CiRA
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CiRAのイベント 丸ごと報告します!

CiRAでは、一般の方や高校生、研究者を対象とするものまで、1年を通じてさまざまなイベントを開催していますが、今号ではその一端をご紹介します。

10月2日(土)の午後、東京都新宿区のイベント・ホール「ベルサール新宿」で一般の方を対象としたCiRAシンポジウム2010「iPS細胞研究の最前線」を開催しました。秋晴れの空の下、約650人が参加されました。第1部は、所長の山中伸弥教授、髙橋淳准教授、長船健二准教授の講演です。

初期化機構研究部門長でもある山中教授は、iPS細胞が開発されるまでの過程から、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いて病気の原因を明らかにしたり、薬の探索ツールとして利用できる可能性について、例を挙げて説明しました。例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS:筋肉を動かす運動神経が弱る病気)の患者さんの細胞からiPS細胞を作り、さらに神経細胞に変化させ、その神経細胞に病気の症状を再現できれば、それを用いて研究を進めることができるそうです。また同様に、患者さん由来のiPS細胞から分化した心筋細胞を用いて、開発中の薬の副作用や毒性の検査ができることを話しました。既に、iPS細胞由来の心筋細胞の販売を開始した企業もあるとのことです。

挨拶をする山中伸弥所長

司会進行の結野亜希さん

講演をする髙橋淳准教授

講演をする長船健二准教授

講演者と司会者が壇上に並び質問を受ける様子

iPS細胞技術には多くの可能性があるものの、その一方で課題もあると山中教授。「一番心配しているのは、iPS細胞を用いた細胞を移植した場合に細胞ががんにならないか、ということです。そうならないようにするために、必死に研究を進めています。」と話しました。

また、本年4月に設立されたiPS細胞研究所(CiRA)や研究棟の設備についても説明し、iPS細胞研究についての理解と支援を求めました。山中教授は、今後10年間での達成目標は、「基盤技術の確立、知的財産の確保」「再生医療用iPS細胞バンクの構築」「前臨床試験から臨床試験へ」「患者さん由来iPS細胞による治療薬開発(難病、希少疾患など)」と述べました。

次の講演者は、増殖分化機構研究部門の髙橋准教授(再生医科学研究所兼務)です。脳神経外科医でもある髙橋准教授は、iPS細胞を用いたパーキンソン病の研究状況について報告しました。

パーキンソン病は、ドーパミン神経細胞の減少により、ドーパミンが生み出されなくなった結果、手足のふるえや運動機能に低下が生じる病気です。

髙橋准教授によると、投薬では根本的な治療が困難なため、細胞移植による研究が進められているとのことです。海外では中絶胎児に由来するドーパミン神経の細胞移植の臨床研究が行われているそうですが、量的な問題や倫理的な課題など、多くの患者さんに応用するには大きな課題が存在します。そこで、ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞の利用が考えられています。現在、これらの細胞からドーパミン神経細胞はできていますが、腫瘍形成の危険性を回避するためにはドーパミン神経細胞だけを確実に選び出す方法の開発などの課題があります。しかし、髙橋准教授は、「道さえあれば、時間がかかってもたどり着くことができる、、、」と話し、意気込みを示しました。

最後は、同じく増殖分化機構研究部門の長船准教授が登壇しました。長船准教授は、慢性腎臓病、糖尿病、肝不全などの治療法開発のために、iPS細胞から腎臓、膵臓、肝臓の細胞を作製する研究に取り組んでいます。上記のような病気の根治的治療には、現在のところ移植治療しかなく、iPS細胞技術を使うことで可能性が広がったと話します。iPS細胞からこれら3種類の臓器の細胞に分化させるのはまだまだ困難ですが、長船研究室では3つの臓器の発生のメカニズムを参考に研究を進めています。

iPS細胞技術を利用すれば、細胞移植、細胞と機械を組み合わせた人工臓器の作製、そして遠い未来には、完全な臓器の作製までもが可能になるのではないか、と長船准教授は今後の展望を話します。例えば、iPS細胞からインスリンをつくる細胞を作製し、肝臓内に移植することで糖尿病の有効な治療法になり得ると語っています。また、「多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)という全身の臓器に袋ができる難病の患者さんからiPS細胞を作り、病気の症状を再現させ、新しい薬を開発することも研究目標の一つです」と述べました。

