討すると、生着した移植細胞に加え、ホストであるマウスの細胞の神経栄養因子の発現量も増加していることがわかりました。

 

 

Inoue_SCR_Fig3.png

 

図3 細胞移植により神経栄養因子が増加した

PBS: コントロール群

hiPSC-GRNPs: グリア系神経前駆細胞を移植した群

 

4. まとめ

ALSは運動神経細胞が正しく機能しなくなり、筋肉が動かせなくなる進行性の病気です。iPS細胞を用いたALS研究には大きく分けて2つの方法があります。一つはALSの病態を再現してその病態を改善する治療薬を見つける研究、もう一つはALSになって上手く働かなくなってしまった運動神経細胞を、細胞移植によって保護したり、新たに再生させる研究です。今回は細胞移植という手法を用いた後者の研究で、グリア系神経前駆細胞(後に多くがアストロサイトに分化していた)を移植することにより、ALSモデルマウスでは治療効果を有することを報告しました。

神経栄養因子はALSの病態に重要であり、治療標的の一つとして世界中で検討されています。今回我々が検討した細胞移植治療においても、神経栄養因子が増加しておりALSモデルマウスの脊髄環境を改善したことが示されました。

グリア系の細胞は神経細胞の周りの環境を整える機能をもっている細胞です。つまり、本来機能させるべき運動神経細胞を花に例えると、その花を咲かせるために必要な栄養分を供給する土の役割をする細胞です。しかし枯れてしまいつつある花を新たに植え直すこと、すなわち失われた運動神経細胞の再生は非常に難しいのが現状です。そこで今回は良い土を補うことを行いましたが、より根本的な治療のためには花の植え直しが有効であると考えられます。将来的には運動神経細胞も移植することで、より大きな機能回復効果があるかもしれませんが、解決すべき課題は多く、実際にヒトで治療効果をみる段階に至るまでには、多くの時間が必要です。

 

 

5. 論文名と著者

・論文名

“Focal transplantation of human iPSC-derived glial-rich neural progenitors improves lifespan of ALS mice”

 

・ジャーナル名

Stem Cell Reports

 

・著者

Takayuki Kondo1,2,3, Misato Funayama1,3, Kayoko Tsukita1,3, Akitsu Hotta1,3,4,5, Akimasa Yasuda6, Satoshi Nori6, Shinjiro Kaneko6,7, Masaya Nakamura6, Ryosuke Takahashi2, Hideyuki Okano6, Shinya Yamanaka1,8, Haruhisa Inoue1,3*

 

・著者の所属機関

  1. 京都大学CiRA
  2. 京都大学大学院医学研究科
  3. JST CREST
  4. JST さきがけ
  5. 京都大学iCeMS
  6. 慶應義塾大学医学研究科
  7. 村山医療センター
  8. グラッドストーン研究所

 

 

6. 本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。

  • 文部科学省 再生医療の実現化プロジェクト
  • 内閣府 最先端研究開発支援プログラム(FIRST)
  • 科学技術振興機構 CREST注6)
  • 日本学術振興会 新学術領域研究 「シナプス・ニューロサーキットパソロジーの創成」

 

7. 用語説明

注1) グリア系神経前駆細胞

神経系の幹細胞は、神経細胞(ニューロン)もしくはグリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト)へと分化する能力が有る。培養環境の調整により、グリア細胞への誘導効率を高めた神経前駆細胞を移植に用いた。

 

注2) ALS (Amyotrophic lateral sclerosis: 筋萎縮性側索硬化症)

筋肉が次第に萎縮し、全身の筋肉が動かなくなる病で、最終的には呼吸筋麻痺で亡くなる方が多い。運動神経細胞に異常が生じることが原因であることがわかっているが、これまでに有効な治療法は確立されておらず、日本では特定疾患に認定されている。およそ90%程度が遺伝性の認められない孤発性であり、残りの10%が遺伝性であり、そのうちの2割程度(患者さん全体の2%程度)がSOD1(スーパーオキシドジスムターゼ1)という遺伝子に変異があることが知られている。

 

注3) アストロサイト

中枢神経系を構成する3種類のグリア細胞の一つ。多くの染色法で星形に見えることから、星状(アストロ)と名付けられている。極めて多数の突起を密にもち、複雑な構造をしている。神経ネットワークの構造を維持や、周辺の環境を調節する機能を持っている。

 

注4) グリア細胞

神経細胞の周りの環境を整え、神経細胞の生存や機能をサポートする働きを持つ細胞。アストロサイト、オリゴデンドロサイト、マイクログリアの3種類の細胞がある。ALSにおいては、グリア細胞が作り出す脳神経系の環境が、運動神経細胞死を始めとした病態を修飾することが知られている。

 

注5) 免疫染色

特定のタンパク質を認識する抗体を用いて、そのタンパク質が存在する場所に色を付ける方法。本研究では分化した細胞(アストロサイト・オリゴデンドロサイト・神経細胞など)に特異的なタンパク質を指標として用いて、どの細胞に分化したのかを判別するために利用した。

 

注6) JST戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域「人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製・制御等の医療基盤技術」
(研究総括:須田 年生 慶應義塾大学 医学部 教授)
研究課題名 「iPS細胞を駆使した神経変性疾患病因機構の解明と個別化予防医療開発」
研究代表者   井上 治久(京都大学iPS細胞研究所 教授)
研究期間平成21年10月〜27年3月

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ヒトの体細胞は原条の細胞に似た状態を経て初期化される 〜初期化メカニズムの一端を解明〜 https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1802 Thu, 24 Apr 2014 04:08:05 +0000 http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1802  高橋和利講師(京都大学CiRA)、田邊剛士研究員(元京都大学CiRA)、山中伸弥教授(京都大学CiRA)らの研究グループは、ヒトの体細胞は原条の細胞に似た状態を経て初期化されることを明らかにしました。

この研究成果は2014年4月24日(日本時間)に「Nature Communications」で公開されました。

 

ポイント

・初期化途中の細胞を純化し、ノイズの少ない解析を可能にした。
・初期化途中の細胞では原条で働く遺伝子が一過的に発現していた。
・原条形成に関わるFOXH1が初期化を促進することを見出した。

 

1.要旨

哺乳類の胚発生過程において多能性細胞(エピブラスト)は、原条(primitive
streak)注1と呼ばれる構造を通過し、そこから内胚葉や中胚葉へと分化していくことが知られています。一方でiPS細胞は体細胞に少数の転写因子
(例えばOCT3/4, SOX2, KLF4 と c-MYC; OSKM)を用いることで、分化多能性を再獲得した細胞ですが、その過程については十分に解明されていません。iPS細胞をつくる様々な方法が報告されていますが、OSKMのみでiPS細胞を作る場合の効率はとても低いものであり、何か初期化を阻害する物がある、あるいは初期化を効率よく進めるためには、
まだ知られていないイベントが必要であると考えられます。高橋講師らの研究グループは、これまでにiPS細胞へと初期化される過程には二段階あり、多くの細胞は一段階目までは進むが、その後の成熟化の過程に進んでiPS細胞に至る細胞が少ない事を明らかにしています。今回の研究では、ヒト細胞の初期化途中(後半)で細胞が、原条の主要な構成要素である中内胚葉のマーカー遺伝子を強く発現していることを見出しました。また、高橋講師らは初期発生段階で原条形成に関わるFOXH1というタンパク質が、ヒト線維芽細胞の初期化を促進することを見出しました。これらの結果から、ヒト体細胞が初期化される過程では分化過程の通り道である原条の細胞に似た状態を一時的に経ていると考えられます。

 

2.研究の背景

 OCT3/4、SOX2、KLF4、c-MYCを含む転写因子を発現させると、分化した体細胞が多能性を獲得しますが、その効率は決して高くありません。この効率の悪さの要因として、OSKMの添加に加えて、「初期化の障壁を取り除く」あるいは「未だに知られていない二次的なイベントが必要である」と考えられていました。これらを明らかにすることで初期化効率の改善が期待されます。しかしながら、集団の中で大部分を占める初期化されそこなった細胞が各種解析結果において大きなノイズとなり、初期化の分子機構を研究する上で障壁となっていました。そのため、iPS細胞へと初期化される過程にある細胞のなかで起きているイベントを捕まえることはとても難しいのが現状でした。
昨年、高橋講師らは細胞表面の抗原(タンパク質)であるTRA-1-60を指標に初期化途中の細胞を集めるという手法を開発し、ヒトの細胞のうちOSKM誘導によって生じたTRA-1-60陽性細胞がiPS細胞へと初期化される途中段階の細胞である事を示しました。また、TRA-1-60陽性細胞の動態解析から、初期化の開始段階ではなく、その後の成熟過程がボトルネックとなって初期化の効率を決めていることも明らかにしています(CiRA ウェブページ:2013年6月25日記事)。しかしながら、初期化途中の細胞の特徴についてはまだほとんど分かっていませんでした。
今回の研究では真正なiPS細胞の候補である途中段階の細胞としてTRA-1-60陽性細胞を集め、遺伝子発現について解析を行いました。

