CiRA
Cells

Introduction

研究体制を強化

新任教員からのメッセージ

新しく着任した教員を紹介します。2015年4月に2名の主任研究者がiPS細胞研究所に加わりました。

今野兼次郎准教授
髙島康弘講師

基盤技術研究部門
今野兼次郎 准教授

iPS細胞研究をヒトへの治療法開発へつなげるためには、動物を用いた有効性と安全性の確認が欠かせません。実験動物学を専門とする獣医師(実験動物医学専門医)というバックグラウンドを活かし、研究者が実験動物の福祉にも配慮した質の高い動物実験が実施出来るように、サポートしていく所存です。

未来生命科学開拓部門
髙島康弘 講師

私は、ケンブリッジ大学で7年半、ヒトES/iPS細胞をより発生初期の生命の萌芽である受精卵に一致した細胞へとリセットすることに取り組んできました。ヒトの生命の始まりを研究する生命科学の基礎分野に貢献できる可能性もあり、さらにこの研究を展開する所存です。




Collaboration

CiRA × Takeda

大型共同研究プログラムT-CiRAが始まります

CiRAは、この4月に武田薬品工業株式会社と10年間にわたる包括的な共同研究契約を締結しました。

山中伸弥所長とクリストフ・ウェバー

記者会見で握手をする山中伸弥 所長とクリストフ・ウェバー 武田薬品工業代表取締役社長・CEO
( 写真提供:武田薬品工業株式会社)

T-CiRA(Takeda-CiRA Joint Program for iPS Cell Applications)と呼ばれている共同研究では、10年間で200億円の研究費が武田薬品から拠出されます。心不全、糖尿病、神経疾患などについて、主に治療薬開発を目指す10の疾患研究プロジェクトが今秋から順次立ち上がる予定で、現在準備を進めています。

CiRA研究者が武田薬品の湘南研究所(神奈川県)内で研究するというユニークな形態をとり、製薬企業のノウハウを活用できる包括的な産学連携モデルとして新たな試みといえます。この他にもCiRAは多数の企業との共同研究を行い、様々な病気の治療法開発のためにiPS細胞を使った再生医療や創薬研究を推進しています。

Cells

New research

研究成果①

細胞の“中”の違いを見分ける

未来生命科学開拓部門の齊藤博英教授と吉田善紀講師らの研究グループはマイクロRNAを使って細胞を選別する新しい方法を開発しました。この仕組みを使って心臓の筋肉の細胞を効率よく作ることに成功しました。

記者に向けて発表をする齊藤教授、三木研究員、吉田講師

(左から)記者に向けて発表をする齊藤教授、三木研究員、吉田講師

iPS細胞は様々な細胞に変化(=分化)させることで、再生医療や新しい薬の開発に使われています。例えば心臓を治したり、薬の心臓への効果を調べたり、研究に使うためには、心臓の細胞だけを高純度に作る必要があります。しかし、この細胞を見分けて必要な細胞だけを得ることは決して簡単ではありません。これまでは細胞の表面についている印で見分けていたのですが、どの印を指標に見分ければ良いのかわからない細胞もたくさんありました。

齊藤教授と吉田講師らの研究グループは、細胞内の目印(マイクロRNA)に着目しました。マイクロRNAは細胞の中に様々な種類があり、遺伝子の働きを調節する役割があることが知られています。そして細胞の種類によって働いているマイクロRNAの種類は異なっています。これを目印に心臓の筋肉の細胞だけを選び出すことができるかもしれません。

しかし細胞の中の目印を外から観察することはできません。そこで観察するのではなく、指令書のようなもの(「RNA スイッチ」と名付けた、人工的に設計したメッセンジャーRNA)を細胞に送り込んで、心筋細胞に特有なマイクロRNAがある場合のみ、細胞が生き残るような仕組みを考えました。

メッセンジャーRNA

ヒトiPS細胞から軟骨組織塊をつくり、マウス、ラット、ミニブタでその機能と安全性を確認した。

指令書には条件をつけました。培養中の細胞内に心筋細胞に特有のマイクロRNAがあると、この指令書にくっつくことで、指令書は分解されます。反対に、心筋細胞に特有のマイクロRNAが細胞内に無いと、指令書に組み込まれた細胞が自死する指令(アポトーシス誘導遺伝子)により、細胞は死んでしまいます。つまり、指令書を送り込むことで、培養中の細胞の中から心筋細胞のみが生き残り、その他の細胞が死ぬようにプログラムすることができたのです。