第2部は、約50分の質疑応答のコーナーでした。最初の20分程度は、司会進行の結野亜希さん(NHK-BS1でアナウンサーとして活躍中)が、シンポジウム参加申込時に寄せられた質問を、3人の講師に聞きました。その後、会場の参加者から手が上がり、熱心にiPS細胞の初期化や疾患に関する質問が投げかけられました。

脊髄損傷の患者さんからの「将来、iPS細胞技術が確立した時に、治療を受けることができますか?」という質問に対して、山中教授は、「脊髄損傷は、細胞移植、新しい薬の開発、リハビリなどいろいろな種類の治療を組み合わせ、それらを総合的に行う治療を考えている先生も慶應大学におられます。私たちは、iPS細胞を用いた細胞移植に関して、できる限り貢献したいと思っています。いつになるかは簡単には言えませんが、一日も早く貢献できるようにという気持ちは強く持っています」と答えました。

予定していた時間を15分ほどオーバーしてシンポジウムを終了しました。今回は会場の後方に、CiRA研究棟1階に展示しているパネルや、画像などを持ち込みました。休憩時間には、多くの参加者が興味深そうに見たり、係員に説明を求めたりしていました。また、より多くの方々に講演を聞いていただくために、インターネットで第1部の講演の生中継を試みました。今回のシンポジウムの模様は、後日、CiRAホームページに掲載します。

尚、このシンポジウムは、内閣府「最先端研究開発支援プログラム」の支援を受けて開催されました。このプログラムの採択研究課題の一つである山中教授を中心研究者とする「iPS細胞再生医療応用プロジェクト」に関するウェブサイト(http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/ips-rm/)を立ち上げています。

高校生諸君、幹細胞研究やってみよう!

ピペットを使って実験する高校生

夏休み真っ只中、8月4日の午後、高校生32名が、京都大学の物質‒細胞統合システム拠点(iCeMS)本館に集まってきました。CiRAとiCeMSが主催する2日間の高校生対象実験教室に参加するためです。この実験教室は、仮説をたて、実証実験を行い、結果についてディスカッションするという研究の基本的な流れを疑似体験できるように設計されています。

1日目は、幹細胞やバイオイメージング(注1)に関する基礎知識を学び、ピペットや顕微鏡の使い方を練習。粘土を使ってES細胞の作製方法も学習し、翌日の準備をします。4人1組のグループに分かれて、「仮説をたてる」「ディスカッションする」も練習しましたが、全員が別々の高校からの参加だったからか、半日一緒に過ごしても、ぎこちなさは抜けない感じでした

2日目は、いよいよ本番です。世界中で実際に研究されているテーマ「iPS細胞とES細胞が同じ特徴をもつ細胞なのかを知りたい」に挑みました。高校生たちは初めて見るES/iPSた。京大博士課程の武内大輝さんと細胞を前に目を輝かせて携帯で写真小倉綾さんが講師となり、細胞や実撮影。自分達で染色した青や緑に光験方法についてレクチャーし、実習をる細胞を蛍光顕微鏡で観察すると「きリードします。グループごとに仮説をたれい!」という歓声があがりました。グて、本物のiPS細胞、ES細胞、それにループ・ディスカッションも熱を帯び、ヒトiPS細胞由来の神経細胞を観最後に修了証をもらって無事に実習察。細胞の免疫染色(注2)も試みましが終わりました。

参考: http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/seminar/100817-143211.html
注1: バイオイメージング:分子レベルの生命現象を視覚化する手法で、細胞や組織中のタンパク質などの分布や動態を画像として解析する技術の総称。
注2: 免疫染色:抗体の抗原特異性を利用して組織や細胞標本中の抗原となるタンパク質などを検出する手法。抗体に蛍光物質などを付けることで抗原の分布などを視覚化する。バイオイメージングに欠かせない手法のひとつである。

