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iPS Cell Research Fund

CiRAの新しい目標

CiRAの新しい目標 ー 2030年に向かって

2015年4月にiPS細胞研究所は設立6年目を迎えました。2010年4月の開所当初は、研究室数は17、構成員も120人程度でしたが、現在では、31研究室に300人をはるかに超える研究者や研究支援者が働いています。また、この3月には、地上5階地下2階の第2研究棟も竣工しました。

2020年までの目標は順調に進捗

この5年間を振り返ると、研究活動も順調に進展しています。研究所開設当初に掲げた2020年までの目標も達成するめどがつきました

〈1〉の目標であった安全なiPS細胞作製の技術はほぼ確立しました。また、世界30カ国1地域でiPS細胞の基本特許も取得しています。

〈2〉については、2013年に再生医療用iPS細胞を樹立し、現在、そのiPS細胞をさまざまな細胞に分化させて使用する研究機関が、分化能力の評価を行っています。

〈3〉 の目標も、パーキンソン病や血液疾患などで非臨床試験と呼ばれる動物実験で安全性を確認し、数年以内に臨床研究に進む研究があります。

〈4〉の創薬研究についても、 軟骨無形成症ではある既存薬が効果的であることを動物レベルで確認し、現在、人への応用の可能性について鋭意研究を進めています。

2030年に向けた目標

2030年に向けた長期目標

そして、今月、開所から6年目を迎え、iPS細胞を用いた研究を一層発展させるために、2030年に向けた長期目標を以下のように策定しました。

1つめの目標は、現在構築を進めている医療用iPS細胞ストックを用いた再生医療を一般的な治療へと展開することを目指すものです。 患者さんご自身の細胞からiPS細胞を作製し、それを分化させた細胞を移植する自家移植より、健康な方の細胞から作られ、予め安全性の確認されたiPS細胞由来の細胞を用いることにより、コストを抑え、短期間で実施できる治療になると考えられます。

2つめの目標では、患者さん由来のiPS細胞を活用することにより、細胞レベルで特定の薬が患者さんに効くか、効かないかを調べ、その情報を活かした患者さんに合った医薬の開発を実現することを目指します。また、既存薬等を利用した難病の治療薬開発も引き続き進めます。

3つめの目標は、iPS細胞をツール(道具)として用いることにより、がんや免疫、発生などの生命現象をよりよく理解する研究を進めたいと思います。そして、それらの新知見に基づく新しい医療の分野を開拓していきたいと考えています。現状ではあくまでアイディアの段階なので、時間はかかるかもしれませんが、糖尿病に対してのインスリン注射の代替となる治療法や、新しい概念の抗がん剤が開発できるかもしれません。

4つめの目標では、現在の研究支援体制を充実させ、日本で最高レベルの研究環境を構築するものです。これを実現するには、優秀な研究支援者の長期的、かつ安定的な 雇用が不可欠ですので、iPS細胞研究基金へのご支援を引き続きお願い申し上げます。

年度始めの所内集会において山中伸弥所長は、「開所以来、順調に研究活動が進み、10年間の目標の達成は間違いないと確信しています。そこで、現在の研究活動を発展させるために、2030年までの新たな目標を設定しました。

CiRAの研究者と研究支援員の一人ひとりが、 iPS細胞の医学応用という使命に向けて、今回示した2030年までの長期目標をしっかりと心して、これまで以上に職務に励んで下さい」と CiRA構成員に述べています。これらの目標の実現を目指して、 研究所員一丸となって研究活動に取り組んでまいります。 今後とも、ご指導、ご支援賜りますようお願い申し上げます。




Event

イベント

一般向けシンポジウムを開催しました!

