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New Research

iPS細胞から血小板を効率よく作製

iPS細胞から血小板をより効率よく作製

臨床応用研究部門の江藤浩之教授の研究室に所属する中村壮研究員らによる研究要旨(注1)が第53回米国血液学会年次大会で高く評価され、上位6演題のみが発表するプレナリーセッションの発表者に選ばれました。江藤教授に研究成果についてお話を伺いました。

iPS細胞から血小板へ

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今回はどのような研究を行ったのですか?

私たちのグループは、既にヒトのiPS細胞から血小板を作製することに成功していました(図)が、得られる血小板の数が限られているという課題がありました。今回の研究ではc-MycとBMI1という2つの遺伝子を働かせることによって、ほぼ無限に増殖することのできる不死化巨核球株を得ることができたのが大きな成果です。この細胞株は増殖を維持できるので、増やした段階で大量に凍結保存することが可能で、必要な時に解凍し、血小板を産生することのできる巨核球へと成熟させることもできます。遺伝子発現を止める操作を加えて成熟するための約3週間程度の培養で、血小板製剤1パック分の血小板を得ることができるようになりました。

なぜ、血小板に注目したのですか?

臨床応用を考えた際、iPS細胞がもつがん化の危険性は乗り越えなくてはならない課題です。その点、血小板には核がありません。核がなければ細胞は増殖することができませんので、がん化を心配する必要はありません。また、核がない血小板は放射線を照射することで、混入してしまった血小板以外の細胞を殺すこともできます。医療応用に向いていると考えたのです。

また、血小板は他の血液細胞と異なり、凍結や冷凍保存ができないため、献血でいただいた場合も数日間で廃棄する必要があります。そのため、血液バンクではバランスよく各地に供給することが難しい状況です。iPS細胞による血小板の産生システムを確立したら、血液バンクの供給を補う形で役立てることができるのではと考えています。

どういった病気の方を想定しているのでしょうか?

まずは繰り返し輸血の必要な再生不良性貧血や白血病の患者さんを想定しています。HLAという細胞の型が合わない血小板を繰り返し輸血し続けると、一部の患者さんで血小板に対する抗体ができてしまい、輸血された血小板があっという間に分解されるという現象が知られています。私たちは多くの方とHLA型が適合する特殊なHLA型をもつ人から細胞を頂き、不死化した巨核球を作製してストックしておけば、必要に応じて培養し、血小板を安定して得られようになるのではと期待しています。

今後はどのように研究を展開されるのでしょうか?

実は、生体内では1つの巨核球から2000個ほどの血小板が産生されると言われています。しかし、私たちを含め他の研究グループも、細胞培養によって血小板を産生する場合には、せいぜい数十個しかできません。何か、血小板を作り出すために必要な環境、因子があるはずです。その分子メカニズムを解明して、より効率よく、安定的に血小板を供給することを可能にできるよう取り組んでいきたいと思っています。

 

Glossary

注1: "Platelet Production System Using an Immortalized Megakaryocyte Cell Line Derived From Human Pluripotent Stem Cells"

Sou Nakamura1, Naoya Takayama, M.D., Ph.D.1, Hiromitsu Nakauchi, M.D., Ph.D.2 and Koji Eto, M.D., Ph.D.1

1: Department of Clinical Application, Center for iPS Cell Research and Application (CiRA), Kyoto University, Kyoto, Japan

2: Division of Stem Cell Therapy, Center for Stem Cell Biology and Regenerative Medicine, The Institute of Medical Science, The University of Tokyo, Tokyo, Japan

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Feature article

iPS細胞臨床開発部

iPS細胞臨床開発部が京大病院に設置されました

昨年12月1日に、京都大学医学部附属病院(京大病院)にiPS細胞臨床開発部が設置されました。

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iPS細胞臨床開発部の設置発表会見

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新しくできたホームページ

初期化機構研究部門 齊藤 博英 特任准教授

CiRAと京大病院の多数の医師や研究者が協力して、より効率的に患者さんの体の細胞からiPS細胞を作り、未だ治療法が発見されていない病気の原因を探り、有効な薬剤や治療法の研究開発を進めることを目的としています。部長には、平家俊男教授(京大医学研究科発生発達医学講座発達小児科学)が就任しました。

iPS細胞臨床開発部は、「iPS細胞外来」と「品質管理技術開発室」の2部門から構成されます。当面は、「iPS細胞外来」のみが稼働します。

「iPS細胞外来」では、京大病院の医師が依頼して、iPS細胞作製にご協力頂ける患者さんに、iPS細胞研究について説明し、同意書をいただいた後、組織採取を行います。主治医ではない医師が説明しますので、患者さんにとっては、より冷静に細胞提供について考え、判断することができると考えられます。将来、再生医療用iPS細胞バンクに活用するために、健常な方の細胞を採取し、iPS細胞を作製する際の窓口にもなります。なお、患者さんや一般の方が直接iPS細胞外来を予約することはできません。

