CiRA
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臨床研究とは?

iPS細胞を用いた臨床研究とは何か?

加齢黄斑変性の患者さんを対象とするiPS細胞技術を使った臨床研究が、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター等によって開始されています。CiRAでも血液疾患やパーキンソン病の治療法について臨床研究が計画されており、お問い合わせを多数いただいていますが、この記事では臨床研究の手順について説明します。

臨床研究への道のり

iPS細胞のような新しい技術を使った治療法が、医療現場で適用されるようになるまでには、法令で規定された様々な手順を踏む必要があり、臨床研究は最初のステップと言えます。

臨床研究では、対象となる病気の患者さん数名を対象に、治療法を試験的に施し、その安全性や有効性を確認するという目的があり、開始から終了まで通常数年間に及びます。その結果、安全性が確認されると次のステップである治験に進み、それをクリアすると、ようやく実際の医療現場で使用できる治療法として認められるのです。

パーキンソン病を例に

臨床研究への道のり

臨床研究への道のり

臨床応用研究部門の髙橋淳教授のグループは、数年前からiPS細胞技術を使ったパーキンソン病の治療法開発に取り組んできました。霊長類を用いた非臨床試験も行っており、京都大学医学部附属病院と協力して、臨床研究を実施する準備を進めています。このケースでは、今秋に施行される再生医療等安全性確保法(再生医療新法)の規定に基づいて臨床研究が行われます。

前述の新法に基づいて、京都大学内に特定認定再生医療等委員会が設置されることが予定されており、髙橋教授らは2015年早春には臨床研究計画の審査申請をこの委員会に提出したいと考えています。この審査を通過すると、次は厚生労働省で再び審議されることになります。そして厚生労働大臣の了承を得ることができれば、臨床研究が開始されるのです。

詳細はこれから

臨床研究計画書を特定認定再生医療等委員会に申請してから厚労大臣了承を得るまでには、少なくとも半年以上かかると予想されます。また、臨床研究が始まり、患者さんが選定され、実際に細胞治療を実施するには、さらに1年近い年月がかかるでしょう。

最近、髙橋教授らのパーキンソン病患者さんを対象とする臨床研究についてお問い合わせを多数いただいております。この臨床研究計画については、これから京大病院の関係者と協議して、対象となる患者さんの条件や被験者数等の詳細を詰めている段階です。

CiRA研究者が関わる臨床研究に関する正式な決定事項につきましては、ホームページ等で公表します。

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研究成果①

iPS 細胞を使ったパーキンソン病の治療方法を確立

臨床応用研究部門の髙橋淳教授らの研究グループは、大阪大学と株式会社カン研究所との共同研究による成果を3月6日に米国科学雑誌「ステム・セル・リポーツ」に発表しました。髙橋教授にお話を伺いました。

パーキンソン病ってどんな病気ですか?

パーキンソン病は、手足が震える、体がこわばって動きにくくなるなどの症状がでます。脳のドパミンを作る神経細胞の働きが悪くなったり、数が減ってしまい、ドパミンの量が減ることが原因と考えられています。

これまでの治療法では症状の改善はできても、ドパミン神経細胞の減少は食い止めることができず、徐々に症状が進行してしまいます。iPS細胞などの細胞移植によって、神経細胞を補う治療法が期待されています。

今回はどのような研究をしたのでしょうか?

パーキンソン病の治療をするために、iPS細胞からドパミンを作る神経細胞を作る方法を開発しました。これまでにもドパミンを作る神経細胞を作ることはできていましたが、今回は人に移植することを踏まえた方法を確立しました。

記者会見で質問に答える髙橋教授と土井研究員

移植するためには何か特別な作業が必要なのですか?

人の体に移植する細胞ですから、勝手に分裂してしまうような細胞が混じっていては困ります。また、細胞を移植する際に、一緒に未知の感染症が伝染することを防ぐために、安全性が確保できる原料や道具を使う必要があります。

どういう方法を開発したのでしょうか?

