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Feature article

山中伸弥所長のメッセージ

CiRA 設立から3年目を迎えて
-目標に向かって前進

iPS細胞研究所(CiRA =サイラ)が設立されてから3年目を迎えました。国からのご支援や多くの方々のご厚意に支えられ、研究活動も順調に進んでおります。当初、120名程度だった教職員の数も、今では200名を超えました。
2007年にヒトの皮膚細胞に4つの遺伝子を導入したiPS 細胞(人工多能性幹細胞)の作製成功を報告して以来、国内外の研究者の努力により、創薬や再生医療(移植治療)に向けた技術開発が急速に進んでいます。
2010年4月の研究所発足時に、私たちは10 年間で達成する4つの目標をかかげました。この2年間で、基盤技術の確立へ向けた研究が大いに進み、知的財産についても、昨年、欧州と米国でも基本技術特許を取得し、1つ目の目標はかなりの部分を達成できました。
本年度は、2 つ目の目標である再生医療に使用可能なiPS細胞作りに注力します。そのために、4月から、私自身がCiRA 内に設置された細胞調製施設FiT(Facility for iPS Cell Therapy)の施設長に就任し、陣頭指揮に当たっています。FiTでは、国の基準を満たした条件でiPS 細胞を作製し、移植しても問題がないかを事前に評価します。そして、安全性が確認できた細胞を実際の臨床研究に使用することになります。2月に立ちあげた「iPS細胞再生医療推進室」や他の研究者と協力し、再生医療用iPS細胞を作製したいと思います。
3つ目の目標につきましては、昨年新たに研究チームが加わり、目標達成に向けて大きな推進力となりました。4 つ目の目標に関しましては、複数の創薬プロジェクトが開始され、順調に進んでいます。
CiRA が直面する大きな課題としては、多くの教職員が1年から5年の有期雇用であるという問題です。残された8年間で全ての目標を達成するためには、優秀な人材を長期的に雇用する必要あり、引き続き皆さまのご支援を心よりお願い申し上げます。

 

CiRA10 年間の達成目標

① iPS 細胞の基盤技術を確立し、それに伴う知的財産(特許)権を取得する。

② 再生医療用iPS 細胞を作製する。

③ パーキンソン病、糖尿病、血液疾患について前臨床試験、臨床試験を実施する。

④ 患者さん由来のiPS 細胞による治療薬開発に貢献する。(難病、希少疾患)

 

新年度を迎え、研究棟前に集合したCiRA メンバー
新年度を迎え、研究棟前に集合したCiRA メンバー

 

 

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New Research

髙橋淳准教授インタビュー

多能性幹細胞を用いたパーキンソン病の治療を目指す

増殖分化機構研究部門の髙橋淳准教授らのグループによる論文が、 科学雑誌『Journa lof Parkinson’s Disease』( 注1)と『Stem Cells』(注1)に掲載されました。 髙橋准教授に研究成果について聞きました。

今回はどのような研究を行ったのですか?

私たちは神経難病、特にパーキンソン病に焦点をあてて、細胞移植治療法の開発を目指しています。『Journal of Parkinson’ s Disease』に発表した研究では、フィーダー細胞などの動物由来の物質を用いず浮遊培養によってヒトiPS 細胞からドーパミン神経細胞(注3)を誘導しました。また、ヒトのiPS細胞から作製した神経細胞を、人為的にパーキンソン病を発症させたカニクイザルの脳に移植し、6ヶ月にわたって腫瘍をつくることなく生き残っていることを明らかにしました。今後の前臨床試験に向けて、治療効果、安全性の確認方法を確立するために意義のある研究であると考えています。
一方、『Stem Cells』に発表した研究ではヒトES 細胞(胚性幹細胞)から作製した神経細胞を、こちらもパーキンソン病モデルのカニクイザルに移植し、その安全性と共に治療効果を確認しました。初めは歩けなかったサルが数ヶ月かけて歩けるようになったり、手足の震えやこわばりがなくなったりなどの症状改善がみられ、その状態を12ヶ月間保つことができました。霊長類でヒトES 細胞の効果が確認できたのは、初めてのことです。

この研究の特徴は何ですか?