患者さんの皮膚細胞などの体細胞から作られたiPS細胞は、さらに患部の細胞に分化させ、それを用いて病気の原因を探ったり、新しい薬剤候補物質を見つけることを目指した研究を行います。

現在準備中の「品質管理技術開発室」では、主にiPS細胞を作製する組織をご提供いただく方々の「HLA型」を調べる検査を行う予定です。HLA(human leukocyte antigen=ヒト白血球抗原)は、組織適合抗原とも言われる白血球の血液型です。細胞移植では、HLA型が一致する組織を移植すると、免疫拒絶反応を抑制することができます。

今後、CiRAでは多くの人々のHLAと一致する特殊なHLA型を持つドナーからiPS細胞を作り、再生医療用iPS細胞バンクを構築する予定です。そのようなドナーを見つけるために現在、募集方法等を検討しています。

山中伸弥iPS細胞研究所長は、「これまで病院と協力して、患者さんの体の細胞からiPS細胞を作り、さまざまな疾患の研究を行ってきました。このiPS細胞臨床開発部ができることによって、研究のスピードアップをはかることが期待できます」と話しています。

患者さんが直接iPS細胞外来を予約することはできません。まずは主治医にご相談ください。

患者さんからの細胞提供について

細胞提供にご協力いただける場合は、受診されておられる京大病院診療科の担当医師に、その旨をお伝えください。

京大病院を受診されていない方は、まず主治医にご相談ください。主治医の先生から京大病院の該当診療科の医師に、コンタクトを取っていただきます。次いで、あらかじめ京大病院の該当診療科の先生に作製の有無を決める前段階としての診療ということを、患者さんにご了解いただき、その上で、京大病院で受診していただき、該当診療科の担当医を通して、細胞提供のご希望をお申し出いただきます。ただし、ご希望いただきました患者さんの臨床情報を勘案して、担当医/研究者が判断した上で、細胞提供を患者さんにお願いするかどうかを決めます。また、細胞提供をご希望いただいた場合でも、細胞採取やiPS細胞作製に携わるスタッフや設備の制約のために、希望された全ての患者さんにご協力いただいているわけではございませんので、ご了承ください。

 

 

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Outreach activities

CiRAカフェFIRSTへようこそ

トーク&ミュージックCiRAカフェFIRSTへようこそ

コーヒーや紅茶を片手にリラックスした雰囲気で最新のiPS細胞研究について語り合い、共に考えることのできるCiRAカフェFIRSTを始めました。

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第2回講師の山本助教

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第2回で歌声を披露する総務の福田さん

「サイエンス・カフェ」という言葉を聞いたことがありますか?最近、日本のあちこちで行われていますが、科学トピックをテーマにして、科学に興味のある人々が、研究者とお茶を飲みながら、比較的少人数で話し合うイベントです。CiRAでも、iPS細胞研究へのご理解をいただくために、研究所のエントランスホールで、10月から月1回のペースでCiRAカフェFIRSTを開催しています。

iPS細胞研究の最前線で働いている気鋭の若手CiRA研究者が講師になり、それぞれの研究活動をわかりやすく紹介します。参加者は一般の方30人ほどで、討論やグループワークを行っていただきます。「カフェ」ですので、講師も参加者もコーヒーや紅茶を飲んだり、お菓子を食べたりと、カジュアルな雰囲気で進められます。

10月21日の第1回目のCiRAカフェFIRSTでは、中川誠人講師が「話してみよう iPS細胞」というテーマで話題を提供し、参加者がグループに分かれて、iPS細胞のイメージや将来像を議論し、模造紙にまとめて発表しました。

11月18日開催の第2回目では、「iPS細胞を解読せよ!最先端の次世代シーケンサーを用いた謎解き」というタイトルで、山本拓也助教がiPS細胞のゲノム(遺伝子情報)解析や最新の遺伝子解析機器(次世代シーケンサー)について説明しました。参加者は、今回もグループに分かれて、塩基配列の変化をクイズ形式で考えたりしました。

