iPS Cell Research Project for Regenerative Medicine - iPS細胞再生医療応用プロジェクト
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2014年1月16日

リング染色体を持つ患者さんから作製したiPS細胞では 染色体が自己修復されることを発見 — UCSF/グラッドストーンによる共同研究成果 Nature掲載—

この度、当研究所の所長である山中伸弥教授(グラッドストーン研究所、京都大学CiRA)をはじめ、林洋平研究員(グラッドストーン研究所)、Anthony-Wynshaw Boris教授(UCSF 、Case Western Reserve Univiersity)、Marina Bershteyn研究員(UCSF)らの研究グループの研究成果が、2014年1月12日午後6時(グリニッジ標準時)に英科学誌「Nature」のオンライン版にて掲載されることになりました。

当研究所の成果ではありませんが、参考情報としてここにお知らせ致します。

参考情報

<ポイント>
・ リング染色体注1(13番、17番)を持つ患者さんの細胞からiPS細胞株を世界で初めて作製した。
・ この細胞株ではリング染色体が消失しており、染色体を解析した結果、同一の(片親から受け継いだ正常な)染色体が増幅した一対の染色体を高頻度で保持していることを見出した。
・ この現象は、iPS細胞を利用した大規模な染色体異常に対する新しい「染色体治療」の可能性を示唆している。

<概要>
林洋平研究員(グラッドストーン研究所)、山中伸弥教授(グラッドストーン研究所、京都大学CiRA)、Anthony-Wynshaw Boris教授(UCSF 、Case Western Reserve Univiersity)、Marina Bershteyn研究員(UCSF)らの研究グループは、リング(環状)染色体を持つ患者さんからiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作製したところ、リング染色体が消失し、同一の染色体を二つ持ったiPS細胞が得られることを見いだしました。リング染色体は通常染色体の大規模な欠失も含まれるため、この発見はリング染色体を持つ細胞が染色体を自己修復したことを意味しており、新たな染色体治療の可能性を示唆するものです。

この研究成果は2014年1月12日午後1時(米国東部時間)に英科学誌「Nature」のオンライン版にて公開されました。

<研究の背景>
リング染色体は染色体の長腕と短腕の先端が融合することによって形成され、通常大規模な末端配列の欠損を伴う染色体異常の一つです。リング染色体は様々な出生異常、精神遅滞、発育不良、がんなどと関係があることが知られています。これらの疾病に対して、これまで個々の対症療法以外に何らの治療法も提示されたことはありませんでした。また、リング染色体自体が不安定であり、実験モデルにおいて、その動態や形成メカニズムに対する研究はあまり進んでいませんでした。

そこで、iPS細胞を用いたリング染色体の疾患モデルを作製すべく、リング染色体を持つ患者さん由来の繊維芽細胞からiPS細胞を作製し、その評価、解析を実施しました。

<研究結果>
1) リング17番染色体を含む細胞から片親性ダイソミーを持つiPS細胞が作製された。
Miller-Dieker症候群と呼ばれる滑脳症注2の一種は17番染色体の短腕の末端欠損に起因しますが、この患者さんのうち1人は、17番染色体が欠損するだけではなくリング状になっていました。リング17番染色体を含む細胞と他のMiller-Dieker症候群の細胞からそれぞれiPS細胞を作製しました。その結果、他のMiller-Dieker症候群の細胞からは染色体欠損が維持されたiPS細胞が作製されたのに対して、リング17番染色体を持つ細胞からはリングが消失し、それに伴い欠損も消失した1対の17番染色体を持つiPS細胞が作製されました。さらなる解析の結果、この正常な一対の染色体は元々片親から受け継いだ正常な染色体が増幅されて形成されていたことがわかりました(片親性ダイソミーと呼ばれます)。

2)リング13番染色体を含む細胞から片親性ダイソミー注3を持つiPS細胞が作製された。
上記の17番染色体の結果が他の染色体でも見られるのかどうか、13番染色体がリング状になっている方、2人の細胞からそれぞれiPS細胞を作製しました。その結果、17番染色体と同様にiPS細胞樹立の過程でリング染色体が脱落し、さらに正常染色体が増幅された片親性ダイソミーを持つ細胞が大半となることがわかりました。

<まとめ>
本研究により、リング染色体を持つ細胞からiPS細胞を作製すると、片親性ダイソミーに変化することがわかりました。このことはiPS細胞が傷を伴ったリング染色体を「自己修復」したことを示しています。片親性ダイソミーには有害変異の蓄積やインプリティング遺伝子注4の機能異常などのリスクがあります。しかし、今回の成果は画期的な「染色体治療」の可能性を示唆するものとして、今後の研究の展開が期待されます。

<論文名と著者>
論文名:
Cell-autonomous correction of ring chromosomes in human induced pluripotent stem cells

ジャーナル名:
Nature

著者:
Marina Bershteyn1,2*, Yohei Hayashi3,4*, Guillaume Desachy5, Edward C. Hsiao6, Salma Sami3,4, Kathryn M. Tsang5, Lauren A. Weiss5, Arnold R. Kriegstein2, Shinya Yamanaka3,4,7,8 & Anthony Wynshaw-Boris1,9

著者の所属機関:
1. Institute for Human Genetics and Department of Pediatrics, University of California, San Francisco, California 94143, USA.
2. Eli and Edythe Broad Center of Regeneration Medicine and Stem Cell Research, University of California, San Francisco, California 94143, USA.
3. Gladstone Institute of Cardiovascular Disease, San Francisco, California, 94158, USA.
4. Roddenberry Center for Stem Cell Biology and Medicine at Gladstone, San Francisco, California 94158, USA.
5. Department of Psychiatry, Institute for Human Genetics, University of California, San Francisco, California 94143, USA.
6. Division of Endocrinology and Metabolism and Institute for Human Genetics, Department of Medicine, University of California, San Francisco, California 94143, USA.
7. Department of Anatomy, University of California, San Francisco, San Francisco, California 94143, USA.
8. Department of Reprogramming Science, Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University, Kyoto 606-8507, Japan.
9. Department of Genetics and Genome Sciences, Case Western Reserve University, Cleveland, Ohio 44106, USA.

*マークの著者は同等に寄与した。
責任著者は、 Anthony Wynshaw-Boris博士と山中伸弥博士

<本研究への支援>
・National Institutes of Health (NIH)
・California Institute of Regenerative Medicine
・上原記念生命科学財団
・USCF Program for Breakthrough Biomedical Research
・内閣府 「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」
・文部科学省 「再生医療の実現化プロジェクト」
・文部科学省・日本学術振興会 科学研究費補助金
・医薬基盤研究所
・L K Whittier Foundation
・Rodenberry Foundation

<用語説明>
注1)リング染色体
環状染色体。染色体の長腕と短腕の先端が融合することによって形成され、通常大規模な末端配列の欠損を伴う染色体異常の一つ。

注2)滑脳症
脳のしわがなく平らであることを特徴とする脳形成異常による発達障害疾患。Miller-Dieker症候群は滑脳症の一種で、17番染色体上のLIS1遺伝子に異常を有する。

注3)片親性ダイソミー
普通は父母から1本ずつもらう染色体が、片方の親から2本もらった状態になること。

注4)インプリンティング遺伝子
通常、父親と母親から同じ遺伝子を2つ受け継ぎ、独立してそれぞれが働いている。しかし、ある種の遺伝子は父親あるいは母親のいずれかから受け継いだものしか働かないことがある。この様な遺伝子をインプリンティング遺伝子と言う。

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