 

3.研究結果

 ヒト線維芽細胞(HDF)に初期化因子(OSKM)を作用させてから様々な日数で、iPS細胞へと初期化される途中の段階であるTRA-1-60陽性の細胞(d3〜d49)を回収し、それらの遺伝子発現を調べました。比較として、元のHDF細胞に加え、初期化が終わったiPS細胞(iPSC)やES細胞(ESC)、さらにiPS/ES細胞から少し分化させた細胞の内胚葉(EN)、中胚葉(ME)、神経外胚葉(NE)、原条様中内胚葉(PSMN)について解析を行いました。すると、初期化途中の段階の細胞、とくに20〜49日目の細胞はPSMNにとても似ている事が明らかになりました。

また、初期化の途中にあるTRA-1-60陽性細胞ではPSMNに特徴的なマーカー遺伝子(BRACHYURY(T)MIXL1CER1LHX1EOMES)が一過的に活性化している事を確認しました。一方で他の系統の細胞に特徴的なマーカー遺伝子は一時的に活性化することはありませんでした。これらの結果から、TRA-1-60陽性細胞が初期化の後半でPSMNと似た遺伝子発現をしていることが分かりました。

 

髙橋先生fig.jpg
Figure 初期化途中の細胞はPSMNに似ている
初期化途中の細胞でマイクロアレイを行い、PCA(主成分分析)により各細胞の位置をプロットした。途中(d20付近)でPSMNに近い状態を経て、iPS細胞になることがわかる。

 

以上の結果から、iPS細胞へと初期化される際には、原条の様な状態を経ていると考えられます。逆に原条の状態を誘導すると、初期化の効率が高くなることが予想されます。そこで原条に関連する転写因子をいくつかOSKMと同時に誘導したところ、FOXH1を利用した場合にできるiPS細胞のコロニー数が飛躍的に増加しました。また、FOXH1の機能をRNA干渉法注2により抑制すると、iPS細胞のコロニー数も対応して減少しました。これらの結果からFOXH1が初期化を促進することがわかりました。

 

4.まとめ

 今回使用したTRA-1-60を目印として初期化の途中にある細胞を捕まえる戦略により、初期化途中の細胞がPSMNと似た状態を経ることを明らかにしました。このPSMNに似た状態が次第に変化して、iPS細胞へとさらに初期化されます。初期化過程の研究を進めることで、iPS細胞のより強固な樹立を可能にすることができると考えられます。
 

 

5.論文名と著者

・論文名

“Induction of pluripotency in human somatic cells via a transient state resembling primitive streak-like mesendoderm”

・ジャーナル名

Nature Communications

 

・著者

Kazutoshi Takahashi1,*, Koji Tanabe1,*, Mari Ohnuki1, Megumi Narita1, Aki Sasaki1, Masamichi Yamamoto2, Michiko Nakamura1, Kenta Sutou1, Kenji Osafune1 & Shinya Yamanaka1, 3

 

・著者の所属機関

1. 京都大学iPS細胞研究所
2. 群馬大学
3. グラッドストーン研究所

 

6.本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。
・文部科学省 科学研究費補助金
・文部科学省 再生医療の実現化プロジェクト
・内閣府 最先端研究支援プログラム(FIRST)
・科学技術振興機構 再生医療実現拠点ネットワーク

 

7.用語説明

注1) 原条(プリミティブストリーク; primitive streak)
哺乳類の発生過程で現れる溝の様な構造。マウスの場合、発生開始から6〜7日目に見られ、この部分で細胞の形態が変化し、中胚葉や内胚葉の細胞のもとになる。

注2) RNA干渉法
細胞内で二本鎖RNAと相補的な配列を持つmRNAが分解される現象のこと。この現象を利用すると、遺伝子の配列がわかれば、その遺伝子の配列に相当する二本鎖RNAを合成し、細胞内に導入することで遺伝子の働きを阻害することができる。

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iPS細胞誘導に必要なDNA脱メチル化を担う候補因子の検討 https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1813 Thu, 10 Apr 2014 04:20:28 +0000 http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1813 島本廉研究員、沖田圭介講師(京都大学CiRA初期化機構研究部門)らの研究グループは、DNAの脱メチル化を引き起こす候補因子の一つであるAid(Activation-induced cytidine deaminase)について検討し、iPS細胞誘導時に必須の役割を持たないことを示しました。
この研究成果は2014年4月9日(米国東部時間)に「PLOS ONE」で公開されました。

ポイント

 ・Aid遺伝子欠損マウスから野生型と同等の効率でiPS細胞が樹立できた。このiPS細胞は自己複製能力や分化多能性、DNAのメチル化状態も野生型と同等であることが分かった。
 ・上記の結果から、マウスiPS細胞誘導時のDNA脱メチル化において、Aidは必須の役割を持たないことが示された。

 

1.要旨

 iPS細胞誘導の際にDNAの脱メチル化が重要であることが報告されています。しかし、そのメカニズムは十分には理解されていませんでした。研究グループは脱メチル化の候補因子としてAidに着目し、Aidを欠損したNanog-GFPレポーターマウス注1)からiPS細胞を作成し、野生型と比較実験を行いました。その結果、野生型とAid欠損型とで大きな差は見られず、Aidが必須の役割を持っていないことを明らかとしました。

 

2.研究の背景

 iPS細胞の誘導過程では、DNAのメチル化状態やヒストンの修飾状態といった細胞のエピジェネティックな状態が、体細胞の様式からES細胞の様式に変化することが報告されています。例えばNanogOct3/4などの多能性遺伝子のプロモーター領域のDNAは、iPS細胞誘導時に脱メチル化されることが分かっています。また、これらの領域のDNAのメチル化レベルは、不完全に初期化されたiPS細胞では完全に初期化されたiPS細胞に比べて高いことが知られており、DNAの脱メチル化はiPS細胞誘導において重要な役割を持つと考えられています。しかしながら、そのメカニズムについて十分に理解されていません。
 DNAを構成する塩基の一つにシトシンがあります。Aidはこのシトシンがメチル化されたメチル化シトシンを基質とする脱アミノ化酵素です。近年、ゼブラフィッシュの初期胚においてAidがDNA修復経路を介してDNAの脱メチル化に寄与することが明らかとなりました。また、マウスの初期胚や脳においてもDNAの脱メチル化に関与することが報告されました。さらに、ヒト線維芽細胞をマウスES細胞と融合させて初期化させる場合には、AidがOct3/4のプロモーター領域のDNAの脱メチル化に関わることも報告されています。これらの報告から、筆者らはiPS細胞誘導時のDNAの脱メチル化においてもAidが関わる可能性があると考え、この仮説を検証するためにAidを欠損したNanog-GFPレポーターマウスからiPS細胞を作製し、その性質について調べました。

 

3.研究結果

 Aid欠損マウスの胎仔線維芽細胞(MEF)注2)とB細胞注3)にレトロウイルスを用いてOct3/4Sox2Klf4c-Myc(4Fs)を導入したところ、野生型と同様にGFP陽性のiPS細胞コロニーが得られました(Fig. 1A)。GFP陽性コロニーの数を指標としたiPS細胞の誘導効率について、野生型とAid欠損細胞の間に有意な差は認められず、Aidを過剰に発現させても誘導効率への影響はありませんでした (Fig. 1B)。これらの結果から、Aidの有無はiPS細胞の誘導効率に影響しないことが分かりました。
 次に筆者らは、Aid欠損iPS細胞の性質について調べました。Aid欠損iPS細胞の増殖能力は野生型と同等であり、マイクロアレイ注4)を用いて細胞内の遺伝子の発現を網羅的に解析しましたが、その違いは僅かでした(Figs. 2A, B)。さらには、キメラマウスを作製することも出来ました(Figs. 2C)。これらの結果から、Aid欠損iPS細胞は野生型iPS細胞と同等の自己複製能力と分化能力を持つことが示唆されました。
  Aid欠損iPS細胞のDNAのメチル化領域を網羅的に調べるため、MBDシーケンス注5)を行いました。その結果、Aid欠損型と野生型iPS細胞のDNAのメチル化領域は99.5%が共通しており、違いは僅か0.5%であることが分かりました (Fig. 3)。この結果から、Aid欠損はiPS細胞のDNAのメチル化状態に大きく影響しないことが示唆されました。
  以上の結果を合わせて、AidはiPS細胞の誘導時のDNAの脱メチル化において必須の役割を持たないと結論されました。

 

4.まとめ

 今回の研究により、AidはiPS細胞誘導時のDNAの脱メチル化において必須の役割を持たないことが分かりました。この結果は、Aidとは別の脱メチル化メカニズムが存在することを示唆します。この研究は、iPS細胞誘導時のDNA脱メチル化のメカニズムの解明に繋がる有用な研究と考えられます。

 

5.論文名と著者

・論文名
Generation and Characterization of Induced Pluripotent Stem Cells from Aid-deficient Mice

 

・ジャーナル名
PLOS ONE

 

・著者
Ren Shimamoto1, Naoki Amano1, Tomoko Ichisaka1, Akira Watanabe1, Shinya Yamanaka1, 2 and Keisuke Okita1

