FOP患者さん由来のiPS細胞で病態を再現することに成功
松本佳久大学院生(京都大学CiRA/再生医科学研究所/名古屋市立大学大学院)、池谷真准教授(京都大学CiRA)、戸口田淳也教授(京都大学 CiRA/再生医科学研究所/医学研究科)、エドワード・シャオ博士(グラッドストーン研究所/カリフォルニア大学サンフランシスコ校)らの研究グループは、FOP患者さんの細胞から作製したiPS細胞を用いて、FOPの病態を再現することに成功しました。
この研究成果は2013年12月9日に「Orphanet Journal of Rare Diseases」に公開されました。
1. ポイント
- FOP(Fibrodysplasia Ossificans Progressiva; 進行性骨化性線維異形成症)患者さん由来のiPS細胞を骨・軟骨へと分化誘導したところ、骨化・軟骨化が進みやすい細胞であることを見出した。
- この細胞をFOPのモデル細胞として利用することで、FOPに効果のある薬を探索することができる。
2. 研究の背景
3. 研究結果
1) FOP患者さんから樹立したiPS細胞は骨化しやすい
まず4種のFOP患者さん由来のiPS細胞と2種のコントロール用iPS細胞を作製しました。これらはいずれも3胚葉に分化する能力をもっており、多分化能を持った細胞でした。これらの細胞を骨化が促進される条件下で15日間培養した所、コントロールの細胞よりもFOP患者さん由来の細胞で骨化がより進行していました。(Fig. 1)
2) FOP患者さん由来のiPS細胞はより大きな軟骨を形成した
次にコントロール用のiPS細胞2種類とFOP患者さんから樹立したiPS細胞3種を軟骨へと誘導するペレット培養を行った所、コントロールと比較してFOP患者さん由来の細胞ではより大きな軟骨を形成しました。
4. まとめ
本研究により、FOPの病態を体の外で一部再現することができ、骨化・軟骨化を緩和するような薬の候補となる物質を探すための評価系を確立しました。これにより、FOPの創薬研究が一層加速することが期待されます。またFOPのみならず、希少疾患の患者さんから研究試料の採取が困難な疾患について、iPS細胞技術を活用してその病態を再現できる可能性を示し、創薬研究ならびに疾患メカニズムの解明に、iPS細胞技術が利用できることを示しました。
5. 論文名と著者
6. 本研究への支援
7. 用語説明
注1) 病態モデル
その病気に特徴的な症状や性質を再現したもの。研究を行う際には、病態モデルを用いて病気の原因究明を行う。これまでも病態を再現した実験動物が、病態モデルとして多くの基礎研究に利用されていた。しかし、ヒトと実験動物とではシステムが異なることもあり、有効な病態モデルが得られないこともあった。ヒトの疾患特異的iPS細胞から病態が再現できれば、ヒト細胞を用いた基礎研究が容易になることが期待されている。今回の成果はまさにその一例にあたる。
注2) コッサ染色
組織中のカルシウムを検出する方法。本研究では骨化の指標としてカルシウムの量を検出している。