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iPS細胞基本情報 iPS Basics

iPS細胞とは? iPS細胞の課題
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iPS細胞とは?

※回答は、2014年2月現在の情報に基づいています。

iPS細胞は2006年に誕生した、新しい多能性幹細胞で、再生医療を実現するために重要な役割を果たすと期待されています。しかし、そもそも、iPS細胞とはどのように作られるのでしょう?iPS細胞の何が画期的なのでしょうか?そして、いつ頃、どのように医療に役立つと予測されているのでしょうか?このセクションでは、これらの疑問について、わかりやすく説明します。

iPS細胞とは、どのような細胞ですか?

人間の皮膚などの体細胞に、極少数の因子を導入し、培養することによって、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもつ多能性幹細胞に変化します。この細胞を人工多能性幹細胞 (induced pluripotent stem cell:iPS細胞)と呼びます。名付け親は、世界で初めてiPS細胞の作製に成功した京都大学の山中伸弥教授です。

体細胞が多能性幹細胞に変わることを、専門用語でリプログラミングと言います。山中教授のグループが見出したわずかな因子でリプログラミングを起こさせる技術は、再現性が高く、また比較的容易であり、幹細胞研究におけるブレイクスルーと呼べます。

iPS細胞の樹立
iPS細胞の樹立
iPS細胞は、どのように活用できると考えられているのですか?

iPS細胞は、病気の原因の解明、新しい薬の開発、細胞移植治療などの再生医療に活用できると考えられています。

再生医療とは、病気や怪我などによって失われてしまった機能を回復させることを目的とした治療法で、iPS細胞がもつ多分化能を利用して様々な細胞を作り出し、例えば糖尿病であれば血糖値を調整する能力をもつ細胞に、神経が切断されてしまうような外傷を負った場合には、失われたネットワークをつなぐことができるように神経細胞を移植するなどのケースをが考えられます。

一方、難治性疾患の患者の体細胞からiPS細胞を作り、それを神経、心筋、肝臓、膵臓などの患部の細胞に分化させ、その患部の状態や機能がどのように変化するかを研究し、病気の原因を解明する研究も期待されています。例えば、脳内にある神経細胞が変化して起こる病気は、外側からアクセスすることが難しく、また変化が進んでしまった細胞からは、正常な状態がどうであったかを推測することが難しいとされてきました。iPS細胞を用いることで、こうした研究が飛躍的に進む可能性があります。

また、その細胞を利用すれば、人体ではできないような薬剤の有効性や副作用を評価する検査や毒性のテストが可能になり、新しい薬の開発が大いに進むと期待されています。そして、安全性が確保されたならば、患者由来のiPS細胞から分化誘導した組織や臓器の細胞を移植する細胞移植治療のような再生医療への応用も期待できます。

iPS細胞の可能性
iPS細胞の可能性
iPS細胞が発明された背景は?

病気やケガで失われた臓器などを再生するための研究は数十年前から研究されていました。1981年には、ケンブリッジ大学(イギリス)のマーティン・エバンス卿らが、マウスの胚盤胞からES細胞(embryonic stem cell:胚性幹細胞)を樹立することに成功しました。ES細胞は代表的な多能性幹細胞の一つで、あらゆる組織の細胞に分化することができます。

その17年後、1998年にウィスコンシン大学(アメリカ)のジェームズ・トムソン教授が、ヒトES細胞の樹立に成功しました。ヒトES細胞を使い、人間のあらゆる組織や臓器の細胞を作り出すことにより、難治性疾患に対する細胞移植治療などの再生医療が可能になると期待がふくらみました。

しかし、ES細胞は、不妊治療で使用されず廃棄予定の受精卵を用いるものの、発生初期の胚を破壊して作るため、子になる可能性を持った受精卵を壊すことに抵抗感を持つ人々も少なくなく、ES細胞研究に対して厳しい規制をかける国も少なくありません。このような状況下では、研究目的と言えども、ES細胞を作製することが容易ではありません。また、患者由来のES細胞を作ることは技術的に困難なので、他人のES細胞から作った組織や臓器の細胞を移植した場合、拒絶反応が起こるという問題もあります。

このような問題を回避する多能性幹細胞の作製方法が世界中で研究されていましたが、山中教授のグループは2006年にマウスの、2007年に人間の皮膚細胞からiPS細胞の樹立に世界で初めて成功したと報告しました。

iPS細胞は、ES細胞と比べて、どのような点で画期的ですか?

