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Interview

高須直子室長インタビュー

米国初のiPS細胞特許が成立!

山中伸弥所長の研究グループが世界で初めて樹立したiPS細胞について、その基本技術に関する特許が、ついに米国で1件成立しました。CiRA知財契約管理室の高須直子室長に米国特許について聞きました。

米国成立特許の範囲

今回成立した特許の内容はどのようなものですか?

高須: iPS細胞は、いくつかの遺伝子を体の細胞に導入することにより作製されますが、山中教授のグループは、最初、Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Mycという4つの遺伝子を使ってiPS細胞を樹立しました。今回、米国で成立した特許は、Octという遺伝子群 (ファミリー)、Klfファミリー、Mycファミリーを含む遺伝子を使ってiPS細胞を作る行為までもが権利範囲になっています(図①)。加えて、Octファミリー、Klfファミリー、そしてサイトカインというタンパク質を使ってiPS細胞を作る行為も含まれます。(図②)これは、5月に欧州で成立したiPS細胞の基本技術特許と同様に、広い権利範囲をカバーしています。

特許取得が、iPS細胞技術の実用化にどのように役立つのですか?

高須: 企業は、研究や製品開発のために、ある特許技術を利用するためにライセンス料を支払います。もし特定の企業が重要な特許を独占し、高額なライセンス料を設定すると、その他の企業がその特許技術を使うことを断念したり、躊躇するかもしれません。京大は、適切なライセンス料を設定し、iPS細胞技術が幅広い企業で使用されることを望んでいます。ですから、私たちが多くの重要な技術に関する特許を確保することが大切だと考えています。

今後の特許戦略は、どのようなものですか?

高須:  米国は世界最大規模の医薬品市場で、iPS細胞技術を活用したビジネスを目指す有力なベンチャー企業がしのぎを削っています。そのような国で基本特許を取得することは京都大学にとって大きな目標でした。
しかし、まだまだやることはたくさんあります。例えば、今回米国で認められた特許権の範囲は万全ではないため、さらに広い範囲の特許を成立させるべく、検討を行っています。それに、今回は初期化技術に関するものですが、iPS細胞から神経や心臓の筋肉などの体の細胞に分化させる方法や治療法に関する特許権を取得することも、iPS細胞の実用化に重要です。 

 

表紙写真は知財契約管理室のメンバーです。高須室長(前列右)を中心に特許出願・取得や共同研究などの契約業務を担当しています。

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Introduction

新主任研究者からのメッセージ

新しく着任した 主任研究者を紹介します

7月から10月にかけて4人の若手の主任研究者がiPS細胞研究所に加わりました。基礎から応用までそれぞれ異なる角度から、いち早く患者さんのもとへ新しい治療法や薬をとどけるべく、iPS細胞研究に取り組みます。

Hirohide_Saito

初期化機構研究部門 齊藤 博英 特任准教授

私は工学部出身で異分野からの参画ですが、分子設計したRNAやタンパク質を活用した遺伝子発現制御技術とiPS細胞を融合させることで、安全性の高い、精密•自律的なiPS細胞から標的細胞への分化誘導技術などの開発を目指しています。CiRAの恵まれた研究環境を最大限に生かして頑張りたいと思います。

Masui

初期化機構研究部門  升井 伸治 講師

これまで転写因子に注目して、特定の細胞で働く遺伝子セットを決める方法を開発してきました。CiRAでは、これまでに蓄積した転写因子の「セット」を使い、様々な分化細胞を高品質で効率よく作出する方法の開発につなげるとともに多くの研究と組み合わせてiPS細胞の実用化につなげます。

Ikeya

増殖分化機構研究部門 
池谷 真 准教授

これまで発生生物学の分野でマウスなどの実験動物を使って骨軟骨や腎臓発生のメカニズムに迫ろうとして研究を行ってきました。CiRAでは、ヒトiPS細胞を用いて間葉系組織で発症する疾患について、特に、難治性骨軟骨疾患の疾患特異的iPS細胞を用いて病態解明と創薬を目指して研究を進めていきます。

JunSaito

臨床応用研究部門 
齋藤 潤 講師

小児期に発症する難治性疾患はまだまだ原因や治療法が不明のものが多く、一生にわたって苦しみが続くこともあります。このような難病の診断・治療法の開発にiPS細胞を用い、革新的な成果につなげたいと考えています。この研究が多くの患者さんの笑顔につながるよう、全力で励みたいと思います。

 

 

