国際シンポジウムで質問を聞くために掘田秋津助教に近づくジョンガードン博士
CiRA
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書籍紹介

『iPS細胞の世界 未来を拓く最先端生命科学』が出版されました!

9月20 日、一般の方々により深くiPS細胞研究やCiRAについて知っていただくために、CiRAのメンバーが中心となって執筆・監修した書籍『iPS細胞の世界』が日刊工業新聞社より発行されました。なお、本書籍の印税すべてがiPS細胞研究基金に寄附されます。

iPS 細胞に関する書籍はこれまでにも様々な本が発行されてきましたが、この本では、CiRA での活動内容を中心に最新の情報をご紹介しています。CiRA オフィシャル本と言えます。

まず序章では昨年10 月8日、ノーベル生理学・医学賞の受賞が決定した当日のCiRA の緊迫した様子をご紹介しています。これまで語られなかった受賞決定日の裏側をお楽しみいただけます。

「iPS細胞の世界 未来を拓く最先端生命科学」
山中伸弥 監修  京都大学iPS細胞研究所 編著
本体 2,000円+税

第1 章ではiPS 細胞が生まれるに至った背景として、ノーベル賞の共同受賞者であるジョン・ガードン博士の研究や、クローン羊を生み出したイアン・ウィルマット博士の研究、そしてES 細胞について紹介しています。この書籍のために、ガードン博士とウィルマット博士にインタビューした内容も含まれています。

第2 章から第5章ではiPS 細胞がどのような形で研究に利用されているのか、具体的な疾患を例に挙げながら現在の研究状況を紹介しています。

また第6 章では、iPS 細胞が社会で受け入れられ、一日でも早く、より多くの患者さんの元に新しいiPS細胞を使った医療を届けるために必要な研究に付随した取組を紹介しています。

あくまでCiRA が中心ですので、国内外すべてのiPS 細胞研究を網羅しているわけではありませんが、CiRA がどのようなことを意識して研究を進めているのか、よく分かる一冊となっています。CiRA メンバーが一生懸命書きました。是非一度、書店で手にとってみて下さいね。

目 次

序 章 ドキュメント 2012年10月8日ノーベル賞受賞
第1章 iPS細胞とは
第2章 再生医療への適用
第3章 再生医療用iPS細胞ストック
第4章 難病のメカニズムの解明
第5章 治療薬開発の加速
第6章 iPS細胞が世界に広まるために
付 録 用語解説

iPS細胞研究基金について

CiRAへは日々、多くの方々から切実なお問い合わせを多数いただいており、iPS細胞研究を1日も早く社会に還元するために、CiRAではさらに研究を加速させています。研究の進展・拡大に伴って、研究者・研究支援者の継続的雇用や、特許係争や災害など様々なリスクに対応するための資金等、公的資金源でカバーしにくい部分が不足しています。

「iPS細胞の世界」でもご紹介したのですが、米国は桁違いの額の研究資金を民間の寄附から確保しています。日本がiPS細胞研究の最先端であり続けるためにも、ぜひ皆様のご支援をお願いいたします。

【ご寄附に関するお問い合わせ窓口】

問合せ先: 京都大学 iPS細胞研究所 iPS細胞研究基金事務局
TEL: 075-366-7152
FAX: 075-366-7023
メール:ips-kikin@cira.kyoto-u.ac.jp
ウェブサイト:www.cira.kyoto-u.ac.jp
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New research

研究成果①

先天的に血小板が少なくなる病気をiPS 細胞で再現

臨床応用研究部門の平田真治研究生と江藤浩之教授らの研究グループが、先天性無巨核球性血小板減少症(CAMT)患者さんからiPS 細胞を作製し、生体外で血液の細胞へと分化させ、その病態を解析しました。この研究成果が米国科学雑誌「The Journal of Clinical Investigation」に掲載されました。江藤教授に研究のポイントを聞きました。

CAMT とは、耳慣れない病気ですが、どのような病気ですか?

