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「iPS細胞ストック」の提供を開始

8月6日にCiRAスタッフの見守る中、再生医療に利 用するためのiPS細胞が、実際に利用する研究機関へ初めて提供しました。

CiRAでは再生医療実現拠点ネットワークプログラムの一環として、2013年度より再生医療用iPS細胞ストックプロジェクトを本格的に進めてきました。このプロジェクトでは健康な方から血液などを採取し、CiRAの細胞調製施設であるFiT(Facility for iPS Cell Therapy)でiPS細胞を作製し、様々な品質評価を行った上で、再生医療に利用できるiPS細胞を選定します。こうして作られたiPS細胞を、液体窒素で凍結保存し、必要に応じて大学や企業などの研究機関へ提供します。

今回、大日本住友製薬株式会社に提供したiPS細胞は、日本人の中で最も多い細胞の型(HLA)を持った方から作製しました。このiPS細胞から作製した細胞は、日本人のおよそ17%に対して、移植した時の免疫拒絶反応が弱いと考えられています(図1)。今後は、提供先の機関で、十分な数に増やし、必要な細胞へと変化させる作業が行われます。CiRAでは、iPS細胞ストックが様々な研究機関等で適切に使われるよう、「審査委員会」を設置し、所定の手続きに則って、希望する研究機関や企業に提供します。

また、CiRAでは引き続き日本人で頻度の高い細胞の型(HLA)をもつiPS細胞の作製を行い、2017年度末までには日本人の3〜5割程度に移植可能と考えられる細胞の元となるiPS細胞ストックの構築を目指しています。

このiPS細胞ストックプロジェクトにより、iPS細胞を使った再生医療にかかる時間とコストを大幅に低減することができると考えています(図2)。iPS細胞ストックの提供開始は、あくまでiPS細胞を使った再生医療の普及へ向けての第一歩です。多くの患者さんに一日でも早く新しい治療法が届くよう、研究を推進して参ります。

iPS細胞ストックQ&Aも合わせてご覧下さい。

図1 日本人の約17%に移植可能と考えられる(イメージ)

図1 日本人の約17%に移植可能と考えられる(イメージ)

図2 iPS 細胞が移植に使われるまで

図2 iPS 細胞が移植に使われるまで




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New research

研究成果①

iPS細胞を使って腎臓病を治す!

増殖分化機構研究部門の長船健二教授らのグループは、ヒトiPS細胞から腎臓の元となる細胞をつくり、急性腎障害のマウスに移植をすると治療効果があることを発見しました。

記者向けレクチャーで質問に答える長船教授(左)と前伸一研究員(右)

記者向けレクチャーで質問に答える
長船教授(左)と前伸一研究員(右)

腎臓は血液の中から老廃物を濾し取り、尿をつくる大切な臓器です。他にも体内の水分量を調整したり、赤血球を作る指令を出したり、様々な働きをしています。

腎臓が働かなくなってしまうと、腎臓移植を行うことになりますが、移植に必要な腎臓が十分になく、人工透析をしながら移植の順番を待っておられる患者さんもたくさんいらっしゃいます。こうした患者さんは30万人以上になると言われ、腎臓の働きを回復させる医療が求められています。

腎臓は血液を通す管と尿を通す管が組み合わさり、多数の細胞が複雑な立体的構造を作っているため、再生することが難しいといわれています。現在のところ腎臓の再生医療は、実現はかなり先になると考えられています。いくつかの方法で腎臓そのものをつくる(再生する)研究も進められていますが、CiRAの長船教授らのグループではiPS細胞を使って腎臓を治す研究を行っています。

何らかの障害により急激に腎臓の働きが悪くなることを急性腎障害といいますが、場合によってはそのまま慢性腎不全へと移行することもあります。これまでの方法では急性腎障害によって腎臓の受けたダメージを軽減することはできていませんでした。

今回、長船教授らのグループは、腎臓への血流を一時的に止めることにより急性腎障害を起こしたマウスにiPS細胞から作製した腎臓の細胞を移植しました。すると、腎機能の指標となる血中尿素窒素(BUN)値や血清クレアチニン値が、細胞を移植しなかったマウスと比べて著しく下がっていました。また、移植した細胞は腎臓に新たな構造をつくってはいなかったものの、腎臓の機能が回復することが確認できました。これは移植した細胞が腎臓の保護因子を分泌したためであると考えられます。

