CiRA
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Introduction

創薬研究

iPS細胞を使った創薬研究

iPS細胞を使った応用研究では再生医療がよく知られています。今年9月にはiPS細胞から作った網膜の細胞が患者さんに移植されるなど、大きく注目されています。しかし、iPS細胞の応用は再生医療だけにとどまりません。ここでは iPS細胞のもう一つの大きな可能性、創薬研究についてご紹介します。

ヒトと動物の仕組みの違い

病気を治す方法を研究するためには、様々な方法がありますが、まず患者さんの体のなかで一体どのようなことが起きているのか、しっかりと調べることが大切です。これまでは動物(ネズミなど)等を使って、ヒトと同じ病気の状態を作り、その状態を改善する薬の候補を見つけるという方法で研究が進められてきました。しかし、ヒトと動物とでは病気の仕組みが異なることもあり、動物では効果が見られるのに、ヒトでは効果が見られないということもよくありました。

病気の原因を探る難しさ

例えば神経細胞に異常がある病気の場合、患者さんから神経細胞を採取して何が起きているのか調べることができれば良いのですが、患者さんから神経細胞を採取することは不可能です。もし神経細胞をとってしまったら大きな麻痺が生じてしまいます。それにもし神経細胞を採取出来たとしても、神経細胞は分裂できないので、研究に使える細胞数は極わずかです。

iPS細胞の持つ可能性

こうした状況を解決できる可能性を持っているのがiPS細胞です。iPS細胞はほぼ無限に増殖することができます。また、体中の様々な細胞へと分化することができます。つまり必要な細胞を必要な数だけ用意することができるのです。

iPS細胞を使った創薬研究のまとめ(神経疾患の例)

iPS細胞を使った創薬研究のまとめ(神経疾患の例)

可能性が大きい創薬研究

まず患者さんから皮膚や血液等の細胞を採取させていただき、iPS細胞を作製します。iPS細胞を目的の細胞へと分化させると、患者さんの体の中の病気の状態の細胞を再現できることがあります。こうした細胞は、病気になるメカニズムや、症状を改善するための薬の探索など、様々な研究に利用できると考えられます。

このような疾患特異的iPS細胞を使った創薬研究は世界中で進められています。CiRAでも創薬研究には力をいれており、このニュースレターで具体的な成果をご紹介しています。

骨系統疾患での創薬研究についてご紹介します。

骨系統疾患は、軟骨・骨の発生・成長の異常により、低身長など、全身の骨格の形態や構造に系統的な異常をきたす病気で、その多くは遺伝子変異によるものと考えられています。4、5ページで紹介する妻木範行教授らによる研究では、骨系統疾患の中でも、II型コラーゲンの遺伝子変異が原因で起こるII型コラーゲン異常症と、線維芽細胞増殖因子受容体3型(FGFR3)の遺伝子変異が原因で起こる、軟骨無形成症(ACH)やタナトフォリック骨異形成症(TD)に焦点をあてています。現在のところ、これらの病気に対して根本的な治療薬は無く、薬の開発が待たれていますが、患者さんから成長軟骨を採取するのは難しく、また開発に必要なヒトの細胞モデルもありませんでした。

研究グループは、ヒトの皮膚の線維芽細胞からiPS細胞を樹立し、軟骨細胞を誘導し、さらに、軟骨細胞から細胞外マトリックスを形成し、軟骨組織を作る方法を開発しました。軟骨の構造は、軟骨細胞と、その周りで組織を支えて、クッション、伸び縮みなどの機能をもつ生体高分子である細胞外マトリックスからなります。この軟骨組織を作ることが難しかったのですが、iPS細胞から軟骨組織を誘導する方法を開発し、軟骨の病気が起こるしくみを明らかにしたり、治療薬を探したりできるようになりました。上記の疾患の患者さんからiPS細胞を作って、軟骨組織に誘導したところ、病気の特徴を反映した異常な軟骨が得られ、薬の開発や病態を解明するための疾患モデル系が構築できました。(詳しくは4、5ページをご覧ください。)

