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2013年9月3日

人工RNAスイッチの拡張技術開発に成功 遺伝子発現の次世代制御技術に向けて

 遠藤慧研究員(京都大学CiRA初期化機構研究部門)、井上丹教授(京都大学大学院生命科学研究科)、齊藤博英准教授(京都大学CiRA初期化機構研究部門、白眉センター)らの研究グループは、細胞内の状態に応じて、目的とする外来遺伝子の発現を自在に制御できる「RNA注1)スイッチ注2)」の拡張技術の開発に初めて成功し、細胞内でスイッチの性能を自在に調節・反転できる「RNAインバータ注3,4)」を創出しました。
本研究成果は2013年9月3日に英国科学雑誌「Nature Communications」で公開されました。

1.ポイント
簡便にRNAスイッチの性能を調節・反転する手法を開発し、RNAインバータを創出した。
●RNAインバータにより多数の遺伝子を同時に制御することができる。
●細胞内の状態に応じて、細胞の運命を変えることのできる新規の次世代遺伝子技術につながる。


2.要旨
 これまで、iPS細胞から分化細胞へと運命を変えるためには、培養の段階ごとに外から成長因子や化学物質などを加えたり、遺伝子を導入することが必要で、細胞内の状態に応じた運命制御は困難でした。本研究グループは、細胞内の状態に応じて外来遺伝子の発現を調節し、細胞の運命を制御できるRNAスイッチの開発を進めています (Saito H., Nat. commun. 2:160, 2011)。これまでの研究では遺伝子の発現を抑制するOFFスイッチと、活性化するONスイッチは独立に作成・最適化する必要があり、目的の感度や性能をもったスイッチの機能を予測して、簡便に作ることは困難でした。今回開発したRNAインバータは、RNAスイッチの機能をOFFからONへ、その検出物質への特異性や感度を維持したまま自在に変換することを可能とします。RNAスイッチは、細胞内の状況を感知し、自律的に遺伝子発現を制御するため、細胞内の状態に応じて、iPS細胞から分化細胞へと誘導する方法や、ガン細胞のみを感知して細胞死を導く方法などへの応用などが期待されています。


3.研究の背景
 外来遺伝子を細胞に導入し、その発現を制御することは、再生医療や遺伝子治療をはじめとする、先進的な医療を支える基盤技術のひとつです。たとえば、iPS 細胞は山中因子と呼ばれる 4 つの遺伝子を細胞に導入して作成されています。また、転写因子等を細胞に導入し、細胞分化を誘導する研究も注目を集めています。ただし、これら例の場合、 4 つの遺伝子や転写因子の発現は積極的には制御されている訳ではありません。したがって、「細胞内の状態」に応じて外来遺伝子の発現を自在に制御する技術の開発が期待されていました。
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4.研究結果
 今回本グループは、簡便にRNAスイッチの性能を調節・反転する手法を開発し、それを実現する人工RNAからなる部品を「RNAインバータ」と名づけました。開発したRNAインバータは、RNAスイッチの機能をOFFからONへ、その特徴を維持したまま自在に変換することができます。
 このRNAインバータを挿入した人工mRNAは、細胞内で標的となる因子が発現していない場合、速やかに分解されます。ここで標的因子が発現すると、人工mRNAは標的に結合し(検出)、その発現量に応じてmRNAが安定化され(判断)、目的とする外来遺伝子の翻訳を活性化します(実行)。たとえば今回の成果の応用例として、がん細胞に特有の物質(例:がんマーカ因子など)が「ある」と、その細胞が死滅する遺伝子(例:細胞死誘導遺伝子)を発現するスイッチの構築が考えられます。
130903_2.png

 実際今回の研究でも、RNAスイッチがコードする遺伝子を細胞死誘導タンパク質にすることで、標的因子が発現した特定の細胞に対して選択的に細胞死を誘導できることが確認できました。また、これまでの技術では、一つの因子で複数の遺伝子の発現を同時、かつ独立に制御することは困難でした。今回の方法では、mRNA 1 分子内の改変で、スイッチの性能を調整したり、機能を反転させたりすることができます。したがって、1 つの制御因子が複数の外来遺伝子の発現のオン・オフを個別かつ同時に制御することができるようになりました。


5. まとめ 
 本研究で開発された人工RNAスイッチは、細胞内の状態を感知することで、外来遺伝子の発現を自在に制御できる新技術となります。細胞の外からは見えない内部の状態を「人工RNAで識別」することで、これまでの技術では困難であった細胞内状態に応じた分化誘導や運命制御技術の開発が期待できます。


6. 論文名、著者およびその所属
・論文名
  "A versatile cis-acting inverter module for synthetic translational switches"
  人工翻訳スイッチの部品となる汎用的RNAインバータモジュール

・ジャーナル名

・著者
  Kei Endo, Karin Hayashi, Tan Inoue*, and Hirohide Saito*
  (遠藤慧、林香倫、井上丹*、齊藤博英*) * corresponding author


7. 本研究への支援
 本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。
 ・JST ICORP RNAシンセティックバイオロジープロジェクト
 ・文部科学省「科学研究費補助金」若手研究A
 ・武田科学振興財団ライフサイエンス研究奨励
 ・内藤記念科学振興財団


8. 用語説明
注1)RNA
リボ核酸のこと。細胞内で様々な役割を担っており、DNAの塩基情報がRNA(伝令RNA)に転写され、その情報をもとにリボソームでタンパク質が合成される。リボソームの活性に重要な部分はRNA(リボソームRNA)でできており、タンパク質合成の際にアミノ酸をリボソームに誘導するのもRNA(運搬RNA)の働きである。最近では、タンパク質を生み出さないRNA(ノンコーディングRNA)が生命現象のさまざまな場面で重要な役割を果たしていることが分かってきている。

注2) RNA スイッチ:
細胞内の物質を検知して(内部状態に応答して)、保持する遺伝子の発現を制御する mRNA 分子。検知する物質の存在下で遺伝子発現が抑制される 「OFF スイッチ」と、活性化される 「ON スイッチ」の 2 種類のスイッチが考えられる。

注3) インバータ
入力と反対の出力を生成する回路のこと。

注4) RNA インバータ:
「OFF スイッチ」と「ON スイッチ」とを切り換えるためにRNA スイッチに挿入して使用する変換モジュールで、本研究で開発した RNA 配列。インバータによる変換の前後で、スイッチの特徴(検知物質への特異性や感度)は維持される。

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