 

・著者の所属機関
1. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
2. グラッドストーン研究所

 

6.本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。
・内閣府 最先端研究開発支援プログラム(FIRST)
・文部科学省 科学研究費補助金
 

 

7.図

okita_140409_1.jpg
Fig. 1 Aid欠損マウスからのiPS細胞誘導
(A) Aid欠損iPS細胞のコロニーの形態。Aid欠損MEFに4Fsを導入し、25日目に蛍光顕微鏡を用いて写真を撮影した。左写真:位相差、右写真:GFP蛍光、Bar: 200 μm (B) Aid欠損iPS細胞の誘導効率。野生型とAid欠損MEFに4Fsとmockもしくは4FsとAidを導入し、4日後に細胞を剥がした。その後、10 cm dish当たり1000細胞ずつ蒔き直し、遺伝子導入後25日目にGFP陽性コロニーの数を数えた。4Fsとmockで誘導した場合、Aid欠損型と野生型MEFの間に有意な差は見られなかった。また、Aid欠損型と野生型MEFのいずれにおいても、4FsとAidを導入した場合と4Fsとmockを導入した場合で有意な差は見られなかった。+ Mock: 4Fsとmockを導入, + Aid: 4FsとAidを導入
 
okita_140409_2.jpg
Fig. 2 Aid欠損iPS細胞の性質評価
(A) 細胞増殖。3 × 105の細胞をfeeder細胞注6)でコートした6 well plate上にまき、3日毎に継代した際の細胞数の変化。野生型(青)とAid欠損型(赤)の間に有意な差は見られなかった。(B) Aid欠損iPS細胞と野生型iPS細胞の網羅的な遺伝子発現の比較。赤色の点は統計解析(遺伝子変動2倍以上、FDR < 0.05)の結果、有意に差のあった56プローブを、灰色は有意な差が認められなかった54,497プローブをそれぞれ示す。矢印は、Aid mRNAの3’UTR側を検出するプローブを表す。Aid欠損マウスにおいては、Aid遺伝子座に変異を導入する際に組み込まれたベクターの配列が残存しており、その中に存在するプロモーターが原因で5’側を欠損した不完長のAid mRNAが発現していると考えられる。ウエスタンブロット解析により、Aid欠損マウスにおいてAidタンパク質が発現していないことが確認されている。(C)Aid欠損iPS細胞由来のキメラマウス。黒色の部分がAid欠損iPS細胞由来の部分を示している。
okita_140409_3.jpg
Fig. 3 Aid欠損iPS細胞のDNAメチル化状態
MBDシーケンスを用いて野生型iPS細胞と野生型MEF(左)、野生型iPS細胞とES細胞(中央)、野生型iPS細胞とAid欠損iPS細胞(右)のDNAメチル化領域を比較した。左図の野生型iPS細胞と野生型MEFの比較では、検出された領域中、合計44.4%の領域が細胞種特異的なメチル化領域(specific)であったのに対し、中央の野生型iPS細胞とES細胞の比較における特異的メチル化領域は4.6%であった。この野生型iPS細胞とES細胞の違いは、左図の野生型iPS細胞と野生型MEFの違いより小さく、MBDシーケンスの結果は細胞の性質を反映していると考えられた。右図の野生型iPS細胞とAid欠損iPS細胞の比較では、99.5%が共通 (common)であり、違いは僅かであることが分かった。括弧内の数字は検出されたメチル化領域の数を示している。
 

 

8.用語説明

注1)Nanog-GFPレポーターマウス
Nanogの発現と共に緑色蛍光タンパク質であるGFPが発現する遺伝子組み換えマウス。NanogはES細胞の多能性維持に重要な働きをする遺伝子として知られており、iPS細胞樹立の指標となることが報告されている。つまり、細胞が緑色の蛍光を発する(GFP陽性になる)と、初期化されてES細胞の様な状態になっていると考えられる。
 
注2)線維芽細胞
結合組織を構成する最も主要な細胞。多くの臓器に存在する。何らかの損傷により組織に傷が生じると、この細胞が増殖し損傷箇所を塞ぐ。
 
注3)B細胞
リンパ球の一種で抗体を作る細胞。細胞ごとに作る抗体が決まっている。
 
注4)マイクロアレイ
一度に膨大な数のDNAやRNA、タンパク質を網羅的に検査することができる解析技術。
 
注5)MBDシーケンス
メチル化シトシンに結合するMethyl-CpG Binding Domain(MBD)タンパク質を用いてメチル化DNAを濃縮し、その配列を解析することでメチル化されている領域を検出する方法。
 
注6) feeder細胞
目的の細胞を培養する際、培養条件を整える補助的な役割をもつ細胞。通常は薬剤処理によって分裂できないように処理されている。iPS細胞の培養の際には、マウス胎仔由来の線維芽細胞などがfeeder細胞として用いられている。
 
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FIRSTプログラムは終了いたしました。 https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1799 Mon, 31 Mar 2014 03:58:25 +0000 http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1799 内閣府最先端研究開発支援プログラム(FIRSTプログラム)は2014年3月31日をもって終了いたしました。

 

本ホームページはFIRSTプログラムによる成果のまとめとして、当面はCiRAにて継続して運用してまいります。

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ヒトiPS細胞から血小板を安定的に大量に供給する方法を開発 https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1789 Fri, 14 Feb 2014 09:15:45 +0000 http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1789 中村壮研究員(京都大学CiRA)、江藤浩之教授(京都大学CiRA)らの研究グループは、ヒトiPS細胞から自己複製が可能な巨核球を誘導することに成功し、大量に血小板を生産する方法を確立しました。これまでにもiPS細胞から血小板をつくることはできていましたが、輸血に必要なスケールで血小板を生産するのは困難でした。今回は血小板を生み出す細胞である巨核球に着目し、これまでよりも大きなスケールで、医療現場で使用できる量の血小板を生産することを可能としました。

この研究成果は2014年2月13日正午(米国東部時間)に米国科学誌「Cell Stem Cell」で公開されました。

 

ポイント
・従来の方法では、iPS細胞から輸血に必要な血小板注1量の100分の1程度しか作れなかった。
・生体外で自己複製し凍結保存が可能な不死化巨核球注2を誘導する方法を確立した。
・巨核球をストックすることで血小板製剤の供給を安定化できる。

 

1.研究の背景
 血小板は止血に重要な役割を果たす血液細胞で、巨核球という細胞から分離することで生み出され、血液の中を循環しながら、止血で利用されるか一定の寿命で崩壊します。自ら分裂することはできないので、常に巨核球から作られ、必要量が補充されています。現在、深刻な貧血および出血素因をもたらすような血液疾患の患者さんは、献血による血液製剤を用いた輸血に頼らざるを得ない状況です。しかし、献血ドナーの数は少子高齢化等もあり、減少しています。厚生労働省の統計によると、2027年には我が国の必要な輸血製剤の20%はドナー不足に伴い供給できないと発表されています。
 特に血小板は機能を維持するために室温で保存する必要があり、採血後4日間しか有効期間がありません。そのため、必要なときに必要な量の血小板を供給することが困難です。こうした状況を改善するためには、ドナーに依存しないで血小板などの血液製剤を生産する仕組みが必要です。
 江藤教授らのグループは2010年に皮膚細胞由来のiPS細胞から培養皿上で血小板が生産できることを発表しました。しかし1回の輸血では患者さん1人につき2000~3000億個もの血小板が必要ですが、これまでの方法では、10億個程度しか生産できませんでした。そこで今回は血小板前駆細胞である巨核球に着目し、長期間にわたって自己複製することができる巨核球の誘導を試みました。

 

 

2.研究結果
1) ほぼ無限に複製できる巨核球の作製
 これまでの研究で、c-MYCを働かせることで、血小板の生産量を増やすことができることが分かっていました。本研究ではさらに造血幹細胞の細胞分裂に重要な働きをするBMI1やアポトーシスを抑制するBCL-XLという遺伝子を利用することで、5ヶ月以上自己複製可能な巨核球をiPS細胞から誘導することが出来ました。具体的には、iPS/ES細胞から2週間かけて誘導した造血前駆細胞注3に2種類の遺伝子(c-MYCとBMI1)を導入し、さらに2~3週間後に1つの遺伝子(BCL-XL)を追加で働かせることで、ほぼ無限に複製できる巨核球を作製することに成功しました(Fig. 1)。

 

PR_Fig1_2.jpg
Fig. 1 複製可能な巨核球の作製方法

 

2) 自己複製できる巨核球を成熟させて血小板を生産
 巨核球で強制的に働かせていた3つの遺伝子の働きを止めると、およそ5日後には巨核球が成熟し、血小板を生産しました(Fig.2)。この方法では直径10 cmの培養皿(10 mLの培養液)で巨核球を培養し、200~400万個の血小板ができました。つまり、25~50 Lの培養液を用いれば輸血に必要な1000億個の血小板を5日以内に用意できることになります。

 

