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2014年1月17日

ヒトiPS/ES細胞から効率よく腎臓の元へと分化させる化合物を大規模スクリーニングにより発見。PLOS ONEに掲載。

 荒岡利和研究員(京都大学CiRA)、長船健二准教授(京都大学CiRA、JSTさきがけ注1)らの研究グループは、大規模な化合物スクリーニング系を用いて、ヒトiPS/ES細胞を腎臓や生殖腺などの元となる中間中胚葉へと高効率に分化させる物質を同定しました。
 この研究成果は2014年1月15日(米国東部時間)に「PLOS ONE」にオンライン公開されました。

ポイント 
・ヒトiPS/ES細胞から腎臓の元となる中間中胚葉注2へと分化誘導する化合物をスクリーニングする系を構築した。
・構築したスクリーニング系を用いて、2つの化合物の組み合わせで中間中胚葉へと早く効率的に分化誘導する化合物を同定した。
・化合物で分化誘導することにより、従来法より低価格でかつ安定した分化誘導が期待できる。

1.要旨
 腎臓の細胞のほとんどは中間中胚葉から分化するため、腎臓再生に向けて、まずヒトiPS/ES細胞から中間中胚葉へと高効率に分化させる技術の開発が必要です。研究グループはヒトのiPS/ES細胞で効率良く遺伝子の相同組み換え注3を起こさせる技術を確立し、ヒトiPS細胞で中間中胚葉の分化マーカー遺伝子(Odd-skipped related 1: OSR1)に緑色蛍光タンパク質(GFP)注4を導入することに成功し、中間中胚葉へと分化したことが蛍光によって検出できるシステムを構築しました。このシステムを用いて、iPS/ES細胞から中間中胚葉へと高効率に分化させる化合物を探索し、2つのレチノイド(AM580およびTTNPB)が効果的であることを明らかにしました。この研究成果は、iPS/ES細胞から腎臓の細胞へと分化誘導する際に、成長因子を利用する従来法と比べてコストを低減し、また安定した分化誘導系となることが期待されます。

2.研究の背景
 腎臓は構造や発生機構が複雑であると同時に、老廃物の排泄や血圧の調節、赤血球の合成促進など生理学的に重要な様々な役割を果たしています。腎臓はいったん傷つくとその機能を修復することは殆どできず、機能不全が進行すると人工透析により命をつなぐことになります。日本の透析患者数は30万人を超え、透析医療費は全医療費のおよそ6%を占めており、腎臓を再生する研究が期待されています。
 iPS細胞やES細胞を使って腎臓の細胞を誘導する試みが行われていますが、ヒトのiPS/ES細胞を用いて腎臓の細胞を誘導する技術は完成していません。これまでの発生生物学的研究から腎臓は中間中胚葉から発生することがわかっています。iPS/ES細胞から中間中胚葉を高効率に誘導することは、腎臓の細胞を誘導する上で重要なステップとなります。
 CiRAの長船准教授らのグループは2013年1月にiPS/ES細胞から中間中胚葉へと分化したことを容易に判別できる方法を開発し、中間中胚葉へと高効率に誘導する方法を開発していました。この時には、BMP7やアクチビンAなど成長因子を利用していました。しかし、成長因子は高価であり、また安定性にも難点があり、安価に手に入れることが出来る低分子化合物を用いた分化誘導方法が求められています。
 そこで前回の研究で開発した中間中胚葉を判別できる実験系を用いて、大量の化合物の中から中間中胚葉への分化誘導に効果がある化合物を探しだす(スクリーニングする)系を構築しました。

3.研究結果
1) ロボットシステム用いて、ヒトiPS細胞を中間中胚葉へと分化させる化合物を同定
 これまでに長船准教授らのグループでは、OSR1という中間中胚葉の分化マーカー遺伝子にGFPを導入した技術を用いて、中間中胚葉に分化するとGFPが発する蛍光により検出できるiPS細胞を作製していました。これまでに確立していたiPS細胞から中間中胚葉へと分化させる方法を用い、iPS細胞に化合物(CHIR99021)および成長因子(アクチビンA)を与えて2日後(中内胚葉の段階)に1821種の化合物を作用させて、GFPを光らせる(中間中胚葉へと分化させる)化合物を2種(AM580およびTTNPB)見つけ出しました。
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Fig. 1 スクリーニングに用いる装置と分化誘導方法
CiRAで所有している化合物スクリーニングに用いたロボットシステム。右側の手順の様な中間中胚葉へと分化誘導させる方法を用い、1821種の化合物から有効な化合物を選び出した。

2) 見出した低分子化合物は早く高効率にiPS/ES細胞を中間中胚葉へと分化させた
 1)で見出した化合物とCHIR99021を組み合わせ、アクチビンAなどの成長因子を使わない方法で中間中胚葉への分化誘導を試みました。まずヒトiPS細胞にCHIR99021およびAM580あるいはTTNPBを添加して2日間、その後AM580あるいはTTNPBのみの培地で3日間培養する方法で分化誘導を行いました。するとAM580あるいはTTNPBのいずれも、6日目には75%以上の細胞が中間中胚葉へと分化しており、成長因子を使った方法と比べて早く高効率に分化誘導させることが出来ました。