ヒトES 細胞と霊長類モデルを用いた研究で治療効果がみられたことがまず大きなポイントです。同時に、MRI(核磁気共鳴画像法)やPET(ポジトロン断層法)を用いた非侵襲的な経過観察方法や、ビデオやスコア評価による行動解析方法を確立したことが、今後の前臨床試験に向けて大きな前進であったと考えています。
MRI やPET を用いることで、移植したiPS 細胞由来の神経細胞が機能しているか、つまり、ドーパミンを合成し、それを細胞外に放出し、再度細胞内に取り組む働きがあるかを、解析することができます。また、生体内での移植細胞の生存や増殖を経時的に監視することが可能となります。
行動解析としては、サルの行動を客観的に定量化するビデオ解析装置を新たに導入し、パーキンソン病患者の判定に臨床で用いられるスコア評価のカニクイザル版と併せて、治療効果を確かめています。これらの評価法は、実際に臨床応用が行われた際にも用いることができます。

細胞移植はこれまでの治療法に代わるものなのでしょうか。

パーキンソン病はドーパミン神経細胞が減ることで脳内のドーパミン量が減り、手足が震える、体がこわばって動きにくいなどの症状がでる、進行性の神経難病です。これまでは、薬によってドーパミン合成を促したり、脳に電極を埋め込む治療などがなされてきました。ただし、これらの治療法では、一時的に症状を改善できても、ドーパミン神経細胞の減少を食い止めることはできないため、次第に薬が効きにくくなる問題がありました。現在、私達が取り組んでいるドーパミン神経の移植細胞は、薬による治療法と合わせることで、薬の効きを良くし、症状を軽くできるのでは、と期待しています。

 

Glossary

注1 “ Survival of Human Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Midbrain Dopaminergic Neurons in Brain of a Primate Model of Parkinson’s Disease” Journal of Parkinson’s Disease (Tetsuhiro Kikuchi, Asuka Morizane, Daisuke Doi, Hirotaka Onoe, Takuya Hayashi, Toshiyuki Kawasaki, Hidemoto Saiki, Susumu Miyamoto and Jun Takahashi)

注2 “ Prolongedmaturation culture favors a reduction in the tumorigenicity and the dopaminergic function of human ESC-derived neural cells in a primate model of Parkinson’s disease” Stem cells (Daisuke Doi, Asuka Morizane, Tetsuhiro Kikuchi, Hirotaka Ono, Takuya Hayashi, Toshiyuki Kawasaki, Makoto Motono, Yoshiki Sasai, Hidemoto Saiki, Masanori Gomi, Tatsuya Yoshikawa, Hideki Hayashi, Mizuya Shinoyama, Refaat Mohamed, Hirofumi Suemori, Susumu Miyamoto and Jun Takahashi)

注3 神経細胞の一種。神経伝達物質としてとしてドーパミンを細胞外に放出する。多くのパーキンソン病では、中脳黒質にあるドーパミン神経細胞の変性が主な病理として知られている。

 

 

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Symposium

シンポジウム開催報告

CiRA主催では初となる国際シンポジウムを開催しました

2月23日に京都大学百周年時計台記念館で、CiRA国際シンポジウム2012を開催しました。 CiRAが国際シンポジウムを開催するのは初めてのことです。 冷たい雨が降りしきる悪天候にも拘らず国内外から約270名が参加しました。

CiRA国際シンポジウム2012 Advances in Nuclear Reprogramming and Stem Cell Research の開催目的は、海外の研究者との交流を深め、一層の研究促進を図ると共に、iPS細胞技術の標準化に向けた取り組みについて議論し、国際協調の礎とすることです。海外からはES細胞(胚性幹細胞)研究の世界的権威であるAustin Smith 教授(ケンブリッジ大学)およびダイレクト・リプログラミング(注1)技術の先駆者であるMarius Wernig 助教(スタンフォード大学)が来日し、最先端の幹細胞研究について講演しました。
午前中には、斎藤通紀教授(京都大学医学研究科)、Smith 教授、山中所長により、ES/iPS 細胞そのものの性質に迫る基礎的な研究が、午後には家田真樹准教授(慶應大学)とWernig 助教により皮膚細胞からその他の体細胞(心筋細胞や神経細胞)を作製する研究が、井上治久准教授(CiRA)によりALS患者さんの体細胞から作られたiPS細胞由来の神経細胞を用いた医療応用に向けた研究が、最新データを盛り込んだレクチャー形式で紹介されました。質疑応答の時間には会場からも多数の発言があり、活発な議論が行われました。
シンポジウムの終盤には、「iPS細胞の能力と可能性」というテーマで、講演者がパネリストとなりパネル・ディスカッションを行いました。
「多能性幹細胞とリプログラミング生物学」「細胞運命の操作」「医療応用へ向けたリプログラミング」という3 つのトピックを設け、特に2つ目のトピックでは、iPS 細胞を経由して目的の細胞を作製する方法と、iPS 細胞を経由しないで直接目的の細胞に変化させるダイレクト・リプログラミング法について対比させながら、それぞれの利点について活発な議論が行われました。将来の医療応用を考えた場合には、どちらかひとつの方法に特化することなく、対象とする病気に応じて、メリット、デメリットを検討した上で、使い分けることが重要だとの意見などがでていました。
なお、このシンポジウムは、内閣府「最先端研究開発支援プログラム(FIRST プログラム)」の支援を受けて開催されました。