PR_Fig2.jpg
Fig. 2 倍数体化注4し成熟した、不死化された細胞株由来の巨核球
3つの遺伝子を発現中の巨核球(左)と遺伝子の発現誘導を止めて成熟した巨核球(右)。
ギムザ染色。図中のバーは50 μmを示す。

 

 

3) 生産した血小板の機能評価
 今回の方法で生産した血小板はトロンビン注5の存在下で凝集するなど(Fig. 3)、基本的な血小板の機能を持っていました。ヒトから採血した直後の血小板と比べると反応が弱かったものの、保存した血小板やiPS細胞から直接誘導する方法で作成した血小板と比較すると強い反応を示しました。従って、今回の方法で生産した血小板は十分に機能すると考えられます。

 

CSC_Eto_Fig3.png
Fig. 3 トロンビン添加で凝集した血小板

 

3.まとめ
 従来のiPS細胞から血小板を生産する方法では、輸血に必要な1000億個もの血小板を生産するためにはヒトiPS細胞が70億個程度必要で、最終的に血小板を得るまでに26日程度必要でした。しかし今回の方法では、250億個の自己複製する巨核球前駆細胞を使用して5日で血小板を得ることができます。培養する装置も、実験室レベルのシャーレ(10mL)からバッグ(1~500L)にすることで複雑な設備を使わずに大量に培養することが出来ます。このシステムにより、日本人に多いHLA型のiPS細胞から血小板製剤を生産するための巨核球のストックや、ドナーが見つかりにくいHLA型やその他の特殊な血小板型(HPA型)の患者さんへの血小板製剤の安定供給が可能となります。今回、研究グループは将来の臨床研究、臨床試験を考慮した巨核球細胞の製造方法を決定したことになります。また、本研究では複数の巨核球を不死化する方法を比較し、より安全な製造方法を見つけました。
 このシステムを用いた臨床研究を平成27~28年に計画しており、最終的には臨床試験を経て10年後の実用化を目指しています。

 

4.論文名と著者

・論文名
“Expandable megakaryocyte cell lines enable clinically-applicable generation of platelets from human induced pluripotent stem cells”
・ジャーナル名
Cell Stem Cell
・著者
Sou Nakamura1, Naoya Takayama1, Shinji Hirata1, Hideya Seo1, Hiroshi Endo1, Kiyosumi Ochi1, Ken-ichi Fujita1, Tomo Koike1, Ken-ichi Harimoto1, Takeaki Dohda1, Akira Watanabe1, Keisuke Okita1, Nobuyasu Takahashi2, Akira Sawaguchi2, Shinya Yamanaka1, Hiromitsu Nakauchi3, Satoshi Nishimura4,5 and Koji Eto1,3
・著者の所属機関
1. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
2. 宮崎大学医学部
3. 東京大学医科学研究所
4. 東京大学医学系研究科
5. 自治医科大学分子病態治療研究センター

 

5.本研究への支援

 本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。
・JST A-STEP
・JST CREST
・文部科学省 再生医療の実現化プロジェクト
・文部科学省、JST 再生医療の実現化ハイウェイ
・文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究B
・厚生労働省 医薬品等審査迅速化事業費補助金
・内閣府 最先端研究開発支援プログラム(FIRST)

 

6.用語説明

注1) 血小板
止血に重要な役割を果たす核のない直径2~3μmの血液細胞で、巨核球から分離して作られる。トロンビン等の作用で凝集する性質がある。
注2) 巨核球
造血幹細胞から作られる細胞で、血小板を生み出す細胞。巨核球は成熟すると核分裂はするが細胞分裂はしないという特殊な分裂を行い、大型で多核の細胞になる。
注3) 造血前駆細胞
血液のあらゆる細胞に分化する多分化能と自己複製能をもった造血幹細胞の子孫となる細胞。本論文中では血小板や赤血球などの細胞の元になる細胞を指している。
注4) 倍数体化
一つの細胞のなかで、2倍・3倍と通常よりも多く染色体が含まれる状態になること。
注5) トロンビン
血液凝固因子の一種。血小板を凝集させる機能がある。

 

 

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遺伝子の変異によらないがん化の仕組みを解明 〜iPS細胞技術の応用~ https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1787 Fri, 14 Feb 2014 09:11:25 +0000 http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1787 大西紘太郎大学院生(京都大学CiRA/岐阜大学大学院)、蝉克憲研究員(京都大学CiRA/iCeMS)、山田泰広教授(京都大学CiRA/iCeMS/JSTさきがけ注1)らの研究グループは、生体内で細胞を不十分な形で初期化すると、エピゲノムの状態が変化し、がんの形成を促すことを見出しました。

この研究成果は2014年2月13日(米国時間)に米国科学誌「Cell」で公開されます。

 

 

ポイント

  • マウス体内で初期化因子を一時的に働かせることで、がん形成のモデルを作製した。
  • モデルマウスで発生させた腎臓がんは、腎芽腫注2と似た特徴を示した。
  • モデルマウスで生じたがん細胞では、エピゲノム注3が変化していた。
  • がん細胞を完全に初期化したところ、正常な腎細胞を形成した。

 

 

1. 要旨 

iPS細胞とがん細胞は無限に増殖する能力を持つという点で、共通の性質を持っています。しかし、がんは遺伝子の変異が積み重なって生じるとされていますが、体細胞を初期化してiPS細胞が生まれる際には遺伝子が変異する必要はありません。そこで、マウスの体内で一時的に初期化因子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を働かせ、不十分な初期化を起こしたところ、DNAのメチル化パターン(エピゲノム)が大きく変化し、様々な組織で腫瘍が生じました。腎臓でこのようにして生じた腫瘍は、小児腎臓がんとして一般的な腎芽腫と組織学的・分子生物学的特徴が似ていました。この腫瘍の細胞を調べたところ、遺伝子の変異は見つからず、エピゲノムの状態が変化し、多能性幹細胞と似たパターンに変わっていることが明らかとなりました。また、腫瘍の細胞を初期化したiPS細胞からは正常な腎細胞が作られることを示しました。これらの結果から、エピゲノムの制御が、特定のタイプのがんで、腫瘍形成を促進する可能性が示されました。

 

 

2. 研究の背景

iPS細胞は分化した体細胞に少数の因子を作用させることで作製することができます。体細胞を初期化するためには、様々な反応が細胞内で協調して働きますが、未だその詳細なメカニズムについては不明です。細胞を初期化する途中には、iPS細胞ではないコロニーがよく現れることが知られていますし、一部の細胞は正しい初期化からそれ、不十分な初期化が起きているという報告もあります。しかし、この様な初期化に失敗した細胞について、これまで研究がなされていませんでした。

うまく初期化出来なかった細胞ができてくる過程には、がんが形成される過程と似た部分があります。初期化の際には、分化した体細胞は無限増殖・自己複製能を獲得し、遺伝子の働き方がダイナミックに変化しますが、このイベントはがんが出来る過程でも重要なイベントです。この様な類似性から、初期化プロセスとがん形成が共通したメカニズムで進められている可能性が考えられます。

不十分な初期化を起こすことで、がんの形成が起きないかどうかを調べるため、山田教授らのグループは生体内で初期化が起きるマウスのシステムを作りました。

 

 

3. 研究結果

1. マウス体内で不完全な初期化を起こし、腫瘍を形成させた。

研究グループはDoxycycline(Dox)注4を作用させると4つの初期化因子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)が働く仕掛けをもったマウスを遺伝子改変によって生み出しました。このマウスに28日間Doxを与えたところ、各種臓器において体細胞がiPS細胞へと初期化され、さらにiPS細胞から3胚葉に分化した奇形腫が形成されていることが確認できました。一方で、7日間Doxを与え、さらにDoxを抜いて7日後に観察したところ、腎臓をはじめ各種臓器で腫瘍の形成が見られましたが、こちらは奇形腫とは異なる、腫瘍を形成していました。

 

Cell_YY_Fig.1.png
Fig. 1 初期化因子を7日間働かせたマウスの腎臓
4つの初期化因子を7日間働かせ、さらに7日後に観察した腎臓の様子。
コントロールの腎臓と比較して初期化因子を働かせた腎臓は腫瘍を形成
し大きくなっている。右側は+Doxの腎臓の組織染色像。
図中のバーは200 μm。

 

2. 腫瘍の細胞ではエピゲノムが変化していた。

今回の方法で作り出した腫瘍の細胞を調べてみると、小児腎臓がんである腎芽腫とよく似た性質を示していました。これは、今回作り出したマウスが、腎芽腫のモデル系として有効なツールであることを示しています。また、エピゲノムの状態(DNAのメチル化度合い)を調べて見たところ、元の腎臓の状態を保持しつつも、部分的に多能性幹細胞(iPS/ES細胞)と似たパターンになっていることが明らかとなりました。

 

Cell_YY_Fig.2.png
Fig. 2 DNAメチル化のパターン
左側は多能性幹細胞で、右側は腎細胞でよくメチル化されている遺伝子。
腎臓がんの細胞は腎臓の細胞と似たパターン(右側)を持ちながらも、
一部多能性幹細胞ともにたパターン(左側)に変化していた。