また、同じ仕組みを使って、肝臓の細胞や膵臓の細胞に特有なマイクロRNA配列を用いることで、それぞれの細胞を選別することもできました。今後、様々な細胞の選別の利用が期待されます。

今回開発した指令書(RNAスイッチ)はRNAという分子でできており、細胞内で分解されやすく、細胞に一時的に指示を与えるとすぐになくなるため、将来的には再生医療などで人間の治療に応用する際にも安全性の高い技術として期待されます。

【筆頭著者紹介】

三木 健嗣(みき・けんじ)
1983年神戸市生まれ。子供の頃はスポーツが大好きで、サッカー・野球などに親しみ、中学生から20歳頃までバレーボールをしていました。東京工業大学を卒業後、大阪大学大学院医学系研究科でiPS細胞から心筋細胞シートの作製とその移植研究で博士号を取得。心筋細胞の基礎をより深く学ぶと同時に応用につなげるために進むべき道を探した結果、恩師である大阪大学の澤芳樹教授の勧めもあり、CiRAで研究をすることになりました。現在はヒトiPS細胞から作製した心筋細胞を使った薬の開発や再生医療を目指しています。

【ジャーナル名】
セル・ステム・セル

【論文名】
Efficient detection and purification of cell populations using synthetic microRNA switches

【著者名】
Kenji Miki, Kei Endo, Seiya Takahashi, Shunsuke Funakoshi, Ikue Takei, Shota Katayama, Taro Toyoda, Maki Kotaka, Tadashi Takaki, Masayuki Umeda, Chikako Okubo, Misato Nishikawa, Akiko Oishi, Megumi Narita, Ito Miyashita, Kanako Asano, Karin Hayashi, Kenji Osafune, Shinya Yamanaka, Hirohide Saito and Yoshinori Yoshida




New research

研究成果②

血小板の新しい形成過程を発見

西村智教授(自治医科大学)と江藤浩之教授(CiRA臨床応用研究部門)らの研究グループは、短時間で多数の血小板を生み出せる破裂型の新しい血小板の作られ方を発見しました。これまでは細胞の先端が一個一個千切れるように血小板ができる方法しか知られておらず、炎症などで血小板が急激に増える現象を説明することができる新たな現象の発見となりました。

【ジャーナル名】
ジャーナル・オブ・セル・バイオロジー

【論文名】
IL-1α induces thrombopoiesis through megakaryocyte rupture in response to acute platelet needs.

脊髄性筋萎縮症の病態をiPS細胞で再現

吉田路子研究員、齋藤潤准教授、中畑龍俊教授(CiRA臨床応用研究部門)らの研究グループは、脊髄性筋萎縮症患者さんの皮膚の細胞から作製したiPS細胞を用いて、脊髄性筋萎縮症の神経細胞と筋肉細胞の接合部における病態を再現し、さらに既存の治療薬で回復させることに成功しました。今後、詳細な病態解析に加え、治療薬の開発が進むことが期待できます。

モルフォリノ

患者さん由来の細胞にモルフォリノという化合物を添加すると、赤紫色で示した神経筋接合部様構造が回復する。

【ジャーナル名】
ステム・セル・リポーツ

【論文名】
Modeling the Early Phenotype at the Neuromuscular Junction of Spinal Muscular Atrophy Using Patient-Derived iPSCs

Report

科学ジャーナリズム

世界科学ジャーナリスト会議 in ソウル

6月8日から11日の4日間に渡り、世界科学ジャーナリスト会議(WCSJ)2015が韓国・ソウルで開催されました。WCSJは、2年に一度開催される、世界最大の科学ジャーナリズムの大会です。9回目の開催となった今大会は約1,200名が参加し、科学・医療分野やそのジャーナリズムについて情報・意見交換を行いました。

2日目には、山中伸弥所長が講演を行いました。講演では、「iPS細胞で開く医療の新時代」と題して、iPS細胞やiPS細胞技術を使った最新の研究を紹介しました。その中で、「科学者は時に話しすぎたり、楽観的に話してしまうこと、またその逆もある」と指摘しました。全ての患者さんにiPS細胞のような新しい技術が使えるようになるまでには10年以上という長い時間がかかります。すぐにと願う患者さんと科学者の間でコミュニケーションギャップがあり、それを埋めるためにも、サイエンス・コミュニケーターや科学ジャーナリストが必要であると訴えました。