今回は抗体(抗原を認識して結合する働きをもつ)を使って、表面にコリンというタンパク質がついている細胞だけを集めることにしました。

するとドパミンを作る神経細胞が効率よく選ばれ、勝手に分裂してしまう細胞をかなり取り除くことが出来ました。また、細胞を培養皿に貼り付け、大量に培養するために重要な道具として、ラミニンというタンパク質を使うことで、感染症等のリスクの低い方法で細胞を培養することができるようになりました。

実際に人で治療をするのはいつですか?

いつ頃治療が開始できるかはまだはっきりとは言えません。ただ、2014年中にヒトで研究をするために必要な実験データを集め、2015年のはじめには臨床研究計画を学内に設置予定の委員会に申請したいと考えています。(2ページ参照)

iPS細胞からラミニン(組み換えラミニン511E8フラグメント)上で分化誘導した細胞を分別し、ドパミン神経前駆細胞を選別した。これらの細胞をパーキンソン病のラットの脳内に移植したところ、腫瘍化は見られず、多くの細胞が生着した。

筆頭著者紹介

土井 大輔(どい・だいすけ)
1977年京都府生まれ。野球や水泳が好きだという運動少年でした。滋賀医科大学を卒業後、京都大学医学部附属病院を含め各地の病院で脳神経外科医として活躍しました。2006年に京大大学院の博士課程に進学しました。その頃、iPS細胞が発見され、当時行っていたパーキンソン病の細胞移植治療をiPS細胞を用いて研究することになり、CiRAに移りました。今後はiPS細胞の技術を患者さんのために臨床で利用することを目標に、細胞調製の準備を進めています。

【論文名】
Isolation of Human Induced Pluripotent Stem Cell-derived Dopaminergic Progenitors by Cell Sorting for Successful Transplantation

【著者名】
Daisuke Doi, Bumpei Samata, Mitsuko Katsukawa, Tetsuhiro Kikuchi, Asuka Morizane, Yuichi Ono, Kiyotoshi Sekiguchi, Masato Nakagawa, Malin Parmar, and Jun Takahashi

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研究成果②

血小板を安定的に大量に供給する方法を開発

臨床応用研究部門の江藤浩之教授らのグループによる研究成果が2月13日に米国科学雑誌「セル・ステム・セル」に掲載されました。研究内容の詳細について江藤教授にお話を伺いました。

記者会見で話す江藤教授

血小板って何ですか?

血を止める際に重要な働きをする核のない小さな血液細胞で、巨核球という細胞からちぎれるようにしてつくられます。自ら分裂して増えることはできないので、常に巨核球から作られ、必要な量が補充されています。深刻な貧血や出血を起こすような血液の病気を持つ患者さんは、血小板を輸血に頼って補っています。

献血では不十分なのですか?

少子高齢化の影響もあり、血液を提供する人の数が減っており、厚生労働省の統計によると、2027年には日本で必要な輸血量に対して20%程不足すると発表されています。そのため、献血に代わる新しい方法で血液の細胞を用意する必要があります。

どうやって血小板をつくるのですか?

これまでの研究でiPS細胞から血小板を作る方法は分かっていました。しかし、iPS細胞からスタートして血小板を作っていては、工程数が多く、多くの時間と費用がかかってしまいました。より効率よく血小板をつくるために、我々は血小板の一つ前の細胞である巨核球という細胞に注目しました。遺伝子を導入して自己増殖できる巨核球を作り、これを冷凍保存しておいて必要なときに使うというシステムを作りました。これにより、輸血に必要な1000億個の血小板を作ることが出来るようになります。

その細胞はがんになったりしませんか?

細胞を移植する前には放射線を当てるので、巨核球など核を持ったがん化の可能性がある細胞は死滅します。核を持たない血小板は放射線の影響を受けず、がん化のリスクはまず無いと言えます。

新しいシステムのメリットは?

短期間で大量に血小板をつくることができるというのが大きなメリットです。また、巨核球の状態で冷凍保存しておき、必要なときに必要な量だけの血小板を作ることが出来ます。iPS細胞ストック計画と連携することで、特殊なタイプの血小板を持つ患者さんにも安定して血小板を提供することが出来るようになると考えられます。

複製可能な巨核球の作製方法

近いうちに人での治療に応用されますか?

