Yamanaka
CiRA
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Feature article

山中伸弥所長からのメッセージ

Yamanaka

iPS細胞研究所(CiRA) 設立二年目を迎えて ―原点に返る

iPS細胞研究所(CiRA)は、本年4月1日をもちまして、設立2年目を迎えました。約1年前に120人あまりの教職員でスタートしましたが、現在では250人がiPS細胞(人工多能性幹細胞)技術の実用化を目指してこの研究所で働いています。

昨年度は、CiRAでの研究活動を効果的に推進する体制を築きつつ研究においても着実な進展が見られました。安全なiPS細胞の作製方法を見出し、ヒトiPS細胞の安全性と効果を検証するための実験動物を用いた前臨床試験に向けた準備やiPS細胞バンク作りの準備も行ってきました。患者さんの皮膚などの体細胞から作られたiPS細胞を使い、病気の原因を明らかにしたり、新しい薬を探索する研究も軌道に乗りつつあります。

そして、一年が過ぎようとしていた3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震、それに伴う大津波、さらに原子力発電所の事故が日本に未曾有の被害をもたらしました。被災された方々に謹んでお見舞いを申し上げます。また、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、一日も早い復興を心からお祈り申し上げます。

幸いにも関西地方は、京都大学をはじめとして大震災の影響を受けておりませんが、東日本では大きな被害を被った研究室もあります。それらのラボが早期に研究活動を再開できるように、できる限りの支援を行っています。

このような状況のなかで、2年目を迎えたCiRAが何をすべきかと考えたとき、私が強く思ったのは、原点に返る、ということです。それは、いかに困難な状況であっても、研究者として着実にiPS細胞技術を進化させ、その研究成果を世界に示すことです。弛みなく研究を推進し、患者さんのために一日も早いiPS細胞技術の医療応用に向けて貢献し続けることが私たちの使命であることを再認識しています。このような思いを胸に、今まで以上に気を引き締めて、研究に取り組んでまいります。

本年4月に国際シンポジウムを予定しておりましたが、国内状況を熟慮した結果、大変残念ではありましたが、中止致しました。参加申込をいただいた方々にお詫び申し上げます。研究活動を報告する機会として、本年7月に一般の方対象のシンポジウムを開催すべく準備を進めております。

CiRA教職員は、患者さんやそのご家族のお役に立てるように、国内外の研究者と連携し研究を推進してまいります。今後とも、みなさまのご理解、ご支援を心からお願い申し上げます。

 

京都大学iPS細胞研究所 所長 山中伸弥

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4月1日に、新年度を迎え、CiRA研究棟前に集合する教職員、学生たち。

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New Research

沖田圭介講師インタビュー

腫瘍化する危険性の少ない、効率的なiPS細胞の作製方法を確立する

Okita

論文の記者会見後、テレビ局のインタビューに応える沖田圭介講師。

初期化機構研究部門の沖田圭介講師と山中伸弥教授らのグループによる論文(注1)が、科学誌ネイチャー・メソッズのオンライン版に掲載されました。沖田講師にその研究成果についてお話を伺いました。

今回は、どのような研究を行ったのですか?

iPS細胞を最初に作製した時にはレトロウイルスベクター(注2)を使って、4つの遺伝子(Oct3/4,Sox2, Klf4, c-Myc)を皮膚細胞に導入するという方法でした。しかし、この方法では細胞の染色体に傷がつき、腫瘍化する危険性があります。そこで、染色体に傷がつかない方法を世界中の研究者が模索しています。今までにセンダイウイルス(注3)、エピソーマル・プラスミド(注4)、たんぱく質、合成RNA(注5)など、様々なベクターを用いる方法が報告されています。私たちはこの中から、取り扱いが簡単なエピソーマル・プラスミドに着目しました。ところが、報告されていた方法ではiPS細胞ができる効率が低いという問題がありました。そこで、私たちは作製効率を上げる研究を行いました。

結果的に、6つの因子(OCT3/4, SOX2, KLF4, L-MYC, LIN28, shRNA p53)をエピソーマルベクターを使って体細胞に入れると、iPS細胞の作製効率が向上し、染色体も傷つけないことがわかりました。

この新しい作製方法で、 HLA(human leukocyte antigen: ヒト白血球抗原)がホモの人からiPS細胞を作製したそうですが、HLAホモとは何ですか?