WCSJ2015では他にも、近年話題になっているゲノム編集技術や、科学専門誌や大学の広報、科学ジャーナリズムにおけるソーシャル・メディアの活用法、研究不正、医学研究をどう読み伝えるか、など幅広い内容のセッションが繰り広げられました。

WCSJ2015で基調講演する山中所長

WCSJ2015で基調講演する山中所長

Cells

iPS Cell Research Fund

iPS細胞研究基金

iPS細胞研究基金の2014年度収支を報告します

平素より、iPS細胞研究基金へご支援を賜り、心より感謝申し上げます。2014年度(2014年4月1日~2015年3月31日)の基金の収支を報告します。

2014年度は、テレビや新聞、寄付者のご紹介でなどでiPS細胞研究基金を周知いただく機会が増え、年間寄付件数は6,492件と、2013年度と比べ1.5倍に増加し、個人の方々から5億6,643万円、法人・団体の方々から2億1,353万円、あわせて7億7,996万円のご支援を頂きました。心から、感謝申し上げます。

一方、2014年度には支出が前年度支出額の約4倍へ増加し、2億4,033万円となりました。これは、2013年度末にこれまで研究支援部門を支えてきた大型プロジェクトが終了し、2014年度からは非正規雇用人件費の一部の財源を当基金に変更したことに加え、当基金を原資としたiPS細胞研究所独自の研究支援制度が本格的に立ち上がったことなどによるものです。

この結果、2015年3月31日時点のiPS細胞研究基金の残高は29億7,984万円となりました。

寄付者銘板

研究所1階エントランスの寄付者銘板

2014年度収支報告(2014年4月1日〜2015年3月31日)
  件数 寄付金額(千円)
個人 6,034 566,434
法人・団体 458 213,526
収入合計 6,492 779,960
用途 支出金額(千円)
人件費 173,370
研究費 22,471
知財管理費 8,476
研究所運営補助費 36,009
支出合計 240,326
2014年度末残高 2,979,838

2015年度(2015年4 月1日~2016年3月31日)には、これまでと同様、年間5億円を目標に寄付を募集して参ります。一方、支出予算としては、2014年度比ほぼ1.5倍となる3億6,800万円を見込んでいます。内訳については、右のとおりです。

2015年度支出予算(2015年4月1日〜2016年3月31日)
使途 概算予算額(千円)
1.人件費 210,000
2.研究費 73,000
3.知財管理費 20,000
4.研究所運営補助費 65,000
合計 368,000
1. 人件費
iPS細胞研究のさらなる拡大・進展に向けて2015年春に第2研究棟が竣工しました。研究者・研究支援社数の増加により、基金からの人件費支出は2億1,000万円を見込んでいます。
2. 研究費
基金を原資とした従来の研究支援制度の規模を拡大するほか、国内外からのインターンシップの受入れや、海外の研究所での研究支援など、若手研究者を育成するための制度を更に充実させ、基金からは研究費を7,300万円支出する見込みです。
3. 知財管理費
特許の確保・維持のための予算として2,000万円を計画しています。
4. 研究所運営補助費
研究所の規模拡大に伴い、研究所の安定運営にかかる経費(リスク管理・対策経費など)や寄付募集などにかかる経費が増加する見込みです。また、2016年3月に京都大学で世界中の研究者が集まり、最新の研究成果を共有する国際シンポジウムを開催する予定です。こうした経費などを織り込み、6,500万円を支出する見込みです。
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Cells

Dialogue

CiRA×京大病院 第7回

疾患特異的iPS細胞で血液の難病解明へ

京都大学医学部附属病院血液・腫瘍内科の高折晃史教授とCiRA 臨床応用研究部門長の中畑龍俊教授が対談しました。

高折晃史教授

高折晃史 教授

高折:中畑先生は京大病院で小児科の教授としてご活躍後、京都大学iPS細胞研究所
   (CiRA)で研究をスタートされました。

中畑:小児科では主に、血液のがんをはじめとする小児がん、中でも血液のもとにな
   る造血幹細胞の研究を長年続けてきました。 ちょうど京大病院を退官するこ
   ろに、同じ幹細胞であるiPS細胞が発明され、以来iPS細胞を使った研究、とり
   わけ子どもの難病の研究に力を注いでいます。これまで小児の難病研究は、
   子どもから検体をとること自体が難しく困難を極めましたが、iPS細胞を使え
   ば、患者さんそっくりの細胞を作り出して研究ができます。この患者さんの細
   胞から作った疾患特異的iPS細胞を病気におかされている臓器に分化させ、そ
   れを使って病気の原因や病態を解明し、最終的には新しい薬の開発をめざして
   います。