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New research

研究成果①&②

患者さん由来のiPS細胞を用いて骨系統疾患の病態を解明

増殖分化機構研究部門の妻木範行教授らの研究グループは、タイプの異なる骨系統疾患に関する2つの研究成果を9月に英国科学雑誌『ヒューマン・モレキュラー・ジェネティクス』と『ネイチャー』に発表しました。

妻木範行教授

妻木範行教授

研究成果①
II型コラーゲン異常症の研究『ヒューマン・モレキュラー・ジェネティクス』

今回、3つのアプローチでII型コラーゲン異常症の疾患モデルを構築しました。1つ目は、患者さんの線維芽細胞からiPS細胞を樹立し軟骨組織へと誘導する方法です。2つ目は、患者さんの線維芽細胞からダイレクトリプログラミングにより軟骨細胞を直接誘導する方法で、3つ目は、患者さんから樹立したiPS 細胞をマウスに移植して軟骨を含む奇形腫を形成させる方法です。いずれの方法でも、得られた軟骨組織に、II型コラーゲンの小胞体への蓄積やアポトーシス(細胞死)、細胞外マトリックスの異常など、患者さんの体内で見られるような現象が確認できました。これらの手法を、病態の生理学的な研究や創薬スクリーニングに活用できると考えています。

研究成果②
軟骨無形成症(ACH)やタナトフォリック骨異形成症(TD)の研究『ネイチャー』

患者さんから作製した疾患特異的iPS細胞モデルに、今までの様々な研究報告から軟骨の形成に効きそうな化合物をいくつか試しました。そのうち、スタチンを作用させると、軟骨細胞が増殖し、軟骨組織形成の異常が回復しました。また、疾患特異的iPS細胞モデルに加え、ACHモデルマウスにスタチンを腹腔内に投与した場合にも軟骨の形成が回復することから、スタチンがFGFR3遺伝子変異で起こるこれら疾患の治療に有効である可能性が示されました。

現状は、患者さんから作製したiPS 細胞を使った実験や、マウスを使った動物実験で効果が見られただけであり、実際に小児の患者さんの治療に使用するには更なる安全性や効果を検討する必要があります。安全性や効果がヒトでも確認された場合、ACH の実験で効果が見られたスタチンは、高コレステロール血症治療薬として既に臨床で使用されており、安全性や体内動態が臨床レベルで確認されていることから、通常の新しい医薬品を開発する場合と比較すると短期間で治療薬として承認される可能性があります。

ACHやTDの患者さんがスタチンを内服する(口から飲む)と、多くのスタチンが肝臓で分解されて、本来効果を期待している軟骨まで充分な量が届かないことが考えられます。また肝臓に作用して必要以上にコレステロールを下げてしまう危険性もあります。妻木教授は、「安全な使用法が確立されるまで、絶対に内服しないで下さい。検証には、時間がかかりますが、研究に精進いたします」と話しています。

タナトフォリック骨異形成症(TD)疾患特異的iPS 細胞の軟骨誘導に対するスタチンの影響

タナトフォリック骨異形成症(TD)疾患特異的iPS 細胞の軟骨誘導に対するスタチンの影響

軟骨組織の構造体である細胞外マトリックスは赤色に染色される。
ロバスタチンの投与により、TD患者さん由来iPS細胞株は軟骨組織を作った。(誘導28日後)

軟骨無形成症(ACH)モデルマウスにおけるスタチン投与による効果

軟骨無形成症(ACH)モデルマウスにおけるスタチン投与による効果

ロスバスタチンの腹腔内投与により、ACH モデルマウスの骨の長さが伸長した。(生後15日)

筆頭著者紹介

岡田 稔(おかだ みのる)