3月14 日(土)、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)と一般財団法人先進医療推進機構(AMPO)が主催するシンポジウム「先端医療 〜治らない病気への挑戦〜」を、京都劇場にて開催しました。
755名の参加者が会場にお越しくださいました。また、 講演やパネルディスカッションの模様はU-STREAMにてインター ネット配信され約170名の方にご覧いただきました。

藤堂具紀教授

藤堂具紀教授

山中伸弥所長

山中伸弥所長

澤芳樹教授

澤芳樹教授

山中伸弥所長

藤田みさお准教授

今回のシンポジウムでは、まず、新しいがん治療の方法としてウイルス療法を開発されている藤堂具紀教授(東京大学)、細胞シートを用いて心筋の再生に挑戦されている澤芳樹教授(大阪大学)という、日本の先端医療をけん引する代表的な2先生にお話をしていただきました。その後、CiRAから所長の山中伸弥教授と上廣倫理研究部門の藤田みさお准教授が登壇し、フリーアナウンサーの河内理恵さんが司会を務めました。

藤田准教授は1968年に実施された心臓移植について取り上げ、 倫理的な課題について充分に議論がなされていなかったことが、社会の不信感につながり、定着に時間がかかったことを紹介し、iPS細胞技術は今、倫理的課題について社会全体で考えて議論することが重要であると訴えました。

シンポジウム後半は、参加者から事前に頂いた質問に対して4名の講演者がそれぞれ回答しました。 本シンポジウムの講演動画は、後日CiRAホームページ上で公開する予定です。

また、2015年度は7月26日に東京で開催する予定です。
詳細が決まりましたらホームページでお知らせ致します。




Event

イベント

第4回京都マラソンで山中伸弥所長が自己新記録達成

2月15日(日)に開催された第 4 回京都マラソンに、CiRAから山中伸弥所長、戸口田淳也副所長、東健太郎特命准教授が出場しました。

沿道からの声援に手を振る山中所長、東特命准教授

沿道からの声援に手を振る山中所長、東特命准教授

ゴール直前の戸口田副所長

ゴール直前の戸口田副所長

山中、戸口田両教授の京都マラソン出場は、第1回大会以来の3年振り2度目になります。第1回大会は、山中所長が完走を目指して寄付を募った初めてのマラソン大会であり、かつ自己ベストを達成した大会でもありましたので、京都マラソンは特に思い入れが強く並々ならぬ意気込みで臨みました。

当日は若干肌寒く、ときおり小雨が降るコンディションの中、山中教授は中間地点までほぼ4時間ちょうどのペースをキープ、沿道からの温かい声援にも支えられ、後半は一気にペースを上げ、最終タイムは3時間57分31秒の自己新記録となる初のサブ4(4時間切り)を達成しました。足を痛めていた戸口田教授は4時間12分25秒でフィニッシュ、山中教授のペースセッティング役をつとめた東准教授のタイムは3時間57分29秒でした。

京都マラソンの応援大使をつとめた山中所長は、ゴール直後の会見で、「今日は体調もよく、後半にペースを上げることができたと自己新記録達成の要因を述べ、「研究でも地道に完走を目指したい」と語りました。

第1回大会同様、今回も京都マラソンの完走を目標に、オンライン寄付募集サイトのJAPANGIVINGを通じてiPS細胞研究基金への寄付を募り、250名を超える方々から合計174万8千円のご支援をいただきました。

沿道で応援くださった方々、ご寄付をくださった方々に心より感謝申し上げます。

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研究成果①

関節軟骨損傷の再生治療を目指して

CiRAの妻木範行教授(増殖分化機構研究部門)らのグループが、関節軟骨損傷の再生治療法開発を目指した、ヒトiPS細胞からの硝子軟骨作製について米国科学雑誌『ステム・セル・リポー ツ』オンライン版にて報告しました。今回の成果について、妻木教授にお話を伺いました。

記者発表に臨む妻木教授と筆頭著者の山下晃弘研究員

記者発表に臨む妻木教授と筆頭著者の山下晃弘研究員

硝子軟骨とは耳慣れない言葉ですが、どのようなものですか?