 

パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子

 

Glossary

注1 分化した体細胞の核が初期化され、iPS 細胞のような多能性幹細胞に変化させることをリプログラミングといい、iPS 細胞を分化誘導することで目的の体細胞を得ることができる。一方、多能性幹細胞の状態を経ずに直接目的の体細胞へと変化させることをダイレクト・リプログラミングという。

 

 

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Column

ランドスケープ

国際幹細胞学会(ISSCR)年次大会が6月に横浜で開催

世界中の幹細胞研究者が集う国際幹細胞学会(International Society for Stem Cell Research: ISSCR)の 年次大会が、6月13日(水)- 16日(土)の日程で横浜市のパシフィコ横浜で開催されます。

ISSCR 2012 ポスター

CiRAと科学技術振興機構が後援しています。アジアで初めて開催されるISSCR年次大会でもあり、CiRAからも多数の研究者や学生が参加する予定です。
ISSCR は、幹細胞研究に携わる研究者、企業および政府関係者に広く国際的な情報交換の場を提供することを目的の一つとして、2002年に設立されました。事務局は米国イリノイ州にあります。毎年6月に開かれる年次大会は、約4,000人の研究者、学生、企業や政府関係者が一堂に会する世界最大の幹細胞関連の会合といわれています。
期間中は、著名な研究者が最新の研究について講演し、若手研究者を中心に1,000 件以上のポスター発表が行われます。今年は、ルドルフ・イェーニッシュ博士(米ホワイトヘッド研究所)やジョン・ガードン博士(英ガードン研究所)などの講演が企画されています。
また、展示会場では医薬品企業などがブースを設け、製品等について情報を提供しています。CiRAも昨年に続き、今年もブース出展し、世界から集まった参加者に研究所や研究活動について情報発信し、将来優秀な研究者を獲得するための広報活動に努めたいと思います。今大会の最終日には、山中所長がISSCR 理事長に就任予定です。
このような国際学会で、さまざまな研究の一端を知ることができるので、世界の幹細胞研究の動向がわかり、研究者にとってはライバルの研究状況の情報が得られます。そして、直に研究者が交流することで協力関係が築かれ、幹細胞研究が発展することにつながるのです。横浜大会の詳細は、次のニュースレターで報告します。

 

 

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CiRA Members

CiRAで働く人々

広報を支えるデザイナー

デザインと写真で魅力的な広報を
演出するユッシー・パヌラさん

パヌラさんが手がけたデザイン

ユッシー・パヌラさんはフィンランド出身のウェブデザイナーで、2012年3月末まで、約2年間CiRA国際広報室でデザイナー兼フォトグラファーとして活躍しました。CiRAでの仕事は、シンポジウムやCiRAカフェをはじめとするCiRA主催イベントのポスター、FIRSTプログラム「iPS細胞再生医療応用プロジェクト」等のホームページ制作からこのニュースレターのデザイン、各種イベントでの写真撮影など、多岐にわたります。その中でも、CiRAメンバーをモデルにしている写真を撮影し、それを素材にして制作したポスターや、外国人から見た京都を桜と寺のイラストで表現した国際シンポジウムのポスターなどはCiRA内外から好評を得ました。
パヌラさんは、祖父が音楽家、祖母が画家、父がコンピューターサイエンスの教師という家庭で育ち、幼い頃から芸術とコンピューター技術に触れる機会に恵まれていたそうです。また、子供の頃に初めて見た写真屋の暗室での現像作業に魅了され、独学でカメラの撮影技術を取得し、母国の大学では、ウェブデザインを本格的に学びました。
2年前に来日したきっかけは、研究者である妻がCiRAで職を得たことでした。パヌラさんにとって言葉も習慣も全く異なる日本での生活は決して容易ではなかったと言います。日常生活、仕事の両面において、特に日本語の壁は大きく、相手が自分に何を求めているのかを理解するのに苦労したこともたびたびあったそうです。
来日前、4年間をアメリカで過ごしたパヌラさんは、「アメリカは外国人を平等に扱い、市民として受け入れる文化がありますが、日本では、日本人以外を自動的に外国人として扱う傾向にあるため、外国人が日本で生活するのは難しい」と日本での生活を振り返ります。「日本での生活は困難もありましたが、CiRAで日本語のポスターやホームページを制作したことは素晴らしい経験になりました。外国での生活は毎日が新しいことの連続で、より生きていることを実感します。」と語ってくれました。パヌラさんは、数々の素晴らしい制作物を残し、さらなる経験を求め新天地スウェーデンへと旅立ちました。