HLAは細胞表面に現れるたんぱく質で、臓器移植をする時の免疫拒絶反応に関与しています。非常に多くの型があり、型が合わないと臓器移植時に免疫拒絶が起こります。移植臓器と移植を受ける人の間でHLA-A, B, DRという3つの遺伝子の型が一致している場合に、移植成績がいいことが知られています。HLAは染色体と共に両親から一つずつ受けつぎますが、両方の染色体でHLAの型が一致する場合にHLAホモと言います。HLAホモだと移植の際にHLAの型を合わせ易くなります。今回の研究では、岐阜大学から提供された上述のHLA 3遺伝子がホモである2人の歯髄細胞株を使い、iPS細胞を作りました。更に、他の研究者の協力を得て、そのiPS細胞をドーパミン作動性神経細胞や網膜色素上皮細胞に変化させることができました。

このHLAホモのiPS細胞を作ることで、どのようなことが可能になるのですか?

この2つのHLAホモのiPS細胞株は、日本人の約20%に対して移植適合性があることが分かりました。もしHLA 3遺伝子ホモのiPS細胞株が50株あれば、73%の日本人をカバーできます。私たちの試算では50株を集めるには、3.7万人のHLA型を調べる必要があります。ただし、この3遺伝子だけで拒絶反応すべてを抑えられるわけではありません。

今回の研究成果は、どのような意義があるのでしょうか?

将来のiPS細胞技術を使った細胞移植治療に向けて有効な知見を得ることができました。今回確立したエピソーマル・プラスミドを使ったiPS細胞の作製方法を、いくつかの研究室で試みてもらいましたが、上手くiPS細胞が作製できています。この方法は、体細胞に遺伝子を入れても染色体を傷つけることがないので移植しても腫瘍が形成される危険性は低いと考えられます。国際的にiPS細胞の作製方法を標準化する必要があるのですが、これはその候補の一つだと思います。

また、HLAホモの人からiPS細胞を樹立し、更に組織細胞に分化(変化)させることができたことは、iPS細胞バンクを作るのに必要な、基盤となる技術の確立に向けて、一歩前進したと思います。

沖田先生の今後の研究課題は何ですか?

将来の臨床研究に向けて、今回確立したiPS細胞の樹立(作製)方法で本当に安全なiPS細胞が作れるかどうかを、明らかにする必要があります。例えば、iPS細胞から分化させた細胞を実験動物に移植して、腫瘍を作らないかどうかを調べるといった実験が必要だと思います。

Glossary

注1) ``A more efficient method to generate integration-free human iPS cells.'' 「遺伝子挿入のないヒトiPS細胞のより簡便な樹立法の開発」 Nature Methods. (Okita, K., Matsumura, Y., Sato, Y., Okada, A., Morizane, A., Okamoto, S., Hong, H., Nakagawa, M., Tanabe, K., Tezuka, K., Shibata, T., Kunisada, T., Takahashi, M., Takahashi, J., Saji, H., Yamanaka, S.)

注2)ベクターとは、細胞外から内部へ遺伝子を導入するための「運び屋」を指す。レトロウイルスベクターは、目的遺伝子をレトロウイルスに組み込み、細胞に感染させることにより遺伝子を導入する。
注3)マウスやラットを宿主とするウイルスで、1950年代に東北大学の研究者によって発見された。細胞の染色体には取りこまれないウイルスの一種。

注4)環状DNAの一種。細胞の染色体には取り込まれずに、自律的に複製するプラスミド。

注5)リボ核酸のこと。DNA の持っている遺伝情報をコピーして、たんぱく質を作るアミノ酸の塩基配列を規定する。特定のたんぱく質を作るように人工的に作られたものを合成RNAと言う。

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Interview

井上治久准教授インタビュー

iPS細胞を使いALSの治療法開発を目指す

Inoue

ALS(筋萎縮性側索硬化症)について多くのお問い合わせをいただいています。ALS患者さんの体細胞からiPS細胞を作って研究を行っている、臨床応用研究部門の井上治久准教授にお話を伺いました。

現在のALS研究の現状は、どのような状況でしょうか?