このシステムを用いた臨床研究を平成27~28年にも開始したいと考えています。最終的には臨床試験を経て10年後の実用化を目指して研究を進めています。

赤血球などは作れるのですか?

血小板と同じような方法で、自己増殖できる赤血球前駆細胞をつくり、大量に赤血球の元となる細胞をつくりだすことに成功し、2013年の12月に「ステム・セル・リポーツ」という科学誌で報告しました。こちらについても赤血球輸血の安定供給に役立てられるように、より成熟した赤血球を誘導する方法を開発しています。

筆頭著者紹介

中村 壮(なかむら・そう)
1980年神奈川県生まれ。子供の頃は釣りをしたり、泳いだり、磯遊びをしたりと、海で遊ぶことが好きでした。大学でバイオサイエンスを専攻し、横浜市立大学大学院に進みました。その後、江藤研究室に参加し、現在は今回発表した技術を臨床応用へ向けて、改良を進めています。今後の目標は、「研究者として半人前なので日々精進していきたいと思うとともに、健康第一でいきたいなぁ」とのことです。

血小板の成果
【論文名】
Expandable megakaryocyte cell lines enable clinically-applicable generation of platelets from human induced pluripotent stem cells

【著者名】
Sou Nakamura, Naoya Takayama, Shinji Hirata, Hideya Seo, Hiroshi Endo, Kiyosumi Ochi, Ken-ichi Fujita, Tomo Koike, Ken-ichi Harimoto, Takeaki Dohda, Akira Watanabe, Keisuke Okita, Nobuyasu Takahashi, Akira Sawaguchi, Shinya Yamanaka, Hiromitsu Nakauchi, Satoshi Nishimura and Koji Eto

赤血球の成果
【論文名】
Immortalization of erythroblast by c-MYC and BCL-XL enables large-scale erythrocyte production from human pluripotent stem cells

【著者名】
Sho-ichi Hirose, Naoya Takayama, Sou Nakamura, Kazumichi Nagasawa, Kiyosumi Ochi, Shinji Hirata, Satoshi Yamazaki, Tomoyuki Yamaguchi, Makoto Otsu, Shinya Sano, Nobuyasu Takahashi, Akira Sawaguchi, Mamoru Ito, Takashi Kato, Hiromitsu Nakauchi, and Koji Eto

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研究成果③

難病FOPの状態を体の外で再現

増殖分化機構研究部門の戸口田淳也教授・池谷真准教授、グラッドストーン研究所のエドワード・シャオ博士らのグループが、FOP患者さんから採取したiPS細胞を使って、FOPの状態を一部再現することに成功しました。この成果は2013年12月9日に「オーファネット・ジャーナル・オブ・レア・ディジィージズ」に掲載されました。戸口田教授に詳しい話を伺いました。

記者の質問に応える戸口田教授

FOPとはどんな病気ですか?

FOPは日本語で進行性骨化性線維異形成症といいます。筋肉や腱、靭帯などの柔らかい組織の中に、徐々に骨が出来てしまう病気で、200万人に1人程度の割合で患者さんがいると言われている希少難病の一つです。FOPの患者さんから組織を取り出そうとすると、その刺激で骨化が進んでしまうため、十分な研究が出来ていませんでした。

今回はどのようにして研究したのですか?

まず患者さんから、皮膚の細胞を少しだけ採取させていただき、患者さん由来のiPS細胞を作りました。採取のために病気が進行することはありませんでした。このiPS 細胞を使って実験を行いました。一旦iPS細胞にしてしまえば、ほぼ無限に細胞を増やすことができるので、患者さんに負担をかけることなく何回でも実験することができます。

池谷准教授(左)と松本大学院生(右)

どんなことがわかりましたか?

iPS細胞を骨や軟骨へと分化させると、FOP患者さん由来のiPS細胞は病気ではない人由来のiPS細胞とくらべて、骨や軟骨になりやすいことが分かりました。つまり、FOP患者さんの細胞が骨になりやすいという状態を、患者さんの体の外で再現することができたのです。

今後はどのように研究が進んでいくのでしょうか?