このイベントの最初の30分間は、CiRA職員の仲間によるバンドの演奏を行ってきました。飲み物を飲みながら、音楽を聞いて、おしゃべりして、参加者の方々にはリラックスしていただければと思っています。将来は、音楽だけでなく、いろいろなパフォーマンスもあるかもしれませんよ!皆さまのご参加をお待ちしています。開催情報は、CiRAホームページをご覧ください。

CiRAカフェFIRSTは内閣府「最先端研究開発支援プログラム(FIRST Program)」によって支援されています。

高校生向け実験教室

「iCeMS/CiRAクラスルーム2011ザ・
リアル研究!まずは観察から」を開催しました

CiRAと物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)が共同して開催する高校生向けの実験教室を11月5日、6日に開催しました。CiRAでは増殖分化機構研究部門の長船健二研究室に所属する小高真希研究員と安田勝太郎さん(博士課程大学院生/医師)が講師となり、参加した高校生はiPS細胞やiPS細胞から作られた肝細胞などを顕微鏡で観察しました。iCeMSでは、京都造形芸術大学と協力し、音楽を取り入れるなどしたユニークな観察学習が行われました。2日間合計で約90名の高校生が参加し、「先入観を捨てて観察することを覚えました」「研究者になりたくなりました」などの感想が出ていました。

 

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Around the World

ランドスケープ

米国特許2件目が成立!

 昨年11月15日付けで、山中伸弥iPS細胞研究所長らのグループによって開発されたiPS細胞技術に基づく特許が米国で登録されました。

この特許は、皮膚細胞などの体細胞に4つの遺伝子(Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc)をレトロウイルス・ベクター(運び屋)で導入してiPS細胞を作る方法に関するものです。これは、昨年8月に成立したiPS細胞の初期化因子に関する特許に続き、米国で成立した京都大学の2件目の特許となります。

新たに成立した特許の権利範囲は、特許法の規定により、上記の方法で作製されたiPS細胞の販売やそれを用いた分化誘導にもおよびます。

このiPS細胞作製方法は、病気の原因の解明や薬剤の探索目的の研究では、現在でもよく使われている方法ですので、この特許成立により米国でこのような研究を促進するものと考えられます。

2011年12月1日現在、山中所長らのグループが開発したiPS細胞基本技術に関する特許は、日本では3件成立しています。海外では、米国に加えて、欧州、ユーラシア、南アフリカ、シンガポール、ニュージーランド、イスラエル、メキシコ、香港で成立しています。

米国Geron社がES細胞事業から撤退

米国ベンチャー企業のGeron社がヒトES(胚性幹)細胞由来の神経細胞を使った脊髄損傷治療の臨床試験を始めたのは、2010年10月のことでした。ところが、昨年11月に、突然、この事業から撤退すると発表しました。その理由として、Geron社は資金難と世界を取り巻く不透明な経済状況を挙げています。

同社のプレスリリースによると、ES細胞の臨床試験については順調に進行中であり、現在ES細胞事業に出資する後継者を募っているとのことです。

企業の場合、このように経営状態によってプロジェクトの推進が左右されることがありますが、CiRAが将来計画するiPS細胞技術の臨床応用に向けては、国の支援を受け、着実に進めたいと考えています。

山中 伸弥

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CiRA Members

CiRAで働く人々

iPS細胞ができるメカニズムの解明を目指す研究員

Sone-san

山本拓也助教のもとで研究に取り組む曽根正光さん

曽根正光さんは、子供の頃から生き物を観察するのが好きで、和歌山の祖父母の家に遊びに行っては、海中の生き物をずっと見ているような子供だったそうです。中学時代は、ジュラシック・パークなどのSF小説を好んで読み、登場人物の科学者に憧れて、研究者を志すようになりました。研究者を目指す人の多い環境に身を置きたいと考え、京都大学理学部に進学し、生物学を専攻しました。

CiRAに所属する前は、理化学研究所でノンコーディングRNAの研究に取り組んでいました。曽根さんは、「結局、そのRNAの働きを解明することは出来なかった。心残りで、なんか失恋した初恋の人みたいですね」と話します。

