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研究成果 
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2016年7月19日

iPS細胞を用いて遺伝性腎疾患における合併症発症を予測する新規リスク因子を同定

ポイント

  1. 常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)注1患者さんの皮膚細胞よりiPS細胞を作製した。
  2. ADPKD患者さん由来iPS細胞より分化誘導した血管細胞を用いて病態の一部を細胞レベルで再現することに成功した。
  3. この病態モデル注2を用いてADPKD患者さんにおいて脳動脈瘤注3の合併を予測する新規リスク因子を同定した。
1. 要旨

ADPKDは次第に腎臓に多数の嚢胞(中に水のたまった袋)が形成され、腎臓の構造が破壊されることによって腎機能障害を来たす遺伝性の疾患です。一方でADPKD患者さんには脳動脈瘤の合併が多いことが報告されています。脳動脈瘤合併のリスク因子として家族歴や年齢などが報告されていますが、有用なバイオマーカーなどはなく、脳動脈瘤発生の機序も不明でした。

天久 朝廷 研究生(京都大学CiRA増殖分化機構研究部門)、田浦 大輔 特定助教(京都大学医学研究科糖尿病内分泌栄養内科)、曽根 正勝 特定講師(京都大学医学研究科糖尿病内分泌栄養内科)、長船 健二 教授(京都大学CiRA増殖分化機構研究部門)らの研究グループは、ADPKD患者に合併する脳動脈瘤の病態解析に向けてADPKD患者さんより作製したiPS細胞を用いて血管分化系疾患モデルを作製しました。

このモデルを活用して脳動脈瘤合併に関わる新規の病態関連分子の探索を行い、脳動脈瘤合併ADPKD患者由来iPS細胞から分化誘導した血管内皮細胞において細胞外マトリックス注4分解に関わるMMP1遺伝子の発現が有意に上昇していることを発見しました。さらに、ADPKD患者さんの血液検体を用いた解析によって、脳動脈瘤を合併しているADPKD患者さんでは非合併ADPKD患者さんに比べて血清中のMMP1の値が有意に上昇しており、MMP1がADPKD患者さんにおいて脳動脈瘤合併を予測するリスク因子である可能性を示しました。

この研究成果は、2016年7月15日に英科学誌「Scientific Reports」で公開されました。

2. 研究の背景

ADPKDはPKD1もしくはPKD2遺伝子の変異によって、腎臓や肝臓、すい臓などに多発性の嚢胞が形成される遺伝性の疾患ですが、脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血などの脳血管障害の合併が多いことが知られています。ADPKD患者の約8%に脳動脈瘤が合併するとの報告があり、これは一般的な脳動脈瘤の発症率の4~5倍です。

脳動脈瘤合併のリスク因子として家族歴や年齢などが報告されていますが、有用なバイオマーカーなどは現在までのところ見つかっておらず、脳動脈瘤発生の機序も不明でした。そこで、長船教授らの研究グループは、ADPKD患者さん由来のiPS細胞を用いて脳動脈瘤合併に関わる新規の病態関連分子を同定することを目指しました。

3. 研究成果

1. ADPKD患者さん由来iPS細胞の作製と血管細胞への分化誘導

 まず、脳動脈瘤合併ADPKD患者さん4人と非合併ADPKD患者さん3人の皮膚細胞に山中4因子を導入することで、iPS細胞を作製しました。それらのiPS細胞は、化合物および成長因子の組み合わせ処理を用いることで血管内皮細胞および血管平滑筋細胞へ分化させることが可能であることを示しました(図1)。

2. ADPKD患者さん由来のiPS細胞より分化誘導した血管細胞を用いて病態の一部再現に成功

 これまでの動物モデルやADPKD患者さん由来の細胞を用いた研究において、疾患細胞ではCaイオン動態に異常を認めることや、細胞外マトリックス代謝に関わる複数の遺伝子の発現に変化が見られることが報告されています。ADPKD患者さん由来のiPS細胞から誘導した血管細胞を用いて解析を行ったところ、Caイオン動態に一部異常が認められ、さらにDNAマイクロアレイ注5解析において複数の細胞外マトリックス代謝に関わる遺伝子群の発現が変化していました。これらの結果によって、ADPKD患者さんiPS細胞由来の血管細胞が病態の一部を再現していることが示されました。  

3. ADPKD患者さんにおいて脳動脈瘤の合併を予測するリスク因子を同定

 次に、脳動脈瘤を合併するADPKD患者さん由来のiPS細胞から誘導した血管細胞と、非合併ADPKD患者さん由来の血管細胞の遺伝子発現プロファイルを比較したところ、脳動脈瘤合併ADPKD患者さん由来の血管内皮細胞においてMMP1の発現が有意に上昇していました。さらに、354人のADPKD患者さんの血液検体を用いてMMP1と脳動脈瘤合併との関連を解析したところ、脳動脈瘤合併患者さんにおいて有意に血中MMP1値が上昇していることが分かりました。この結果より、MMP1がADPKD患者において脳動脈瘤合併を予測するリスク因子である可能性が示されました。  