出生時から深刻な低血小板状態(健康な方の5 〜10%)に陥り、その後数年で赤血球、白血球の順番で血球細胞が徐々に減少し、骨髄の機能不全を起こす病気です。完治させるためには、骨髄移植による治療が必要となる重篤な病気です。細胞表面のトロンボポイエチン受容体が先天的にないために、引き起こされることが分かっています。

CAMT の病態を解析する難しさはどこにあったのでしょうか?

CAMT の病態を解明するため、既にトロンボポイエチン受容体が働かないようにしたマウスが作製されています。しかし、このマウスでは、血小板数が減るものの、赤血球数が減ることなく寿命を全うでき、ヒトのCAMT患者さんで見られる病態を再現できていませんでした。当然ながら、すでに血球が減少しているCAMT 患者さんの骨髄中の細胞をいただき、病態解析に使用することもできません。このように、適切な実験モデルがないことが病態解明の障害となっていました。

iPS 細胞を用いる利点はどこにあるのでしょうか。

iPS 細胞は、作製するもとになった方の遺伝情報を残しています。
さらに、iPS 細胞はほぼ無限に増やすことができるため、患者さんの遺伝情報をもった細胞を大量に得ることができ、治療法の開発や創薬に役立てることができます。

今回はどのような研究を行ったのでしょうか。

1 名のCAMT 患者さん(ご本人は骨髄移植を受けられて、現在は回復している)にご協力いただいて、皮膚細胞からiPS 細胞を作製し、生体外にて血液の細胞へ分化させ、その挙動を詳細に解析し、白血球に比べて血小板や赤血球が著しくできなくなるというCAMT の病態を再現することに成功しました。さらに、ヒトでは、トロンボポイエチン受容体のシグナルが、赤血球・血小板・白血球などを生み出す多能性造血前駆細胞の維持や、血小板を生み出す巨核球・赤血球系前駆細胞への分化に重要な役割を果たしており、赤血球の産生に必須であることを明らかにしました。

記者会見に臨む江藤教授と平田研究生

記者会見に臨む江藤教授と平田研究生

今回の研究の意義は何でしょうか。

今回の成果は、これまで、血小板数の増加に用いられていたトロンボポイエチン様の薬剤が貧血改善にも役立つ可能性があることを示唆しています。また、iPS 細胞技術を用いることで、病態の解析だけでなく、血球がどのようにして産生されるのかという血液産生メカニズムを探れることを示すことができました。この疾患のiPS 細胞は今後、ヒトの血液産生の起源や血液産生経路を研究する為のツールとして期待できます。

筆頭著者紹介

平田 真治(ひらた・しんじ)
1983年、岡山生まれ。子供の頃は歴史好きな少年でしたが、高校生の時に、たまたまテレビで井出利憲教授のテロメラーゼ研究を知り、広島大学医学部総合薬学科へと進路変更し、井出研究室で研究に没頭しました。修士課程修了後、より医療に寄与できる研究をしたいと製薬企業に就職し、縁あって、江藤浩之研究室に所属することになりました。iPS細胞を用いた、これまでとは異なるアプローチでの医療や創薬の可能性に惹かれています。
学位を目指して企業研究者と研究生の二足のわらじを履き、忙しいながらも研究を楽しんでいます。

Glossary


【論文名】
Congenital amegakaryocytic thrombocytopenia iPS cells exhibit defective MPL-mediated signaling

【著者名】
Shinji Hirata, Naoya Takayama, Ryoko Jono-Ohnishi, Hiroshi Endo, Sou Nakamura, Takeaki Dohda, Masanori Nishi, Yuhei Hamazaki, Ei-ichi Ishii, Shin Kaneko, Makoto Otsu, Hiromitsu Nakauchi, Shinji Kunishima, and Koji Eto

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研究成果②

人工RNA スイッチで細胞の運命を変える

初期化機構研究部門の遠藤慧研究員や齊藤博英准教授らの研究グループが、細胞内の状態に応じて、遺伝子の発現を自在に制御できる「RNA スイッチ」技術を拡張して、スイッチの性能を自在に反転・調節することに成功しました。この研究成果が英国科学誌「Nature Communications」に掲載されたので齊藤准教授に話を聞きました。

記者会見に臨む齊藤博英准教授

記者会見に臨む齊藤博英准教授

RNA スイッチとはどんなものですか?