腎臓移植を必要とするような人工透析を受けている慢性腎不全の方の場合は今回の方法では治療は困難ですが、少なくとも急性腎障害を負った方の腎臓の働きを回復し慢性化を防ぐ可能性を示しました。

長船教授は「慢性腎臓病や慢性腎不全の治療を目指して、少しでも早く患者さんのもとに新しい治療法を提供できるように研究を進めてまいります」とコメントしています。

細胞移植から12 日後の腎臓組織切片の観察像

細胞移植から12日後の腎臓組織切片の観察像
左)移植していない場合 右)ヒトiPS細胞由来の腎臓細胞を移植した場合
青い部分がダメージを受けて、回復していない部分を示している。赤い部分が正常な細胞。

【ジャーナル名】
ステム・セルズ・トランスレーショナル・メディスン

【論文名】
Cell therapy using human induced pluripotent stem cell-derived renal progenitors ameliorates acute kidney injury in mice

【著者名】
Shin-Ichi Sueta, Tatsuyuki Inoue, Yukiko Yamagishi, Tatsuya Kawamoto, Tomoko Kasahara, Azusa Hoshina, Taro Toyoda, Hiromi Tanaka, Toshikazu Araoka, Aiko Sato-Otsubo, Kazutoshi Takahashi, Yasunori Sato, Noboru Yamaji, Seishi Ogawa, Shinya Yamanaka and Kenji Osafune

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New research

研究成果②

細胞の運命を精密に操る

未来生命科学開拓部門の齊藤博英教授らの研究グループは、RNAを用いて、細胞の機能をさまざまに制御できる人工回路を構築することにヒトの細胞で成功しました。

記者からの質問に答える齊藤博英教授

記者からの質問に答える齊藤博英教授

私達の体を構成する細胞の中では、日々、DNA上の遺伝情報がRNAへと写し取られ、最終的にはタンパク質となり、さまざまな働きを担います。細胞には、多種多様なタンパク質に対して、適切な時に適切な量を発現するための、いわば回路のようなしくみが備わっています。

これまで、このような回路の制御には、一般的に低分子化合物などの薬が用いられていましたが、予想外の副作用をもたらすこともあり、常に安全性に対するリスクを背負ったものでした。そこで、細胞の状態に応じて制御できる人工回路の開発が期待されています。

一方、人工回路に用いられてきたDNAは、細胞の中にもともと存在する遺伝子を傷つける恐れがあります。そこで、齊藤教授らのグループは、よりリスクの少ないRNAやRNAと結合するタンパク質を利用し、さまざまな人工回路の構築を試みました。

まず初めに、複数の人工伝令RNAを細胞内に入れ、細胞内の状態を検知し、細胞の運命を制御できる回路を構築しました。具体的には、ヒトのがん細胞と胎児腎細胞を同一の培養皿で培養し、標的となるがん細胞で多く見られるマイクロRNAがあるときにのみ、細胞死を引き起こす回路の構築に成功しました。 他にも、シグナルを増幅したり、タイミングを調節することを想定した多段階の回路や、細胞内の状態を記憶できるようなスイッチ回路の構築に成功しました。また、それぞれの回路に影響を与える時間を操作できるようなシステムも確立しました。

これらの人工回路を組み合わせることで、がん化した細胞や、iPS細胞から分化せずに残ってしまった未分化細胞などを、細胞内の状態に応じて除去するなどの応用が考えられます。また、安全かつ精密に培養皿上の細胞の運命を制御できる技術として将来の医療応用が期待されます。

【雑誌名】
ネイチャー・バイオテクノロジー

【論文名】
Mammalian synthetic circuits with RNA binding proteins for RNA-only delivery

【著者名】
Liliana Wroblewska, Tasuku Kitada*, Kei Endo*, Velia Siciliano, Breanna Stillo, Hirohide Saito**, Ron Weiss**
*)これらの著者は同等にこの論文に貢献しました。 **)責任著者