難病の中でも、生まれてきたときから重い病気をもっている場合は、病気の原因究明や新しい治療法を開発するアプローチ方法がありませんでした。そうしたことからもiPS細胞は子どもたちのために発明してくださったのではないかと思うことがあり、山中伸弥先生にはそんなお話もしています。

高折:既に論文発表なさっている研究がいくつかありますね。

中畑:若い先生たちがよくがんばってくれて、今、ほんの少し手が届きかかっている病気がいくつかあります。例えば、遺伝子疾患の1つであるファンコニ貧血という病気は、ようやく原因がわかってきたので、新しい薬を見つけるための研究も始めています。

高折:この世界のトップランナーである中畑先生からご助言をいただいて、昨年の4月に先生のグループと私たちが共同で研究班を作りました。血液の分野で、特発性造血障害という難病に対して疾患特異的iPS細胞を使って病態を解析するなど、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構の助成をいただき、新たな治療法を開発するプロジェクトを進めています。

中畑:同じ大学の中で研究ができてよかったですね。

高折:京大病院とCiRAが隣合わせにあるという距離の近さは、臨床応用への展開はもちろん、さまざまな面でメリットを感じています。

中畑:血液の難病は、当初、疾患特異的iPS細胞をつくるのが非常に難しかったですね。iPS細胞は樹立に必要なさまざまな情報が加わってできるのですが、情報が血液の難病そのものに関係している場合が多いですから。

高折:最初の難関でしたね。けれども臓器などと違って、血液は形をつくらなくてもよいので、iPS細胞で血小板や赤血球ができれば、比較的早く患者さんに戻すことができます。

中畑:iPS細胞から血小板を大量に作成する研究がCiRAの江藤浩之先生のグループで進んでいます。

高折:江藤先生の研究も将来的には京大病院で臨床応用をするということで、私が病院側の責任者になっています。血液内科はiPS細胞の研究に入りやすいことから、私が診療科長に着任して以降、多くの大学院生にCiRAに行って研究をしてもらっています。

中畑:CiRAには工学部や理学部出身の研究者もたくさんいるので、臨床の先生が研究室に来て「こういうことが困っているんだ」という話をしてくれると、非常にモチベーションが上がります。全員が「患者さんをなんとかしてあげたい」という気持ちになるんですね。高折先生の教室との連携のように、京大病院とのコラボレーションを密にしていくことは大事です。

高折:CiRAの先生はみなさん、基礎研究にとどまることなく「必ず臨床に役立てたい」ということを一貫しておっしゃっています。だからこそ強固な連携ができるのだと思います。臨床応用を担う本院も法整備はもちろんのこと、基準をクリアした施設の整備などソフト・ハードの両面で体制を整えています。人的資源や施設、あらゆるものがそろわないと、世界初の臨床応用はできないのではないかと思います。ところで、先生の研究分野でも将来的にはiPS細胞で遺伝子の修復をして患者さんに戻す、という治療は視野に入れておられますか。

中畑龍俊教授

中畑龍俊 教授

中畑:治療法としては、薬と移植の2つの方法があります。移植は他人の細胞と入れ替える方法もありますが、例えばファンコニ貧血なら異常になる遺伝子がわかっているので、自分のiPS細胞を使って遺伝子を修復し、それを用いた移植という新しい治療法が考えられます。すでに動物レベルではうまくいったという報告もあり、将来的には移植治療が可能になるとは思いますが、まだまだたくさんのステップがあります。

高折:そうですね、私たちも懸命に研究を進めていますので、市民のみなさんには、慌てずに待っていていただきたいと思います。

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Event

ISSCRレポート

国際幹細胞学会2015 に参加しました

国際幹細胞学会(ISSCR)は、幹細胞研究分野では最も大きな学会で、CiRAからもたくさんの研究者が参加する学会の一つです。今回の年次大会は6月24日(水)~27日(土)にスウェーデンのストックホルムで開催され、66ヶ国から3700名が参加しました。以前は幹細胞そのものの性質や、細胞内の制御機構といった基礎的な研究が中心でしたが、実際に幹細胞から作り出した様々な細胞がどのように治療に使えるのかなど、ここ数年は臨床応用に近い発表が多く見られるようになりました。