研究者、iPS細胞樹立・培養技術を体得する

培養室で作業する参加者

CiRAが主催する今年度、2回目のiPS細胞樹立・維持培養講習会と実技トレーニングが8月30日 -9月1日にかけて実施されました。国内外の研究機関や企業から、講習会に37名、実技トレーニングに8名が参加しました。今回は英語が使用されたため、外国人の研究者も参加していました。

初日にCiRA研究棟1階の講堂で開かれた講習会。実験作業の様子を撮影したビデオを上映しながら、浅香勲准教授がiPS細胞の樹立、培養方法や凍結保存方法等を丁寧に説明します。加えて、今回は、中川誠人講師が最新研究成果の報告を、高橋和利講師がiPS細胞の評価方法を、そして長船健二准教授が疾患特異的iPS細胞(注1)の樹立方法や解析方法について説明し、幅広い内容を講義しました。

実技トレーニングは8月30日の午後から始まりました。参加者8名が培養室に入り、実際に細胞を培養しながら実習を行います。まず、浅香先生がお手本を示しながら樹立や培養方法のコツを伝えます。そして、参加者が2人1組になって、代わる代わる4台のクリーンベンチに座り、マニュアルで手順を確認したり、隣の人と相談しながら、手を動かします。

この3日間にわたる実技トレーニングでは、iPS細胞の樹立、維持培養に必要な作業を一通り体験できます。参加者からは「iPS細胞特有の扱い方がわかった」「研究室に戻って自分で培養できそうだ」という感想が聞かれました。

注1: 疾患特異的iPS細胞:患者さんの細胞から作製されたiPS細胞。

 

中川誠人講師インタビュー

iPS細胞の作製方法を進化させる

記者に説明する中川誠人講師

初期化機構研究部門に属する中川誠人講師と山中伸弥教授の研究グループは、L-Mycという遺伝子を用いることにより、効率的に、より安全なiPS細胞を作製できることを見出し、7月に米国アカデミー紀要に論文(注1)を発表しました。この最新の研究成果について伺いました。

どのようなことに注目して研究を進めていたのですか?

iPS細胞は、最初、Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycの4つの遺伝子を、レトロウイルス・ベクターと呼ばれる遺伝子の運び屋を用いて、皮膚などの体細胞に導入し、培養する(注2)ことにより作製されました。しかし、この4遺伝子のうち、がん遺伝子として知られるc-Mycは、iPS細胞由来のキメラマウス(注3)の腫瘍形成の原因のひとつになることがわかりました。この問題を解決するために、c-Mycの代わりに、別の遺伝子を使うことを考えました。c-Mycは腫瘍形成を起こす一方で質の高いiPS細胞の樹立(注4)に貢献することがわかっていたので、まず似た働きを持つと考えられるc-Mycが属するMycファミリー(注5)に注目してiPS細胞の樹立を試みました。

「質が高いiPS細胞」とは、どのようなiPS細胞ですか?

iPS細胞のような多能性幹細胞の特徴としてどんな細胞にもなれるという特徴があります。ヒトiPS細胞の評価法のひとつに、免疫不全マウスに細胞を移植して奇形腫を作らせ、その中の組織を観察して様々な組織になることを確認する方法があります。またヒトiPS細胞ではできませんが、マウスiPS細胞では、キメラマウスを使った評価法もあります。そしてキメラマウスの子孫にiPS細胞に由来する個体ができるか否かを検討し、iPS細胞に由来する個体が生まれたら、これはiPS細胞が生殖細胞に分化できたということを示す証拠となります。このような生殖細胞にも分化でき、個体にまでなれるiPS細胞は質の高いiPS細胞と言えます。

c-Mycの代わりに、L-Mycを含む4つの遺伝子を導入し てヒトiPS細胞を作製したのですね。結果は、どのようにな りましたか?

L-Mycを用いても、ヒトiPS細胞が作製できました。しかも、作製効率はc-Mycを用いた場合よりも高かったです。また、同じようにL-Mycを用いる方法でマウスiPS細胞も樹立できます。そこで、L-Mycを用いて作製したiPS細胞からキメラマウスを作り、2年間観察したところ、腫瘍形成がほとんど起こらないことが分かりました。つまり、L-Mycを用いると、c-Mycを用いるよりも、作製効率がよく、安全性の高いiPS細胞ができるということだと考えています。

この研究成果は、どのような意味を持っているのですか?