3. 腫瘍を形成した細胞を初期化すると通常の腎臓をつくることができた。

一般的にがんの形成は遺伝子の変異が蓄積することで生じると知られています。今回作り出した腎臓の腫瘍の細胞は腎芽腫にとてもよく似た性質を示していましたが、遺伝子の変異は見つかりませんでした。この細胞からiPS細胞を作り、腫瘍由来の細胞を含むキメラマウス注5を作りましたが、そのマウスの体内では腫瘍由来の細胞も正常の腎臓を形成していました。これは、今回の腫瘍の形成には遺伝子の変異が決定的な要因ではなかったことを示しています。

 

Cell_YY_Fig.3.png

 

 

Fig. 3 キメラマウスの腎臓

腫瘍由来のiPS細胞から作られた腎臓では、腫瘍の形成は特に見られなかった。

Dox処理を行い、左側の腎臓に腫瘍由来の細胞が含まれていることを確認している。

 

 

 

 

4. まとめ

マウスの体内で初期化を起こす仕組みを作り、不完全な初期化が腎芽腫と似た腫瘍の形成を引き起こすことを示しました。これまでがんの形成には遺伝子変異の蓄積が重要であると言われてきました。しかし今回の結果から、ある種の腫瘍は遺伝子の変異ではなく、エピゲノムの状態の変化によってもがんが形成されることを示しました。つまり、エピゲノムの状態を変化させることができれば、がん細胞の性質を変化させ、将来的にはがんの新しい治療法につながる可能性があります。

また、今回の研究ではゲノムの変異を起こさずにエピゲノムの状態を制御する手法としてiPS細胞の技術を利用しました。このようにiPS細胞技術を利用することで、疾患研究に新しい観点をもたらすことが期待出来ます。

 

Cell_YY_Fig.4.png
Fig. 4 今回の研究のまとめ

 

 

 

5. 論文名と著者

・論文名

“Premature termination of reprogramming in vivo leads to cancer development through altered epigenetic regulation”

 

・ジャーナル名

Cell

 

・著者

Kotaro Ohnishi1, 2, *, Katsunori Semi1, 3, *, Takuya Yamamoto1, 3, Masahito Shimizu2, Akito Tanaka1, Kanae Mitsunaga1, Keisuke Okita1, Kenji Osafune1, Yuko Arioka1, Toshiyuki Maeda4, Hidenobu Soejima4, Hisataka Moriwaki2, Shinya Yamanaka1, 3, 5, Knut Woltjen1, 6, Yasuhiro Yamada1, 3, 7**

*)これらの研究者はこの論文に同程度寄与しました。

**)責任著者

 

・著者の所属機関

1. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)

2. 岐阜大学大学院医学系研究科

3. 京都大学物質ー細胞統合システム拠点(iCeMS)

4. 佐賀大学医学部

5. グラッドストーン研究所

6. 京都大学白眉センター

7. 科学技術振興機構(JST) さきがけ

 

 

6. 本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。

・文部科学省 科学研究費補助金

・厚生労働省 厚生労働科学研究費補助金

・内閣府 最先端研究開発支援プログラム(FIRST)

・JST さきがけ注1)

・JST 国際科学技術共同研究推進事業注6)

・JST 山中iPS細胞特別プロジェクト

・JST 再生医療実現拠点ネットワークプログラム

・武田科学振興財団

・内藤記念科学振興財団

 

 

7. 用語説明

注1) JST戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

研究領域「iPS細胞と生命機能」(研究総括:西川 伸一 JT生命誌研究館 顧問)

研究課題名リプログラミングによるがん細胞エピジェネティック異常の起源解明とその臨床応用

個人研究者山田 泰広

研究期間平成20年6月〜平成24年3月

 

注2) 腎芽腫

小児の腎腫瘍のなかでも最も多い割合で見られる腫瘍。ウィルムス腫瘍とも呼ばれている。神経芽腫および肝芽腫と並んで代表的な小児悪性腫瘍の一つ。

 

注3) エピゲノム

生物が生きるために必要な遺伝子の配列情報の総体をゲノムと呼ぶのに対し、その配列情報とは別の仕組みで遺伝子の働きを制御する機構をエピゲノムと呼ぶ。様々な調節機構が知られているが、ここでは遺伝子のメチル化などをエピゲノムの指標として観察している。

 

注4) Doxycycline

抗生物質の一種。遺伝子工学ではこの物質に反応して遺伝子のオンオフを制御する仕組みがよく用いられている。本研究中では、Doxycyclineが体内に取り込まれると、初期化因子と蛍光物質が作られるように遺伝子を操作したマウスを作製し利用している。そのため、Doxycyclineを作用させると細胞は赤く光り、初期化因子が働いてiPS細胞が誘導される。

 

注5)キメラマウス

2種以上の遺伝形質の異なる細胞で作られたマウスのこと。ここでは、腫瘍由来のiPS細胞を通常のマウスの胚の中に移植したマウスのこと。腫瘍由来の細胞にはDoxに応答して光るような遺伝子が組み込まれている。

 

注6)JST国際科学技術共同研究推進事業(戦略的国際共同研究プログラム)

研究領域日カナダ共同研究「幹細胞のエピジェネティクス」

(研究主幹:須田年生 慶應義塾大学 医学部 教授)

プロジェクト名「細胞移植治療の実現に向けた細胞アイデンティティー制御」

日本側研究代表者山田 泰広

研究期間平成25年4月〜平成30年3月

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ヒトiPS/ES細胞から効率よく腎臓の元へと分化させる化合物を 大規模スクリーニングにより発見。PLOS ONEに掲載。 https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1737 Fri, 17 Jan 2014 04:24:15 +0000 http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1737 荒岡利和研究員(京都大学CiRA)、長船健二准教授(京都大学CiRA、JSTさきがけ注1らの研究グループは、大規模な化合物スクリーニング系を用いて、ヒトiPS/ES細胞を腎臓や生殖腺などの元となる中間中胚葉へと高効率に分化させる物質を同定しました。
この研究成果は2014年1月15日(米国東部時間)に「PLOS ONE」にオンライン公開されました。

ポイント

  • ヒトiPS/ES細胞から腎臓の元となる中間中胚葉注2へと分化誘導する化合物をスクリーニングする系を構築した。
  • 構築したスクリーニング系を用いて、2つの化合物の組み合わせで中間中胚葉へと早く効率的に分化誘導する化合物を同定した。
  • 化合物で分化誘導することにより、従来法より低価格でかつ安定した分化誘導が期待できる。

1.要旨
腎臓の細胞のほとんどは中間中胚葉から分化するため、腎臓再生に向けて、まずヒトiPS/ES細胞から中間中胚葉へと高効率に分化させる技術の開発が必要です。研究グループはヒトのiPS/ES細胞で効率良く遺伝子の相同組み換え注3を起こさせる技術を確立し、ヒトiPS細胞で中間中胚葉の分化マーカー遺伝子(Odd-skipped related 1: OSR1)に緑色蛍光タンパク質(GFP)注4を導入することに成功し、中間中胚葉へと分化したことが蛍光によって検出できるシステムを構築しました。このシステムを用いて、iPS/ES細胞から中間中胚葉へと高効率に分化させる化合物を探索し、2つのレチノイド(AM580およびTTNPB)が効果的であることを明らかにしました。この研究成果は、iPS/ES細胞から腎臓の細胞へと分化誘導する際に、成長因子を利用する従来法と比べてコストを低減し、また安定した分化誘導系となることが期待されます。

 

2.研究の背景
腎臓は構造や発生機構が複雑であると同時に、老廃物の排泄や血圧の調節、赤血球の合成促進など生理学的に重要な様々な役割を果たしています。腎臓はいったん傷つくとその機能を修復することは殆どできず、機能不全が進行すると人工透析により命をつなぐことになります。日本の透析患者数は30万人を超え注5、透析医療費は全医療費のおよそ6%を占めており注6、腎臓を再生する研究が期待されています。
iPS細胞やES細胞を使って腎臓の細胞を誘導する試みが行われていますが、ヒトのiPS/ES細胞を用いて腎臓の細胞を誘導する技術は完成していません。これまでの発生生物学的研究から腎臓は中間中胚葉から発生することがわかっています。iPS/ES細胞から中間中胚葉を高効率に誘導することは、腎臓の細胞を誘導する上で重要なステップとなります。
CiRAの長船准教授らのグループは2013年1月にiPS/ES細胞から中間中胚葉へと分化したことを容易に判別できる方法を開発し、中間中胚葉へと高効率に誘導する方法を開発していました。この時には、BMP7やアクチビンAなど成長因子を利用していました。しかし、成長因子は高価であり、また安定性にも難点があり、安価に手に入れることが出来る低分子化合物を用いた分化誘導方法が求められています。
そこで前回の研究で開発した中間中胚葉を判別できる実験系を用いて、大量の化合物の中から中間中胚葉への分化誘導に効果がある化合物を探しだす(スクリーニングする)系を構築しました。

 

 

