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研究成果 
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2015年5月12日

生体顕微鏡観察により新たな血小板産生過程を明らかに 〜IL-1αにより誘導される巨核球破裂型造血〜

 自治医科大学 分子病態研究部の西村 智 教授および京都大学iPS細胞研究所の江藤 浩之 教授らの研究グループは、骨髄中の巨核球細胞に生体顕微鏡観察、バイオイメージングを行い、新しい血小板造血の過程を同定し、制御する因子(IL-1α)を明らかにしました。西村教授・江藤教授らが新規に開発し解析に用いたバイオイメージング技術は、生体骨髄で1つの血小板が産生される様を、三次元かつ動的に観察できる高速高解像度イメージングであり、従来手法ではわからなかった急速におこる血小板造血の機構を解明しました。
 本研究成果は、Journal of Cell Biology誌に、5月11日にオンライン公開されました。


ポイント
・生体内(マウス)での血小板造血を観察する新しい手法を開発した。
・短時間で多数の血小板を生み出せる、破裂型の血小板造血を発見した。
・破裂型の血小板造血を誘導する因子としてインターロイキン1アルファ(IL-1α)を同定した。


要旨
 従来知られている血小板造血のメカニズムは、細胞質が細長く伸張した血小板前駆細胞(Proplatelet)という形態をとり一個一個ちぎれて血小板を産生するというモデルで、ハーバード大学のグループらによって提唱されていました。しかし、このモデルでは炎症や感染の時などに見られる急激な血小板数の増加を説明できませんでした。

 今回見出した新しい造血では、巨核球が破裂するように一度に大量に血小板を産生します(破裂型造血;Rupture)。生体は、血小板造血として2つのモード(ProplateletとRupture)を使いわけています。つまり、通常の状態ではProplateletにより血小板を維持していますが、急激に大量の血小板の必要性が発生するとRuptureが支配的になり、血小板を効率的に作ることを明らかにしました。また、破裂型の血小板造血を誘導する因子としてIL-1αを同定しました。

 今回の発見・同定により、1950年代より議論が続く造血そのものの細胞生物学的過程を明らかにし、また、骨髄バイオイメージングの手法論そのものも大きく進歩させたと言えます。今後、輸血に必要な血小板をiPS細胞から大量に製造する際にも、今回新たな生理作用が認められたIL1-αが重要な役割を持つ可能性があります。


研究の背景
 末梢血中の血小板数は厳密に制御されており、生理的にはほぼ変動せず一定に保たれています。一方、炎症時には急激な一過性の血小板数増加が認められ、血小板造血が促進されているとも考えられています。古典的に用いられている実験系である培養胎児巨核球を観察していると、非常に長い足をのばしてその先端から血小板が放出される「血小板前駆細胞(Proplatelet)」という細胞形態が存在することから、この血小板前駆細胞から一個一個ちぎれて血小板を産生するというモデルが、1990年代にハーバード大学のグループらによって提唱され、教科書にもそのように記載されています。一方で、この形態で放出される血小板数には限りがあり、実際に生体維持に必要な血小板数を満たせないのでは、という意見も存在していました。特に、炎症時の血小板の急激な増加を説明するには、本過程は不十分だったといえます。

 血小板前駆細胞に関する血小板造血に関しては日本のグル-プなどからトロンボポイエチン(TPO)という因子が同定され臨床にも用いられていますが、効果に限界があり、急性の造血を促せないために使いづらいという面がありました。急性の造血因子が新たにわかれば血小板減少性疾患の治療にも有効と考えられます。

 そこで西村教授・江藤教授らのグループは、血小板の比較的短い寿命にもかかわらず、血小板が生理的に維持され、厳密に制御されるためには、血小板前駆細胞より効率的な血小板放出の第2の過程があるのではないか、また、それらを制御する因子が存在するのではないか、と考えました。培養巨核球細胞は非常に特殊であり生体を十分に再現していない可能性が高く、「生体で」血小板造血を評価する必要がある事は自明でした。


研究の内容
 上記背景を踏まえ、西村教授らのグループは、生きたマウス体内での骨髄細胞を観察する顕微鏡技術として必要となる(従来は不可能であった)、高い解像度で骨髄を観察する技術を開発しました。本研究で用いた、空間解像度300 nm、高速(秒30コマ)、マルチカラー(4色)、三次元かつ時間経過を追ったイメージングは、他に例をみないものです。特に、本手法では、血小板の一つ一つが巨核球から放出される様をはっきりと追うことができます。骨髄血管中を流れる血小板と、新たに放出された血小板を区別し、巨核球からの造血を、世界で初めて単一血小板レベルで捉えることに成功しました。

 その結果、確かにProplateletと呼ばれる造血過程をマウス体内でも確認しました。一方で、Proplateletから放出される血小板数は非常に少ないことも確認しました。炎症時の急激な造血には別の過程が存在していることが考えられます。本研究では、新たな血小板産生として「巨核球が破裂して血小板を短時間かつ大量に作る」過程があることを発見し、西村教授・江藤教授らは「破裂型血小板造血(Rupture)」と名付けました。

 この破裂型造血は、定常状態では必ずしも多くなく、炎症時、あるいは、急激に血小板を除去した後に一過性に増加するので、いままで見逃されていたと考えます。しかし、生体での急速な血小板要求に対応する主要な血小板産生過程であり、血小板数を制御していると考えられます。血小板を誘導した条件から多くの液性因子をスクリーニングし、最終的に培養巨核球を破裂させる1つの因子として、炎症性サイトカインとして知られるIL-1αの新しい造血作用を同定しています。


今後の展開
 本研究では、最先端のイメージング技術を積極的に用いることで、従来は困難と考えられていた骨髄中の単一血小板レベルでの造血過程を世界にさきがけて観察しています。その結果、1950年代以来議論のあった血小板放出に関し、Proplateletとは違う新たな破裂型造血が存在していること、その新過程が炎症時などの急性造血に用いられていること、およびその制御にはIL-1αが重要であることを明らかにしました。長年の血小板放出に関する議論に対して明確な答えを導き出せたと確信しています。

 今後、血小板輸血に代わる新たな治療法のさきがけとなることも期待されるだけでなく、血小板をiPS細胞から大量に製造する過程でも重要な機序・因子になると期待します。今後、日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受け、京都大学 iPS細胞研究所を中心にiPS細胞由来の血小板製剤の研究開発も進める予定で、それにより、少子高齢化とともに深刻化する血小板ドナー不足の解決を加速します。


<論文情報>
Satoshi Nishimura et al., IL-1α induces thrombopoiesis through megakaryocyte rupture in response to acute platelet needs. The Journal of Cell Biology
Published online in on May 11, 2015.
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