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2011年10月25日

ヒトiPS細胞を用いたアルツハイマー病治療薬探索基盤の開発 PLoS ONEに掲載

 井上治久准教授(CiRA臨床応用研究部門)の研究グループの八幡直樹研究員らは、岩田修永教授(長崎大学)らとの共同研究で、ヒトiPS細胞(注1)から、大脳皮質神経細胞を分化誘導し、アルツハイマー病の原因物質と考えられているアミロイドβペプチド(Aβ) (注2)を検出するシステムを確立しました。さらにAβ産生を抑制する薬剤に対する反応性を解析しました。本論文は米国科学誌「PLoS ONE」6巻9号:e25788 (2011年9月発行)に掲載されました。

 アルツハイマー病は老人性認知症の中で患者が最も多い疾患であり、脳内に老人斑といわれる過剰なタンパク質が沈着することが病理学的な特徴の1つです。この老人斑の主成分が、Aβであることが明らかとなり、Aβの過剰な蓄積がアルツハイマー病の発症に深く関わっていると考えられています。アルツハイマー病の治療には脳内のAβの量の制御が有効である可能性があり、薬剤開発を含めた様々なアプローチが研究されています。

 本研究では、ヒトiPS細胞から老人斑の沈着がみられる大脳皮質の神経細胞を作製し、その培地の上清中に含まれるAβを検出するシステムを確立しました。さらにAβ産生を抑制するとされる薬剤に対する反応性を調べたところ、β-セクレターゼ(注3)阻害剤やγ-セクレターゼ調節薬により、濃度依存的にAβ40およびAβ42の産生が阻害されることが分かりました。またγ-セクレターゼ阻害薬を低濃度で使用した場合には、予想に反してAβ産生を上昇させ、高濃度の場合にはAβ産生を阻害しました。さらにこの薬剤に対する反応性を調べたところ、iPS細胞から神経細胞に分化誘導する期間の短い細胞では急激な反応を示したことから、Aβ産生に対する薬剤効果の安定した解析を行うためには、より成熟した神経細胞を使用する必要があることが判明しました。

 本研究で確立したヒトiPS細胞を利用したAβ検出システムを利用することで、ヒトに対して効果的なAβ産生制御薬剤の探索が可能になり、今後ヒトiPS細胞を用いたアルツハイマー病創薬研究において役立つことが期待されます。

 本研究は、 京都大学iPS細胞研究所、長崎大学、山中iPS細胞特別プロジェクト、埼玉医科大学、独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター、京都大学医学研究科、筑波大学との連携の元、JST戦略的創造研究推進事業チーム型研究「CREST」の「「人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製・制御等の医療基盤技術」研究領域における研究課題「iPS細胞を駆使した神経変性疾患病因機構の解明と個別化予防医療開発」の一環として行われました。

論文名
"Anti-Aβ Drug Screening Platform Using Human iPS Cell-Derived Neurons for The Treatment of Alzheimer's Disease."

著者
Naoki Yahata, Masashi Asai, Shiho Kitaoka, Kazutoshi Takahashi, Isao Asaka, Hiroyuki Hioki, Takeshi Kaneko, Kei Maruyama, Takaomi C. Saido, Tatsutoshi Nakahata, Takashi Asada, Shinya Yamanaka, Nobuhisa Iwata, Haruhisa Inoue.

雑誌web site: PLoS ONE
※恐れ入りますが、本論文は出版社のウェブサイトなどより入手ください。CiRAからの送付サービスは行っておりません。

注1:iPS細胞
人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)のこと。皮膚などの体細胞に特定因子を導入することにより作製する。胚性幹細胞(ES細胞)のように無限に増え続ける能力と体のあらゆる組織細胞に分化する能力を有する多能性幹細胞である。2006年にはマウスで、2007年にはヒトで、iPS細胞樹立が報告された。

注2:アミロイドβペプチド(Aβ)
アミロイド前駆体タンパク質から産生される生理的ペプチド。アルツハイマー病の病理である老人斑の構成成分として発見され、この過剰な蓄積がアルツハイマー病発症と深い関わりがあると考えられている。40個のアミノ酸残基からなるAβ40と42個のアミノ酸残基からなるAβ42の2種類のAβに関する解析が中心になされている。

注3:セクレターゼ
β-セクレターゼはBACE1と呼ばれるタンパク質分解酵素で、γ-セクレターゼはプレセニリンを活性中心とした4つの分子からなるタンパク質複合体である。β-およびγ-セクレターゼによってアミロイド前駆体タンパク質が切断され、Aβが生成される。また、これらのAβ産生酵素の阻害剤がアルツハイマー病治療薬の候補となっている。

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