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New research

研究成果③

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの初期症状を探る

臨床応用研究部門の櫻井英俊准教授らの研究グループが、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者さんからiPS 細胞を作製し、筋肉細胞へと分化させることにより、この疾患の初期症状を培養皿上で再現することに成功しました。

記者会見後、質問に答える櫻井英俊講師と庄子栄美研究員

記者会見後、質問に答える櫻井英俊講師
(右から二番目)と庄子栄美研究員(一番右)

DMDは、筋ジストロフィーの中でも最も症状が重い上に患者数が多く、男児3500人に1人の割合で起こります。筋肉細胞中で働くジストロフィンの遺伝子に異常があり、筋肉細胞が変性して衰弱してしまう病気です。これまでは、患者さんの筋肉細胞をもとに研究が進められていましたが、大量に得ることができない上に、既に病気を発症した細胞であるため、細胞内の初期症状について調べることはできませんでした。

iPS細胞は患者さんから作製することができるという利点があります。今回の研究では、患者さんから作製したiPS細胞を筋肉細胞へと変化させ、健康な方の細胞と違いを比べました。すると、患者さんの細胞では、健康な方に比べ、細胞内へのカルシウムイオンの流入量や筋肉細胞破壊の指標となるクレアチンキナーゼという酵素の漏出量が多いという傾向がみられました。これまでのマウスの研究から予想されていた結果ですが、ヒトの細胞でもDMDの初期症状について、実証することができました。

また、薬剤を加えることで、DMDの初期症状が緩和できることも明らかにしました。残念ながら、使用した薬剤に毒性があるため、すぐに患者さんへ応用することはできませんが、一度に96サンプルを扱える今回の実験系を利用し、患者さんの細胞でお薬を見つけることが期待されています。

【雑誌名】
サイエンティフィック・レポーツ

【論文名】
Early pathogenesis of Duchenne muscular dystrophy modelled in patient-derived human induced pluripotent stem cells

【著者名】
Emi Shoji, Hidetoshi Sakurai*, Tokiko Nishino, Tatsutoshi Nakahata, Toshio Heike, Tomonari Awaya, Nobuharu Fujii, Yasuko Manabe, Masafumi Matsuo, Atsuko Sehara-Fujisawa
*)責任著者

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Dialogue

CiRA×京大病院 第8回

難治性の腎、膵、肝疾患の新しい治療法開発を。

京都大学医学部附属病院長の稲垣暢也教授と、CiRA増殖分化機構研究部門の長船健二教授が対談しました。

稲垣暢也 教授

稲垣暢也 教授

稲垣:長船先生は、現在iPS細胞を使って腎臓、膵臓、肝臓の再生の研究をなさって
   いますが、京都大学卒業後はしばらく臨床医としてご活躍されましたね。

長船:学部生のころから基礎研究に興味があり、再生が注目されていない時代でした
   が、皮膚や血液のように盛んに再生する臓器と、腎臓のように再生しにくい臓
   器があることに関心がありました。 そこで患者さんが増えてくると予想され
   ていた腎臓病を研究し、再生しにくい腎臓を再生させて患者さんを助けたいと
   考えました。その前に臨床の勉強をしようと内科に入局し、京大病院を含めて
   4年間、腎臓内科医、透析医の経験を積みました。

稲垣:その後、大学院に入り本格的に研究の道に進まれたわけですが、長船先生はユ
   ニークなキャリアの持ち主です。東京大学大学院の理学系研究科に進み、再生
   分野で日本を代表する浅島 誠先生の元で学ばれました。医学部出身者が理学
   系の大学院に進むのは珍しいですね。

長船:臨床医のときに浅島先生の講演をお聞きし、試験管の中でカエルの腎臓の一部が再生できていることを知り「この研究だ」と思いました。講演後、浅島先生を待ち伏せして「先生と一緒に研究をして、患者さんを助けたいです。研究室に入れてください」とお願いしました。浅島研究室ではまずカエルの腎臓の発生の研究を始めて、次にマウスで腎臓発生の研究をし、腎臓の幹細胞があることを発見しました。それをES細胞から作ろうとしたことが、次の転機につながりました。