岡田 稔(おかだ みのる)
大阪府出身。子どものころはスポーツ、ラジコンの分解や改造などが好きで、自由に発想し、自分のアイデアが試せてクリエイティブな仕事ができる研究者を目指しました。大阪大学大学院では遺伝学の研究でES細胞・iPS細胞に出会い、博士号取得後、妻木研究室に研究員として所属しています。自ら考えて新しい視点や手法を見出すことを目指して、iPS細胞やダイレクト・リプログラミングの技術を用いた創薬や再生医療の研究に勤しんでいます。

【論文名】
Modeling type II collagenopathy skeletal dysplasia by directed conversion and induced pluripotent stem cells

【著者名】
Minoru Okada, Shiro Ikegawa, Miho Morioka, Akihiro Yamashita, Atsushi Saito, Hideaki Sawai, Jun Murotsuki, Hirofumi Ohashi, Toshio Okamoto, Gen Nishimura, Kazunori Imaizumi and Noriyuki Tsumaki

山下 晃弘(やました あきひろ)

山下 晃弘(やました あきひろ)
歯科医として病院勤務後、博士号を取得し、カルガリー大学(カナダ)へ留学。大学院、留学時代を通じてES細胞を用いた骨・軟骨への分化誘導の研究を行ってきましたが、ヒトのiPS細胞を用いた研究を行うため2012年よりCiRAに所属しています。現在は、ヒトiPS細胞由来軟骨を用いた軟骨再生と、骨系統疾患に対する病態解明と創薬研究を行い、研究成果を患者さんへ届けられるよう努力を続けています。

【論文名】
Statin treatment rescues FGFR3 skeletal dysplasia phenotypes

【著者名】
Akihiro Yamashita, Miho Morioka, Hiromi Kishi, Takeshi Kimura, Yasuhito Yahara, Minoru Okada, Kaori Fujita, Hideaki Sawai, Shiro Ikegawa and Noriyuki Tsumaki

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New research

研究成果③

ヒトゲノムの中にあるレトロウイルスが
iPS細胞の初期化・分化の鍵をにぎる

初期化機構研究部門の高橋和利講師、大貫茉里研究員(現ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(元CiRA))、山中伸弥教授らの研究グループによる研究成果が8月5日に米国科学雑誌『米国科学アカデミー紀要』に掲載されました。高橋講師に詳しい内容を伺いました。

初期化の過程でHERV-Hの発現量を調べた。
初期化途中で、HERV-Hが一時的に活性化し、
発現が高くなっていることが分かる。

どのような研究をしているのですか?

体の細胞に初期化因子と呼ばれる4つの遺伝子を入れてやると、iPS細胞を作ることができます。しかし、iPS細胞の中には、他の細胞へと分化(変化)させようとしてもしない細胞(分化抵抗性iPS細胞)があります。過去の研究から、分化抵抗性iPS細胞ではHERV-Hというヒトのもつ内在性レトロウイルスが活性化していることが分かっていました。そこで、HERV-Hが活性化することが、iPS細胞の作製においてどのような意義があるかを調べました。

ヒトの中にウイルスがあるのですか?

今回の研究で着目したHERV-Hは、HERVというヒトのゲノムの中にあるウイルスの一種です。HERVはレトロウイルスが進化の過程でヒトのゲノムの中に組み込まれ、その配列がコピーされ、様々なところに挿入されて遺伝的に受け継がれていったもので、ヒトゲノムの8%を占めます。ウイルスと言っても、私たちみんなが持っているもので、悪さをするものではありません。

記者会見に臨む高橋和利講師(右)と山中伸弥教授

記者会見に臨む高橋和利講師(右)と山中伸弥教授

どのようなことが分かったのですか?

私たちは、iPS細胞へと初期化(体の細胞が、あらゆる細胞になれる未分化の状態にリセットされること)される途中でのHERV-Hの発現を調べてみました。すると、初期化の途中でHERV-Hが一時的に活性化し、発現が増加することが分かりました。そして、HERV-Hの一時的な活性化が初期化を促し、iPS細胞の作製や完全な初期化に必要であることが分かりました。また、HERV-Hの働きが抑制されず異常に活性化したままであると、他の細胞に変化させようとしてもしない分化抵抗性をもつようになることが分かりました。

今後どのようなことが期待されますか?