RNA はリボ核酸のことで、細胞内に含まれる生体分子のひとつです。DNA の遺伝情報はmRNAに写し取られ(転写)、mRNAの情報からタンパク質が合成(翻訳)されます。このようにDNAの遺伝情報からタンパク質が合成されることを、遺伝子発現と言います。RNA スイッチは、細胞内の物質を検知して、遺伝子の発現を制御するmRNA 分子のことです。つまり、細胞内部情報に応答して遺伝子発現をON にしたり、OFF にすることができます。

RNAスイッチでどんなことができるようになるのですか?

iPS 細胞から目的の分化細胞へ、例えば神経の細胞などに分化させる時、どうしても神経になりきれない未分化な状態の細胞が交じることがあります。このような未分化な状態の細胞は移植した際に腫瘍化する危険性をもっているので、分化した神経細胞のみを選別する方法が必要になります。その方法のひとつとして、RNA スイッチが自律的に細胞内の状態に応答し、未分化な細胞だけを細胞死へと導く方法などへの応用が期待されています。
また、iPS 細胞から分化細胞を誘導する時は、数ステップに分けて、外からタンパク質や化学物質などを加える手法が多く用いられていますが、RNA スイッチにより、ある条件に達した細胞だけ、自律的に分化を進めるような方法への応用も期待できます。

今回の研究ではどんなRNA スイッチを開発したのですか?

これまで開発されていたRNA スイッチ(OFF) は、入力物質Aがあると、出力遺伝子の発現が抑えられます。このスイッチにRNA インバータというRNA 部品を加え、入力物質A があると、出力遺伝子が発現するRNA スイッチ(ON)を開発しました(右図)。これまでの技術では、ひとつの入力物質で複数の遺伝子の発現を同時に制御することは難しく、ひとつひとつスイッチをつくり、機能を調整するという手間と時間がかかる状況でした。今回の方法は、RNA スイッチにRNA インバータを加えるだけで、OFF からON に変えることができるようになり、1つの入力因子により複数の遺伝子発現のON・OFF を個別かつ同時に制御が可能となりました。細胞の外からは見えないような細胞内状態に応答して、細胞の分化を誘導したり、細胞運命の制御技術の開発につなげたいと考えています。

筆頭著者紹介

遠藤 慧(えんどう・けい)
1981年広島生まれ。小学生の頃から、実験教室に参加したり、ファーブル昆虫記に夢中になったりと、根っからの理科好き少年(インドア派)でした。大学では、基礎研究に取り組みたいと思って入った研究室で、予想外の応用研究(RNAを利用した創薬)に携わることになりましたが、そこでの経験が今の研究にも生かされています。CiRAへは2年前に研究員として加わりました。当初は広い空間に実験台が並び、多くの研究室が共存するオープンラボに戸惑いましたが、同志とも呼べるような同年代の若手研究者とたくさん知り合うことができ、恵まれた環境だなと実感しています。

Glossary


【論文名】
A versatile cis-acting inverter module for synthetic translational switches

【著者名】
Kei Endo, Karin Hayashi, Tan Inoue and Hirohide Saito

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研究成果③

iPS 細胞になりにくい理由

初期化機構研究部門の高橋和利講師らの研究グループは、iPS 細胞になれるかどうかが、iPS 細胞への成熟過程にあることを示し、科学雑誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』のオンライン版に掲載されました。

iPS 細胞がどのようにしてできてくるのか、その詳細はまだ謎に包まれています。
体細胞が初期化され始めるとすぐに、TRA1-60 というタンパク質が細胞の表面に現れます。このタンパク質を指標に初期化の効率を測定しました。
すると体細胞の初期化は遺伝子が導入された細胞の約20%で始まっていましたが、初期化が完了してiPS 細胞になる効率は0.2%程度しかありませんでした。TRA1-60 が現れている細胞を詳細に調べた所、75%以上の細胞が初期化される前の状態に逆戻りしてしまっていました。この逆戻りはLIN28 という遺伝子を使うことで抑えられ、iPS 細胞の作製効率を高めることが出来ることが分かりました。
この研究成果から、初期化の開始よりも成熟を促進させることで、iPS 細胞を効率よく樹立することができると考えられます。今後、成熟過程を促進する遺伝子や化合物の探索にさらなる効率の改善が期待できます。