稲垣:転機とは、ハーバード大学のダグラス・メルトン教授の研究室への留学ですね。メルトン教授は、膵臓のインスリンを分泌するβ細胞の再生の研究では世界の最先端で、希望者があまりに多く、普通は入れない研究室です。

長船:浅島先生とメルトン教授の国際共同研究のおかげです。ただ私は腎臓のことしか考えていなかったので、膵臓の研究に迷いはありました。結局、腎臓よりも進んでいる膵臓で研究をし、同じことを腎臓で展開すればよいのではないかと考え、留学を決めました。それが2005年です。その前年にメルトン研究室でヒトES細胞17株が樹立され、私たちはその細胞を最初に膵臓に分化誘導する研究を行い、膵臓の再生研究の初期から携わることができました。

稲垣:世界の超一流の研究室で成果を上げられた後、絶好のタイミングで京都大学iPS細胞研究所(CiRA)に戻ってこられました。CiRAではどんな研究をされているのですか。

長船:当初の目的通り、膵臓で学んだことを腎臓でやろうと考え、iPS細胞から腎臓を作る研究を始めました。それが軌道に乗ったところで、山中伸弥先生から「膵臓の再生の研究をやっている人がいないから、膵臓もやってくれ」と言われ、さらに「肝臓も」とお願いされました。

稲垣:2つの臓器の再生という超人的な研究をされていますが、目標は臨床応用だと思います。いつごろ目標が達成できそうですか。

長船:比較的研究が進んでいるのは膵臓です。最近、糖尿病のマウスにヒトiPS細胞から作った膵臓の細胞を移植して血糖値が下がることがわかりました。協力企業が見つかり、山中先生の期待もあるので、3〜5年のうちには臨床応用を実現したいと考えています。

稲垣:その頃には京大病院の第Ⅱ期病棟が完成し、新設のiPS等臨床試験センター(仮称)で治験ができるかもしれませんね。一方、構造の複雑な腎臓の再生はどうですか。

長船:究極は完全な腎臓を作り腎移植のドナー不足を解消することですが、そこまでいかなくても、細胞移植によって腎臓病の悪化を遅らせて透析患者さんを減らすことも1つの方向です。これが今後10年の私の研究テーマで、最近の実験でiPS細胞から作った腎臓の細胞の一部をマウスに移植すると、急性腎障害の悪化を抑えられることがわかりました。急性腎障害で治療効果を確かめたので、今後は慢性腎臓病の進行を遅らせる研究に注力します。

長船健二 教授

長船健二 教授

稲垣:私自身は糖尿病を専門にしているのですが、現在日本で人工透析を受けている患者さんは32万人、透析医療費は年間1兆5千億円にのぼります。細胞治療で透析導入を遅らせることができれば、社会的にも大きな意義がありますね。京大病院は日本で初めて膵島移植を行い、国内最多の実績を持っているので、iPS細胞を使った細胞移植治療がやりやすい環境にあると思います。臨床応用にあたり、京大病院に期待することは何でしょう。

長船:膵臓の再生研究は世界的にも競争が激しく、基礎研究と臨床応用の橋渡しをスムーズに行う必要があります。細胞は私たちが作りますので、経験豊富な京大病院の先生に移植や評価、フォローをお願いし、京大の総合力で最もよい治療法を実現したいと思います。

稲垣:私も長船先生が作られた細胞を用いて、糖尿病の患者さんを治療できる日を楽しみにしています。

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Report

一般の方対象イベント

CiRA 一般の方対象シンポジウム

「iPS 細胞と医農工連携:あたらしい医療を考える」

山中所長

山中所長

山下教授

山下教授

会場となった明治大学

会場となった明治大学

7月26日に明治大学と共催で一般の方向けのシンポジウムを明治大学アカデミーホール(東京都千代田区)にて開催しました。厳しい暑さの中、920名もの皆さんが来場しました。

明治大学から長屋昌樹教授、相澤守教授、長嶋比呂志教授の3名がそれぞれ医学・工学・農学の立場から講演を行いました。CiRAからは山中伸弥所長および山下潤教授がiPS細胞を使った研究全般の状況、心臓再生に向けた研究の話を紹介しました。