順調に研究者の道を歩んで来たように見える曽根さんも、大学院生の頃、どんな実験をやってもうまくいかずに行き詰まってしまい、自分は研究に向いていないのではないかと悩んだこともあったと当時を振り返ります。記者など、科学を伝える仕事に就くことも考えましたが、自分を掘り下げて考えてみたところ、改めて「研究がしたい」いう思いに気付き、研究者の道を選んだと言います。一番やりたい事をやって、あかんかったらその時考えようと思いました。迷いながら10年程研究を続けてきた今、当時抱えていた不安も払拭され、成長を実感する瞬間があります。うまくいくか不安で研究の道に進もうか迷っている学生がいたら、まずは一番やりたい事に挑戦することを勧めたいと話してくれました。

iPS細胞が出来る仕組みについてはまだ不明な点が多く、曽根さんは、その鍵となる遺伝子を探索しています。「新しい候補遺伝子が見つかった時に、それが細胞の中でどのような働きをしているのかを想像することが楽しいです。あと、新しい実験系を思いついて、他の研究者が未だ知らない重要な遺伝子を発見できるんじゃないかと考えてる時はわくわくします」とハードな研究を続ける中での喜びについても語ってくれました。

新しい実験系を思いついて、他の研究者が知らない重要な遺伝子を発見できるのではと考えるときはワクワクします。

 

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News

CiRAアップデート

12/16

第3回CiRAカフェFIRSTを開催しました。ギター演奏の後、臨床応用研究部門の櫻井英俊講師が、iPS細胞にできること、できないこと、その現状を解説しました。iPS細胞を用いた筋ジストロフィーの治療法開発に挑む取り組みについての紹介もありました。

12/12

臨床応用研究部門の江藤浩之教授らの研究グループの研究要旨が、第53回米国血液学会年次大会のトップ6演題に選ばれ、高山直也助教が日本時間12月12日に、サンディエゴで学会発表しました。(2-3ページ)

12/1

京大病院は、CiRAと共同で、iPS細胞臨床開発部を設置しました。

11/24

米国において京都大学のiPS細胞技術に関する特許の2件目が成立し、記者発表しました。

11/18

 第2回CiRAカフェFIRSTを開催しました。

11/17

京都大学医学部芝蘭会館で研究従事者対象のミニシンポジウムを開催しました。基礎研究ならびに前臨床、臨床研究を推進する体制を強化するために新たに就任した5名の主任研究者が、最新の研究状況を発表しました。

11/16-18

平成23年度第5回ヒトiPS細胞樹立・維持培養実技トレーニングを開催しました。

11/5-6

高校生向け実験教室「iCeMS/CiRAクラスルーム2011:ザ・リアル研究!まずは観察から」を開催しました。

10/29

皇太子殿下がCiRAをご訪問され、山中伸弥所長の案内により研究棟をご視察、若手研究者とご懇談されました。(左下写真)

10/27

文部科学省と厚生労働省が連携して実施する「再生医療の実現化ハイウェイ」プロジェクトに、増殖分化機構研究部門の高橋淳准教授が代表研究者を務める研究課題「パーキンソン病に対する幹細胞移植治療の実現化」が採択されました。

10/25

井上治久准教授の研究グループの八幡直樹研究員らは、岩田修永教授(長崎大学)らとの共同研究で、ヒトiPS細胞から、大脳皮質神経細胞を分化誘導し、アルツハイマー病の原因物質と考えられているアミロイドβペプチド(Aβ)を検出するシステムを確立し、さらにAβ産生を抑制する薬剤の反応性を解析しました。本論文は米国科学誌 PLoS ONE 6巻9号:e25788 (2011年9月発行)に掲載されました。

10/21

 第1回CiRAカフェFIRSTを開催しました。

10/1

 10月1日付けで、森澤眞輔元京都大学大学院工学研究科教授が所長補佐/特定拠点教授に、升井伸治前国立国際医療研究センター研究所室長が主任研究者/特定講師に就任しました。

9/21

規制科学部門の木村貴文教授、青井貴之教授と藤原沙都姫研究員が中心になり、一日も早い再生医療用iPS細胞バンクの構築に向けて規制的課題を克服するため、医薬品医療機器総合機構(PMDA)と共同の薬事戦略相談における対面助言を開始し、第1回目が9月21日に東京で行われました。

9/16

沖田圭介講師と山中教授らによる、iPS細胞に対する免疫拒絶の研究結果に対する見解が、米国科学誌 Circulation Researchの9月16日号に掲載されました。

Editorial info

発行・編集

京都大学iPS細胞研究所
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制作協力

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デザイン・撮影

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印刷

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