正常な関節軟骨を形づくるのが硝子軟骨です。関節軟骨は骨の端をクッションのように覆い、私達の日常動作をスムーズに行うために欠かすことができません。硝子軟骨には血管が通っていないこともあり、一度傷つくと再生しない上に、損傷した箇所の周囲の硝子軟骨が機能の劣る線維軟骨に変わり、周りが変性することで痛みが生じることがあります。怪我などによる関節損傷の患者さんは毎年1,000 〜10,000人くらい生じていると言われています。

今回の研究成果について教えてください。

ヒトiPS細胞から効率よく軟骨組織を作り出す方法を確立し、得られた軟骨組織塊をマウス、ラット、ミニブタに移植してその安全性や機能について調べました。免疫不全のマウスの皮下に移植したところ、3ヶ月に渡り腫瘍を作らずに生着していることが確認できました。また、免疫不全のラットや免疫抑制剤を投与したミニブタ(約30 kg)の膝関節に移植したところ、1ヶ月にわたり移植した軟骨組織が生着し、近接する生体内の軟骨細胞と融合する能力があることが明らかになりました。

ヒトへの移植に必要な量の軟骨組織を培養できるのですか?

今回、私達が開発した方法では、3.5 cmの培養皿ひとつあたり約15個の軟骨組織塊ができ、それぞれの塊に含まれる7万個の細胞のほとんどが軟骨細胞であることを確認しました。部分的な関節軟骨損傷を治療するためには、約200 〜1000万個の軟骨細胞が必要で、3.5 cmの培養皿2枚〜10枚で十分量を得ることができます。

すぐに臨床研究が始まるのですか?

今回の研究成果は研究室内で、動物成分が含まれる研究用の試薬等を用いて作製した軟骨組織塊の機能と安全性を動物実験により確認したものです。今後、ヒトに用いることのできる安全な試薬を用い、臨床用の細胞を扱うことのできる細胞調製室内で、高品質の硝子軟骨を十分量作り出すことができるように、分化方法を調整する必要があります。加えて、動物実験を通して安全性と有効性の確認を十分に行う必要があります。

ヒトiPS細胞から軟骨組織塊をつくり、マウス、ラット、ミニブタでその機能と安全性を確認した。

ヒトiPS細胞から軟骨組織塊をつくり、マウス、ラット、ミニブタでその機能と安全性を確認した。

【論文名】
Generation of scaffoldless hyaline cartilaginous tissue from human iPS cells

【著者名】
Akihiro Yamashita, Miho Morioka, Yasuhito Yahara, Minoru Okada, Tomohito Kobayashi, Shinichi Kuriyama, Shuichi Matsuda and Noriyuki Tsumaki

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研究成果②

FOPの病態再現と創薬に向けた新たな一歩

増殖分化機構研究部門の戸口田淳也教授、池谷真准教授らの研究グループによる研究成果が
『ステム・セルズ』に掲載されました。池谷准教授にお話を伺いました。

記者会見に臨む戸口田教授(左)、池谷准教授(中)、松本佳久さん(現名古屋市立大学外科臨床研究医:右)

記者会見に臨む戸口田教授(左)、池谷准教授(中)、
松本佳久さん(現名古屋市立大学外科臨床研究医:右)

今回の成果はどのようなものですか。

これまで私たちは、FOP(進行性骨化性線維異形成症)患者さんの皮膚の細胞から作った疾患iPS細胞を軟骨に変化(分化)させてFOPの病態を再現し、FOPでない方由来の対照iPS細胞から作った軟骨と比較した成果を報告していました。今回は、患者さん由来の疾患iPS細胞から、FOPの原因遺伝子を修復した対照iPS細胞を作りました。そして、それぞれのiPS細胞から軟骨を誘導し、FOPの病態の再現やメカニズムの一端を明らかにしました。

FOPとはどのような病気ですか。

FOPは筋肉や腱、靭帯などの中に軟骨ができ、徐々に骨へと変化していく病気です。200万人に1人程度の割合で患者さんがいると言われている希少難病です。これまで、ACVR1遺伝子に変異が生じて、その遺伝子が過剰にはたらくとFOPとなることがわかっていました。詳細な病気のしくみを調べるためにFOP患者さんの体内から組織を採取しようとすると、それが刺激となり骨化を促進し病状を悪化させてしまうため、FOPのしくみについて明らかにすることは、困難でした。

また、将来、移植治療に用いられる細胞をiPS/ES細胞から誘導する際には、マウス由来フィーダー細胞やウシ血清などのヒト以外の動物由来成分をなるべく除去し、安全に分化誘導を行う方法の開発が重要です。

今回の研究では具体的にはどのようなことを行ったのですか。

まず、FOP患者さん由来の疾患iPS細胞において、FOPの原因となる遺伝子変異を修復しました。これにより、修復した変異以外はもとの患者さんと同じ遺伝情報をもつ対照iPS細胞を作製できました。そして、疾患iPS細胞と対照iPS細胞を軟骨へと分化させたところ、前者はより軟骨へなりやすくなっていることを確認しました。また、軟骨へと分化させる途中の段階(間葉系間質細胞)で様々な遺伝子の発現量を調べたところ、MMP1PAI1という2つの遺伝子が疾患iPS細胞で多く発現し、FOPの病態に寄与していることが分かりました。

患者さん由来の対照iPS細胞を作ることの意義は?