初期化し始めた細胞が逆戻りしはじめた様子
リプログラミング過程を表したモデル図

Glossary


【論文名】
Maturation, not initiation, is the major roadblock during reprogramming toward pluripotency from human fibroblasts

【著者名】
Koji Tanabe, Michiko Nakamura, Megumi Narita, Kazutoshi Takahashi, and Shinya Yamanaka

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Report

倫理シンポジウム

倫理研究部門の開設記念シンポジウムを開催!

7 月26 日、京都大学百周年時計台記念館にて、上廣倫理研究部門の開設を記念し、iPS 細胞研究に関連する倫理問題を議論するシンポジウムを開催しました。

最初の講演では山中伸弥所長が研究の進展を紹介し、「新しい科学技術をどこまでどう受け入れるかは、科学者・倫理学者だけでなく、社会全体で決めていくこと」と訴えました。

続く八代嘉美准教授は、「再生医療」「クローン」などの言葉がメディアなどで誤って使われることや、便乗商法などの課題を指摘。また、倫理は「ブレーキ」でなく「交通ルール」と捉えるべきとの意見を述べました。

藤田みさお准教授は、論議となった日本移植学会倫理指針を例に、倫理研究では「事実」を把握し、データを基に議論を積み重ねることが重要だと説きました。

鈴木美香研究員は研究というものが必要とする科学的妥当性などの要素、研究のデザインの重要性、研究のリスク・利益のバランス、といったテーマで発表しました。

後半は、京都大学内や他大学のiPS 細胞の研究者と倫理研究者からなるパネリストが議論しました。会場からは「動物の体内で人間の臓器をつくる研究があるが、人間の脳パネルディスカッションの様子をつくるなら、どんな問題がありえるか?」という質問もあり、研究の進展に伴う倫理的課題の深さを感じさせました。

今回のシンポジウムは約460 名が参加し、大盛況でした。今後、上廣倫理研究部門では、iPS 細胞の医療応用までのハードルを明らかにし、広く市民に開かれた活動を通じて、研究の進展や社会の変化を捉えて解決策を検討していきます。

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

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Dialogue

CiRA × 京大病院

京大病院との特別対談が行われました

京都大学医学部附属病院に新しく出来た臨床研究総合センター長を務める上本伸二教授と、iPS 細胞を使って軟骨の再生医療に向けた研究を進めているCiRA の妻木範行教授が対談を行いました。

軟骨細胞を誘導する技術や病態解明などを研究中です。

妻木:軟骨には、運動を担う関節軟骨と骨を伸ばす成長軟骨があり、各々軟骨の異常によっておきる病気があります。ところが現在はほとんど治療薬がありません。そこでiPS 細胞を使った再生医療や創薬によって、それらの治療方法を研究しています。

上本:関節軟骨の病気で多いのが、高齢者のひざの変形症だと思いますが、そうした方の軟骨の再生医療も視野に入ってくるのでしょうか。

妻木:iPS 細胞から軟骨細胞を分化誘導して、関節の軟骨に移植する研究を進めており、臨床に向けて懸命に取り組んでいます。

上本:iPS 細胞から軟骨細胞への分化誘導へのメドはついているのでしょうか。

妻木:そうですね。大切なのは腫瘍化しない安全な軟骨を作ることで、その確認はまだ途中段階です。かつて、軟骨は細胞が1 種類で血管もなく、構造も単純だから再生治療がやりやすいと言われました。ところが実は血管がないため細胞を移植しても定着しませんし、軟骨には常に力がかかるため、非常に難しい。だから人工関節の患者さんが減らないのですね。