今回の研究で、体の細胞がiPS細胞になる過程では、ゲノムの中のレトロウイルスの一時的な活性が鍵となることがわかりました。体の細胞が初期化されてiPS細胞になるメカニズムにはまだ分からないこともありますが、今回の研究でその一端が明らかになりました。今後、他の細胞になる能力の高い高品質なiPS細胞を効率よく安定的に作れるような技術につながると期待されます。

【論文名】
Dynamic regulation of human endogenous retroviruses mediates factor-induced reprogramming and differentiation potential

【著者名】
Mari Ohnuki, Koji Tanabe, Kenta Sutou, Ito Teramoto, Yuka Sawamura, Megumi Narita, Michiko Nakamura, Yumie Tokunaga, Masahiro Nakamura, Akira Watanabe, Shinya Yamanaka, and Kazutoshi Takahashi

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New research

研究成果④

細胞を見つけて制御するRNPナノ構造体の構築に成功

齊藤博英教授

齊藤博英教授

初期化機構研究部門の齊藤博英教授らの研究成果が、7月24日に米国科学誌の『エーシーエス ナノ』に掲載されました。齊藤教授にお話を伺いました。

今回の発表について簡単に教えて下さい

RNPナノ構造体が1辺約20nmの正三角形状の構造へと変化する様子を、高速原子間力顕微鏡という装置を用いて初めて観察しました。(図1)また、このRNPナノ構造体に標的とする乳がん細胞を認識する能力を持たせることに成功しました。

RNPナノ構造体とはなんですか?

RNA(リボ核酸)とタンパク質から構成される構造体のことです。RNAの鎖にL7Aeというタンパク質が結合することで、正三角形の構造ができます。(図1)この構造体は血液中で分解されにくく、他の機能を持った構造を組み込むことができるため、薬を目的の細胞へと届けるシステムなどへの活用が期待されています。

今回構築した構造体はどのような性質のものなのでしょうか?

正三角形のRNPナノ構造体を足場に、Affibodyというペプチド(小さなタンパク質)を結合させました。Affibodyは乳がん細胞の目印となるHER2というタンパク質と特異的に結合するペプチドです。これを持つことで、RNPナノ構造体は乳がん細胞とは結合しますが、HER2を持たない他の細胞とは結合しませんでした。

また、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子の働きを抑えるsiRNA配列を組み込んだRNPを作り、GFP遺伝子が常に働いている細胞へと作用させたところ、GFPの働きを抑えることに成功しました。(図2)

この技術は将来どんなことに使えるのですか?

今回の研究で、RNPナノ構造体にがん細胞を特異的に認識したり、ある遺伝子の働きを抑えるなどの様々な機能を持たせるための基盤となる技術を開発しました。この技術を使うことで、働きかけたい細胞を見分け、その細胞の機能だけを制御するようなRNPナノ構造体をつくることが期待できます。つまり必要な細胞にだけ薬物を届けるシステムや、生きたまま生物の様子を見るための生体イメージング、またiPS細胞分化の際に問題となる未分化細胞を選別し、選択的に細胞死を誘導することなど、様々な応用が期待できます。

図1 特定の乳がん細胞と選択的に結合するRNPナノ構造体

図1
特定の乳がん細胞と選択的に結合するRNPナノ構造体

左側:設計イメージ
右側:高速原子間力顕微鏡による観察像

図2 siRNAを組み込んだRNPナノ構造体の効果

図2
siRNAを組み込んだRNPナノ構造体の効果

GFPの働きをsiRNAを組み込んだRNPが充分に抑えた。

【論文名】
Engineering RNA-protein complexes with different shapes for imaging and therapeutic applications

【著者名】
Eriko Osada, Yuki Suzuki, Kumi Hidaka, Hirohisa Ohno, Hiroshi Sugiyama, Masayuki Endo, and Hirohide Saito