iPS細胞から骨へと分化させる際に、それを緩和するような物質を選ぶことで、薬の候補を絞り込むことができるようになります。iPS細胞を使っているので、膨大な種類の物質を試してみることもできます。このようにして、FOPの症状を改善するような薬を見つけることができると考えられます。また、FOP以外の研究試料の採取が難しい病気でも、同じ手法を用いて薬の開発や病気のメカニズムを研究することができると考えられます。

FOP患者さん由来のiPS細胞の方が大きな軟骨を形成した。
赤:細胞核 青:軟骨の部分
左2つが健康な人由来の細胞
右3つがFOP患者さん由来の細胞

筆頭著者紹介

松本 佳久(まつもと・よしひさ)
1976年愛知県生まれ。子供の頃は名古屋球場で中日ドラゴンズの応援をすることが好きでした。名古屋市立大学医学部を卒業、整形外科医として病院勤務を経験した後、特別研究学生として京都大学に移りました。難治性の骨・軟骨関連疾患の病態解明や創薬に興味があったため、CiRAに所属することになりました。今は少しでも患者さんの力になることを目指して、FOP患者さん由来iPS細胞を用いて病態解明の研究に励んでいます。

【論文名】
Induced pluripotent stem cells from patients with human fibrodysplasia ossificans progressiva show increased mineralization and cartilage formation

【著者名】
Yoshihisa Matsumoto, Yohei Hayashi, Christopher R Schlieve, Makoto Ikeya, Hannah Kim, Trieu D Nguyen, Salma Sami, Shiro Baba, Emilie Barruet, Akira Nasu, Isao Asaka, Takanobu Otsuka, Shinya Yamanaka, Bruce R Conklin, Junya Toguchida and Edward C Hsiao

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研究成果④

遺伝子変異によらないがん化の仕組みを
iPS細胞技術で解明

初期化機構研究部門の山田泰広教授らの研究グループによる研究成果が2月13日に米国科学雑誌「セル」に掲載されました。山田教授に詳しい内容を伺いました。

記者会見で話す山田教授

遺伝子変異のないタイプのがんとは何ですか?

一般にがんは遺伝子の傷(変異)が積み重なって、遺伝子が正しい機能を果たせなくなって起きるとされています。しかし小児腎臓がんとしてよく知られている腎芽腫など、一部のがんでは遺伝子の傷が見つからないという報告もありました。

どのように研究したのですか?

実は、iPS細胞とがん細胞はどちらも無限に増殖する能力を持つという点で共通の性質を持っています。つまり、どちらにも共通する仕組みがあるかもしれません。私たちはマウスの体内で一時的に初期化因子(iPS細胞化する因子)を働かせ、不十分な初期化を起こしたところ、様々な組織でがんが生じていました。特に腎臓にできたがんを詳しく調べてみると、腎芽腫と同じ特徴を持っていました。

マウスの遺伝子は変化していないのですか?

少なくとも調べた限りでがんの原因となるような遺伝子の変化は見つかりませんでした。また、がんになった細胞からiPS細胞をつくり、キメラマウスを作ったところ、そのマウスの腎臓はがんになりませんでした。つまり、がんになるような遺伝子の変化はなかったと考えられます。

では何が変わったのでしょうか?

エピゲノムの状態が変わっていました。遺伝子の情報は同じでも、使う情報の組み合わせ方では大きく結果が異なります。この組み合わせ方をエピゲノムといいます。不十分な初期化によってエピゲノムの状態が変化し、がんになりやすいエピゲノムの状態になっていたと考えられます。

この研究はどのように役に立ちますか?

今回の結果から、ある種のがんは遺伝子の変異ではなく、エピゲノムの状態の変化で起こることが分かりました。将来的には、がん細胞のエピゲノムを変化させて、無害な細胞に変化させるという新しい治療法につながる可能性もあると考えています。また、エピゲノムの状態を変化させる手段としてiPS細胞技術を利用しました。疾患研究の新しい方法として期待できると思います。

研究のまとめ

筆頭著者紹介

大西 紘太郎(おおにし・こうたろう)
1981年岐阜県生まれ。岐阜大学医学部を卒業後、臨床医としての経験を積み、2009年から岐阜大学の消化器病態学講座に入学し研究を始めました。当時の上司から、よりよい研究環境をと山田教授を紹介され、CiRAで研究を始めることになりました。今後はがんとエピゲノム制御の変化の関係性について研究を進めていきます。