これまでは、FOP患者さんとFOPではない人といった遺伝的背景の異なる人に由来する細胞を比較して病気のメカニズムを調べており、病態に無関係な遺伝情報の個人差が病気の原因として検出される可能性がありました。今回のように、FOPの変異以外は同じ遺伝情報をもつ細胞を対照細胞とし、比較することで、より原因変異によるメカニズムに焦点をあてて調べることができます。そのため、より的確な病気のメカニズムの検討、より効率的で有効な創薬につながると期待されます。

図1
FOP患者さん由来疾患iPS細胞(左)と対照iPS細胞(右)から分化誘導した軟骨組織
疾患iPS細胞からは対照iPS細胞からよりも大きな軟骨組織が形成された。
水色:軟骨組織の軟骨基質

図2
今回の研究のまとめ

【論文名】
New protocol to optimize iPS cells for genome analysis of fibrodysplasia ossificans progressiva

【著者名】
Yoshihisa Matsumoto*, Makoto Ikeya*, Kyosuke Hino, Kazuhiko Horigome, Makoto Fukuta, Makoto Watanabe, Sanae Nagata, Takuya Yamamoto, Takanobu Otsuka, and Junya Toguchida

*筆頭著者




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その他の研究成果

効率良く移植用の膵細胞を作る

豊田太郎助教と長船健二教授(CiRA増殖分化機構研究部門)らの研究グループは、ヒト多能性幹細胞(ES細胞およびiPS細胞)を膵臓の元となる膵芽(すいが)細胞へと高効率に作製する培養条件を確立し、さらに作製した細胞が移植後に血糖値に応じたインスリン分泌をする細胞へと成熟可能であることを示しました。

【ジャーナル名】
Stem Cell Research

【論文名】
Cell aggregation optimizes the differ- entiation of human ESCs and iPSCs into pancreatic bud-like progenitor cells

膵臓再生の新たな手がかりを発見

細川慎一研究生(京都大学大学院医学研究科)と川口義弥教授(CiRA増殖分化機構研究部門)らの研究グループは、成体マウスの膵管細胞が、膵液をつくる「外分泌・腺房細胞」へと分化するものの、インスリン等のホルモンをつくって血糖を調節する「膵島細胞」には分化しないことを確認し、成体外分泌組織の再生が、発生時と同じメカニズムで起こっていることを明らかにしました。

【ジャーナル名】
Scientific Reports

【論文名】
Impact of Sox9 Dosage and Hes1-me- diated Notch Signaling in Controlling the Plasticity of Adult Pancreatic Duct Cells in Mice.

ファンコニ貧血の原因に迫る

鈴木直也大学院生、齋藤潤准教授、中畑龍俊教授(CiRA臨床応用研究部門))らの研究グループは、ファンコニ貧血の患者さんからiPS細胞を樹立し、DNAの傷が増えていること、iPS細胞から血球や血管内皮細胞へと分化する割合が大きく減っているといった、ファンコニ貧血の病態を培養皿上で再現することに成功しました。今後の治療法開発に大きな手がかりとなります。

【ジャーナル名】
Stem Cells Translational Medicine

【論文名】
Pluripotent Cell Models of Fanconi Anemia Identify the Early Pathological Defect in Human Hemoangiogenic Progenitors.