現在、多くの研究者は、安全なiPS細胞を効率よく作製する方法を研究しています。将来の臨床応用を考えると、細胞移植には安全な細胞が、大量に必要になるからです。L-Mycを用いる方法は、安全なiPS細胞を効率よく作製できるので、臨床応用に向けて一歩前進したと言えます。

中川先生は、今後、どのような研究に取り組まれますか?

今回の研究で、c-MycをL-Mycに置き換えれば効率よく、安全で質の高いiPS細胞を誘導できる(注6)ことがわかりました。また、そのメカニズムを探るための実験も進めています。これまでに、L-Mycが細胞の分化を抑制することで効率よくiPS細胞を誘導できることもわかってきました。今後は、さらに研究を進め、何故L-Mycだと作製効率が改善し、腫瘍形成が減るのかを探っていきたいと思います。さらには、iPS細胞誘導のメカニズムを検討し、初期化の本質を明らかにしたいと思います。

注1: 米国アカデミー紀要 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America "Promotion of Direct Reprogramming by Transformation-deficient Myc" 「形質転換活性を欠損したMycによるリプログラミング促進効果」 Masato Nakagawa, Nanako Takizawa, Megumi Narita, Tomoko Ichisaka and Shinya Yamanaka
注2: 培養する:増殖させること。
注3: キメラマウス:二対以上の親に由来する2つ以上の胚またはその一部からできた個体をキメラという。この研究の場合は、iPS細胞をマウスの初期胚に導入してできたマウスのこと。
注4: 樹立する:作製すること。
注5: Mycファミリー(Mycのファミリー遺伝子):遺伝子ファミリーは、塩基配列の相同性が高い遺伝子群の総称。進化過程で重複してできた遺伝子と考えられている。Myc遺伝子は、核内DNAに結合して働く転写因子として知られ、がんを誘発する遺伝子のひとつで、ヒトでは、c-Myc の他にL-Myc,N-Mycが知られている。
注6: 誘導する:作製すること。

iPS細胞研究基金 2009年度収支報告

 

<2009年度収入報告(2010年3月31日現在)>

  件数 金額(円)
個人
法人
74
5
21,170,037
10,840,000
合計 79 32,010,037

*2010年3月31日現在、支出実績はありません。

2009年4月1日に京都大学が「iPS細胞研究基金」を創設しました。2009年4月1日から2010年3月31日までにいただいた寄附金の収支等について報告します。

<設置目的>

iPS細胞技術は、新しい薬の探索や治療法の開発に役立ちます。しかし実用化までには、数多くの課題を解決するための地道な研究を続けていく必要があります。そのため、国内外から優秀な研究者を集め、知的財産権(特許権)を取得・確保するとともに、研究を計画通りに推進するために安定した財政基盤が必要となります。「iPS細胞研究基金」は、多くの方々からのご寄附による支援体制を整え、研究所の安定的な運営を図ることを目的としています。

参考: 「iPS細胞研究基金」以外の寄附金として、2008年度および2009年度に、個人・法人合わせて10件、703,692,000円のご寄附をいただきました。主に基金が創設される以前にご寄附としていただいたものです。
備考: 2009年度以前のご寄附は、iPS細胞研究基金へのご寄附も含めて、iPS細胞研究所(2010年4月1日設立)の前身である物質-細胞統合システム拠点iPS細胞研究センターに贈られたものです。