蝉 克憲(せみ・かつのり)
1983年大阪府生まれ。昆虫採集が好きで特にセミをよく採っていました。CiRAに移る前はエピゲノム変化と分化に関する研究をしていました。iPS細胞を樹立するときに起きるエピゲノムの変化に興味をもち、CiRAで研究をすることになりました。優秀な研究者が多いCiRAで、他の研究者に負けないように頑張っています。

【論文名】
Premature termination of reprogramming in vivo leads to cancer development through altered epigenetic regulation

【著者名】
Kotaro Ohnishi, Katsunori Semi, Takuya Yamamoto, Masahito Shimizu, Akito Tanaka, Kanae Mitsunaga, Keisuke Okita, Kenji Osafune, Yuko Arioka, Toshiyuki Maeda, Hidenobu Soejima, Hisataka Moriwaki, Shinya Yamanaka, Knut Woltjen, Yasuhiro Yamada

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研究成果⑤

移植に適した新しいiPS細胞の樹立・維持培養法

初期化機構研究部門の中川誠人講師らの共同研究グループによる研究成果が1月8日に英国科学雑誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載されました。中川講師にお話を伺いました。

移植に適した樹立・維持培養方法とはどういう方法ですか?

人の体に移植する細胞を作るためには、ヒト以外の動物由来の物質を含まず、また安定して生産するために極力工程数が少ない方法でiPS細胞を樹立・維持培養することが望まれます。

これまではどんな方法だったのでしょうか?

細胞を育てるために、動物の血清(血液の成分)を使う必要がありました。またiPS細胞を培養皿に貼り付けるためにマウスの細胞を使っていたため、まずマウスの細胞を貼り付けるという作業が必要で、工程数が多くなっていました。これまでにも同じような発想の研究はなされていましたが、iPS細胞を安定的に効率よく培養できる方法は報告されていませんでした。

記者会見に参加する研究者
(左から)千田将研究員(味の素株式会社)、中川講師、関口清俊教授(大阪大学)、
山本卓司プロジェクト・マネージャー(株式会社ニッピ)

新しい方法ではどのように変わったのでしょうか?

iPS細胞を貼り付けるために使っていたマウスの細胞の代わりに、ラミニンというタンパク質を培養皿に敷いてiPS細胞を貼り付けるようにしました。この条件で、動物由来の物質を含まず、効率よくiPS細胞が育つ培養液の組成を研究し、最適な組み合わせを見つけました。

今後どのような研究に発展しますか?

今回開発した方法は操作が比較的容易であり、誰でもiPS細胞を作ることができ、しかも再現性にも優れています。細胞移植での安全なiPS細胞の作製方法として有効であるだけではなく、さらには薬を選択する研究や疾患のメカニズムを解明する研究にも幅広く応用出来ると考えられます。

今回の方法でつくったiPS 細胞。線維芽細胞(Fibroblast)・T細胞(T cell)・T細胞以外の血液細胞(Non-T cell)、臍帯血(Cord blood)などからiPS細胞を作ることができた。

筆頭著者紹介

【論文名】
A novel efficient feeder-free culture system for the derivation of human induced pluripotent stem cells

【著者名】
Masato Nakagawa, Yukimasa Taniguchi, Sho Senda, Nanako Takizawa, Tomoko Ichisaka, Kanako Asano, Asuka Morizane, Daisuke Doi, Jun Takahashi, Masatoshi Nishizawa, Yoshinori Yoshida, Taro Toyoda, Kenji Osafune, Kiyotoshi Sekiguchi, and Shinya Yamanaka

本研究は、大阪大学、味の素株式会社と共同で実施されました。

Dialogue

CiRA×京大病院 第3回

移植に代わる心臓病の治療法を研究

京都大学医学部附属病院の心臓血管外科長で、副病院長も務める坂田隆造教授と、ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞を使って心臓病治療法の研究を進めている山下潤教授(CiRA増殖分化機構研究部門)が対談を行いました。