 

 

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CiRA news update

CiRAアップデート

4/7

第6回 CiRAカフェ・FIRSTを開催しました。アマチュアバンドの演奏の後、臨床応用研究部門の高山直也助教が、ES細胞やiPS細胞から血液のすべての細胞を作り出すという夢を実現するための研究について語りました。

4/1

新主任研究者として藤渕航前産業技術総合研究所研究チーム長が、CiRA 増殖分化機構研究部門の教授に就任しました。

3/27

平成23年度 第2回 ヒトiPS細胞樹立・維持培養および応用技術講習会を開催しました。

3/14-4/14

CiRA研究棟1階のギャラリースペースで、iPS細胞研究に携わる研究者や研究支援者を撮影した写真展、「iPS Cell Scientists and Research Supporters at CiRA in the Eyes of a Finn (フィンランド人写真家が見たCiRA研究者と支援者たち)」を開催しました。

3/3

第5回 CiRAカフェ・FIRST「細胞分化のしくみが知りたい!iPS細胞で解き明かす試み」を開催しました。ペルー出身のデュオによるフォルクローレ演奏の後、初期化機構研究部門の升井伸治講師が「細胞の違いを決めるものは何なのか」をテーマに話をしました。

2/23

iPS細胞研究に関心のある研究者を対象に、CiRAが主催する初めての国際シンポジウムを開催しました。

2/16

研究支援部門に「iPS細胞再生医療推進室」を設置しました。再生医療に使用可能なiPS細胞および分化細胞の作製に関する知的財産、契約、規制等の業務を支援し、iPS細胞を用いた医療応用の実現の加速化を図ります。

1/27

第4回 CiRAカフェ・FIRST「iPS細胞を納得して選択できますか? 将来の医療応用に向けて必要な規制の整備について」を開催しました。ピアノ伴奏によるヴァイオリンの演奏の後、規制科学部門の青井貴之教授が、ケーキを例えに、iPS細胞技術の医療応用実現に必要な規制について話をしました。

第4回 CiRA カフェ・FIRST で話す青井教授

1/24

増殖分化機構研究部門の菊地哲広研究員と髙橋淳准教授らの研究グループによる論文が科学雑誌『Journal of Parkinson’ s Disease』に掲載されました。

12/26

山中伸弥教授が、五島直樹主任研究員(産業技術総合研究所バイオメディシナル情報研究センター)の協力を得て、非営利団体Addgene に委託した、マウスのGlis1遺伝子を組み込んだプラスミド(pMXs-mGLIS1 等) が同団体より提供開始されました。

 

 

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Donation

JustGiving でのチャレンジ

山中所長と戸口田副所長京都マラソンで完走!

3月11日(日)に開催された京都マラソンに山中伸弥所長と戸口田淳也副所長が出場しました。応援大使として先頭でスタートを切った山中所長は、自己ベストを大幅に上回る4時間3分19秒、フルマラソン初挑戦の戸口田副所長も4時間35分28秒でフィニッシュしました。
今回のマラソンでは、両教授とも完走を目標に掲げ、より多くの方々に「iPS 細胞研究基金」認知していただき、ご協力をお願いするために、オンライン寄附プラットフォームの「JustGiving Japan」サイトを通じてご寄附を募っておりました。3月14日までに両教授のチャレンジに対して1000万円を超える寄附を頂いております。また同時に500名を超える方々から温かいメッセージをいただきました。皆様の温かいご支援に心より感謝申し上げます。
ご支援いただいた皆様への感謝の意を込めて、ご寄附下さった方からのメッセージと両教授からのメッセージを4枚のポスターにまとめ、CiRAエントランスホールにて掲示しました。青井貴之教授も4月1日のなにわ淀川ハーフマラソン完走にチャレンジし、1時間49分14秒で完走しました。直接iPS細胞研究基金へご寄附いただくことも可能ですので、継続的なご支援をよろしくお願い申し上げます。

 

1階エントランスホールでのポスター掲示の様子

1階エントランスホールでのポスター掲示の様子

 

 

Editorial info

発行・編集

京都大学iPS細胞研究所
(CiRA) 国際広報室
〒606-8507
京都市左京区聖護院川原町53
Tel: (075)366-7005
Fax: (075)366-7023
Email: ips-contact@cira.kyoto-u.ac.jp
Web: www.cira.kyoto-u.ac.jp

デザイン・撮影

Jussi Panula

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