山中所長はiPS細胞を使って、動物の体の中で人間の臓器を作る研究や、精子や卵子を作る研究があることを紹介し、そうした最先端の研究を進めて行く上で一般の方々との双方向のコミュニケーションが大切であることを強調しました。また、山下教授は心臓の機能を取り戻す挑戦について講演し、心臓の筋肉をシート上にして心臓に貼り付ける手法を紹介しました。本講演は、CiRAホームページ上でご覧いただけます。

講演者全員で臨んだトークセッション

講演者全員で臨んだトークセッション

小学生向け体験講座

「親子で遊ぼうiPS細胞教室」

CiRAブースの様子

CiRAブースの様子

8月2日に、グランフロント大阪で開催された「ナレッジキャピタルワークショップフェス」 にて、小学生向けの体験型講座ブースを開きました。今回の体験講座では、国際広報室のサイエンスコミュニケーターが中心となり、細胞フィギュアの作製や幹細胞かるたなど3つのコンテンツを用意し、来場された方々にお楽しみいただきました。猛暑日だったにも関わらず、約250名の子供たちとその保護者らが訪れてくれました。

中学生向けiPS細胞講座

「iPS細胞を研究してみよう! 」

中学生に語りかける山本助教

中学生に語りかける山本助教

7月29日に、京都市教育委員会が主催する「未来のサイエンティスト養成事業」と大津市科学館が主催する「IFクラス」の夏期講座として、CiRAでiPS細胞講座を開催し、40名の中学生が集まりました。 山本拓也助教(未来生命科学開拓部門)による細胞の特徴や先生自身の研究についての紹介、細胞についてのグループでのディスカッション、iPadでの体験ゲームを通して、iPS細胞の研究に触れました。参加者からは、楽しく学べたという感想が寄せられました。

出張CiRAカフェ:iPS夜話

「元気な免疫細胞を再生して体を守る」

金子准教授

金子准教授

8月26日の夕刻より、グランフロント大阪内のThe Lab. CAFE Lab.にてサイエンスカフェを開催しました。お勤め帰りの方を中心に約50名に参加いただきました。金子新准教授(増殖分化機構研究部門)が、iPS細胞技術を使った研究にたどり着くまでの自身の研究の道のりに触れたあと、がん治療におけるiPS細胞の可能性について話題を提供しました。 金子准教授は、免疫の機能を活用した次世代のがん治療を目指しています。参加者から、免疫のしくみや臨床応用について質問があり、熱心に先生の話に聞き入っている参加者の様子がとても印象的でした。



Column

倫理の窓から見たiPS細胞

藤田みさお准教授

藤田みさお准教授

ヒト胚へのゲノム編集(前編)

前回の八代嘉美准教授のコラムに続き、ゲノム編集に関係する倫理的問題について紹介します。2015年4月、中国の研究グループが「ゲノム編集」と呼ばれる技術を使って、世界で初めてヒト胚の遺伝子を改変したと報告しました。将来、思いどおりの性質を持つ人間を創り出すことにもつながるため、世界の有名な学術誌や学会などが、倫理的に問題であるという立場を表明しています。

農畜産物の品種改良やバイオ燃料の開発、実験動物の作製を目的に、ヒト以外の細胞にゲノム編集を行う研究(図中A)は、すでに数多く行われています。胚以外のヒト細胞へのゲノム編集にも、期待が寄せられています(図中B)。例えば、CiRAは昨年、筋ジストロフィーの患者さん由来のiPS細胞にゲノム編集を行い、遺伝子の異常が修復できたことを報告しました。こうした基礎研究に加え、アメリカではHIVの患者さんにゲノム編集を行った細胞を投与する臨床研究も行われています。

ヒト胚(図中C)のゲノム編集に特徴的な倫理的問題は、おおむね次の2つに集約されます:(1)ヒト胚にゲノム編集という操作を加えることと、(2)その胚から人ひとり創り出す可能性があることです。ヒトの胚は、子宮に戻せば、わたしたちと同じ人として成長する存在です。冒頭で触れた中国のグループも、核の異常により成長しないことがあらかじめ分かっているヒト胚を研究に用いることで、倫理的問題を回避しようとしました。

