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研究成果 
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2010年4月20日

マウスES細胞からの動脈と静脈への分化機構を解明

山下潤 准教授(京都大学再生医科学研究所 ⁄ iPS細胞研究所)研究グループの山水康平研究員らは、血管の分化過程において、どのように動脈と静脈の特徴を獲得するのかを明らかにしました。本論文は米国科学誌「The Journal of Cell Biology」189 巻2号(4月19日発行)に掲載されました。


山下研究室では、これまで、ES細胞注1やiPS細胞注2から血管への分化誘導に成功していました。血管は、主に動脈と静脈から構成されていることはよく知られていますが、その特徴を獲得する仕組みは、これまで多くの点が明らかにされていませんでした。


山下准教授らは、マウスのES細胞を用いた以前の研究から生物のからだの生理機能の調整などに重要な細胞内シグナル伝達物質の一つであるサイクリックAMP注3が、動脈への分化誘導に働いていることを見出していましたが、山水研究員らは、さらにその下流の分子機構を詳細に検討し、動物の発生過程で様々な重要な役割をもつNotchシグナル注4とβ-catenin注5シグナルがサイクリックAMPの下流で協調的に働き、動脈特異性を獲得することを明らかにしました。


これまでの研究から血管形成には、VEGF(血管内皮細胞誘導因子)注6をはじめ様々な遺伝子が関わっていることが明らかになっています。今回の研究により、血管が動脈や静脈などへの多様性を獲得していく過程でこれらの様々な遺伝子がどのように相互的に働いているかが明らかになりました。これらの詳細が明らかになると、虚血性疾患やガンに有効な治療薬の開発やES/iPS細胞を用いた血管再生など、血管をターゲットとした様々な治療法開発の手がかりに繋がることが期待されています。


論文名:"Convergence of Notch and ß – catenin signaling induces arterial fate in vascular progenitors."
「Notchとß – catenin シグナルは協調的に動脈分化を運命づける」

著者名:Kohei Yamamizu, Taichi Matsunaga, Hideki Uosaki, Hiroyuki Fukushima, Shiori Katayama, Mina Hiraoka-Kanie, Kohnosuke Mitani & Jun K. Yamashita. J. Cell Biol. 2010 April 19;189(2)


The Journal of Cell Biology website: http://jcb.rupress.org/


【用語説明】
注1:ES細胞
胚性幹細胞(ES細胞:embryonic stem cell)のことで、マウスでは受精後3.5日目の胚盤胞から将来からだになる部分に成長する運命をもった細胞(内部細胞塊)を取り出し、それを培養することによって作製される多能性幹細胞の一つ。あらゆる組織の細胞に分化することができる。


注2:iPS細胞
体細胞に特定因子を導入することにより樹立される、ES 細胞に類似した多能性幹細胞。2006 年に山中教授の研究グループにより世界で初めてマウス体細胞を用いて樹立成功が報告された。2007 年にヒトiPS細胞樹立成功が発表されている。


注3:サイクリックAMP
細胞内シグナル伝達や遺伝子調節など細胞内の仲介物質として働き、様々な生体機能に重要な役割を持つ化合物。


注4:Notchシグナル
多くの多細胞生物で共通に持っている、発生過程や幹細胞における細胞運命決定を調節するシステム。特に神経や心臓、内分泌腺の発生などにおいて、細胞運命の決定に関わる多様な調節に関わっている。


注5:ß-catenin
シグナル伝達経路のひとつとして良く知られるWntシグナル の構成分子として重要なタンパク質。Wnt/β-カテニン経路は、脊椎動物や無脊椎動物の発生における細胞運命の決定の調節や細胞の増殖、分化の制御に働いていることが良く知られている。


注6:VEGF(血管内皮細胞誘導因子)
血管新生に関わる増殖因子のひとつで、生命維持に重要な働きをもつ他、がんや動脈硬化など様々な疾病にも関連していることが明らかになってきている。

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