パーキンソン病の細胞移植法研究に有効なモデルラットを開発

細胞移植治療法の研究をするには、移植による拒絶反応が起こらないようにした、免疫不全動物が役立ちます。佐俣文平大学院生、髙橋淳教授(CiRA臨床応用研究部門)らのグループは、免疫不全のラットから、パーキンソン病のモデルラットを作製しました。ドパミン神経細胞をこのモデルラットに移植し、移植した細胞が脳内に生着し、症状が改善することを確認しました。

【ジャーナル名】
Journal of Neuroscience Methods

【論文名】
X-linked severe combined immunode- ficiency (X-SCID) rats for xeno-trans- plantation and behavioral evaluation.

KLF4の長さの違いが細胞の初期化の程度を変化させる

キム・シンイル研究員、クヌート・ウォルツェン准教授(CiRA初期化機構研究部門)らの研究グループは、現在、研究で用いられる初期化因子の1つであるKLF4には、長さの異なる2つのタイプが存在することを明らかにしました。長いタイプのKLF4は、短いタイプのKLF4よりもタンパク質発現量が多く、完全に初期化された細胞が高効率に得られました。

【ジャーナル名】
Stem Cell Reports

【論文名】
KLF4 N-Terminal Variance Modulates Induced Reprogramming to Pluripo- tency



Introduction

新主教員からのメッセージ

1月16日付けで、永井雅規教授が所長補佐としてCiRAに加わりました。
研究基盤の整備を通して、iPS細胞技術の医療応用を目指します。

永井雅規

所長室補佐
永井雅規教授

iPS細胞研究が進展し、医療応用に向けた歩みを着実に進める中で、iPS細胞技術と社会とのかかわりも一層深くなってきています。研究の進展に応じ、産学連携、許認可への対応、知財、広報など幅広い取組みと同時に、新たな倫理的・社会的・法的課題にも適時に対応していくことも重要となっています。研究者をはじめと するCiRA内外の関係する皆様と協力しながら、プロジェクト推進の基盤となる取組みの充実に貢献していきたいと考えています。



Column

倫理の窓から見たiPS細胞

医療技術
何をどこまで受け入れるべきか

澤井 努研究員

澤井努研究員

2015年2月24日、英国議会の上院で、ミトコンドリア(細胞内でエネルギーをつくり出す小器官)に異常のある卵子または受精卵から核を取り出し、ミトコンドリアの正常なドナー卵子に移植する、「ミトコンドリア置換」が承認されました。この技術は、母親から遺伝するミトコンドリア病を予防することが目的とされています。ミトコンドリア病とは、全身の細胞内でエネルギーを産み出すミトコンドリアの機能が低下することによって、特に神経、心臓、筋肉などに異常をきたす病気です。ミトコンドリア置換が利用できるようになれば、ミトコンドリア病に悩む女性が遺伝を恐れずに子どもを持つことができるようになるでしょう。しかし、この技術には、倫理面に対する懸念も指摘されています。

倫理学的な考え方の一つに、すべり坂論法というものがあります。「ある技術を認めてしまうと、極端な技術までも認めざるを得なくなるので、最初の技術を認めるべきではない」というものです。今や体外受精は、遺伝的につながりのある子供を持つという願いを叶えるための方法として、不妊症の患者さんに広く受け入れられています。今回のミトコンドリア置換という新体外受精は、ミトコンドリア病の遺伝を恐れず子どもを持つという願いを叶えるための方法として、ミトコンドリア病の女性に受け入れられるでしょう。しかし、すべり坂論法に照らせば、今後、治療もしくは治療以外の目的で、過度に生殖補助医療技術の利用が認められれば、生命の選別を助長することにつながったり、場合によって、障がい者にとって生きにくい世の中になったりすることも考えられます。

ミトコンドリア置換

ミトコンドリア置換は「新体外受精」と言われるように、体外受精のバリエーションの一つとされています。つまり、体外受精を認めた時点で、今回のような技術を認めることもある程度は想定できたことかもしれません。iPS細胞を含めて医療技術が発展していく中で、今後、いかにすべり止めを設定するかという政策決定が大事になるでしょう。他方、あらかじめ一人ひとりが、生殖補助医療技術に限らず、さまざまな医療技術を、どういう理由で、どの程度、受け入れるかを考えておくことも必要ではないかと思います。

(文:澤井 努 上廣倫理研究部門 研究員)




CiRA members

CiRAで働く人々

情報とタンパク質の両輪でiPS細胞を探る

岩崎未央(初期化機構研究部門・研究員)