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Symposium

一般向けシンポジウム

CiRAシンポジウム2011 iPS細胞 科学者たちの挑戦

7月23日の午後、神戸市内で一般の方対象のシンポジウムを開催しました。よく晴れた暑い日にも関わらず、会場の座席がほぼ満席となる325名が参加しました。

Kobe_Symposium

Yamanaka

山中伸弥 教授

Eto

江藤浩之 教授

Takahashi

髙橋政代 チームリーダー

第1部では、CiRA所長の山中伸弥教授が講演し、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を病気の原因解明や、薬の探索ツールとして利用する方法について例を挙げて説明しました。例えば、新しい薬を開発する際の副作用(心毒性)の検査に患者さん由来のiPS細胞から作った心筋細胞を用いることが期待されていて、すでに心筋細胞が販売されている例などを紹介しました。さらに、将来の応用を目指すiPS細胞を用いた細胞移植治療(再生医療)のために、多くの人に移植可能である特殊なHLA型の人の細胞から作るiPS細胞バンクの整備について紹介しました。

次の講演者は、7月にCiRAに加わった江藤浩之教授です。教授は、iPS細胞を用いた血液疾患の治療を目指した研究を進めています。白血病や再生不良性貧血などの病気の治療では、健康な人から骨髄を移植し、正常な造血幹細胞に置き換える治療が行われます。iPS細胞やES細胞(胚性幹細胞)から造血幹細胞を作ることはまだ技術的に難しいとのことですが、応用の可能性や、ヒトiPS細胞から血小板や赤血球の作製に成功していることを紹介しました。

最後は、地元の神戸にある理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの網膜再生医療研究チームの髙橋政代チームリーダーが講演しました。講演の中では、取り組んでいる研究がどのタイプの網膜疾患の治療に適応でき、どの程度の効果を期待できるかといった現実に即した見通しや、iPS細胞から網膜細胞を作る研究の現状と臨床研究の道筋について説明しました。

第2部は、質疑応答のコーナーでした。司会進行の関根友実さんが、シンポジウム参加申込時に寄せられた質問を、講師に聞くとともに、参加者から質問を受け付けました。iPS細胞の安全性やがん化の心配に関する質問に対して、山中教授は、「どうやって臨床に使えるiPS細胞をつくるか究明することが我々の役目であり、多くの力を費やしている。しかし、どこまで安全性を高めれば臨床に使えるかという判断は、リスクとベネフィットの捉え方や、患者さんや規制当局の考え方などに委ねる側面もあり、科学的根拠を示すだけでは答えが出せない非常に難しい問題と考えている」という認識を示しました。

今回もインターネットで第1部の講演の生中継を行い、CiRAホームページにも掲載しています。尚、このシンポジウムは、内閣府「最先端研究開発支援プログラム」の支援を受けて開催されました。

Column

中学生向け実験体験プログラム
「同じ?違う?細胞を観てみよう!」
を開催しました

京都市教育委員会が主催する 「未来のサイエンティスト養成事業」の一部として、8月5日に中学生向け実験体験プログラムをCiRAの齋藤潤講師と丹羽明研究員の指導のもとに開催しました。京都市青少年科学センターに集まった28名の参加者は、講師の血液に含まれる赤血球や白血球を染色し、臍帯血やiPS細胞から分化させた赤血球と共に顕微鏡で観察し、「観察し比較する」という研究の基本を体験しました。その後、CiRA研究棟へ移動し、iPS細胞についてのレクチャーを受け、研究エリアを見学し、研究者の日常を肌で感じていました。参加者のみなさま、お疲れ様でした!

 

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Column

From CiRA

  件数 寄附入金額
個人 140 146,500,825円
法人・団体 11 17,500,000円
収入合計 151 164,000,825円

用途 支出金額
通信費 19,550円
消耗品、他 359,736円
支出合計 379,286円

2010年度末残高 195,631,576円

参考:「iPS細胞研究基金」以外に2008年度から2010年度までに、個人・法人併せて11件、803,692,000円のご寄附をいただきました。主に、基金が創設される以前にご寄附としていただいたものです。これまでに、人件費、消耗品費、研究機器の購入費等として、145,922,793円を支出しています。

 

iPS細胞研究基金の収支報告

CiRAが設立されて以来、多くの方々からご支援をいただいており、心から感謝を申し上げます。大変遅くなりましたが、2010年度(2010年4月1日-2011年3月31日)に京都大学iPS細胞研究基金にいただきましたご寄附の収支を報告致します。

所長からのお礼の言葉

これまでiPS細胞研究支援のために、多くの皆さまから多大なご寄附をいただき、心より御礼申し上げます。
CiRAは、研究費などの公的資金を財源として運営されています。公的資金は、年度毎に変動があり、研究プロジェクトの終了時点で、研究費の配分も終了します。本年9月末時点で、2013年度まではある程度の研究費を確保しておりますが、それ以降の財源は約束されておりません。私たち研究者は、研究活動を続けるために、引き続き公的資金の獲得に努めてまいります。それと同時に、優秀な研究者や研究支援者の雇用や、知的財産の取得・維持、必要な研究機器等の購入のために、みなさまに更なるご支援を賜りますようお願い申し上げます。