ES細胞は受精後6、7日目の胚盤胞から細胞を取り出し、それを培養することによって作製されます。一方、iPS細胞は皮膚や血液など、採取しやすい体細胞を使って作ることができます。また、ES細胞と違って、iPS細胞は患者自身の細胞から作製することができ、分化した組織や臓器の細胞を移植した場合、拒絶反応が起こらないと考えられます。

山中教授のグループは最初にどのようにしてiPS細胞を作ったのですか?

山中教授は、ES細胞の遺伝子に関心を持ち、奈良先端科学技術大学院大学の助教授(現在の准教授)だった2000年頃から新しい多能性幹細胞の作製方法の研究に取り組んでいました。数多くの遺伝子の中から、ES細胞で特徴的に働いている4つの遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を見出し、レトロウイルスベクターを使って、これらの遺伝子をマウスの皮膚細胞(線維芽細胞)に導入し、数週間培養しました。すると、送り込まれた4つの遺伝子の働きにより、リプログラミングが起き、ES細胞に似た、様々な組織や臓器の細胞に分化することができる多能性幹細胞ができました。これが2006年に世界で初めて報告されたマウスiPS細胞の誕生です。

その後、山中教授のグループでは、工夫を重ねて、同様に上記の4遺伝子を人間の皮膚細胞に導入してヒトiPS細胞の作製に成功したと2007年11月に発表しました。

注 ウイルスを用いた遺伝子導入用DNAの一種。目的遺伝子をウイルスに組み込み細胞に感染させることにより、遺伝子を導入する。このようなウイルスベクターには、レンチウイルスやアデノウイルスを用いたものがある。

iPS細胞の作製方法は、他にもありますか?

世界中の大勢の研究者が様々なiPS細胞の作製方法を開発しています。例えば、山中教授のグループと同時期にヒトiPS細胞の作製に成功したトムソン教授は、Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28の4遺伝子を使いました。

また、レトロウイルスベクターの代わりに、レンチウイルスアデノウイルスをベクターとして用いてiPS細胞を樹立した研究者や、遺伝子を用いず、化合物を用いて、iPS細胞を作製したという報告もあります。

CiRAでは、その後さまざまな樹立法の研究を進めた結果、当初の樹立法からより安全性の高い方法を確立することに成功しており、例えばがん化の危険性を高めると考えられたc-Myc遺伝子をL-Mycに変更する、また、細胞が持つもともとのゲノム情報を傷つけ、がん化を引き起こすとされたウイルスベクターを用いずに、エピソーマル・プラスミドを使ってヒトiPS細胞を樹立することにも成功しています。

iPS細胞は、どんな年齢の人の体細胞からも作製できるのですか?

はい、できます。山中教授のグループでは、6歳から81歳まで様々な年齢の日本人の皮膚細胞からiPS細胞の作製に成功しています。それらのiPS細胞の多能性に大きな違いはありません。

iPS細胞を利用した新しい薬の開発(創薬)や医療への応用はいつ頃実現するのですか?

iPS細胞研究は、標準的なiPS細胞の基準作り、安全なiPS細胞の作製方法の確立、動物を用いた治療効果と安全性の確認など、iPS細胞が発表された2006年と比較すると大きく研究が進展し、2013年には人間での安全性を確かめる研究も開始されました。政府によるiPS細胞の臨床、医療応用の指針の策定など、克服するべき課題もありますが、国内外の研究者たちは、一日でも早く多くの患者の元へとiPS細胞を利用した新しい医療が届けられるように研究を続けています。

iPS細胞からどんな組織や臓器の細胞を作ることができるのですか?