3.研究結果
1) ロボットシステム用いて、ヒトiPS細胞を中間中胚葉へと分化させる化合物を同定
これまでに長船准教授らのグループでは、OSR1という中間中胚葉の分化マーカー遺伝子にGFPを導入した技術を用いて、中間中胚葉に分化するとGFPが発する蛍光により検出できるiPS細胞を作製していました。これまでに確立していたiPS細胞から中間中胚葉へと分化させる方法を用い、iPS細胞に化合物(CHIR99021)および成長因子(アクチビンA)を与えて2日後(中内胚葉の段階)に1821種の化合物を作用させて、GFPを光らせる(中間中胚葉へと分化させる)化合物を2種(AM580およびTTNPB)見つけ出しました。

20140117_1

Fig. 1 スクリーニングに用いる装置と分化誘導方法
CiRAで所有している化合物スクリーニングに用いたロボットシステム。右側の手順の様な中間中胚葉へと分化誘導させる方法を用い、1821種の化合物から有効な化合物を選び出した。

2) 見出した低分子化合物は早く高効率にiPS/ES細胞を中間中胚葉へと分化させた
1)で見出した化合物とCHIR99021を組み合わせ、アクチビンAなどの成長因子を使わない方法で中間中胚葉への分化誘導を試みました。まずヒトiPS細胞にCHIR99021およびAM580あるいはTTNPBを添加して2日間、その後AM580あるいはTTNPBのみの培地で3日間培養する方法で分化誘導を行いました。するとAM580あるいはTTNPBのいずれも、6日目には75%以上の細胞が中間中胚葉へと分化しており、成長因子を使った方法と比べて早く高効率に分化誘導させることが出来ました。

20140117_2

Fig. 2 低分子化合物を用いた方法では6日目には中間中胚葉へと分化している
右側の手順で分化誘導をしたところ、6日目にはOSR1を発現している細胞、つまり中間中胚葉へと分化した細胞へと大半が変化した。成長因子(アクチビンA)を用いた方法では同じ6日目の段階で20%程度しか分化していなかった。

 

3) ヒトiPS細胞から誘導した細胞で、腎尿細管の構造を再現
2)で樹立した中間中胚葉をマウス胎児の腎臓細胞と共培養したところ、一部の細胞で管状の構造を形成したものがあり、その細胞は腎尿細管のマーカーであるLTL(Lotus Tetragonolobus lectin)が陽性であり、かつ、尿細管上皮細胞の指標であるLAMININを発現していることを確認しました。従って今回確立した方法でヒトiPS/ES細胞から誘導した中間中胚葉には、腎臓の3次元構造を作る能力があることが示されました。(Fig. 3)

20140117_3

Fig. 3 中間中胚葉から誘導した一部の細胞で腎尿細管の構造を形成
管構造を形成した細胞はLAMININおよびLTLが共に陽性であり、腎尿細管であると考えられる。
緑:HuNu(ヒト中間中胚葉由来の細胞であることを意味する) 赤:LTL 紫:LAMININ 青:核 図中のバーは100μmを示す。

 

4.まとめ
本研究では、ロボットシステムを用いて、膨大な化合物の中から中間中胚葉への分化誘導に有効な化合物をスクリーニングしました。このようなロボットシステムを用いた手法は創薬研究では広く使われて来ましたが、iPS細胞の登場により今回の様な分化誘導方法の探索にも利用することが出来、現在注目されています。特に生体内で機能している成長因子などのタンパク質は高価であり、また物質として不安定なので大規模に分化誘導を行うには不向きです。今後は、より安価で安定している低分子化合物で細胞の状態をコントロールするケミカルバイオロジーと呼ばれる分野が重要な役割を果たすと考えられます。

20140117_4

Fig.4 ヒトiPS細胞から腎臓細胞へと分化させるステップ
今回効率良く誘導する方法を確立した中間中胚葉は、腎臓だけではなく、副腎や生殖腺の細胞にも分化する能力をもっている。

 

5.論文名と著者
・論文名
“Efficient and rapid induction of human iPSCs/ESCs into nephrogenic intermediate mesoderm using small molecule-based differentiation methods”

・ジャーナル名
PLOS ONE

・著者
Toshikazu Araoka1 Shin-ichi Mae1 Yuko Kurose1 Motonari Uesugi2, 3 Akira Ohta1 Shinya Yamanaka1, 4 and Kenji Osafune1,*

*)責任著者

・著者の所属機関
1) 京都大学 iPS細胞研究所(CiRA)
2) 京都大学 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)
3) 京都大学 化学研究所
4) グラッドストーン研究所

 

6.本研究への支援
本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。
・文部科学省 「再生医療の実現化プロジェクト」
・上原記念生命科学財団
・武田科学振興財団
・内閣府 「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」
・文部科学省科学研究費補助金 「若手研究(B)」
・JST さきがけ
・JST 山中iPS細胞特別プロジェクト
・JST 再生医療実現拠点ネットワークプログラム 技術開発個別課題
・日本学術振興会特別研究員制度

 

7.用語説明
注1) JST戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)
研究領域 「iPS細胞と生命機能」
(研究総括:西川 伸一 (独)理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 副センター長)
研究課題名 多発性嚢胞腎患者由来のiPS細胞を用いた病態解析
個人研究者 長船 健二
研究期間 平成20年6月~平成24年3月

注2) 中間中胚葉
脊椎動物の個体発生の過程で現れる細胞集団のこと。将来になる細胞の種類に応じて大きく外胚葉・中胚葉・内胚葉に分類され、さらに中胚葉は、中間中胚葉・沿軸中胚葉・側板中胚葉などに分類される。中間中胚葉は将来腎臓や副腎、生殖腺へと分化する細胞を含んでいる。

注3) 相同組み換え
DNAの塩基配列がよく似た領域(相同部位)で起こるDNAの組換えのこと。二本鎖のDNAには、切断や変異が起こっても相補鎖を元に修復する機能が備わっており、これらの性質を応用して目的の場所の遺伝情報を変える技術。これまでヒトのiPS/ES細胞では難しい技術であった。

注4) 緑色蛍光タンパク質(GFP)
オワンクラゲ由来の緑色の蛍光を発するタンパク質で、下村脩博士によって発見された。細胞内で目的タンパク質の発現を検出するのに使用される。本研究では、中間中胚葉の細胞のみがGFPの蛍光を持つように設計し、GFPを指標として中間中胚葉の細胞を選別した。

注5) 日本の透析患者数
日本透析医学会 「図説 わが国の慢性透析療法の現況」によると2011年12月現在で慢性透析患者数は304,592人であり、30万人を超えた。
http://docs.jsdt.or.jp/overview/pdf2012/p03.pdf

注6) 透析医療費が全医療費に締める割合
第39回社会保障審議会医療保険部会委員提出資料では、2009年度の人工腎臓(透析)の医療費は推計1.2兆円に対して医療費総額は18.6兆円と報告され、およそ6%を占めている。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000qbvu-att/2r9852000000qs0f.pdf

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リング染色体を持つ患者さんから作製したiPS細胞では 染色体が自己修復されることを発見 — UCSF/グラッドストーンによる共同研究成果 Nature掲載— https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1729 Thu, 16 Jan 2014 00:13:48 +0000 http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1729 この度、当研究所の所長である山中伸弥教授(グラッドストーン研究所、京都大学CiRA)をはじめ、林洋平研究員(グラッドストーン研究所)、Anthony-Wynshaw Boris教授(UCSF 、Case Western Reserve Univiersity)、Marina Bershteyn研究員(UCSF)らの研究グループの研究成果が、2014年1月12日午後6時(グリニッジ標準時)に英科学誌「Nature」のオンライン版にて掲載されることになりました。
当研究所の成果ではありませんが、参考情報としてここにお知らせ致します。

参考情報

<ポイント>
・ リング染色体注1(13番、17番)を持つ患者さんの細胞からiPS細胞株を世界で初めて作製した。
・ この細胞株ではリング染色体が消失しており、染色体を解析した結果、同一の(片親から受け継いだ正常な)染色体が増幅した一対の染色体を高頻度で保持していることを見出した。
・ この現象は、iPS細胞を利用した大規模な染色体異常に対する新しい「染色体治療」の可能性を示唆している。

<概要>
林洋平研究員(グラッドストーン研究所)、山中伸弥教授(グラッドストーン研究所、京都大学CiRA)、Anthony-Wynshaw Boris教授(UCSF 、Case Western Reserve Univiersity)、Marina Bershteyn研究員(UCSF)らの研究グループは、リング(環状)染色体を持つ患者さんからiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作製したところ、リング染色体が消失し、同一の染色体を二つ持ったiPS細胞が得られることを見いだしました。リング染色体は通常染色体の大規模な欠失も含まれるため、この発見はリング染色体を持つ細胞が染色体を自己修復したことを意味しており、新たな染色体治療の可能性を示唆するものです。
この研究成果は2014年1月12日午後1時(米国東部時間)に英科学誌「Nature」のオンライン版にて公開されました。

