はじめに

_私たち櫻井研究室は、京都大学iPS細胞研究所の臨床応用研究部門を構成する研究室のひとつです。臨床応用に向けた研究・技術開発を行う部門の中で、私たちの研究室は難治性筋疾患に対する新たな治療法の研究を行います。

_ラボが立ち上がって13年目となり、いくつかの新たな展開がありました。昨年度は細胞治療を進めるうえで、臨床病態をより反映したデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)モデルラットの作製に成功した事を論文発表しました。これまでの研究では、DMD患者さんの病態と比較してDMDモデルマウスは症状が軽く、マウスを使った実験では治療効果が出やすくなってしまい、患者さんでの治療効果を予測するのに適切ではないという問題点がありました。DMDモデルラットは、マウスと比較するとより大型で重症化しており、患者さんの病態に近いモデルとして期待されます。今後、ラットモデルを使った細胞治療研究が展開できればと考えており、今回の成果を活用してゆきます。

_またAMED事業の一つである「疾患特異的iPS細胞の利活用促進・難病研究加速プログラム」の「研究拠点I」における研究活動は昨年度が最終年度でした。その成果の一つとして、筋強直性ジストロフィー1型の病態再現研究を進め、創薬スクリーニングに適した細胞モデルを構築したことを論文報告しました。今年度は新たにAMED事業として筋疾患患者由来iPS細胞を用いた病態再現・創薬研究の課題に3件採択していただき、先ほど示した筋強直性ジストロフィー1型と顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの病態研究を進め、新たな対象疾患として周期性四肢麻痺と封入体ミオパチーについても、共同研究という形で国内の筋疾患研究者と連携し研究を進めます。他の疾患についても共同研究での進捗を目指して、多くの疾患研究者の先生方と学会などで意見交換を密にし、研究を進めてゆきます。

_昨年度は3月に一般の方を対象にした市民公開講座を開催することができました。我々の研究成果を分かりやすく伝える活動も、新型コロナウイルス感染症の拡大には注意しながらではありますが、再開して行きたいと思います。

_研究内容などに興味がある方は、遠慮なくご連絡ください。

2023年7月 櫻井 英俊