現在の国内外の研究成果を調べると、iPS細胞から神経、心筋、血液など様々な組織や臓器を構成する細胞に分化することが報告されています。ただし、細胞や組織というものは臓器という立体的なものの一部にすぎません。そのため、立体的な臓器をつくる試みもなされており、小さな肝臓などを作ったという報告(Nature. 2013 July 25; 499: 481-484)もありますが、人間のサイズに見合う、あるいは人間の体内で機能するような大きく立体的な臓器ができたという報告はまだありません。今後、3Dプリンターやバイオマテリアルなど、さまざまな素材や技術と組み合わせ、発展が期待されている分野といえるでしょう。

 

iPS細胞技術が確立し、医療への応用が可能になったとしたら、どんな病気やケガでも治療可能になるのですか?

理論上、身体を構成する細胞であれば、iPS細胞はどのような細胞へも分化できますが、それが何にでも応用可能であるとは限りません。例えば、記憶を司る脳が損なわれてしまう場合などは、神経科学の分野においても記憶の形成などはいまだ大きな謎の一つであります。また、細胞を用いることなく、新規の薬剤や治療機器の登場を待つほうがよい場合もあると考えられます。したがって、他の研究分野の発展とも並行し連携しながら、どのような疾患の治療にiPS細胞技術が有効であるかを検討する必要があります。

iPS細胞が免疫拒絶を起こすという話を 報道で見ました。iPS細胞は本当に免疫拒絶を起こすのでしょうか?

2011年5月にマウスから作ったiPS細胞を遺伝的に全く同じと言えるマウスにiPS細胞を移植した結果、胚性幹(ES)細胞よりも免疫反応が引き起こされやすい可能性があることが報告され、各メディアでも取り上げられました。(Zhao et al. Nature. 2011 May 13;474(7350): 212-215.)これまでiPS細胞を移植した時にどのような反応が起きるのかについて、きちんと解析されていなかった状況の中での重要な報告ではありますが、CiRAではさらに詳細な検証が必要と考え、米国雑誌で見解を発表しました。(Okita et al.Circulation Research 2011 Sep16;109(7):720-721.)

Zhaoらの論文では、未分化なiPS細胞を移植していますが、実はこれは医療応用の現実とかけ離れたものです。未分化なiPS細胞を移植すると、奇形腫をつくってしまうので、医療の現場で用いる場合には、しっかりと目的の細胞に分化させ、未分化な細胞を取り除いてから、移植することが必要です。私たちの体内で、腫瘍が形成される時、免疫系が反応し、これを排除しようとする現象があります。ですから、いくら自己の細胞から作製したiPS細胞であっても、未分化なまま移植して奇形腫を作らせたら、Zhaoらの論文のように、これを排除しようとする免疫反応が起きても不思議ではありません。

2013年にはCiRAの高橋淳教授らのグループが、サルを使った研究で、iPS細胞から作製した神経細胞を脳内に移植する実験を行い、自己の細胞から作製した細胞の場合は殆ど免疫反応が起こらないことを報告しています。このように実際に行われる移植方法に則した形で免疫反応の有無等を検証する必要があります。

生殖細胞以外の細胞の総称 注を参照 Q5の注を参照 遺伝子を運ぶDNA 細菌に存在する環状DNAで、ベクターとして利用される DNA上のある部位から他の部位へ転位する遺伝子 細胞が分裂する過程で構造や機能が特殊化すること 人工的に増殖させること 画期的な進展 原因が不明で、治療法が確立していない病気 受精卵が分裂し始めた初期胚 試験管内での 受精を終えた卵で、発生を開始する。