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2011年9月26日

未分化ES細胞や初期胚に高発現する遺伝子ECAT15-1/ECAT15-2の機能解析 Molecular and Cellular Biologyに掲載

 山中伸弥 教授(京都大学iPS細胞研究所長/物質‐細胞統合システム拠点 教授)、及び、中川誠人 講師の研究グループの中村友紀 研究員らは、ES細胞注1や初期胚といった未分化な細胞で高発現する遺伝子群ECATs(ES Cells Associated Transcripts)の中の、ECAT15-1/Dppa4(Developmental pluripotency-associated 4)とECAT15-2/Dppa2という遺伝子に着目し、これらの遺伝子の機能解析を行いました。本論文は9月6日に米国科学誌「Molecular and Cellular Biology」にオンラインで先行掲載されました。

 山中研究室では、これまでES細胞や初期胚といった未分化な細胞で高発現する遺伝子群ECATsを同定し機能解析に取り組んできました。ECATs遺伝子群の中にはNanog/ECAT4やEras/ECAT5, Sall4/ECAT24といった、未分化維持や増殖能といった多能性幹細胞の性質に重要な遺伝子が見つかっていますが、未解析の遺伝子が多数残されています。本報告では、ECATs遺伝子群の中のECAT15-1/Dppa4とECAT15-2/Dppa2という相同性を持つ二つの遺伝子に着目し、これらの遺伝子の機能解析を行いました。

 ECAT15-1とECAT15-2は、同じ染色体上の非常に近くに位置し、共に同じDNA結合ドメイン注2を有するタンパク質を発現しています。これら二つの遺伝子の、生体内における機能や二遺伝子間の関係を調べるため、各遺伝子のノックアウトマウス注3を作製して実験を行いました。当初、ECAT15-1とECAT15-2が初期胚で高発現している遺伝子であることから、ノックアウトマウスは初期胚で異常を示すと予想しましたが、初期胚ではなく出生前後の個体において肺の異常が見られました。

 しかし、ECAT15-1とECAT15-2は、肺の器官形成では発現の見られない遺伝子であり、一般的に、その場に発現していない遺伝子をノックアウトしても個体の身体に特徴が現れることはないことから、この理由について検証しました。この際、ECAT15-2をノックアウトしたES細胞を用いて検討しました。その結果、ECAT15-1とECAT15-2を含むタンパク質複合体は、初期胚においてエピジェネティクス注4制御に関与しており、この制御の異常がノックアウトマウスの肺の異常という表現型として現れていることが判明し、その結果、時間的・空間的に乖離した肺の発生に影響していたことが示されました。

 本研究では、ECAT15-2が器官形成の場に発現している遺伝子ではないにも関わらず、肺の器官形成において必須の遺伝子であることを示したとともに、未分化細胞で発現しているエピジェネティクス制御に関わる遺伝子が身体の器官形成に大きな影響を与えるという例を示しました。これまで病態や疾患の研究は、その臓器・器官を解析し原因究明を行っていました。しかし今後の研究では、原因不明の疾患について、エピジェネティクスを介して他の場所、時期に原因があるかもしれないという示唆を与える結果といえます。

 

論文名
"Essential roles of ECAT15-2/Dppa2 in functional lung development. "

著者
Tomonori Nakamura, Masato Nakagawa, Tomoko Ichisaka, Arufumi Shiota and Shinya Yamanaka.

雑誌web siteMolecular and Cellular Biology
※恐れ入りますが、本論文は出版社のウェブサイトなどより入手ください。CiRAからの送付サービスは行っておりません。

注1:ES細胞
胚性幹細胞(ES細胞:embryonic stem cell)のこと。初期胚の胚盤胞から将来からだになる部分へ成長する細胞(内部細胞塊)を取り出し、それを培養することによって作製する多能性幹細胞の一つ。あらゆる組織の細胞に分化することができる。ヒトES細胞は1997年に始めて樹立された。

注2:DNA結合ドメイン
転写因子などがDNAの特定の部位を認識して結合する領域。転写調節に直接関わる。

注3:ノックアウトマウス
人為的に目的とする遺伝子の機能を破壊したマウス。遺伝子の生体内の機能を研究するモデル動物、ES細胞を利用して作製される。

注4:エピジェネティクス
DNAの塩基配列の変化に依存せず、表現型や遺伝子発現量を変化させる仕組みのこと。DNAとタンパク質の複合体であるクロマチンへの後天的な化学的修飾(DNAメチル化やヒストン修飾)によって起こる。

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