平家部長(左)と戸口田副所長(右)

対談する上本教授(左)と妻木教授(右)

上本:体の中でほかに軟骨の治療が必要な場所はありますか。

妻木:関節軟骨は全身の関節に関わります。スポーツをする方なら、ひじも関係します。

上本:研究が進めば、スポーツ医学でも画期的な進歩がありそうですね。

妻木:中高校生の野球部員に多い、投げすぎなどの治療にも役立ちます。子どもからお年寄りまで、多くの方の疾患治療に役立てると思います。

上本:成長軟骨については、発育障害のお子さんのための治療法開発をお考えだと思うのですが、見通しはいかがでしょうか。

妻木:まだ戦略ということでしかお話できませんが、疾患特異的iPS 細胞を使った研究を進めています。患者さんからいただいた組織でiPS 細胞を作って軟骨細胞を分化誘導し、患者さんの疾患が再現されたその軟骨細胞を使って病気を調べ、薬を探索する方法です。疾患の多くは遺伝子変異だとわかってきましたが、未だメカニズムがわからないため、薬がほとんどないのです。小動物を使うのですが、臨床に向けては大動物での実験が必要になります。大動物は人と同じプロトコルでやらなければらならないと考えていますので、その段階から京大病院と連携できればと思っています。

上本:副作用などもきちんとチェックして、ということですね。センターでも、前臨床から関わっていかなければならないという話が出ていますので、スタッフもそのつもりでおります。

CiRA と京大病院の交流で若い人を育てていく。

妻木:私も上本先生にお聞きしたいことがあるのです。先生は日本の最先端の移植をなさっていると同時に、教室には多くの大学院生が集まっているとお聞きしています。私も教室を持っているので、若い人を魅了する秘けつを教えていただきたいと思います。

上本:とりたてて秘けつはありませんよ。やはり若い人の将来性を引き出す環境が大切だと思います。彼らができるだけ多様な経験を積めるよう、私たちも新しい取り組みを始めています。CiRA でも京大病院の若い人がお世話になっていますね。最先端の研究をするということで、彼らのモチベーションも上がっているようです。

妻木:若い人が多いCiRA では、ミーティングでも意見が活発に飛び交い、私の出る幕がないほどです。これからも京大病院と相互に刺激し合う関係を築いていけたらと思います。

用語説明

京都大学医学部附属病院 臨床研究総合センター
「臨床研究中核病院」に選定されたことを受け、先端医療の臨床研究を加速し、新薬の開発を効率的に進めるべく、2013年4月に京大病院に誕生したセンター。

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Members

CiRA で働く人々

研究計画書の作成を通して、再生医療の実現に貢献したい

iPS 細胞を使った医療を早期に実現するための部署、医療応用推進室で活躍する松永亜佑美さんにインタビューしました。

松永亜佑美さん

松永亜佑美さん

松永さんは、CiRA が研究所になる前のiPS 細胞研究センター時代から研究支援に携わっています。当初は基礎研究を支援する仕事でしたが、4 年後の現在、医療応用にむけた準備を進める医療応用推進室に所属し、iPS 細胞ストック計画など再生医療の実現に向けた活動に取り組んでいます。

医療応用推進室 は3 つのグループがあり、共同研究などの契約を担当するグループ、iPS 細胞を使って新しい薬の探索をサポートする創薬グループ、そして再生医療の実現に向けた研究者のサポートをする再生医療グループです。松永さんは再生医療グループで、研究者らと相談しながら、医療に使うiPS 細胞を作製する研究を行うための研究計画書や、細胞提供者への説明文書や同意書作成などに携わってきました。

「特に研究計画書の作成はとても難しい」と松永さんは言います。iPS 細胞は生まれて間もない技術なのでまだ充分に国のiPS 細胞の取り扱いに関するガイドラインが決まっていません。ひょっとすると、現在よりもより厳しい基準が作られる可能性もあります。そういった事態にも対応できるよう状況に応じて研究計画を練るという、想像力の必要な仕事です。