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研究成果⑤

iPS細胞作製技術を応用して
人工大腸がん幹細胞の作製に成功

初期化機構研究部門の大嶋野歩研究員と神戸大学大学院医学研究科の青井貴之特命教授(元CiRA)らのグループによる研究成果が7月10日に米国科学雑誌『プロス・ワン』に掲載されました。

がん組織は多様ながん細胞で構成されますが、その中に「親玉」であるがん幹細胞があります。がん幹細胞は、自らの性質を維持して増える特徴と自身以外の多様ながん細胞を生み出す性質をあわせ持っていて、がんの再発や転移、治療が効かなくなる原因とされています。がん幹細胞を「たたく」ことが、がんの治療につながると期待されていますが、がん組織の中にあるがん幹細胞は非常に少なく、体外に十分量を取り出すことが難しいため、これまで詳しい解析が行われにくかったのです。

今回の研究のまとめ

今回の研究のまとめ

今回の研究では、ヒトの大腸がん細胞にiPS細胞の作製に用いる3つの遺伝子を導入し、通常がん細胞に用いる(iPS細胞作製とは異なる)方法で培養することで、大腸がん幹細胞と同様の特徴をもつ細胞を作ることに成功しました。そして、この人工大腸がん幹細胞を選択的に回収することにも成功しました。さらに、マウスへくり返し移植する実験で、この細胞が、がん幹細胞の性質を維持しつつ自らも増え、実際の大腸がん組織に似た特徴をもった多様な細胞からなる腫瘍をくり返し造れることが分かりました。

今回、たくさんの量の大腸がん幹細胞に類似した細胞を人工的に作れたことで、がん幹細胞のがん組織中での働きや、大腸がん幹細胞の生い立ちなどの詳しい研究が可能になると考えられます。

筆頭著者紹介

大嶋 野歩(おおしま のぶ)

大嶋 野歩(おおしま のぶ)
大阪府生まれ。消化器外科医として勤務しながら、iPS細胞技術をがん研究にも生かすべく、山田研究室にて研究をしています。がん幹細胞を標的とする新規の診断・治療法開発をめざし、さらなる研究を、慎重かつ懸命に取り組んでいきます。

【論文名】
Induction of Cancer Stem Cell Properties in Colon Cancer Cells by Defined Factors

【著者名】
Nobu Oshima, Yasuhiro Yamada, Satoshi Nagayama, Kenji Kawada, Suguru Hasegawa, Hiroshi Okabe, Yoshiharu Sakai, Takashi Aoi




Dialogue

CiRA×京大病院 第5回

新しいがん研究へのアプローチ

京都大学医学部附属病院のがん薬物治療科の武藤学教授と、
iPS細胞を用いてがんの研究を進めるCiRA初期化機構研究部門の山田泰広教授が対談しました。

京都大学医学部附属病院 武藤学教授

京都大学医学部附属病院
武藤学教授

武藤:がんがなぜ悪性になっていくのか、iPS細胞の作製技術をタイムマシーンのように使って細胞を前の段階に戻し、そこで動いているものが何かを突き詰めて研究を進めておられるのですよね。

山田:体の細胞の運命を自由に変えることができるのがiPS細胞ですが、それをがん細胞に応用してその運命を変える試みやiPS細胞作製技術を使ってがんの性質を知る研究をしています。

武藤:どんな点にフォーカスを絞っておられるのか教えてください。

山田:がんの原因としては、遺伝子についた傷が蓄積して起こるという概念が広く知られていますが、遺伝子の使い方であるエピジェネティックの異常も重要だとわかってきました。ゲノム上にある遺伝子はいろいろな細胞で共通していますが、使い方は細胞によって異なります。こうした、どの遺伝子をどう使うかという制御がエピジェネティックで、がんになるとおかしな使い方になることもわかっています。そこで、細胞の運命と同時に遺伝子の使い方も変えるiPS細胞によって、遺伝子の傷はそのままに使い方だけを人工的に変えることでその役割を解明しようとしています。これまで遺伝子の使い方を積極的に変える技術はほとんどなかったので、新しいアプローチで研究ができ、気づかなかったがんの性質を知ることもできます。