本学会では山中伸弥所長を始め多くのCiRA研究者が自身の最新の研究成果を発表しました。山中所長はオープニングシンポジウムの中で、「iPS細胞ストックプロジェクト」、「細胞の新たな選別方法」そして「パーキンソン病の再生医療に向けた取り組み」について紹介しました。CiRAからは他に、戸口田淳也教授、山田泰広教授、櫻井英俊講師らがシンポジウムに登壇しました。

また若手研究者はポスター発表で学会を盛り上げていました。そのなかで、吉田講師グループの三木研究員が細胞の新たな選別方法(4ページ参照)について詳細を発表し、山中所長の講演で紹介されたこともあり、特に多くの研究者から注目を集めていました。本来1 時間の発表時間ですが、たくさんの研究者が順番に説明を求め、大幅に時間を延長して解説していました。

CiRAはブース展示も行い、CiRAでの研究紹介や、研究者の募集活動を行いました。またCiRAとISSCRが共催する、2016 年3 月開催予定の国際シンポジウムへの参加を呼び掛けました。山中所長が講演した内容について興味を持っている研究者が多く、ブースを訪れた参加者から様々な質問を受けました。特に、CiRAが推進している「iPS細胞ストックプロジェクト」は、コストと時間を大幅に削減する可能性があり、海外ではあまり報じられておらず、地元スウェーデンのテレビ局やドイツの大手新聞社から山中所長がインタビューを受けるなど、世界的にも関心をひくトピックとなりました。

盛況なCiRA ブースの様子 多くの研究者が訪れた三木研究員の発表

盛況なCiRA ブースの様子

多くの研究者が訪れた三木研究員の発表



Column

倫理の窓から見たiPS細胞

ゲノム編集をヒト胚に応用する問題点

八代 嘉美准教授

八代嘉美 准教授

少し前、中国で行われた「ゲノム編集」(注1)によるヒト胚の遺伝子組み換えが大きな話題になりました。報道をご覧になった方は、その行為が「倫理的に問題である」と書かれていたのをご記憶の方もいるでしょう。しかし、すでに「遺伝子操作」は、生命科学研究では欠くことのできないものというのに、なぜ新たに論争の的になったのでしょうか。端的に言えば「劇的に効率がよくなったから」です。これまでの遺伝子組み換えは、ゲノムが複製されるときに偶然おこる「相同組換え」(注2)頼みであり非常に効率が悪いものでした。しかしゲノム編集では目的の遺伝子の場所に直接働きかけ、その配列を置き換えることができます。

では、ゲノム編集をヒト胚に応用する問題点は何でしょうか。生まれてくるはずの子供がその技術に「同意」をしたわけでない、という点を挙げることもできれば、望む通りの遺伝的形質をもった「デザイナーベイビー」をつくることができる、という人もいます。また、今回の中国のグループはこうした議論が成熟していない隙間を突いた、ということを問題にすることもできるでしょう。

論文によれば、研究グループが用いたのは、不妊治療クリニックにおいて人工授精で作られた受精卵で、生まれることのできない遺伝的トラブルを持つものを用いたことからは、倫理的な問題を回避しようとする姿勢は理解できます。ただ、研究の結果としては、オフターゲット(標的以外)の部分の組み換えが大量に起こってしまい(実はこの点に関して疑問を持つ研究者も少なくありませんが)、結果として、技術的な観点からもゲノム編集をヒト胚に適用する困難さが示されました。

とはいえ、iPS 細胞研究においても、ゲノム編集を用いて患者さんの変異遺伝子を正常なものに組み換えて戻す方法が研究されており、この技術は今後重要になることは間違いありません。すでに国際幹細胞学会はゲノム編集を胚に適用することの性急さを指弾する声明を出していますが、国際的な約束事がどうなるかはまだ不透明です。実は、この技術の出発点となった重要な酵素は、1987 年に大阪大学の中田篤男教授らが発見したもので、日本とは縁の深い技術です。そうした点を考えれば、今後は日本からも積極的に意見を発信し、議論をリードしていくくらいの矜持が必要なのかもしれません。

(文:八代 嘉美 上廣倫理研究部門 准教授)