<研究の背景>
リング染色体は染色体の長腕と短腕の先端が融合することによって形成され、通常大規模な末端配列の欠損を伴う染色体異常の一つです。リング染色体は様々な出生異常、精神遅滞、発育不良、がんなどと関係があることが知られています。これらの疾病に対して、これまで個々の対症療法以外に何らの治療法も提示されたことはありませんでした。また、リング染色体自体が不安定であり、実験モデルにおいて、その動態や形成メカニズムに対する研究はあまり進んでいませんでした。
そこで、iPS細胞を用いたリング染色体の疾患モデルを作製すべく、リング染色体を持つ患者さん由来の繊維芽細胞からiPS細胞を作製し、その評価、解析を実施しました。

<研究結果>
1) リング17番染色体を含む細胞から片親性ダイソミーを持つiPS細胞が作製された。
Miller-Dieker症候群と呼ばれる滑脳症注2の一種は17番染色体の短腕の末端欠損に起因しますが、この患者さんのうち1人は、17番染色体が欠損するだけではなくリング状になっていました。リング17番染色体を含む細胞と他のMiller-Dieker症候群の細胞からそれぞれiPS細胞を作製しました。その結果、他のMiller-Dieker症候群の細胞からは染色体欠損が維持されたiPS細胞が作製されたのに対して、リング17番染色体を持つ細胞からはリングが消失し、それに伴い欠損も消失した1対の17番染色体を持つiPS細胞が作製されました。さらなる解析の結果、この正常な一対の染色体は元々片親から受け継いだ正常な染色体が増幅されて形成されていたことがわかりました(片親性ダイソミーと呼ばれます)。

2)リング13番染色体を含む細胞から片親性ダイソミー注3を持つiPS細胞が作製された。
上記の17番染色体の結果が他の染色体でも見られるのかどうか、13番染色体がリング状になっている方、2人の細胞からそれぞれiPS細胞を作製しました。その結果、17番染色体と同様にiPS細胞樹立の過程でリング染色体が脱落し、さらに正常染色体が増幅された片親性ダイソミーを持つ細胞が大半となることがわかりました。

<まとめ>
本研究により、リング染色体を持つ細胞からiPS細胞を作製すると、片親性ダイソミーに変化することがわかりました。このことはiPS細胞が傷を伴ったリング染色体を「自己修復」したことを示しています。片親性ダイソミーには有害変異の蓄積やインプリティング遺伝子注4の機能異常などのリスクがあります。しかし、今回の成果は画期的な「染色体治療」の可能性を示唆するものとして、今後の研究の展開が期待されます。

<論文名と著者>
論文名:
Cell-autonomous correction of ring chromosomes in human induced pluripotent stem cells

ジャーナル名:
Nature

著者:
Marina Bershteyn1,2*, Yohei Hayashi3,4*, Guillaume Desachy5, Edward C. Hsiao6, Salma Sami3,4, Kathryn M. Tsang5, Lauren A. Weiss5, Arnold R. Kriegstein2, Shinya Yamanaka3,4,7,8 & Anthony Wynshaw-Boris1,9

著者の所属機関:
1. Institute for Human Genetics and Department of Pediatrics, University of California, San Francisco, California 94143, USA.
2. Eli and Edythe Broad Center of Regeneration Medicine and Stem Cell Research, University of California, San Francisco, California 94143, USA.
3. Gladstone Institute of Cardiovascular Disease, San Francisco, California, 94158, USA.
4. Roddenberry Center for Stem Cell Biology and Medicine at Gladstone, San Francisco, California 94158, USA.
5. Department of Psychiatry, Institute for Human Genetics, University of California, San Francisco, California 94143, USA.
6. Division of Endocrinology and Metabolism and Institute for Human Genetics, Department of Medicine, University of California, San Francisco, California 94143, USA.
7. Department of Anatomy, University of California, San Francisco, San Francisco, California 94143, USA.
8. Department of Reprogramming Science, Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University, Kyoto 606-8507, Japan.
9. Department of Genetics and Genome Sciences, Case Western Reserve University, Cleveland, Ohio 44106, USA.

*マークの著者は同等に寄与した。
責任著者は、 Anthony Wynshaw-Boris博士と山中伸弥博士

<本研究への支援>
・National Institutes of Health (NIH)
・California Institute of Regenerative Medicine
・上原記念生命科学財団
・USCF Program for Breakthrough Biomedical Research
・内閣府 「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」
・文部科学省 「再生医療の実現化プロジェクト」
・文部科学省・日本学術振興会 科学研究費補助金
・医薬基盤研究所
・L K Whittier Foundation
・Rodenberry Foundation

<用語説明>
注1)リング染色体
環状染色体。染色体の長腕と短腕の先端が融合することによって形成され、通常大規模な末端配列の欠損を伴う染色体異常の一つ。

注2)滑脳症
脳のしわがなく平らであることを特徴とする脳形成異常による発達障害疾患。Miller-Dieker症候群は滑脳症の一種で、17番染色体上のLIS1遺伝子に異常を有する。

注3)片親性ダイソミー
普通は父母から1本ずつもらう染色体が、片方の親から2本もらった状態になること。

注4)インプリンティング遺伝子
通常、父親と母親から同じ遺伝子を2つ受け継ぎ、独立してそれぞれが働いている。しかし、ある種の遺伝子は父親あるいは母親のいずれかから受け継いだものしか働かないことがある。この様な遺伝子をインプリンティング遺伝子と言う。

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細胞移植に適した新しいヒトiPS細胞の樹立・維持培養法を確立 https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1767 Wed, 08 Jan 2014 08:33:22 +0000 http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1767 中川誠人講師(京都大学CiRA)、山中伸弥教授(京都大学CiRA)らの研究グループは、大阪大学、味の素株式会社(以下「味の素社」)との 共同研究において、細胞移植治療に適した人工多能性幹細胞(iPS細胞)の新しい樹立・維持培養法を確立しました。 この研究成果は1月8日(英国時間)に英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されます。

 

ポイント

  • ラミニンと新たに開発した培地を用いて、フィーダー細胞を使わず、動物由来成分を含まない条件で、ヒトiPS細胞の樹立と効率的な培養方法を開発した。得られたiPS細胞は各種細胞へと分化する能力を持っていた。
  • この方法で、ヒトES細胞を維持培養することも可能であった。

 

1.要旨 

ヒトのiPS/ES細胞を再生医療として多くの患者さんに利用して頂けるようになるためには、ヒト以外の動物由来の物質を含まず、安定して生産するために極力工程数が少ない方法でiPS細胞を樹立・維持培養することが望まれます。しかし、これまでの方法では、iPS/ES細胞を培養するために、培地中には血清などの動物由来の成分が多数含まれており、またフィーダー細胞1)を使うことで作業工程が多くなっていました。

 

中川講師らの研究グループは、フィーダー細胞の代わりに、関口清俊教授ら(大阪大学蛋白質研究所)が開発したリコンビナント2)ラミニン-511 E8断片3)を使い、味の素社と開発した動物由来の成分が含まれていない(Xf: xeno-free)培地4)でヒトiPS/ES細胞を維持培養できることを見出しました。この方法を用いると、ヒトのiPS/ES細胞は容易に扱うことができ、染色体に異常なく長期間にわたって安定して継代培養することができます。

 

ヒトの皮膚や血液の細胞からフィーダー細胞を使わず(Ff: Feeder-free)、動物由来の成分を含まない培地で作製したiPS細胞は、免疫不全マウスに移植すると、テラトーマの形成が観察され、三胚葉に分化する能力を確認できました。また、ここで作製したiPS細胞はドーパミン産生細胞やインスリン産生細胞、血液細胞へと分化させる事ができました。

これらの結果は、今回開発した新しいfeeder-freeかつxeno-freeの培養システムで、ヒトiPS細胞を樹立・維持培養することが可能であることを示しています。この方法は、ヒトへの細胞移植に最も適したグレードのiPS細胞をつくるためだけではなく、創薬や毒性試験・疾患モデルなどの領域でも有効利用されることが期待されます。この研究成果は1月8日(英国時間)に英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されます。

 

 

2.研究の背景  

既に 米国ジェロン社はES細胞から作製した神経細胞を用いて脊髄損傷の臨床試験を始めました(経営上の理由から中止)。また米国アドバンスド・セル・テクノロジー社はES細胞から作製した細胞を用いて眼疾患の臨床試験をおこない、成果をあげています。2013年7月には理化学研究所発生・再生総合科学研究センターの高橋政代博士らのグループによる、加齢黄斑変性に対する世界初のiPS細胞を使った臨床研究が正式に厚生労働省に認められ、いよいよiPS/ES細胞を使った治療が本格的にヒトで行われる日が近づいてきています。

 

通常、ヒトiPS/ES細胞を研究で使用する際には、マウスのフィーダー細胞や、ウシの血清を含んだ培地が広く使われています。フィーダー細胞の準備には多くの時間と労力が必要で、フィーダー細胞を育てる培地にはウシ胎児血清が含まれているのが通常です。しかしこうした煩雑な操作や動物由来の成分は、最終的に得られる細胞の品質を不安定にする要因となるため、移植に使う細胞に要求されるGMP基準を満たすためには、血清などの動物由来の成分をできるだけ取り除く必要があります。