CiRA 山田泰広教授

CiRA
山田泰広教授

武藤:新しい医療技術は、動物から人間に持っていくのが最もハードルが高いのですが、がんの治療や研究を横断的に行うがんセンターやキャンサーバイオバンクなど、京大病院は先生方の研究成果を患者さんにフィードバックできる体制を整えています。

山田:私たちの実験で得られた知見をヒトに戻すことで、さらに価値のある研究になりますので、京大病院との連携が何より重要です。特にキャンサーバンクは、私たちが実験で何かを見つけたときに、すぐに実際の患者さんのデータに照らし合わせて解釈できるので心強いです。

(対談の全文は、『京大病院広報』でご覧いただけます。http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/outline/pr.html




Event

iPS細胞研究基金

第4回大阪マラソンのチャリティランナーと合同練習会を開催しました

今年10月26日の第4回大阪マラソンでCiRAが公式寄付先団体の1つに選定されており、約80名の「チャリティランナー」が、募金活動を支援するウェブサイト「JustGiving」を通じて寄付を募って下さっていました。9月5日に、iPS細胞研究への理解を深め、募金活動を応援するために、チャリティランナーの方々との合同練習会を開催しました。

ランニング前に集合写真をエントランスホールで撮影

ランニング前に集合写真をエントランスホールで撮影

当日の午前10時、色とりどりのマラソンウェアに身を包んだチャリティランナー30人と40人を超える報道陣がCiRA講堂に集まりました。練習会には、大阪マラソンのチャリティアンバサダーを務める山中伸弥所長と、チャリティランナーとしてマラソンを走る予定の長船健二教授(増殖分化機構研究部門)、渡辺亮助教(初期化機構研究部門)も参加しました。

最初にスタッフがiPS細胞研究所や練習会の説明をした後、山中所長が寄附募集協力へのお礼とこれから始まるランニングへの意気込みを話しました。ランナーをサポートするために走るスタッフを含む参加者全員がエントランスホールで準備体操をして、いよいよスタート。研究棟玄関前に並んだメディアのカメラの列を横目に鴨川河川敷へ!

走り始める頃には、止んでいた雨が降り出しました。それでも、東京、栃木、徳島など各地から参加してくださったランナーは、楽しそうに走ります。荒神橋から北へ向かって賀茂大橋の下を通り、出雲路橋でUターン。スタッフから配られた水を飲んで、後半2kmを走りきり、KKR京都くに荘の日本庭園でゴール。山中所長と握手して約5kmの練習ランが終了しました。

小雨が降るなか鴨川沿いを走るチャリティランナー

小雨が降るなか鴨川沿いを走るチャリティランナー

参加者のチャリティランナーからは、「楽しかった。iPS細胞研究所に寄附して良かった」という声や、「もっと周りの人に寄附を呼びかけようと思います」というありがたい声をいただきました。

なお、今回の練習会ではKKR京都くに荘様のご厚意により、無償でロッカーと大浴場を使用させていただきました。

CiRAでは、前号でお伝えした支出予算のとおり、2014年度に入ってiPS細胞研究基金からの支出が増加しており、積極的に一般の方々からのご寄附を募っています。今後も、皆様のご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

山中伸弥教授が、
第4回神戸マラソンの完走を目指して寄附を募ります!

第4回神戸マラソン(2014年11月23日開催)に、山中伸弥教授がフレンドシップランナーとして出場します。

京都大学医学部附属病院 武藤学教授

寄附募集用ページ
URL:http://justgiving.jp/c/11106

神戸は、山中教授が神戸大学医学部時代を過ごした街です。阪神淡路大震災から約20年。山中教授の希望で、「iPS細胞研究基金」と「神戸マラソンフレンドシップバンク」へのご寄付を募るためにJustGivingに寄附募集用のページを設置しました。