今回は、初期化機構研究部門の中川誠人講師グループで、質量分析計の管理を担いながら研究に取り組む岩崎未央研究員に話を伺いました。

昨年の中高生向けiCeMS/CiRA クラスルームで講師を務めた岩崎研究員

昨年の中高生向けiCeMS/CiRAクラスルームで
講師を務めた岩崎研究員

研究者という仕事を初めて意識したのは中3の時です。ミクロネシアの小さな島で2週間ほどホームステイをしたのですが、スタッフとして参加していた若手研究者から聞いた研究の話が面白かったのです。彼は植物化石からDNAを抽出して古代の植物を調べる研究をしていて、DNAで過去を知り、未知のものを明らかにするという話にとてもわくわくしたことを今でも覚えています。

研究者になりたくて大学へ進学した当時は、ヒトの全DNA塩基配列を解読する「ヒトゲノムプロジェクト計画」の完了が宣言された頃でした。これからの生物学研究には、実験技術のほかにも大量データを扱う技術が必要だと思いプログラミングを学びました。そして、大学3年の秋から実験系の研究室へ入りました。当初は、決まった量の溶液を正確に作るための「メスフラスコ」と溶液を計量するための「メスシリンダー」の違いも知らないなど、指導教官をあきれさせたことが何度もあります(笑)。根気強く指導していただいたお陰で、修士1年の時には、大腸菌の膜に存在する蛋白質を新しい手法を用いて網羅的に質量分析計で解析することに成功し、論文として発表することが出来ました。夜通し実験することも勉強するべきことも多くて大変だったのですが、指導教官と一緒に頭を振りしぼって論文を生み出す過程は楽しくて仕方がなかったですね。

博士号をとってからは、それまで培ってきた質量分析計を用いたタンパク質の大規模解析技術を活かして、iPS細胞の中でタンパク質がどのように働いているのかを知りたいと思い、縁あってiPS細胞研究所の中川誠人講師のグループに研究員として加わることができました。この研究所には優秀で活発な若手研究者が多く、問題意識や志を共有できて頼りになる一方で、負けてられないといつも刺激を受けています。ここに集ったバックグラウンドの異なる人達と切磋琢磨し合うことが、きっと新しい生命現象の解明につながると思って今日も実験台に向かっています。

CiRA news update

CiRAアップデート

4/16

井上治久教授がゴールドメダル賞を受賞しました。

4/1

CiRA年度初め集会において、山中伸弥所長から2030年の目標が発表されました。(2ページ

今野兼次郎准教授、高島康弘講師が着任しました。

3/14

市民を対象としたCiRAシンポジウムを先進医療推進機構との共催で開催しました。(3ページ

3/12

初期化機構研究部門のクヌート・ウォルツェン准教授グループによるKLF4の長さが初期化に与える影響に関する論文が『ステム・セル・リポーツ』に掲載されました(7ページ

増殖分化機構研究部門の戸口田淳也教授と池谷真准教授のグループによる論文が『ステム・セルズ』に掲載されました。(6ページ

3/11

臨床応用研究部門の中畑龍俊教授、齋藤潤教授らによるグループが、ファンコニ貧血の原因の一端を解明した論文を『ステム・セルズ・トランスレーショナル・メディスン』に報告しました。(7 ページ

2/26

増殖分化機構研究部門の妻木範行教授グループなどがiPS細胞から硝子軟骨作製に関する論文を『ステム・セル・リポーツ』で報告しました。(5ページ

2/17

臨床応用研究部門の川口義弥教授グループによる膵臓再生のメカニズムに関する論文が『サイエンティフィック・リポーツ』に掲載されました。(7ページ

2/15

山中所長、戸口田淳也副所長、東健太郎特命准教授が京都マラソンに出場しました。(4ページ

2/12

CiRAの英文ニュースレター『CiRA Reporter』を発行しました。英語版のホームページでもご覧いただけます。

2/4

臨床応用研究部門の髙橋淳教授グループによるパーキンソン病の細胞移植法研究に有効なモデルラットを開発した論文が『ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス・メソッズ』に掲載されました。(7ページ