また、2才児の母として、少し時間を短縮して勤務しているものの、理解のある上司からは重要な仕事を任せられており、とてもやりがいを感じているのだとか。育児と仕事を両立する秘訣を尋ねると、「子供を預けている保育園が夜遅くまで対応してくれたり、近所に住む親戚が手伝いに来てくれたり、様々な人の助けでなんとかなっている」とのこと。忙しい中でも子供と必ず一緒に寝るようにして、手軽な食事でも一工夫して健康を維持するよう心がけているそうです。

今後は、CiRA の研究をいかに順調に進めるかを考える一方で、「ここで働き始めた当時の初心を忘れずに、一人の一般人として、支援してくださる皆さんの気持ちに共感しながら、世の中にとってよりよいiPS 細胞を使った再生医療の実現に貢献できるような研究計画書を作成したい」と語りました。

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Column

倫理の窓から見たiPS 細胞

研究と治療との誤解

藤田みさお准教授

藤田みさお准教授

今回から、今年4月に発足した上廣倫理研究部門の研究者が担当する新コラム企画を始めます。第1回目の執筆者は部門長の藤田みさお准教授です。

以前、病院に勤務していたときに、ある患者さんがおっしゃいました。「今度、新薬の開発研究に参加できそうなんです!今いちばん新しい治療が試せるんですよ!効くといいなあ!」患者さんの笑顔を見て、そのときはいっしょに喜んだのですが、その後生命倫理学を学んだ今となって考えると、あれは「治療との誤解」と呼ばれる現象だったのではないか、という気がしてなりません。

「治療との誤解」とは、研究に参加する患者さんが「研究」と「治療」が持つ目的の違いを混同してしまうことを言います。研究に参加する際、効果を期待することは当然の心理であり、大きな希望でもあります。ただし、その期待が強すぎると(「効くに違いない」「これは自分の治療だ」など)、「治療との誤解」が生じます。生命倫理学の分野では、1980 年代ごろよりよく知られるようになった現象です。

本来、「研究」場面で患者さんが受ける医療は「治療」ではありません。あくまで、効くか効かないかまだ分からない、ときに安全かどうかさえはっきりしない医療であり、それを将来の患者さんに役立てるために見極めるのが「研究」だからです。一方、わたしたちがもし風邪を引いてお医者さんの「治療」を受けたなら、確実に効いて安全な薬がもらえることを期待するでしょう。それは「治療」という行為が、今目の前にいる患者さんの役に立つことを第一の目的とすべきものだからです。

この二つの目的を混同してしまうと、研究で得られる利益を過大に期待したり、起こりうる危険を過小に見積もったりする誤解が患者さんに生じます。そうした誤解にもとづく研究参加は、できる限り避けなければなりません。なぜなら、研究に参加するかどうかという大事な決断は、患者さんがその内容を正確に理解し、後悔のないよう心から納得したうえで行っていただかなければならないものだからです。

iPS 細胞を用いた研究は、いよいよ本格的な臨床応用が始まる重要な節目の時期を迎えています。「研究」と「治療」が持つ目的の違いをきちんと区別する冷静さを持つこと。そのうえで、いまだ「研究」段階にあるこの新しい医療が、一日も早く「治療」へと育っていくことに希望を持つこと。この両方が、患者さんやご家族だけでなく、研究者、マスコミ、一般の人々などを含めた社会全体にとって今、大切なことであるように思えます。

(文:藤田みさお准教授)

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CiRA news update

CiRAアップデート

9/27

臨床応用研究部門の髙橋淳教授グループのパーキンソン病治療を目指した研究に関する論文がステム・セル・リポーツに掲載されました。詳細は、次号に掲載します。

9/23

戸口田淳也副所長が、京都市の妙心寺退藏院の副住職・松山大耕さんとiPS 細胞の倫理問題について対談しました。約200 人の参加者が熱心に耳を傾けました。

9/20

CiRA のメンバーによる執筆・監修した書籍「iPS 細胞の世界 未来を拓く最先端生命科学」(日刊工業新聞社)が発行されました。印税はすべてiPS 細胞研究基金に寄付されます。(2、3ページ

