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研究成果 
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2017年3月14日

ヒトiPS細胞から高効率に血管細胞を作る方法を開発

ポイント

  1. iPS細胞から高効率に血管内皮細胞注1)を作る方法を確立した。
  2. iPS細胞の実用化の一例としてすでに製品化されている。
  3. ロット間差がなく安定した実験結果が得られる内皮細胞として有用である。
  4. 多様な内皮細胞を作り出す元になる細胞としても利用できる。
1. 要旨

 山下潤教授CiRA増殖分化機構研究部門)らの研究グループは、ヒト多能性幹細胞から高効率に血管内皮細胞を作る技術を開発しました。 この研究成果は2017年3月13日(米国東部時間)に米国のオンライン・ジャーナル「PLOS ONE」で公開されました。

2. 研究の背景

 血管は全身の様々な臓器や組織に備わっており、その形成・維持はもちろん、がん、創傷治癒など様々な病態においても多彩な役割を果たし、ヒトの生老病死の全ての過程に深く関与しています。血管の内腔を一層に覆う血管内皮細胞注1)は、血管機能の中心的役割を果たしており、様々な実験研究に応用されています。従来ヒト血管内皮細胞を用いた研究には、ヒト臍帯などから採取された内皮細胞が多用されていましたが、細胞により性質や反応が異なり一定の結果が出ないなどの欠点がありました。また近年、多能性幹細胞から大きな臓器・組織を作り出す研究が進められていますが、臓器が大きい場合には血管も同時に作れなければ、内部の細胞は酸素や栄養が十分に供給されずに死んでしまうこともあります。そうしたことを回避し幹細胞から高度な組織を作るために、ヒト多能性幹細胞から効率よく血管内皮細胞を誘導する方法は重要です。山下教授らのグループは、これまでにマウスの多能性幹細胞を使って血管内皮細胞の分化誘導方法を確立し、VEGF注2)が血管内皮細胞への誘導に必要であり、cAMP注3)がその効果を高めることを示しました。これらのノウハウを応用し、ヒトiPS細胞からの効率的な内皮細胞誘導を試みました。

3. 研究結果

 VEGFとcAMPを用いて分化のステージに応じた刺激を与えるともに、刺激後早いステージでVEGF+cAMP刺激に反応しない細胞を取り除き、血管内皮細胞へと分化誘導しました。すると、途中で細胞を取り除かない場合と比較して高い効率(純度99%以上)と収量で血管内皮細胞へと分化できました。得られた内皮細胞は、臍帯静脈内皮細胞などよりやや幼若で、種々の内皮細胞にさらに分化成熟しうるポテンシャルを有するものと思われました。

図 ヒトiPS細胞から作製した血管内皮細胞

左)ヒトiPS細胞から高効率内皮細胞誘導
(赤:VE-カドヘリン(内皮細胞)、青:細胞核)

右)ヒトiPS細胞から作製した血管内皮細胞がネットワークを形成する
(緑:CD31(内皮細胞)、青:細胞核)

4. まとめ

 今回、99%と高い効率で血管内皮細胞へと分化させることに成功しました。この技術は再生医療や3次元組織構築に広く利用されることが期待されます。なお、本研究で得られた血管内皮細胞の作製技術を用いて、タカラバイオ株式会社がiHeart Japan株式会社と研究用血管内皮細胞製品を共同開発し、昨年より販売を開始しております。新たな研究用ツールとしての応用が期待されます。

5. 論文名と著者
  1. 論文名
    "Efficient and robust differentiation of endothelial cells from human induced pluripotent stem cells via lineage control with VEGF and cyclic AMP"
  2. ジャーナル名
    PLOS ONE
  3. 著者
    Takeshi Ikuno1, 2, Hidetoshi Masumoto1, 2, Kohei Yamamizu1, Miki Yoshioka1, Kenji Minakata2, Tadashi Ikeda2, Ryuzo Sakata2, Jun K Yamashita1
  4. 著者の所属機関
    1. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
    2. 京都大学大学院医学研究科
6. 本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。

  1. AMED 再生医療実現拠点ネットワークプログラム、iPS細胞研究中核拠点
  2. 文部科学省科研費・基盤研究B
7. 用語説明

注1) 血管内皮細胞
血管の内側(血液が流れる側)の表面を構成する細胞。あらゆる血管の内壁に並んでいて、血流の内外への物質移動をコントロールしている。

注2) VEGF (Vascular Endothelial Growth Factor:血管内皮細胞誘導因子)
血管新生に関わる増殖因子のひとつで、生命維持に重要な働きをもつ他、がんや動脈硬化など様々な疾病にも関連していることが明らかになってきている。

注3) cAMP (cyclic Adenosine MonoPhosphate)
細胞内シグナル伝達や遺伝子調節など細胞内の仲介物質として働き、様々な生体機能に重要な役割を持つ化合物。

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