第2話 iPS細胞技術標準化の国際動向
iPS細胞技術の標準化は、日本だけでなく、アメリカ・ヨーロッパを中心に世界規模で進められています。iPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞が抱える「幹細胞としての分子的定義の明確化や、樹立・維持等の技術の体系化をさらに進める必要がある」という課題は、世界中の研究者も共通して感じ、解決したいと考えているのです。これらの取り組みの成果は、臨床応用を促進すると期待されます。第二話では、iPS細胞技術の標準化に向けた世界の動向を紹介します。
ES細胞の樹立や研究使用に厳しい規制のあった日本に比べ、アメリカやイギリスを中心とした国々は以前からこの標準化に取り組んできました。代表的なものが、世界21の幹細胞研究機関により組織されている国際幹細胞フォーラム1(ISCF:International Stem Cell Forum)が推進している、国際幹細胞イニシアティブ(ISCI:International Stem Cell Initiative)です。2007年に設立されたこの組織では、主にES細胞等の多能性幹細胞の特徴づけ(何があれば多能性幹細胞といえるのか)に関する基準の提示と評価方法の確立についての検討を行っています。当初は主にES細胞が対象でしたが、iPS細胞の樹立報告後はiPS細胞も視野に入れた検討が始まりました。さらに、ISCFでは国際幹細胞バンキング・イニシアティブ(ISCBI: International Stem Cell Banking Initiative)も組織し、イギリスの幹細胞バンクを中心として、米国、フランス、ドイツ、日本など世界から幹細胞を集めてバンク化を行おうとしています。
アメリカでは最近、国立衛生研究所(NIH)が、科学コミュニティに向けて幹細胞に関するリソース(細胞、プロトコール、樹立・分化誘導・培養等の手技)を提供することを目的に、NIH Center for Regenerative Medicine (NCRM) 2を設立することを決定しました。
とはいえ、世界でも標準化に向けた動きはまだ始まったばかり。日本では2008年から、文部科学省「幹細胞・再生医学戦略作業部会」3において、標準化の課題についても議論をはじめています。日本の成果を世界標準としていくために、海外の研究機関と積極的に連携し、代表となる成果を出していくことが大切です。
CiRAでは、これら国内外の動きと積極的に連携して最適な樹立法・培養法を模索し、成果を世界に向けて発信していきます。(平成22年12月20日)
1.International Stem Cell Forum (ISCF):http://www.stem-cell-forum.net/ISCF
*英文 ISCTやISCBIについても記載あり
2.NIH Center for Regenerative Medicine (NCRM):http://nihroadmap.nih.gov/stemcells/
*英文
3.文部科学省 ライフサイエンスの広場「幹細胞・再生医学戦略作業部会」:http://www.lifescience.mext.go.jp/council/committee006.html