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Fig. 2 低分子化合物を用いた方法では6日目には中間中胚葉へと分化している
右側の手順で分化誘導をしたところ、6日目にはOSR1を発現している細胞、つまり中間中胚葉へと分化した細胞へと大半が変化した。成長因子(アクチビンA)を用いた方法では同じ6日目の段階で20%程度しか分化していなかった。


3) ヒトiPS細胞から誘導した細胞で、腎尿細管の構造を再現
 2)で樹立した中間中胚葉をマウス胎児の腎臓細胞と共培養したところ、一部の細胞で管状の構造を形成したものがあり、その細胞は腎尿細管のマーカーであるLTL(Lotus Tetragonolobus lectin)が陽性であり、かつ、尿細管上皮細胞の指標であるLAMININを発現していることを確認しました。従って今回確立した方法でヒトiPS/ES細胞から誘導した中間中胚葉には、腎臓の3次元構造を作る能力があることが示されました。(Fig. 3)

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Fig. 3 中間中胚葉から誘導した一部の細胞で腎尿細管の構造を形成
管構造を形成した細胞はLAMININおよびLTLが共に陽性であり、腎尿細管であると考えられる。
緑:HuNu(ヒト中間中胚葉由来の細胞であることを意味する) 赤:LTL 紫:LAMININ 青:核 図中のバーは100μmを示す。


4.まとめ    
 本研究では、ロボットシステムを用いて、膨大な化合物の中から中間中胚葉への分化誘導に有効な化合物をスクリーニングしました。このようなロボットシステムを用いた手法は創薬研究では広く使われて来ましたが、iPS細胞の登場により今回の様な分化誘導方法の探索にも利用することが出来、現在注目されています。特に生体内で機能している成長因子などのタンパク質は高価であり、また物質として不安定なので大規模に分化誘導を行うには不向きです。今後は、より安価で安定している低分子化合物で細胞の状態をコントロールするケミカルバイオロジーと呼ばれる分野が重要な役割を果たすと考えられます。
  
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Fig.4 ヒトiPS細胞から腎臓細胞へと分化させるステップ
今回効率良く誘導する方法を確立した中間中胚葉は、腎臓だけではなく、副腎や生殖腺の細胞にも分化する能力をもっている。

5.論文名と著者
・論文名
"Efficient and rapid induction of human iPSCs/ESCs into nephrogenic intermediate mesoderm using small molecule-based differentiation methods"

・ジャーナル名
PLOS ONE

・著者
Toshikazu Araoka1 Shin-ichi Mae1 Yuko Kurose1 Motonari Uesugi2, 3 Akira Ohta1 Shinya Yamanaka1, 4 and Kenji Osafune1,*

*)責任著者

・著者の所属機関
1) 京都大学 iPS細胞研究所(CiRA)
2) 京都大学 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)
3) 京都大学 化学研究所
4) グラッドストーン研究所


6.本研究への支援    
 本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。
・文部科学省 「再生医療の実現化プロジェクト」
・上原記念生命科学財団
・武田科学振興財団
・内閣府 「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」
・文部科学省科学研究費補助金 「若手研究(B)」
・JST さきがけ
・JST 山中iPS細胞特別プロジェクト
・JST 再生医療実現拠点ネットワークプログラム 技術開発個別課題
・日本学術振興会特別研究員制度

7.用語説明   
注1) JST戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)
研究領域 「iPS細胞と生命機能」
(研究総括:西川 伸一 (独)理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 副センター長)
研究課題名 多発性嚢胞腎患者由来のiPS細胞を用いた病態解析
個人研究者 長船 健二
研究期間 平成20年6月から平成24年3月

注2) 中間中胚葉
脊椎動物の個体発生の過程で現れる細胞集団のこと。将来になる細胞の種類に応じて大きく外胚葉・中胚葉・内胚葉に分類され、さらに中胚葉は、中間中胚葉・沿軸中胚葉・側板中胚葉などに分類される。中間中胚葉は将来腎臓や副腎、生殖腺へと分化する細胞を含んでいる。

注3) 相同組み換え
DNAの塩基配列がよく似た領域(相同部位)で起こるDNAの組換えのこと。二本鎖のDNAには、切断や変異が起こっても相補鎖を元に修復する機能が備わっており、これらの性質を応用して目的の場所の遺伝情報を変える技術。これまでヒトのiPS/ES細胞では難しい技術であった。

注4) 緑色蛍光タンパク質(GFP)
オワンクラゲ由来の緑色の蛍光を発するタンパク質で、下村脩博士によって発見された。細胞内で目的タンパク質の発現を検出するのに使用される。本研究では、中間中胚葉の細胞のみがGFPの蛍光を持つように設計し、GFPを指標として中間中胚葉の細胞を選別した。

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