ただし、ヒト胚を操作したり研究に利用したりする行為自体は、必ずしも禁じられていません。ヒト胚を壊して作るES細胞の研究がその代表例です。ヒト胚へのゲノム編集が、基礎研究として、病気の解明や治療法の開発に役立たないとも言い切れません。そのため、ヒト胚にゲノム編集を行う行為だけに限ると、禁止する理由はないという意見や、人を創ることに近づく以上、禁止すべきだという意見などがあり、見解が分かれています。一方、ゲノム編集した胚を子宮に戻して人を創り出すことについては、多くの研究者が反対しています。ゲノム編集した胚から人を創り出すことの倫理的問題は、次回に紹介します。

(文:藤田みさお上廣倫理研究部門准教授)

図 ヒト胚へのゲノム編集に伴う倫理的問題



CiRA members

CiRAで働く人々

元惑星科学者iPS細胞の品質を守る

iPS細胞の実用化には、高品質のiPS細胞を安定的に作ることが不可欠です。今回は、細胞調製施設(FiT)で臨床用iPS細胞の品質保証に携わる吉田信介研究員にお話を伺いました。

自分の経歴を話すとよく驚かれます。大学4年生からポスドクまでの11年間、宇宙科学研究所(宇宙航空研究開発機構に統合)で小惑星探査機「はやぶさ」のターゲットとなる小惑星を決める仕事や主に月探査のための装置開発に従事しました。科学者としてのいろはを学んだのはこの時です。その後、父と同じ歯科医になり、その過程で生命科学の奥深さに魅せられました。研究への思いから、数理生態学や大腸菌の研究に関わりながら、複数の研究室で理論や実験技術を身に付けました。何の共通点もなさそうですが、宇宙分野での装置開発や画像解析などの経験が生物分野で生かせたように、異なる分野に役立った経験がたくさんあります。一人で異分野融合をしていたような感じです。

FiTに来たのは2012年10月。iPS細胞の特性に興味があり、現場で見られることに魅力を感じました。初めは臨床用iPS細胞の製造に携わっていましたが、ここ2年ほどはiPS細胞の品質保証を担当しています。業務は、iPS細胞を製造するための手順書などの制定や改訂を含む文書管理、製造期間中とその後に行われる試験検査の記録書や報告書の承認、施設・設備の性能確認試験の計画書報告書の確認、 その他FiTでの運営や作業に問題がないかの点検など多岐に渡ります。基本的にはデスクワークが中心です。主役である製造部門の仕事がうまく回るように目を配っています。今年8 月初めには、再生医療用iPS細胞ストックの提供を開始しました。(2ページ)ここでは、主に出荷試験や品質評価試験の結果が適切かを確認することで、提供するiPS細胞の品質に問題がないかという出荷判定に携わりました。

吉田研究員

吉田研究員

品質保証には様々な知識が必要ですが、基礎研究や臨床で培った経験を生かせますし、日々新しいことがでてくるのは面白く、非常にやりがいを感じています。同時に、自分達がiPS細胞の品質に太鼓判を押して他機関に提供するので、大きな責任も感じます。品質保証担当者としては、今からが始まり。 心からほっとできるのは、提供したiPS細胞から作られた細胞が患者さんに移植され、その患者さんが何事もなく天寿を全うされたと分かったときだと思っています。

CiRA news update

CiRAアップデート

10/1

基盤技術研究部門の浅香勲前准教授が同部門の教授に昇任し、高須直子医療応用推進室長が同部門教授に就任しました。 臨床応用研究部門の櫻井英俊前講師が同部門准教授に、増殖分化機構研究部門の豊田太郎前助教が同部門講師に昇任しました。 未来生命科学開拓部門の三木健嗣前特定研究員が同部門特定助教に就任しました。

9/12

第5回大阪マラソンのチャリティランナーで、CiRAを寄付先団体にしてくださっている方とマラソン練習会を大阪市内で開催しました。 山中伸弥所長、長船健二教授、渡辺亮助教、三島雄太研究員とともに、23人のチャリティランナーが、もりのみやキューズモールのエアトラック10周(3km)を走りました。