研究棟エントランスホールのガラス壁に掲げられた寄附者のお名前

<寄附者の特典>

同意をいただいた寄附者のお名前をiPS細胞研究所エントランスホールに掲示します。

CiRAが発行するニュースレター(季刊)、概要パンフレット、「幹細胞ハンドブック」等の刊行物、主催イベントのご案内をお送りします。

<ご寄附のお申し込み方法>

ご寄附のお申し込みは、下記にご連絡をいただくか、ホームページ をご覧ください。

iPS細胞研究基金事務局

TEL(. 075)366-7000
FAX(. 075)366-7023
〒606-8507
京都市左京区聖護院川原町53

京都大学ホームペーシ

http://www.kikin.kyoto-u.ac.jp/univ.html

CiRAホームペーシ

http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/about/fund.html

お礼の言葉

 昨年度は、多くの方々に「iPS細胞研究基金」の趣 旨にご理解・ご賛同をいただき、多大なるご支援を賜り、 心より御礼申し上げます。 本年2月には、iPS細胞研究の加速化を図るため、新 研究棟(地上5階、地下1階)が竣工し、続いて4月、日本 のiPS細胞研究の中核研究拠点として、山中伸弥教授 を所長とするiPS細胞研究所(CiRA)が設立されました。 CiRAでは、この新組織・新施設のもとに、諸外国の 研究水準をはるかに凌駕する高水準の研究を推進す べく、研究活動に取り組んでおります。今後とも、みなさ ま の 一 層 の ご 支 援 を 賜 りま す よう 何 卒 よ ろしくお 願 い 申し上げます。

iPS細胞研究所(CiRA) 教職員一同

<税控除について>

iPS細胞研究基金へのご寄附に対しましては、所得税法、法人税法による税制上の優遇措置が受けられます。

(個人からのご寄附の場合)

2千円を超える部分について、当該年総所得金額等の40%を限度に、所得控除対象となります。別途お送りする「寄附金領収書」を添えて確定申告によりお手続きください。また、京都府、京都市在住の方は、住民税について、 5千円を超え総所得金額等の30%までの寄附金額に対して、府民税は税率4%、市民税は税率6%を乗じた額が控除されます。

(法人からのご寄附の場合)

寄附金の全額が損金算入できます。

 

 

ランドスケープ

新たな人工細胞の登場

iPS細胞が初めて世に報告された2006年以来、世界規模で急速に研究が進展していますが、一方で、新たな潮流をも形成しつつあります。

2008年、米国ハーバード大学のグループはマウスの体内で細胞を別の細胞に変化させることに成功しました(Nature 2008)。膵臓の外分泌細胞に3種類の遺伝子を導入し、血糖値をさげる「インスリン」を分泌するベータ細胞へ変化させたのてす。この技術は、将来、I型糖尿病の治療法につながるかもしれません。今年1月には、米国スタンフォード大学のグループが、マウスから取り出した線維芽細胞に3種類の遺伝子を導入することで、神経細胞に変化させた(Induced Neuronal Cel:l 人工神経細胞)と報告しました (Nature 2010)。さらに、8月には、米国グラッドスト-ン研究所のグループが、3種類の遺伝子を導入し、マウス線維芽細胞を心筋細胞に変化させました(Induced Cardiomyocyte:人工心筋細胞, Cell 2010)。

これら3つの人工細胞の作製に用いられた因子は、iPS細胞樹立に用いる4因子とは全て異なりますが、因子導入により体細胞の性質に変化を与える研 究コンセプトの 点てiPS細胞の影響を少なからず受けたとみられます。これらの新しい人工細胞は、臨床応用にはヒト細胞での更なる検証や細胞機能の徹底評価の必要があります。また、iPS細胞のように増殖できないなどの課題がありますが、因子導入で細胞の運命か大きく変化しうるという事実は、驚きを禁じえません。今後も、新たな人工細胞が生まれるでしょう。

CiRAで働く人々

多岐にわたる仕事を補助し、研究者を支える秘書

村山千里さん

今回は研究者の秘書の仕事を紹介します。山下潤准教授(再生医科学研究所兼務)の秘書、 村山千里さんにお話を伺いました。

理系研究室には、実験室とは別に研究室のメンバーがデスクワークを行うオフィスがあります。山下研究室のオフィスで、村山さんは電話対応から研究費の申請書類作成補助や研究室の予算管理サポートまで、多岐にわたる仕事をこなします。留学生受け入れ時には、住居探しや銀行口座開設も手伝います。

主任研究者は実験室にこもって研究だけをしていると思われがちですが、研究室を持つ研究者となると想像以上に事務的業務があります。「まるで会社経営者のよう!」と村山さんは言います。予算の申請、実験設備の整備、研究員や技術員の採用、学生への技術指導など、研究室を運営するために人・物・研究資金を管理せねばなりません。「山下先生が事務的な仕事に追われていては研究が進みません。先生が研究に集中出来るようサポートするのが秘書の仕事。依頼された 事をどうすれば実現できるかを考え、主体的に業務を進めることが必要だと思います」と村山さん。