4. まとめ

 本研究では、ADPKD患者さん由来のiPS細胞を血管細胞に分化誘導し、ADPKDの病態の一部を再現するとともに、脳動脈瘤合併に関わる新規のリスク因子を同定しました。(図2)今後は、同じようにADPKD患者さん由来のiPS細胞から嚢胞が発生する腎臓や肝臓の細胞を分化誘導し、嚢胞の発生機序のさらなる解明および治療薬探索基盤を開発することが期待されます。

5. 論文名と著者
  1. 論文名
    Identification of MMP1 as a novel risk factor for intracranial aneurysms in ADPKD using iPSC models
  2. ジャーナル名
    Scientific Reports
  3. 著者
    Tomonaga Ameku1, Daisuke Taura2, Masakatsu Sone2, Tomohiro Numata3,4, Masahiro Nakamura1, Fumihiko Shiota1,5, Taro Toyoda1, Satoshi Matsui1, Toshikazu Araoka1, Tetsuhiko Yasuno1, Shin-Ichi Mae1, Hatasu Kobayashi6, Naoya Kondo7, Fumiyo Kitaoka1, Naoki Amano1, Sayaka Arai1, Tomoko Ichisaka1, Norio Matsuura6, Sumiko Inoue6, Takuya Yamamoto1,8, Kazutoshi Takahashi1, Isao Asaka1, Yasuhiro Yamada1,8, Yoshifumi Ubara9, Eri Muso7, Atsushi Fukatsu5, Akira Watanabe1,8, Yasunori Sato10, Tatsutoshi Nakahata1, Yasuo Mori3,4, Akio Koizumi6, Kazuwa Nakao2, Shinya Yamanaka1 & Kenji Osafune1
  4. 著者の所属機関
    1. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
    2. 京都大学大学院医学研究科 糖尿病内分泌栄養内科
    3. 京都大学大学院工学研究科 合成・生物化学専攻
    4. 京都大学 地球環境学堂 地球親和技術学廊
    5. 京都大学大学院医学研究科 腎臓内科
    6. 京都大学大学院医学研究科 環境衛生学分野
    7. 公益財団法人 田附興風会 医学研究所 北野病院 腎臓内科
    8. 京都大学物質-細胞統合システム拠点
    9. 国家公務員共済組合連合会 虎ノ門病院 腎センター内科
    10. 千葉大学医学部附属病院 臨床試験部
6. 本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。

  1. 厚生労働省難治性疾患克服研究事業 進行性腎障害に関する調査研究
  2. 日本学術振興会(JSPS) 最先端研究開発支援プログラム(FIRST)
  3. 科学技術振興機構(JST)  戦略的創造研究推進事業さきがけ 山中iPS細胞特別プロジェクト
  4. iPS細胞研究基金
  5. 大塚製薬株式会社
7. 用語説明

注1)常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)
両側の腎臓に多数の嚢胞が次第に発生・増大して、徐々に腎機能障害が進行する最も頻度の高い遺伝性嚢胞性腎疾患です。腎臓以外にも、肝臓や膵臓などに嚢胞が生じることもあります。全身の血管にも異常があり、高血圧、脳動脈瘤、心臓の弁異常を伴う頻度が高いことが分かっています。近年、トルバプタンという薬が嚢胞の増大を抑制することが注目されていますが、根治的な治療法は現在のところありません。

注2)病態モデル
医学研究では病気に特徴的な症状や性質を再現した病態モデルを用いて病気の原因究明や治療薬の開発が行われます。これまで様々な病態を再現した実験動物が病態モデルとして作製され、研究に利用されてきました。しかしながらマウスやラットなどの動物モデルで得られた知見が哺乳類やヒトにあてはまらないことがあるなどの問題があり、ヒト細胞を用いた病態モデル作りにiPS細胞が大いに期待されています。

注3)脳動脈瘤
脳内の血管壁の一部が風船のように袋状に膨隆して形成されます。膨大した脳動脈瘤は、神経や周辺の脳組織を圧迫したり、また破裂してくも膜下出血を起こすことがあります。

注4)細胞外マトリックス
細胞の周りや細胞と細胞の間に存在する、巨大な蛋白質の超分子複合体のことです。人間の体を構成している数十兆個の細胞のうち血液中の細胞を除くほぼ全ての細胞はこの細胞外マトリックスという骨組みの中に存在しています。

注5)DNAマイクロアレイ 数千から数万種類の遺伝子の細胞内での発現パターンを網羅的に調べることができる方法です。

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