注1)ゲノム編集・・・ゲノムDNAを正確に切り貼りする技術。

注2)相同組換え・・・DNAの塩基配列がよく似た領域(相同部位)で起こる組換え。




CiRA members

CiRAで働く人々

CiRAの特許実務を支える、バレーボール好きの弁理士

「弁理士」とは、知的財産権に関わる事務手続を代理することができる専門家のこと。
今回は、企業内弁理士ならぬ「研究所内弁理士」の立川伸子さんに話を伺いました。

京都大学農学研究科の修士課程修了後、企業の研究者として農薬の開発や生命工学、医薬の研究に携わりました。その後、特許関連の仕事をするようになり、2006年に弁理士試験に合格しました。特許に関する調査・翻訳や、特許事務所での仕事を経験し、2015年1月からCiRAの知財管理室で働いています。

今は、これまでの職務経験と弁理士としてのスキルを活かして、特許取得のための手続き、各国の特許庁への対応、特許事務所との相談などに取り組んでいます。加えて、研究者が作成した実験ノートのチェックや実験データの管理も、知財管理室の大切な役割ですね。

「企業」は自社の利益のために特許を確保する立場、「特許事務所」は特許の取得を支援して報酬を得る立場ですが、CiRAはiPS細胞技術を広く使ってもらうために特許を確保しているという点が、これまでの職場と全く違っていると感じます。一企業がiPS細胞技術の重要な特許を握ってしまったら、(その企業が設定するライセンス料や許諾条件によっては)この技術が広く使われなくなってしまうかもしれない。そういう意味では、iPS細胞の特許確保は国のため、でもあるのだと実感しています。

正直なところ、CiRAの知財業務は案件の数も多く、難しいものも多いです。でも、非常に高いスキルや経験を持つ所内外の人々と一緒に仕事ができる。学ばせていただけることがとても多くて、嬉しく思っています。職務の中では、研究者の意思ができるだけ特許に反映されるように、と心がけています。

CiRA で知財の取得・管理に携わる立川さん

CiRAで知財の取得・管理に携わる立川さん

大学時代は、厳しい指導教官の元で研究に打ちこみました。植物の全能性を利用した研究をしていました。当時はまだ不可能と考えられていた動物細胞の初期化技術により多能性を獲得したiPS細胞に関係する仕事をすることにご縁を感じています。

学生時代には体育会のバレーボール部に所属していました。子育てが一段落した今も、週末はママさんバレーを楽しんでいます。フォワード、セッター、バックと攻撃も守備も、どこでもやります。仕事でも、特許のオールラウンドプレーヤーを目指したいと思っています。

CiRA news update

CiRAアップデート

6/24-27

国際幹細胞学会(ISSCR)の2015年年次大会が開催され、CiRAがブース出展しました。(9ページ)

6/10-12

今年度第1回目のiPS細胞樹立・維持培養の実技とレーニングがCiRAで開催されました。

6/1

初期化機構研究部門の名称を未来生命科学開拓部門に変更しました。

5/28

山中伸弥教授が京都大学の講義シリーズ「生物学のフロンティア」の講師として登壇しました。

5/27-6/12

学部生、大学院生対象の「CiRA研究インターンシップ」の公募を行いました。

5/23

今年度の医学研究科全体の大学院説明会に続き、CiRAの研究室紹介を行いました。

5/22

初期化機構研究部門の齊藤博英教授グループと吉田善紀講師グループによる論文が掲載されました。(4ページ

5/19-20

CiRAリトリート(研究合宿)が琵琶湖畔で開催され、多数の研究者が参加しました。

5/13

CiRAの細胞調製施設FiT(Facility for iPS Cell Therapy)について、再生医療等安全性確保法に基づく細胞の製造施設としての許可を厚生労働省より取得しました。

5/12

臨床応用研究部門の江藤浩之教授グループと自治医科大学の研究グループによる論文が掲載されました。(5ページ

4/30

安倍晋三首相が、山中所長が上席研究員を務めるサンフランシスコのグラッドストーン研究所を訪問し、現地の研究者らと懇親ました。

4/24

JR 大阪駅付近の商業施設ナレッジキャピタルでCiRA のサイエンスカフェを開催しました。渡辺亮助教がiPS 細胞の評価方法について説明しました。

CiRA Cafe

4/17

CiRAと武田薬品工業の大型共同研究に関する記者会見を東京都内で開催しました。(3ページ

Editorial info

発行・編集

京都大学 iPS細胞研究所
(CiRA)国際広報室
〒606-8507
京都市左京区聖護院川原町53
Tel: (075)366-7000
Fax: (075)366-7023
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撮影

CiRA 国際広報室

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