山下研のホームページ更新も彼女の仕事です。一般の人にも楽しんでもらえるように心がけているそうで、ニュースブログでは、学 会での研究室メンバーの活躍から研究棟横の巨木に住むトンビ親子の様子まで、研究室の日常がうかがえます。「最先端の研究現場で、色々なバックグラウンドの人達と一緒に仕事が出来るのが楽しいし、iPS細胞という夢のような技術を使った研究が進んでいくのをそばで見られるのはワクワクする」と、村山さんは語ってくれました。

iPS細胞 何でもQ&A

iPS細胞について、いろいろな疑問に回答するコーナーです。みなさまからのご質問をお待ちしています。質問の送り先は、P.8の「発行」をご覧ください。

ヒトiPS細胞から作製されたドーパミン 産生神経細胞(患者さん由来ではあ りません)(提供:京大 森実飛鳥研究員)

疾患特異的iPS細胞とは何ですか?

病気の症状がみられる患者さんの皮膚などの細胞から作ったiPS細胞のことを、疾患特異的iPS細胞と呼んでいます。iPS細胞は、受精卵と同じ様な状態に人為的に変化させた細胞です。そのため、このiPS細胞は患者さんの病気の症状が発生する前の段階にある、いわば病気になる可能性を秘めた細胞と考えられます。そこで、この疾患特異的iPS細胞からその患者さんの病気の症状が見られる組織の細胞を作りだし、その症状を細胞レベルで再現できれば、その病気の原因解明や進行を防ぐ薬の探索、治療に用いる薬の開発に利用できると考えられています。特に遺伝的要因の高い病気の研究に有効に利用できるのではないかと期待されています。

iPS細胞研究の進展のために自らの細胞を提供したいのですが、どういった手続きが必要でしょうか?

京都大学では、患者さんや一般の方からの申し出による細胞提供は、基本的に受け付けておりません。細胞提供を受ける際には、研究者が患者さんにお願いし、インフォームドコンセント(注)を得た上でその患者さんの細胞を提供して頂
き、疾患特異的iPS細胞の樹立や病気の研究を進めています。研究者から患者さんに依頼して研究を進める理由は、その病気の典型的な症状であることや、年齢、性別などの条件を加味して研究への適正を検討し、研究を効率よく確実に進めるためです。現在、多くの方々から細胞提供のお申し出のご連絡を頂いていますが、お気持ちだけをありがたく頂
戴しているという状況です。皆さまのご厚意に報いられるよう精一杯研究を進めてまいります。

(注) インフォームドコンセント:説明と理解。この場合は、細胞提供に関する十分な説明をすることと患者さんが細胞の利用方法などを理解した上での同意すること。

iPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞から体内の全ての細胞を作ることができると聞きましたが、どのくらい自由自在に作れるのですか?

茶色のマウスからつくったiPS細胞を 白いマウスの受精卵に注入して作製し たキメラマウス(提供:京大 中川誠人講師)

マウスのiPS細胞やES細胞(胚性幹細胞)など多能性幹細胞を、初期段階のマウスの受精卵に導入すると、個体レベルでiPS/ES細胞ともともとの受精卵由来の細胞が混ざったキメラマウス(P.4の注3参照)が生まれます。このような結果から、多能性幹細胞は体内の全ての細胞に分化できる力を持っていると考えられています

しかし、技術的な問題があるため、体外のシャーレ(培養皿)の中で、iPS/ES細胞からすべての体の細胞を自由自在に作り出せるわけではありません。目的の細胞に分化させる技術が確立されると、疾患特異的iPS細胞を用いて病態モデルを体外で再現することが容易になります。

CiRAでは、増殖分化機構研究部門(部門長:戸口田淳也副所長)を中心に、iPS細胞やES細胞から様々な組織(筋肉・骨・心筋・血管・神経細胞など)の細胞に分化させる研究に取り組んでいます。