 ALSは約140年前にフランスのシャルコーという神経学者によって初めて報告された神経変性疾患です。病態が報告されて以来、多くの人々が研究に取り組んでいるにも関わらず、未だに治療法がない病気です。しかし、これまでには、いくつかALS研究にとっての大きな出来事がありました。その一つは、1993年SOD1という原因遺伝子の一つが発見されたことです。SOD1遺伝子は、抗酸化作用を有するタンパク質を作る遺伝子で、この遺伝子に変異が存在するとALSになることが判明しました。翌年には病気のモデルとなるマウスが作られ、研究の進展が期待されました。しかし、未だに有効な治療法はないというのが現状です。

そのような中で、2007年にヒトiPS細胞の作製が報告されたことを機に、人の細胞を使った病態モデルができるのではないかという期待が高まっています。2008年に、ハーバード大学のグループがALS患者さんの皮膚細胞から作製したiPS細胞から運動神経の作製に成功しました。

現在のALS研究の状況は、新たな原因遺伝子の発見、新たなモデル動物の開発に加えてiPS細胞の発見によって人の細胞を使った研究ができるようになり、さらに世界的にも研究が加速すると思います。

iPS細胞を使ったALS研究に取り組んでいる研究者は?

体細胞クローン羊ドリーを誕生させたイアン・ウィルマット博士も、今はALSの研究に取り組んでいます。日本では、東北大学、名古屋大学、東京都医学総合研究所等でも研究が盛んに行われています。

井上先生は、どのような研究を行っていますか?

目標はALSの治療法の確立です。今の研究は、シャーレの中で病気を再現して、創薬(新しい薬を開発すること)に繋げることが可能であると考えています。ただし、そのゴールに到達するためには、病気の原因をきちんと解明し、理解することが重要であると、考えています。

研究を進める上で難しい点はどんなところでしょうか?

iPS細胞の研究は日進月歩で進んでいます。私たちの研究の中心はiPS細胞から神経細胞を作り、病気と正常の相違を明らかにすることですが、その土台となるiPS細胞の作り方や評価方法がどんどん変化する状況ですから、その変化の速さに対応することが重要です。土台の部分の変化に対応しつつ、ALS研究を進めていくことが必要なので、最新の情報をどのように判断するか、そういった判断が難しいです。幸いCiRAにはiPS細胞の作製の部分について研究を進めている研究者がおられるので、それらの先生方との意見交換が可能で、細かいアドバイスをもらうことができます。その利点を活かして研究を進めています。

他の神経疾患研究への応用は考えられますか?

患者さんの体細胞から作ったiPS細胞を使った研究で、今までに病態が再現できた疾患は、多くは子どものときに症状が出る病気です。世界で初めてiPS細胞を使って病態の再現に成功したのは、脊髄性筋委縮症(SMA)という小児の時期に病状の出る神経疾患でした。

ALSは加齢に伴って症状が出る病気なので、病態を再現するためには何らかの工夫が必要かもしれません。しかし、そういった加齢変化が伴うような疾患で病態を再現し病気のメカニズムを理解できれば、他の多くの病気にも有用な情報が得られると考えています。

ALSの他にアルツハイマー病も研究対象としていますが、これらの研究を通して多くの神経難病の治療法の確立に繋げることができればと考えています。

井上先生は、臨床医としてALSの患者さんを担当した経験がきっかけとなり、神経難病の研究に取り組んで来られましたが、患者さんへのメッセージをお願いします。

ALSを担当したすべての医師は、腹立たしさ、自責の念、忸怩たる思い、様々な気持ちを持っていると思います。考えられるあらゆる選択肢を導入し、スピード感を持って研究を進めます。