右記ページからのご寄附は、半額がCiRA、半額が神戸マラソンフ レンドシップバンクに振り込まれます。

ご支援や周知広報にご協力いただきますようお願いします。

【お問い合わせ先】
京都大学iPS 細胞研究所 iPS 細胞研究基金事務局
Tel: 075-366-7152
Mail: ips-kikin@cira.kyoto-u.ac.jp




Column

倫理の窓から見たiPS細胞

こどものイヤイヤ期を通して~納得のもつパワー

鈴木美香研究員

鈴木美香研究員

4歳になる息子が「魔の2歳児」と言われるイヤイヤ期だったころの話です。自宅から保育園まで、大人の足なら10分もかからない道を、1時間近くかけて通っていたことがあります。服を着ることすら気に入らない息子をなんとか連れ出し、まだカタコトしか話せない(いや、カタコト話せるようになった!)息子に私は聞きます。「今日はどっちから行く?」

いいぞ、今日はすんなり国道コース、このまま行けば最短ルートです。しかし事はそう思うように進みません。大人の目には何の変哲もない道ですが、息子はすべてのものに興味を示します。電柱(なんだこの太くて硬いものは)、自動販売機(あ、フタが開く!何か入っているのかなぁ?)、道端のねこじゃらし(ツンツンしてみよう!)、アリにダンゴムシ(うわぁ、い~っぱい!どこにいくの?待って~!)といった具合です。

とにかく忙しい朝、えいっと抱きかかえ、泣きわめく息子を連行したこともありました。ですが、保育園に着く頃には私も息子もヘトヘト、私も泣きたいくらいでした。

ところが2週間もした頃でしょうか、息子は、電柱(はい、オッケー!)、自動販売機(そうそう、このフタ、開くんだよね)、ねこじゃらし(触ると気持ちいいなぁ!)、アリにダンゴムシ(いるいる~、どこにいくの?待って~!)と再確認するかのようになり、通園時間はだいぶ短縮されたのです。まるで、世の中のものひとつひとつを自分で確認し、「納得」したかのようでした。納得するとずんずん自ら行動し、その生き生きとした姿といったらありません。

最近、iPS細胞から作製した網膜色素上皮細胞を、世界で初めて患者さんへ移植したというニュースがありました。こうした臨床研究の実施の陰には、患者さんと研究者を中心に、様々な立場、様々な職種の人がかかわっています。私自身、臨床研究を支援する専門職として、研究を支援するとはどういうことか、考えさせられる日々です。

イラスト:田中麻衣子

イラスト:田中麻衣子

たとえば、臨床研究には協力してくださる患者さんの存在が欠かせません。患者さんがこどものこともあります。診察や治療に専念している患者さんに、どのように研究への協力をお願いするか、どう理解してもらい、そして「よしわかった。それなら協力しようじゃないか」と納得した上で参加してもらえるか、そんなことを考えるのも私たちの大切な仕事です。

息子とのやりとりから、いかに「納得する」ことが自ら動く原動力となるか気づかされます。そして、「どう納得してもらうか」のヒントも見えてきた気がします。子育てや研究の現場でかかわる方々とのやりとりを通して得られるたくさんのことも活かし、私も納得しながら進みたいと思います。

(文:鈴木美香 上廣倫理研究部門 特定研究員)




CiRA members

CiRAで働く人々

疾患メカニズムの解明に取り組む大阪娘

今回は、患者さん由来のiPS細胞を用いて、染色体や遺伝子の複数の異常が積み重なって発生する疾患のメカニズム解明に取り組んでいる西中瑶子研究員にお話を伺いました。

西中さんは、中畑龍俊教授の研究グループの一員として、ダウン症患者さんで発症リスクが高い特殊な血液の病気(一過性骨髄異常増殖症)と、その後発症する白血病に注目しています。

この疾患に関係する遺伝子異常は胎児の段階で起こるため、これまでは発症メカニズムの解明が困難でしたが、iPS細胞技術を使って病気の仕組みが明らかにできるかもしれません。