9/9

京都府医師会特別栄誉賞が山中伸弥所長に授与されました。

9/7

第16 回CiRA カフェFIRST「細胞のおしゃべりに耳をすませば・・・」を開催しました。ミラクル・オブ・ビーイングのヨーロピアン・フォークの演奏の後、増殖分化機構研究部門の池谷真准教授が細胞間コミュニケーションについて話し、それがうまくいかないため生じる骨軟骨疾患の研究について語りました。

9/3

初期化機構研究部門の齋藤博英准教授グループの研究成果が、ネイチャー・コミュニケーションズに掲載されました。(6、7ページ参照

8/5

山中所長が10 月27 日開催の大阪マラソン2013 にチャリティアンバサダーとして出場することが発表されました。下記のウェブサイトで寄付を募っています。指定のチャリティ団体へ大阪マラソン組織委員会を通して寄付されます。ご協力よろしくお願いします!
http://justgiving.jp/c/9184

8/2

臨床応用研究部門の江藤浩之教授グループの研究成果がジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーションに掲載されました。(4、5ページ参照

7/26

上廣倫理研究部門の開設記念シンポジウムを京都大学内で開催しました。(9 ページ参照

7/3

東大阪市名誉市民称号が山中所長に授与されました。

6/25

初期化機構研究部門の高橋和利講師グループの研究成果が米国科学アカデミー紀要に掲載されました。(8ページ参照

iPS細胞 何でも

Q&A

iPS細胞を使った治療が始まったとききました。

この8月に、理科学研究所と先端医療振興財団が加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)という病気について、人を対象とした臨床研究をスタートしました。世界で初めてi P S 細胞を使った再生医療の臨床研究となります。これまでにiPS細胞と同様の機能をもったES細胞では、海外で臨床研究が行われたこともあります。しかしいずれもまだ研究段階であり、多くの方を対象とした治療が出来るようになるには、まだ長い年月が必要です。

臨床研究に参加できますか?

今回の臨床研究の対象となるのは「滲出型加齢黄斑変性」の患者さんのみです。萎縮型加齢黄斑変性、網膜色素変性、糖尿病網膜症、緑内障など他の眼疾患は対象ではありません。また対象患者さんについて詳細な選定基準が定められており、2年間に6名の患者さんを対象として研究を行う予定です。詳細は以下のwebサイトをご覧ください。www.riken-ibri.jp/AMD/

どのくらい治療効果がありますか?危険性はないのですか?

今回の研究は臨床研究の初期段階であり、治療方法の安全性を確認することが最大の目的です。そのため、視力の大幅な改善など顕著な治療効果を期待するものではありません。今回の研究で安全性が確認されれば、より多くの患者さんを対象とした、より効果の期待できる研究へと進むことが出来ます。想定されるリスクとしては、移植した細胞から腫瘍が発生する可能性や、細胞の採取、全身麻酔、網膜の手術に伴うものが考えられます。

 

 

 


Events

中高生向け研究体験プログラム

「幹細胞研究やってみよう!まずは観察から」
を開催しました

京都市教育委員会が主催する未来のサイエンティスト養成事業の一部として、7月31 日(水)に中高生向けの実験体験プログラムを、吉田善紀講師の指導のもとiPS 細胞研究所で開催しました。
3回目となる今年は、総勢35 名が参加し、iPS 細胞やiPS 細胞からつくった神経細胞・心筋細胞・肝臓細胞の観察を通して、研究の基本となる「観察、比較」や「自分の意見をまとめて他の人に伝える事」を体験しました。研究棟を見学し、研究者の日常を垣間見ることもできました。参加者のみなさま、お疲れ様でした。

Editorial info

発行・編集

京都大学 iPS 細胞研究所
(CiRA)国際広報室
〒606-8507
京都市左京区聖護院川原町53
Tel: (075)366-7005
Fax: (075)366-7023
Email: ips-contact@cira.kyoto-u.ac.jp
Web: www.cira.kyoto-u.ac.jp

撮影

CiRA 国際広報室

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