山中 伸弥

Cells

Column

CiRAで働く人々

研究支援を統括する副所長

今回は、CiRAの林秀也副所長にお話を伺いました。

Hayashi

林さんは京大出身の薬学博士です。2008年8月にCiRAへ着任する前は、製薬企業で医薬品の研究開発や研究所運営に従事していました。当時、山中伸弥所長と知財のことや化合物スクリーニングのことでお話する機会があったそうです。現在は、前職の経験を活かし、副所長として研究者の支援業務を統括しています。仕事は、運営資金や教員ポストの確保、文部科学省iPS細胞等研究ネットワーク運営委員会事務局業務、大学の会議への出席など、多岐にわたります。

研究所立ち上げに取り組む

2007年の山中所長グループによるヒトiPS細胞作製成功の報告から2ヵ月後、京大は物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)にiPS細胞研究センターを設置し、2010年4月には改組され、iPS細胞研究所となりました。林さんは、その立ち上げ時期から、研究所運営の礎構築に大きく貢献してきました。現在では国や大学からの支援を受けて、研究棟や設備が整備され、本格的に研究所が稼働しています。「今後は、研究所の運営経費を安定的に確保し、研究者、研究支援者が安心して研究に集中できる環境を整備し、世界をリードするiPS細胞研究拠点とすることが目標です」と林さんは話します。

仕事のモチベーションの源

相談をする時間を確保するのもままならない多忙な山中所長の思いをいかにくみ取り、課題解決に向けて情報を集約し、具体案を提示するかを大切な課題の一つとして挙げています。「なかなか所長から合格点はもらえません」と林さん。

コミュニケーションの難しさと重要性を痛感する毎日の中で、「今までに培った人脈や経験を活かして、役に立てたと実感する時と、研究者に接しながら、iPS細胞研究の最新情報を知り得る環境にいられる事は刺激的で何事にも代えがたく、忙しい業務を続けるモチベーションになっている」と語ってくれました。

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News

CiRAアップデート

9/28

京大物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)の「JSTサイエンス・パートナーシップ・プロジェクト」に協力し、京都府立洛西高等学校の生徒に「仮説をたて、観察し、発表しよう!」という実験教室を開催しました。

9/14-16

平成23年度第4回ヒトiPS細胞樹立・維持培養実技トレーニングを開催しました。沖田圭介講師と山中伸弥教授らの研究グループが4月4日に「Nature Methods(オンライン)」で発表した、エピソーマルベクターを用いたヒトiPS細胞樹立方法の研修を行いました。

9/6

中村友紀研究員(山中教授及び中川誠人講師の研究グループ)は、ES細胞や初期胚などの未分化な細胞で高発現する遺伝子群ECATsの中の、ECAT15-1/Dppa4とECAT15-2/Dppa2に着目し、これらの遺伝子の機能解析を行いました。本論文は9月6日に米国科学誌「Molecular and Cellular Biology」にオンラインで先行掲載されました。

9/5

平成23年度第1回ヒトiPS細胞樹立・維持培養および応用技術講習会を開催しました。

9/2

京大東京オフィスで、一般の方対象の「品川セミナー」が開催され、約70人が参加しました。江藤浩之教授が、iPS細胞の基本や自身のテーマである血液に関する研究について講演しました。(6ページ)

8/5

京都市教育委員会主催の「未来のサイエンティスト養成事業」の一部として、CiRAは中学生向け実験体験プログラム「同じ?違う?細胞を観てみよう!」を開催しました。(7ページ)

 

 

8/5

山中伸弥教授の研究グループが世界で初めて樹立したiPS細胞の基本技術に関する米国特許(出願番号12/086,479)が成立しました。 (2,3ページ)

7/27-29

平成23年度第三回ヒトiPS細胞樹立・維持培養実技トレーニングを開催しました。エピソーマルベクターを用いたヒトiPS細胞樹立方法の研修を行いました。

7/27

丹羽明研究員(中畑龍俊教授/副所長の研究グループ)は、平家俊男教授(京大大学院医学研究科発達小児科学)らとの共同研究で、ヒトES細胞およびiPS細胞から、動物由来の要素を含まない無血清培地で高効率かつ再現性よく中胚葉前駆細胞を経て造血細胞を産生する新たな培養法を樹立しました。本論文は米国科学誌「PLoS ONE」7月27日号に掲載されました。

7/23

一般の方対象のシンポジウム 「iPS細胞 科学者たちの挑戦」を神戸市で開催しました。(6,7ページ)

7/11

山中教授の研究グループが世界で初めて樹立したiPS細胞の基本技術に関する欧州特許(出願番号06834636.0)が成立しました。

7/1

7月1日付で、新主任研究者として、池谷真前京都大学再生医科学研究所研究員がCiRA准教授に、齋藤潤前CiRA助教が講師に就任しました。(4,5ページ)

Editorial info

発行・編集

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