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※回答は、2011年12月現在の情報に基づいています。
iPS細胞は2006年に誕生した、新しい多能性幹細胞で、再生医療を実現するために重要な役割を果たすと期待されています。しかし、そもそも、iPS細胞とはどのように作られるのでしょう?iPS細胞の何が画期的なのでしょうか?そして、いつ頃、どのように医療に役立つと予測されているのでしょうか?このセクションでは、これらの疑問について、わかりやすく説明します。
人間の皮膚などの体細胞に、極少数の遺伝子を導入し、数週間培養することによって、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもつ多能性幹細胞に変化します。この細胞を人工多能性幹細胞 (induced pluripotent stem cell:iPS細胞)と呼びます。名付け親は、世界で初めてiPS細胞の作製に成功した京都大学の山中伸弥教授です。
体細胞が多能性幹細胞に変わることを、専門用語でリプログラミングと言います。山中教授が見出したわずかな遺伝子の操作でリプログラミングを起こさせる技術は、再現性が高く、また比較的容易であり、幹細胞研究におけるブレイクスルーと呼べます。
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iPS細胞は、病気の原因の解明、新しい薬の開発、細胞移植治療などの再生医療に活用できると考えられています。難治性疾患の患者の体細胞からiPS細胞を作り、それを神経、心筋、肝臓、膵臓などの患部の細胞に分化させます。その患部の細胞の状態や機能がどのように変化するかを研究することで、今までわからなかった病気の原因が解明できる可能性があります。
また、その細胞を利用すれば、人体ではできないような薬剤の有効性や副作用を評価する検査や毒性のテストが可能になり、新しい薬の開発が大いに進むと期待されています。そして、安全性が確保されたならば、患者由来のiPS細胞から分化誘導した組織や臓器の細胞を移植する細胞移植治療のような再生医療への応用も期待できます。
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病気やケガで失われた臓器などを再生するための研究は数十年前から研究されていました。1981年には、ケンブリッジ大学(イギリス)のマーティン・エバンス卿らが、マウスの胚盤胞からES細胞(embryonic stem cell:胚性幹細胞)を樹立することに成功しました。ES細胞は代表的な多能性幹細胞の一つで、あらゆる組織の細胞に分化することができます。
その17年後、1998年にウィスコンシン大学(アメリカ)のジェームズ・トムソン教授が、ヒトES細胞の樹立に成功しました。ヒトES細胞を使い、人間のあらゆる組織や臓器の細胞を作り出すことにより、難治性疾患に対する細胞移植治療などの再生医療が可能になると期待がふくらみました。
しかし、ES細胞は、不妊治療の余剰胚を用いるものの、発生初期の胚を破壊して作るため、子になるはずの受精卵を壊すことに倫理的、宗教的な問題があり、各国政府がES細胞研究に規制をかけるようになりました。このような状況下では、研究目的と言えども、ES細胞を作製することが容易ではありません。また、患者由来のES細胞を作ることは技術的に困難なので、他人のES細胞から作った組織や臓器の細胞を移植した場合、拒絶反応が起こるという問題もあります。
このような問題を回避する多能性幹細胞の作製方法が世界中で研究されていましたが、山中教授は2006年にマウスの、2007年に人間の皮膚細胞からiPS細胞の樹立に世界で初めて成功したと報告しました。
ES細胞は受精後6、7日目の胚盤胞から細胞を取り出し、それを培養することによって作製されます。一方、iPS細胞は採取に差し支えない体細胞を使って作ることができるので、受精卵を破壊する必要がなく、倫理的問題は回避されます。また、ES細胞と違って、iPS細胞は患者自身の細胞から作製することができ、分化した組織や臓器の細胞を移植した場合、拒絶反応が起こらないと考えられます。
山中教授は、ふとしたきっかけでES細胞の遺伝子に関心を持つようになり、奈良先端科学技術大学院大学の助教授(現在の准教授)だった2000年頃から新しい多能性幹細胞の作製方法の研究に取り組んでいました。数多くの遺伝子の中から、4つの遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を見出し、レトロウイルスベクターを使って、マウスの皮膚細胞(線維芽細胞)に導入し、数週間培養しました。すると、送り込まれた4つの遺伝子の働きにより、リプログラミングが起き、ES細胞に似た、様々な組織や臓器の細胞に分化することができる多能性幹細胞ができました。これが2006年に世界で初めて報告されたマウスiPS細胞の誕生です。