坂田教授から研究状況を尋ねられた山下教授は、現在進めている、細胞シート技術を用いてiPS細胞から作った心筋細胞を加工し、「心筋シート」を作り、心臓の機能の回復をはかることを目指す研究について説明しました。

梗塞を起こしたラットの心臓に心筋シートを貼ったところ、機能が回復し、手応えを感じていると山下教授は言います。しかし、シートは長く留まらず、1ヶ月で細胞がいなくなるという課題がありました。そこで、シートを重ねる枚数を増やしたり、重ねたシートの内部の細胞にまで酸素や栄養を届けるなどの工夫を施し、シート5枚を重ねて移植を始めました。すると、心筋シートの心臓への生着効率が大幅に上がり、3ヶ月まで心筋層として細胞が残っていることが確認されたそうです。心筋シートに栄養や酸素が行き渡るように移植するので、その移植片にも血管がつながり、心臓周辺の組織片が維持されているのです。

対談中の坂田教授(左)と山下教授

「組織の一部として長く生き残るのではないかと期待しています」と話す山下教授に対して、坂田教授は、「単に1ヶ月から3ヶ月へと時間的な延長が得られただけではなく、質的な飛躍があったのですね。画期的な進展だと思います」と賞賛しました。

坂田研究室の大学院生が山下グループの研究に協力しています。山下教授は、京大病院の医師による優れた心臓手術の技術が研究を進展させるための「生命線」になると語ると、坂田教授は、人材交流のおかげで「基礎研究を学ぶ良い経験になり、研究のレベルが随分と上がっている」と述べ、 京大病院とCiRAの連携の重要性を指摘しました。

また、iPS細胞由来の組織の安全性について、坂田教授が山下教授に尋ねました。「我々の方法は途中で細胞を純化することを原則としており、その段階で未分化の細胞はかなり除去されるため、安全性は担保されていると思います。同時に、iPS細胞そのものも改良によって格段に品質が良くなっています。これらを組み合わせることによって、さらに安全性を高めることができると思います」と山下教授は答えました。

Events

シンポジウム

市民公開シンポジウム
「ここまできたiPS細胞研究」を開催!

3月2日(日)、CiRA 主催の一般の方対象シンポジウムが、大阪ビジネスパーク円形ホール(大阪市中央区)にて開催されました。約390名の方がご参加くださいました。また、このイベントはウェブ上でも配信されました。

2013年度で終了する内閣府の最先端研究開発支援プログラム(FIRSTプログラム)のCiRAで実施された研究課題「iPS細胞再生医療応用プロジェクト」の中心研究者でもあった山中伸弥所長が研究成果とiPS細胞研究の最新の状況について講演しました。

続いて櫻井英俊講師が難治性筋疾患の治療法開発について、患者さん由来のiPS細胞を用いて、薬の候補を見つけるためのモデルができたことを紹介しました。

最後には妻木範行教授が軟骨の再生について、iPS細胞を使わずに皮膚細胞を軟骨細胞へと変化させた成果を報告する一方で、将来の治療を考えた時にはiPS細胞ストックを利用した方が時間的・費用的な面で有利であり、現在はその方向でも研究を進めていると話しました。なお、司会はフリーアナウンサーの関根友実さんが務めました。

シンポジウムの後半に行われた、質問コーナーの内容や講演動画については後日ウェブ上で公開予定です。

質問に答える山中教授(左)、櫻井講師(中)、妻木教授(右)

CiRA国際シンポジウム2014開催!

1月17日(金)にCiRA国際シンポジウム2014が、大阪府吹田市で開催されました。今回は、1月16日から18日まで開催された、公益財団法人武田科学振興財団主催のiPS細胞研究と創薬をテーマとする第7回薬科学シンポジウムと併催でした。約560名の国内外の研究者等が参加者し、盛況のうちに終了しました。




Column

倫理の窓から見たiPS細胞

STAP細胞論文をめぐる状況が示すこと

八代嘉美 准教授

酸性条件にした培養液に浸すことで、わずか一週間ほどで体細胞が多能性幹細胞になる、という論文が発表されたのは1月29日のことでした。これがいわゆるSTAP細胞(刺激惹起性多能性獲得細胞)で、これほど簡便な細胞の初期化法というのは他に類がなく、世界中から驚きをもって迎えられました。それから2ヶ月が過ぎ、STAP細胞をとりまく状況は一変し、「事件」と呼びうるような状況になってしまいました。

