近年、細胞や遺伝子の働きや意味を明らかにする生命科学に注目が集まっています。1953年におけるDNAの二重螺旋モデルの提唱や1973年の遺伝子組換え技術の出現、2007年におけるiPS細胞(ヒト)の発見は、いずれも生命科学の進展を象徴する出来事です。このように生命科学が著しく発展するにつれ、その社会的な関心もまた高まってきています。例えば、iPS細胞は、自身と同じ細胞を作り出すことで増えることができ、また様々な細胞に変化することができるために、候補薬の探索や細胞治療の開発において社会的な期待が高まっています。他の例としては、最近、遺伝子導入により細胞の機能が人為的に強化された免疫細胞である「CAR-T細胞」が登場しており、国内においても保険適用下で使用され始めています。

 一方で、iPS細胞の「i」や「PS」、CAR-T細胞の「CAR」や「T」といった文字の意味合い、またこのような「新たな細胞」を社会において取り扱っていくうえでの課題や対応については、社会において十分に認識されていないところもあるように思います。

 この度は、専門的な知識や経験などを持つ持たないにかかわらず、少しでも多くの方が細胞やその科学的・社会的な意味合いについて考えられる場を創れたらと願い、本作品の制作を試みました。この作品を通じて、昨今、生命科学において注目を集める「新たな細胞の存在」とともにいろいろな角度から思案する「鑑賞のあり方」について触れていただければと思います。細胞とは何か?、細胞はどのような働きをしているのか?、細胞は身近に感じられるのか?といった問いや、生命科学の発展の経緯、生命科学と社会とのつながりについて考えていただくきっかけになれば幸いです。