 

これまでに、フィーダー細胞の代わりとなるタンパク質や動物由来成分を含まない培地は開発されていましたが、ヒトiPS細胞やヒトES細胞を安定的に効率よく培養できる組み合わせは得られていませんでした。

 

 

3.研究結果
ヒトiPS細胞用の新しい培養システムの開発

中川講師らのグループはフィーダー細胞の代わりとして、ラミニン-511に着目しました。ラミニン-511の短い断片であるラミニン-511 E8断片(LN511E8)がヒトiPS細胞やES細胞の維持に有効であり、またタグをつけたリコンビナント(rLN511E8)を使うことで大量にかつ高純度のものが得られるため、rLN511E8をフィーダー細胞の代わりとして採用しました。

 

次にrLN511E8を使った環境でヒトiPS細胞やヒトES細胞の培養に最適なxeno-free培地を選出しました。テスト培地の作成と培養による検証を繰り返し、効率よくiPS細胞を維持増殖させることができる成分の組み合わせを見出しました(味の素社との共同開発)。

 

新しいシステムでのiPS細胞樹立

iPS細胞から誘導した細胞を移植するためには、iPS細胞の樹立過程もfeeder-freeかつxeno-freeである必要があります。今回開発したrLN511E8と培地を使うことで、線維芽細胞や血液細胞(T細胞・T細胞以外の細胞・臍帯血細胞)からiPS細胞を樹立することが出来ました。(Fig.1)

 

140108_1.png
Fig. 1 Feeder-freeかつXeno-freeの条件下で樹立したiPS細胞
線維芽細胞・血液細胞(T細胞・T細胞以外の細胞)・臍帯血細胞からそれぞれiPS細胞を樹立することが出来た。

 

 

分化能力の確認

また、feeder-freeかつxeno-freeの環境で樹立・培養したiPS細胞の分化能力について検討しました。iPS細胞の分化能力を調べる方法として、iPS細胞を免疫不全マウスに移植しテラトーマの形成を観察する方法がよく使われています。今回開発したfeeder-freeかつxeno-freeの環境で作製したiPS細胞はテラトーマを形成し、3胚葉すべてに分化する能力を示しました(Fig. 2)。また、臨床応用に向けて必要となる代表的な細胞種として、神経細胞・血液細胞・インスリン産生細胞へとiPS細胞を分化誘導したところ、いずれの細胞にも分化する能力があることも示しました(Fig. 3)。

140108_2.png
Fig. 2 Feeder-freeかつXeno-freeで作製したT細胞由来のiPS細胞の分化能力
ヘマトキシリン・エオシン染色の写真。左から内胚葉・中胚葉・外胚葉の細胞に分化したiPS細胞。Feeder-freeかつXeno-freeで樹立したiPS細胞は3胚葉のすべてに分化する能力を持っていた。(Scale bar, 100 μm)
140108_3.png
Fig. 3 Feeder-freeかつXeno-freeで作製したT細胞由来のiPS細胞の分化能力
iPS細胞から分化した、Aドーパミン産生細胞(蛍光写真)、B 血液細胞(ギムザ染色)、C インスリン産生細胞(蛍光写真) (Scale bar, 100 μm)

 

4.まとめ

 今回新しく開発したfeeder-freeかつxeno-freeの樹立・培養方法を用いることで、フィーダーを使った方法と比べても遜色のない、高効率でのiPS細胞の維持培養が可能となりました。この方法は操作が容易であり、発展性・再現性に優れており、GMPに準拠した医療に使用するヒトiPS細胞を作製する方法として有効です。さらに、薬剤スクリーニングや基礎研究へも幅広く応用出来ると考えられます。

 

5.論文名、著者およびその所属 

・論文名
“A novel efficient feeder-free culture system for the derivation of human induced pluripotent stem cells”
・ジャーナル名
Scientific Reports
・著者
Masato Nakagawa1*, Yukimasa Taniguchi2, Sho Senda3, Nanako Takizawa1, Tomoko Ichisaka1, Kanako Asano1, Asuka Morizane1, Daisuke Doi1, Jun Takahashi1, Masatoshi Nishizawa1, Yoshinori Yoshida1, Taro Toyoda1, Kenji Osafune1, Kiyotoshi Sekiguchi2, and Shinya Yamanaka1,4
*)  責任著者
・著者の所属機関
1) 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
2) 大阪大学蛋白質研究所
3) 味の素株式会社 イノベーション研究所
4) グラッドストーン研究所

 

6.本研究への支援
本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。

  ・文部科学省 再生医療の実現化プロジェクト
  ・内閣府 最先端研究開発支援プログラム(FIRST)
  ・文部科学省 科学研究費補助金
  ・独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) <大阪大学>
  ・文部科学省 橋渡し研究支援推進プログラム <大阪大学>
 

 

7.用語説明
1) フィーダー細胞
 目的の細胞を培養する際、培養条件を整える補助的な役割をもつ細胞。通常は薬剤処理によって分裂できないように処理されている。iPS細胞の培養の際には、マウス胎仔由来の線維芽細胞などがフィーダー細胞として用いられている。

2) リコンビナント
遺伝子組換え技術によって人工的に作製されたタンパク質のこと。印をつけることで他のタンパク質と容易に見分けることが出来るようになる。

3) ラミニン-511 E8断片
ラミニン-511は初期胚の多能性幹細胞が足場とする接着蛋白質。ヒトES/iPS細胞に対して非常に強い接着活性を示す。ラミニン-511 E8はラミニン-511の活性部位を含む断片であり、全長のラミニン-511と同等以上の細胞接着活性を有する。また、リコンビナント蛋白質の大量調製が容易である。ラミニン-511 E8断片は”iMatrix-511″の商品名で株式会社ニッピが製造・販売している。

4)味の素社製培地
 京都大学CiRAと味の素社が共同開発中の培地。動物由来の成分を含まず、iPS細胞を未分化の状態で極めて効率的に多量に増殖させることができる。この培地はStemFit®の商品名で味の素社が日本の一部の医学施設に提供を開始している。
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第18回CiRAカフェ・FIRSTを開催しました。 https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1848 Thu, 26 Dec 2013 05:09:34 +0000 http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/?p=1848 秋を感じるまもなく到来した冬に、外に出るのも億劫になるような12月7日(土)、第18回CiRAカフェ・FIRST「ヒトの細胞カタログをつくる!」が、iPS細胞研究所の講堂にて開催されました。遠いところでは東京や広島からも、寒さに負けず、25名の方がiPS細胞研究所までお越しくださいました。

 

今回はいつもと少し場所を変えて、エントランスホールではなく講堂内で開催しました。講師は増殖分化機構研究部門の藤渕航教授。CiRAの中では唯一の情報系研究室を率いて、「iPS細胞とは何か」あるいは「細胞は何種類あるのか」などの疑問に理論的に答える研究をしています。

 

カフェは細胞を紹介する美しいアニメーションで始まりました。体の中には200種類を超える細胞があると言われていますが、その全体像はまだよくわかっていません。さまざまな種類のある細胞を分類するために、例えば細胞内で働いている全ての遺伝子の状態を調べる方法があります。コンピュータを使ってそれぞれの細胞の状態について比較して、「周期表」にするという作業を行うことで、一種の細胞のカタログをつくろうとしていると、自身の研究を紹介しました。細胞の一覧表を作る過程で、これまで知られていない新しい性質をもった細胞を見つけることができるかもしれません。

 

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藤渕航教授

 

 

一覧表を作るときに参考になるのがヒートマップと呼ばれる図です。細胞内で働いている遺伝子全体の働き具合をひと目で分かるように色を使って表現した図です。このヒートマップに親しんでもらうために、クイズを行ないました。写真のように3枚のヒートマップを並べてどれがiPS細胞のヒートマップかを当てるものです。iPS細胞以外は「皮膚上皮細胞」と「口腔上皮細胞」であるというヒントを元に、各テーブルで正解のヒートマップがどれかを考えました。iPS細胞以外はどちらも上皮細胞なので、ヒートマップもiPS細胞と比べると似ています。このクイズを通じて、ヒートマップを使って細胞を周期表のように分類するという藤渕先生の研究内容を少しは身近に感じてもらえたようです。

 

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ヒートマップクイズに挑戦する参加者

 

 

参加者からは「細胞の周期表、というのがわかりやすくて良かったと思います」「とても刺激的で難しかったのですが楽しかったです」などの感想がよせられました。

 

CiRAカフェはこれまで内閣府最先端研究開発支援プログラム(FIRSTプログラム)の支援により開催して参りましたが、本プログラムが2014年3月を持って終了するため、CiRAカフェ・FIRSTは今回で最後になります。

 

CiRAでは今後もサイエンスカフェ等のイベントを定期的に開催して参りますので、ご興味のある方は是非ご参加下さい。今後のイベント開催予定日は「イベントカレンダー」に記載しております。皆様のご参加をお待ちしております。

 

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