その主な理由は二つあります。一つは、科学研究にとって命ともいえる再現実験が困難である、と各国の研究者から寄せられたことです。論文では3 日目くらいで多能性を示す遺伝子が出現してくるとありますが、他の研究室ではその現象が全く観察できないということでした。もう一つは、多くの著者が所属する理化学研究所(理研) に対して、外部から論文の画像に対する疑義が寄せられたことです。画像の不自然な修正の痕跡が指摘され、理研が調査委員会を設置するに至りました。

一点目に関しては、理研は新しい実験手順書を公開しましたが、論文と内容が矛盾する箇所があり、大きな物議を醸しました。さらに、共同研究者だった米国人科学者から別の手順書が示されるなど、混迷の度を深めています。二点目では、委員会の調査の結果、STAP細胞の性質を示す極めて重要な画像に研究不正があるという結論に達しました。本稿執筆時点では不服申立て期間が終わっておらず、結果の確定はしていません。しかし、著者本人も委員会が指摘した行為の存在は認めています。

これら2つの点に共通するのは、論文に対する、読み手からの信用を大きく損ねるものであるということです。科学的な成果は、基本的には論文というテキストとデータによって提示されるものです。記された手順やデータの中に実際のものとは異なる、つまり読み手との信頼を裏切るものが数多く存在すれば、いかに画期的な研究成果であってもそれを認めることは難しくなります。それが、論文の根幹をなすデータであればなおさらです。

今回の様々な指摘は、インターネット上のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)等によって集約され、共有されていきました。現在は、世界中で情報にアクセス可能な時代です。研究者は従来の閉じたコミュニティだけでなく、「衆人環視」の下にあることを自覚して研究を行わなければならないことを、今回の事件が端的に示したといえるでしょう。また、どうしてこのようなことが起こったのか、論文を執筆する過程を詳らかにしていくことが、科学界全体にとって大きな教訓になるはずです。

(文:八代嘉美)

Members

CiRAで働く人々

iPS細胞の品質を評価する研究員

今回は、iPS細胞の医療応用に向けて、iPS細胞の品質評価を担当している研究員の梅景雅史さんにお話を伺いました。

研究員の梅景雅史さん

樹立されたiPS細胞の中でも良いiPS細胞株を選び、iPS細胞の品質を評価することは、iPS細胞を使った医療の安全性を確保する上で、非常に重要なプロセスです。CiRAでは、顕微鏡で細胞の形状を観察したり、DNA情報を読み取る最先端の機械による解析まで、様々な角度から複数の専門家がiPS細胞の評価をしています。

梅景さんは3名の技術員の取りまとめ役として、iPS細胞の評価を行う仕事に加えて、CiRA内の他の品質評価専門家のために細胞のサンプルを作製し、提供する業務も担当しています。

もともとは製薬企業に勤務していた梅景さん。大学との共同研究に携わっているうちに、「研究がおもしろくなってしまって」大学へ戻り、医科学の修士号を取得。CiRAへは、2012年1月から特定研究員として勤務しています。企業に勤めていたときは医薬品や試薬などの品質管理を担当しており、その経験も活かしてiPS細胞の品質評価に携わっています。

「iPS細胞の品質評価は、今できる『ベストサイエンス』でやるべきです。非常に高い基準ですが、安全なiPS細胞を提供するのが使命です」。緻密で正確な評価と、評価にかかる時間の短縮を両立するのが課題とのこと。

日々仕事をしながら感じているのは、将来使用される医療用iPS細胞の出発点となり、一番最初の基準となるものに携わる「プレッシャーというか、責任の大きさ。」

そんな重責に負けずに仕事にあたれる理由を尋ねると、「冗談を言い合える同僚がいるからですかね。それに、日本でトップレベルの技術・知識を持った先生方とよりよいiPS細胞の品質評価のためにディスカッションさせていただくのは刺激的。自分自身を成長させてくれていると思う」と話してくれました。