その後、山中教授のグループでは、工夫を重ねて、同様に上記の4遺伝子を人間の皮膚細胞に導入してヒトiPS細胞の作製に成功したと2007年11月に発表しました。
注 ウイルスを用いた遺伝子導入用DNAの一種。目的遺伝子をウイルスに組み込み細胞に感染させることにより、遺伝子を導入する。このようなウイルスベクターには、レンチウイルスやアデノウイルスを用いたものがある。
世界中の大勢の研究者が様々なiPS細胞の作製方法を開発しています。例えば、山中教授と同時期にヒトiPS細胞の作製に成功したトムソン教授は、Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28の4遺伝子を使いました。
また、レトロウイルスベクターの代わりに、レンチウイルスやアデノウイルスをベクターとして用いてiPS細胞を樹立した研究者や、遺伝子を用いず、化合物を用いて、iPS細胞を作製する研究を進めている研究者もいます。
山中教授のグループは、がん化の遺伝子と知られるc-Mycを除いた3つの遺伝子でマウスおよびヒトiPS細胞の作製に成功し、また、細胞のがん化を引き起こす可能性のあるウイルスベクターを用いずに、プラスミドを使ってマウスiPS細胞の樹立にも成功しています。
はい、できます。山中教授のグループでは、6歳から81歳まで様々な年齢の日本人の皮膚細胞からiPS細胞の作製に成功しています。それらのiPS細胞の多能性に大きな違いはありません。
iPS細胞研究は、緒についたばかりの初期段階にあると言えます。今後、標準的なiPS細胞の基準作り、安全なiPS細胞の作製方法の確立、動物を用いた治療効果と安全性の確認、政府によるiPS細胞の臨床、医療応用の指針の策定など、多くの課題を克服する必要があります。国内外の研究者たちは、一日でも早い医療応用を目指して研究を続けています。現在のところ、iPS細胞を活用した創薬や細胞移植治療など医療への応用がいつ頃実現化するかは予測がつかない状況です。
現在の国内外の研究成果を調べると、iPS細胞から神経、心筋、血液など様々な組織や臓器の細胞に分化することが報告されています。
現在、どのような疾患の治療にiPS細胞技術が有効であるかを検討するための研究が行われています。
2011年5月にマウスから作ったiPS細胞を遺伝的に全く同じと言えるマウスにiPS細胞を移植した結果、胚性幹(ES)細胞よりも免疫反応が引き起こされやすい可能性があることが報告され、各メディアでも取り上げられました。(Zhao et al. Nature. 2011 May 13;474(7350): 212-215.)これまでiPS細胞を移植した時にどのような反応が起きるのかについて、きちんと解析されていなかった状況の中での重要な報告ではありますが、CiRAではさらに詳細な検証が必要と考え、米国雑誌で見解を発表しました。(Okita et al.Circulation Research 2011 Sep16;109(7):720-721.)
Zhaoらの論文では、未分化なiPS細胞を移植していますが、実はこれは医療応用の現実とかけ離れたものです。未分化なiPS細胞を移植すると、奇形腫をつくってしまうので、医療の現場で用いる場合には、しっかりと目的の細胞に分化させ、未分化な細胞を取り除いてから、移植することが必要です。私たちの体内で、腫瘍が形成される時、免疫系が反応し、これを排除しようとする現象があります。ですから、いくら自己の細胞から作製したiPS細胞であっても、未分化なまま移植して奇形腫を作らせたら、Zhaoらの論文のように、これを排除しようとする免疫反応が起きても不思議ではありません。今後、iPS細胞から分化させた細胞を移植した場合に免疫反応が 強く起こるかどうかは、検証していく必要があります。
山中教授が2007年11月のヒトiPS細胞樹立成功を発表して以来、政府はオールジャパン体制の構築のため、強力にiPS細胞研究を推進しています。
政府は、2008年度に45億円をiPS細胞研究に投じ、2009年度には145億円の予算配分をしています。文部科学省の「再生医療の実現化プロジェクト」では、京都大学、慶応義塾大学、東京大学、理化学研究所が日本のiPS細胞等研究拠点に採択されたり、同省により「iPS細胞等研究ネットワーク」が構築されました。
2008年11月には、内閣府の先端医療開発特区(スーパー特区)で「iPS細胞研究医療応用加速化プロジェクト」(代表者 山中教授)「ヒトiPS細胞を用いた新規in vitro毒性評価系の構築」(代表者 水口裕之独立行政法人医薬基盤研究所プロジェクトリーダー)が採択されました。また、経済産業省や厚生労働省もiPS細胞研究を支援する施策を取っています。