西中さんは、ダウン症の患者さんの血液からiPS細胞を作製し、これを血液細胞に分化させ、体外で病気になっていく過程を再現することにより、患者さんにみられる遺伝子異常と病気の発症との関係について研究しています。

幼少のころ病弱だったことから、医療への道を志した西中さん。当初は、病院で血液検査や心電図検査、エコー検査などを手掛ける臨床検査技師を目指していましたが、病院実習で難病に苦しむ患者さんに出会い、難病の根本的な治療法を見つけ出したいと思うようになったのです。中学・高校で理科の実験が大好きだったこともあって、難病の病態を解明し、予防に活かすために研究者に転身しました。

西中瑶子研究員

西中瑶子研究員

そんな西中さんのモットーは、「うまくいかないかもしれないと悩むより、とりあえず手を動かす。」これと決めたら集中して実験に取り組む西中さんの研究スタイルは、大阪で育まれた明るい性格とも相まって、研究室のメンバーの間でもよく話題になるそうです。

旅行が趣味という西中さん。特に城や教会などの古い建築物がある町を訪れるのが好きで、夏休みにはベルギーを旅行し、最近では「天空の城」として話題の竹田城跡(兵庫県朝来市)を雨の降るなか訪れたとのこと。スペイン料理にも凝っていて、休日の夜にはバル(スペイン式居酒屋)でタパスをつまみながらワインを傾けているそうです。

CiRA news update

CiRAアップデート

9/18

研究成果②が発表されました。研究成果②が発表されました。(4-5 ページ

9/17-19

今年度3回ヒトiPS細胞樹立・維持培養の実技トレーニングを開催しました。

9/6

第21回CiRAカフェ「血液のもとになる細胞~造血幹細胞ってなに?~」を開催しました。大澤光次朗助教がさまざまな血液の細胞を作り出す造血幹細胞とその研究について紹介しました。

9/5

大阪マラソンの練習会を開催しました。(12-13 ページ

9/3

研究成果①が発表されました。(4 ページ

8/22-25

京都大学ブースを担当した職員とスリスティオノさん(左から2人目)

京都大学ブースを担当した職員とスリスティオノさん(左から2人目)

インドネシアのボゴールで開催されたアセアン科学技術イノベーション展示会において、CiRAは京都大学代表としてブース出展しました。川口義弥教授グループのインドネシア出身研究者ベニ・スリスティオノさんがiPS細胞研究を紹介しました。約800人がブースを訪れました。

8/15

堀田秋津助教らによる共同研究において、ピギーバックベクターを用いた遺伝子導入により、血友病Aモデルマウスの血液凝固機能を改善することに成功したことを報告した論文が、『プロスワン』に掲載されました。

8/5

研究成果③が発表されました。(6-7 ページ

7/30

京都市教育委員会が主催する「未来のサイエンティスト養成事業」の一部として、中学生対象のイベントをCiRAで実施しました。金子新准教授が講師となり、iPS細胞を使った免疫細胞の研究について話し、参加者はいろいろな細胞を顕微鏡で観察しました。

7/24

メディア対象の勉強会を東京都内で開催しました。上廣倫理研究部門の八代嘉美准教授がiPS細胞研究に関する倫理課題について説明しました。CiRA講堂にも生中継され、約50人のジャーナリストが参加しました。

研究成果④が発表されました。(8-9 ページ

7/10

研究成果⑤が発表されました。 (10 ページ

7/8

山中教授が新経済連盟の第1回イノベーション大賞を受賞しました。

7/5

第20回CiRAカフェ「iPS細胞のエラーを見つけよう!」を開催しました。Miki and Shoheiの演奏のあと、渡辺亮助教がiPS細胞研究におけるゲノム解析について説明しました。

7/4

長船健二教授が日本腎臓学会大島賞を受賞しました。

Editorial info

発行・編集

京都大学 iPS細胞研究所
(CiRA)国際広報室
〒606-8507
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表紙の写真
9月5日に開催された大阪マラソン・チャリティランナーと鴨川沿いを走る山中伸弥所長