休日は、バイクや自転車を楽しむアウトドア派。CiRA の様々な研究者・スタッフと協力しながら、今日も梅景さんはiPS細胞の品質評価という重責を担い続けています。

Announcement

お知らせ

iPS細胞誕生時の資料が展示されています

2月11日に京都大学大学院医学研究科の基礎医学記念講堂・医学部資料館が完成し、初期化機構研究部門の高橋和利講師による、iPS細胞が樹立されたことを示す写真や山中伸弥教授とのディスカッションメモが展示されています。完全予約制で定期的に一般の方に公開される予定です。詳細は医学研究科のホームページをご覧ください。

京都大学大学院医学研究科の基礎医学記念講堂・医学部資料館に展示されている高橋講師の資料

記念講堂外観

CiRA news update

CiRAアップデート

4/1

研究支援部門に新たに「企画調整室」を設置しました。
新たな主任研究者として原田直樹特定准教授が基盤技術研究部門に着任しました。
井上治久前准教授が増殖分化機構研究部門の教授に昇任されました。

3/7

臨床応用研究部門の髙橋淳教授グループ、大阪大学、株式会社カン研究所による研究成果がステム・セル・リポーツに掲載されました。(4、5ページ

3/2

CiRA 主催の一般の方を対象とするシンポジウムを大阪市内で開催しました。(15ページ

3/2

「幹細胞ハンドブックーからだの再生を担う細胞たち」が大幅に改訂されました。CiRAホームページからもダウンロード可能です。

3/1

CiRA 動物実験施設の報道に関して、記者会見をしました。

2/14

臨床応用研究部門の江藤浩之教授グループによる研究成果が、科学誌に掲載されました。(6、7ページ

2/14

初期化機構研究部門の山田泰広教授のグループによる研究成果がセルに掲載されました。(10、11ページ

1/17

臨床応用研究部門の長船健二准教授のグループが、ヒトiPS細胞/ES細胞から効率よく腎臓の元となる中間中胚葉へと分化させる化合物を大規模スクリーニングにより発見し、論文がプロス・ワンに掲載されました。

1/17

CiRA国際シンポジウム2014が、武田科学振興財団の第7回薬科学シンポジウムと併催されました。(15ページ

1/8

初期化機構研究部門の中川誠人講師のグループ、大阪大学、味の素株式会社の共同研究の成果がサイエンティフィック・リポーツに掲載されました。(12、13ページ

1/7

iPS細胞研究基金を財源とするCiRA賞が創設され、教育・研究および研究所運営、社会貢献に顕著な功績のあった8名の教員に贈られました。

1/7

上廣倫理研究部門のホームページを開設しました。
http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/uehiro-ethics/

第4回大阪マラソンの
オフィシャル寄附先団体に選ばれました

このたび、CiRAは、第4回大阪マラソンのオフィシャル寄附先団体として認定されました。
大阪マラソンは7つのチャリティテーマを設定しており、CiRAはその1つである「生きる希望を支える」というテーマの寄附先団体として、特定非営利活動法人がんサポートコミュニティーと共に選ばれました。
ランナーの募集は4月3日から、大阪マラソンのウェブサイトで開始されました。
なお、大阪マラソンにおいて、CiRAを応援するチャリティランナーとしてのご参加を希望される場合は、CiRAウェブサイト上の3月31日付けニュースをご覧ください。

お問い合わせ:
・大阪マラソンについて : https://www.osaka-marathon.com/
・CiRAへのご支援について : ips-kikin@cira.kyoto-u.ac.jp / 075-366-7152 (基金事務局)

CiRA カフェ

CiRA カフェ、研究棟見学会 今後のスケジュール

CiRA カフェ :
5月17日(土)、7月5日(土)、9月6日(土)、12月6日(土)

研究棟見学会 :
6月6日(金)、7月5日(土)、8月1日(金)、9月6日(土)、
10月3日(金)、11月7日(金)、12月6日(土)、
2015年1月23日(金)、2月13日(金)

参加申込方法、開始時間等の詳細は、下記のウェブでご案内します。
http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/index.html

Editorial info

発行・編集

京都大学 iPS細胞研究所
(CiRA)国際広報室
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