2/2

iPS細胞研究基金の資料請求専用フリーダイヤルを開設しました。(13ページ

1/28

増殖分化機構研究部門の長船健二教授らのグループが、ヒトES/iPS細胞から移植用の膵細胞を効率よく作製する方法を開発し、『ステム・セル・リサーチ』に報告しました(7ページ

1/16

CiRA国際シンポジウム2015を開催しました。公益財団法人武田科学振興財団が主催する国際シンポジウム「第18 回武田科学振興財団生命科学シンポジウム」(1月15日〜17日)と併催され、国内外から約690人の研究者がiPS細胞を使った再生医療について最新の研究状況を発表しました。

CiRA 国際シンポジウム2015



From CiRA

よくある質問

iPS細胞 何でもQ&A

iPS細胞を用いたパーキンソン病治療の臨床研究はいつ始まるのですか?

CiRAの髙橋淳教授らのグループは、2015年中に京都大学内の特定認定再生医療等委員会へ臨床研究計画を提出する予定にしていますが、まだはっきりとした時期を申し上げるのは難しい状況です。臨床研究に進むためには、京都大学や厚生労働省での審議が必要で、少なくとも半年以上かかると考えられます。その後、大臣承認を得て対象患者さんの公募を開始できるのは、2016年以降になると思われます。CiRA研究者が中心となる臨床研究に関する正式な決定事項につきましては、CiRAホームページ等で公表します。

どのような症状の患者さんがiPS細胞を用いたパーキンソン病治療の臨床研究の対象になるのですか?

最初のステップである臨床研究は、孤発性(ご家族や親戚に同じ病気の方が見られない)パーキンソン病の患者さんを対象に計画しています。家族性パーキンソン病や、脳血管障害後のパーキンソン症候群の患者さんは対象になりません。対象となる患者さんの病気の進行度、年齢、合併症の有無など詳しい条件は、現在、慎重に検討している段階で、まだ決定していません。京都大学および厚生科学審議会での審議を通して最終決定がなされる予定です。本研究計画が正式に厚生労働大臣に承認されましたら、 CiRAホームページ等で公表します。

iPS細胞を用いたパーキンソン病治療の臨床研究に参加するにはどうしたらいいのですか?

厚生労働大臣の承認後、対象となる患者さんの条件(病気の進行度、年齢、合併症の有無など)や受診方法をCiRAホームページ等で公表します。条件に合致する患者さんに対し臨床研究の内容について詳しく説明をさせていただき、患者さんから同意が得られれば実際の臨床研究に移ります。CiRAでは、京都大学医学部附属病院と協力して、臨床研究を実施する準備を進めています。患者さんからのiPS細胞樹立やドパミン神経細胞の作製はCiRA内の特別な培養室で行います。細胞の準備ができれば京大病院神経内科に入院していただき、手術前の検査を受けていただきます。手術は脳神経外科で行いますが、その後は再び神経内科で経過観察を行います。

※なお、移植治療を前提とした外来受診は行っていませんので、ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。

その他詳細についてはこちらをご覧ください。



From CiRA

iPS細胞研究基金

iPS細胞研究基金へのご支援のお願い

iPS細胞研究には、国民のみなさまから多大なご支援を頂いており、教職員一同、心から感謝申し上げます。
この日本発の画期的な技術に関する研究をさらに推進し、一日も早く医療応用を実現するためには、優秀な人材の確保、研究所の安定的な運営が必要です。みなさまのご支援をお願い申し上げます。

iPS細胞研究基金事務局 電話番号 (075) 366-7152(お問い合わせ・ご相談)
(0120)80-8748(資料請求フリーダイヤル)
FAX (075) 366-7023
住所 〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町53
iPS細胞研究基金ホームページ https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/about/fund.html
京都大学基金ホームページ https://www.kikin.kyoto-u.ac.jp/

Editorial info

発行・編集

京都大学 iPS細胞研究所
(CiRA)国際広報室
〒606-8507
京都市左京区聖護院川原町53
Tel: (075)366-7000
Fax: (075)366-7023
Email: ips-contact@cira.kyoto-u.ac.jp
Web: www.cira.kyoto-u.ac.jp

撮影

CiRA 国際広報室

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