昨年度、iPS細胞研究基金にご寄付くださった方々を対象に、寄付者感謝の集いを大阪市内で開催しました。約200人がご参加くださいました。

9/7

日立製作所とCiRAが「健常人iPS細胞パネル」の構築協力を発表しました。 日立健康管理センターに訪れる方で、ご同意いただいた方から血液を採取し、健診データとともにCiRAにご提供いただきます。 その血液からiPS細胞を作製し、疾患特異的iPS細胞パネルと比較解析し、病気の原因や治療法開発を目指します。

8/28

中川誠人講師が、第13回産学官連携功労者表彰にて文部科学大臣賞を受賞しました。

8/26

出張CiRAカフェ第二回「iPS夜話」をグランフロント大阪で開催しました。(7ページ

8/20

櫻井英俊准教授グループが論文を発表しました。
5ページ

8/6

再生医療実現拠点ネットワークプログラムの一環で、再生医療用iPS細胞ストックの提供を開始しました。
2ページ

8/4

齊藤博英教授グループが論文を発表しました。
4ページ

8/2

グランフロント大阪で開催されたイベントで、小学生を対象にした「親子で遊ぼうiPS細胞教室」を開きました。(7ページ

7/29

京都市教育委員会と大津市科学館が主催するイベントで、中学生を対象にした講座を開催しました。
7ページ

7/26

明治大学とCiRAの共催で市民対象シンポジウム「iPS細胞と医農工連携:あたらしい医療を考える」を東京都内で開催しました。(7ページ

7/24

大日本住友製薬株式会社、日立製作所とCiRAは、iPS細胞を用いたパーキンソン病の再生医療の実現化に向け、ドパミン神経前駆細胞の生産方法の確立等に関する基盤技術および評価手法を開発する共同研究を行うことを発表しました。

7/22

長船健二教授グループが論文を発表しました。
3ページ




From CiRA

よくある質問

iPS細胞 何でもQ&A

「再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト」とは何ですか?

再生医療に使えるように、健康なボランティアの方からiPS細胞を作製し保存しておく計画のことです。 予め保存しておくことで、iPS細胞を作るまでの期間を短縮できることと、品質の良いiPS細胞を選んで使用することができるため、患者さん自身の細胞からiPS細胞を作る場合に比べて、 大幅にコストも時間も削減できると考えられています。

患者さん本人ではない細胞で、拒絶反応は無いのですか?

拒絶反応の有無は、細胞の型であるHLA型が大きく関与しています。 HLA型は何万種類もあり、一致することはあまり無いのですが、極稀に多くの人に移植可能なタイプのHLA型(HLAホモ接合体)を持つ方がいらっしゃいます。 そのような方にご協力いただき、iPS細胞を作製しています。

どのくらいの人に移植可能なのですか?

8月に提供を開始した細胞は日本人に最も多いHLA型ですので、一種類のiPS細胞から作った細胞で日本人の約17%に移植可能と考えられます。 今後ストックするiPS細胞の種類を増やし、2018年度中には日本人のおよそ半分に移植可能な細胞の元となるiPS細胞を用意したいと考えています。

いつ頃から治療に使えるようになりますか?

今年の8月には使用を希望する研究機関にiPS細胞を提供しました。提供先でiPS細胞を増やし、必要な細胞へと変化させる作業を行っています。 今後、この細胞を元に臨床研究あるいは臨床試験の準備を行います。安全性や有効性について十分に検証する必要がありますので、実際に多くの方に受けていただけるような治療法になるには、まだまだ時間がかかると予想されます。

iPS細胞ストックプロジェクトに協力をしたいのですが、どうすればよいでしょうか?

特殊なHLA型をお持ちの方にご協力をお願いしています。現在、京都大学病院や日本赤十字社、日本骨髄バンク、さい帯血バンクなどと連携し、過去に別の目的でHLA型を調べたことがある方を中心にご協力いただける方を探しています。
もし、そうした機関でお声がけがあった場合にはご協力をいただければ幸いです。

その他詳細についてはこちらをご覧ください。

Editorial info

発行・編集

京都大学 iPS細胞研究所
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