ヒトiPS細胞から骨格筋細胞を作製し、既存薬の中から筋ジストロフィー病態改善効果を期待できる化合物を見出すことに成功

ジスフェルリン異常症は、ジスフェルリンという遺伝子の変異によって引き起こされる希少難治性の筋ジストロフィーであり、日本では約200人の患者さんが診断されていますが、これまでのところ治療薬は存在していません。この疾患では筋肉の細胞膜が損傷した時に引き起こされる『膜修復』という機能がジスフェルリン変異の結果として弱くなっているため、日常生活の中で徐々に筋肉細胞へのダメージが蓄積して筋力が低下し、最終的に四肢が動かなくなる患者さんが多く、QOLの低下が問題となっています。

櫻井研究室ではこれまで、ジスフェルリン異常症患者さん由来のiPS細胞を作製し、それを骨格筋細胞へと分化誘導させてジスフェルリン異常症の膜修復異常という病態を細胞レベルで再現することに2013年(Tanaka. et.al, Plos One 8(4):e61540)に成功しています。

今回、國分優子研究員(CiRA臨床応用研究部門、T-CiRA櫻井PJ)、薙野智子研究員(武田薬品工業株式会社、T-CiRA櫻井PJ)、櫻井英俊准教授CiRA臨床応用研究部門、T-CiRA櫻井PJ)らの研究グループは、ジスフェルリン異常症の患者さん由来のiPS細胞から作製した骨格筋細胞を用いて薬剤スクリーニングを実施した結果、ジスフェルリンのタンパク質量を増加させる化合物として既存薬ライブラリーからノコダゾールという抗がん剤を見出すことに初めて成功しました。

この研究成果は2019年6月28日に米国科学誌「STEM CELLS Translational Medicine」にオンライン公開されました。

 

今回の研究では、ノコダゾールが微小管の重合を阻害するため、ノコダゾール処理により構造異常を有するジスフェルリンの細胞内移動が妨げられて、ジスフェルリンがオートファジーにより分解されず、結果として細胞内に蓄積して膜修復機能が回復したと考えられます。

上段:オートファジーによる分解経路
下段:ノコダゾールによって阻害された場合

ノコダゾール自体は抗がん剤のため、長期間の投薬が必要となるジスフェルリン異常症患者さんにとっては細胞毒性が強く使用は難しいと考えられますが、今回の研究で見出された分解経路をターゲットとしてさらに研究を進めることによって、今後ジスフェルリン異常症に有効な治療薬を見出すことにつながると期待されます。また患者さん由来のiPS細胞を用いた骨格筋細胞によるスクリーニング(384ウェルプレートでの安定したハイスループットスクリーニング系)で、有効な化合物が同定出来る事が証明され、他の筋疾患への応用も発展させていきたいと考えています。

詳しい研究の内容はCiRAホームページのプレリリースをご参照ください。

http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/180827-150000.html