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2012年12月3日

ヒト血液細胞からウイルスベクターを用いずに効率よくiPS細胞を作製する方法に関する論文がStem Cellsに掲載

 沖田圭介講師(CiRA初期化機構研究部門)と山中伸弥教授(CiRA所長)らの研究グループは、ヒト末梢血や臍帯血の細胞にプラスミドベクターを用いて遺伝子を導入することで、効率よくiPS細胞注1)を作製する方法を開発しました。樹立したiPS細胞は分化多能性を持ち、ES細胞注2)と同等の遺伝子発現を示し、ゲノムDNAへ外来遺伝子の挿入が認められないiPS細胞を得ることができました。本論文は米国科学雑誌『Stem Cells』のオンライン版に11月29日掲載されました。

 ヒトiPS細胞は、再生医療の移植細胞のソースとして、あるいは病態再現による創薬研究のツールとして期待されています。これまで、主に皮膚より採取した線維芽細胞がiPS細胞の作製に用いられています。一方で、より侵襲性の低い血液細胞を用いたiPS細胞の樹立方法の確立も求められてきました。これまでも、血液細胞からiPS細胞を作製する方法について幾つか報告がありますが、再現性が低い、あるいはウイルスを用いているためゲノムDNAに外来遺伝子を挿入するなど、問題点がありました。
 昨年、沖田らはプラスミドベクターを用いてヒト線維芽細胞からiPS細胞を効率よく作製する方法を報告しています(CiRAニュース 2011.04.04Nat Methods. 8(5):409-12.)。この方法を血液細胞に応用してみたところ、iPS細胞は出来るものの、作製効率が非常に悪いことが分かりました。効率の改善を目指し、研究チームは以下の2つの実験を行いました。

  1. これまでにiPS細胞の作製効率を改善する遺伝子としてTERTやSALL4などが報告されています。そこで、これらの遺伝子をプラスミドベクターに挿入してiPS細胞の作製効率を検討しました。しかし、顕著な作製効率の改善には結びつきませんでした。

  2. 使用しているプラスミドベクターにはプラスミドを複製するためにEBNA1遺伝子とOriP配列が含まれています注3)。これがOCT3/4などの初期化遺伝子の長期的な発現につながっています。この機構に注目し、EBNA1タンパク質の発現量を増やす工夫をしたところ、血液細胞からiPS細胞を作製する効率が大きく上昇することを見出しました(図1)。

スライド1.png
図1 末梢血のT細胞からのiPS細胞作製効率の比較
従来のプラスミドベクターを黒で、EBNA1を追加したベクターをオレンジで示してある。20〜60代の男女(A: 20代男性, B: 30代男性, C: 40代男性, D: 40代女性, E: 60代男性)より末梢血を採取し、単核球を分離し、T細胞の増殖を刺激する条件で実験を行った。図は3 x 105細胞 (およそ血液0.3 cc) 当たりのiPS細胞のコロニー数を示す。


 この改良により、20代から60代の健常人より採取した末梢血のT細胞やCD34陽性細胞注4)、および臍帯血のCD34陽性細胞から効率良くiPS細胞を樹立することに成功しました。
 本研究の成果は、今後のヒトiPS細胞の樹立を容易にし、疾患モデル解析や臨床応用へ向けたiPS細胞樹立などの研究を促進することが期待されます。一方で、血液細胞から作製したiPS細胞が、線維芽細胞から作製したiPS細胞やES細胞と本質的に同等であるのかなど、詳細な解析を進める必要があります。
 この研究は、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)、京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)、産業技術総合研究所との連携のもとで実施されました。

【論文名】

【著者】
Keisuke Okitaa*, Tatsuya Yamakawaa, Yasuko Matsumuraa, Yoshiko Satoa, Naoki Amanoa, Akira Watanabea, Naoki Goshimab, and Shinya Yamanakaa,c,d,e

【著者の所属機関名】
a Center for iPS Cell Research and Application (CiRA), Kyoto University, Kyoto, Japan 
b Biomedicinal Information Research Center, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Tokyo, Japan
c Institute for Integrated Cell-Material Sciences, Kyoto University, Kyoto, Japan
d Yamanaka iPS Cell Project, Japan Science and Technology Agency, Kawaguchi, Japan.
e Gladstone Institute of Cardiovascular Disease, San Francisco, CA, USA


注1: iPS細胞
人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)のこと。体細胞に特定因子を導入することにより樹立される、ES細胞に類似した多能性幹細胞。2006年に山中教授の研究により世界で初めてマウス体細胞を用いて樹立に成功したと報告された。

注2: ES細胞
胚性幹細胞(embryonic stem cell)のこと。ES細胞は受精後6、7日目の胚盤胞から細胞を取り出し、それを培養することによって作製される多能性幹細胞の一つで、あらゆる組織の細胞に分化することができる。しかし、受精卵を破壊する必要があり、倫理的問題がある。患者自身の細胞から作製することが困難なため、免疫拒絶の問題が指摘されている。


注3: プラスミドベクターの複製
プラスミドベクターは通常細胞分裂をする際には複製されず、娘細胞はベクターを持たないものが増えてしまう。しかし、Epstein-Barrウイルスに由来するEBNA1遺伝子とOriP配列が含まれたベクターでは、EBNA1遺伝子からEBNA1タンパク質が作られ、これがOriP配列を認識することで、細胞内でプラスミドベクターの複製を促す。したがって細胞分裂などで希釈されにくくなる。ただし、複製効率は低いため長期間の培養でベクターは細胞内から消失していく。

注4: CD34陽性細胞
CD34というマーカーを持った細胞で、血液の幹細胞を豊富に含むとされている。


 上記の論文で使用されたエピソーマル・プラスミドは、非営利団体Addgeneに寄託しており、同団体より提供が開始されました。「研究材料の提供」ページからも申込みが可能となっております。 
 Addgeneは、米国マサチューセッツ州の非営利団体で、学術研究機関に対してDNA試料を提供しています。

「エピソーマルベクターを用いた末梢血からのiPS細胞樹立方法」のプロトコール(日本語英語)は、CiRAウェブサイトで公開しております。

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