研究の目的

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Column

ランドスケープ

米国iPS細胞関連特許の動向

iPierian

2月1日に京都大学内でiPierian社からのiPS細胞関連特許の譲渡に関する記者会見に出席する松本紘総長(右)と山中伸弥所長

iPierian社から京都大学へのiPS細胞関連特許の譲渡、
iPSアカデミアジャパン社を通じてライセンス許諾

京都大学は、米国南サンフランシスコに拠点を置く、バイオベンチャー企業のiPierian社が保有するiPS細胞製造に関する特許(特許出願を含む)を、2011年1月27日付で譲り受ける契約を締結しました。

同時に、iPSアカデミアジャパン株式会社を通して、京都大学が保有するiPS細胞製造に関する基本特許の非独占的ライセンスをiPierian社に許諾しました。この契約締結については、松本紘京都大学総長、山中伸弥所長らが出席して、2月1日に記者発表を行っています。

2010年12月に、iPierian社から、世界に先駆けてiPS細胞樹立に成功した山中教授の発明を尊重し、将来想定されていた京都大学との特許係争を回避するために、同社が保有する特許を京都大学に譲渡したいという申し出がありました。京都大学とiPierian社は、3因子を用いたiPS細胞の樹立方法に関して、類似した内容の特許出願を米国特許商標庁に申請していました。このため数か月以内に、どちらの出願人に特許権を付与するかを決める係争に入る可能性があったのです。係争になると、実験ノートなどの証拠提出や証人尋問など、膨大な時間と多額の費用がかかります。

京都大学は、CiRAを中心に世界のiPS細胞研究をリードする研究機関として、国内外の多くの学術機関や企業がiPS細胞技術を安心して使用できるように、iPS細胞関連の技術に関する特許の取得に努めてきました。2011年4月11日までに、日本国内で3件の特許を成立させています。

今回の契約は、京都大学のみならず、iPS細胞研究に取り組む機関や企業にとっても大きな意義を有すると考え、この申し出を受けることにしました。なお、契約全体の枠組みの中で検討し、京都大学からiPierian社への金銭の授受なしに譲渡を受けています。

今回のiPierian社との契約締結により、京都大学は、両者間の特許係争が回避でき、iPS細胞技術の普及や、研究者が研究活動に専念できる環境の整備につながるものと考えています。

(11ページの「iPS細胞 何でもQ&A」参照)

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Column

CiRAで働く人々

大学事務のプロフェッショナル

Koyama

病院西地区共通事務部長で、CiRA事務長の小山房男さん

今回は、病院西地区共通事務部の部長で、CiRA事務長の小山房男さんにお話しを伺いました。

京都大学の各学部や研究所には総務、人事、財務、施設管理などを担当する事務職員が配置される事務部門が設置され、大学運営を支えています。小山さんは、京大の職員として大学附属病院や再生医科学研究所の事務長など様々な部署の役職を経験し、現在、CiRAの事務を統括する事務長として、研究所長や副所長と協力して、CiRAの運営を行っています。

「既存の大学のルールは守りながら、いかに山中(伸弥)所長らの新しい考えを、CiRAの運営に反映するかバランス感覚が必要だと感じています。」と小山さんは言います。例えば、他部局にはない、知的財産、契約や広報を担当する専門の部署と既存の事務担当部署との調整を図り、教員に対して新たな支援体制を構築し安定させることなどです。

小山さんが、現在、主に取り組んでいる課題の一つは、この研究所を安定的に運営するための経済基盤システムを構築することです。CiRAは国から多額の支援を受け、研究活動や研究所の運営には十分な資金をいただいています。しかし、公的予算は期間限定かつ用途も研究目的などに限られている競争的資金であるため、財務基盤が年度毎に変化するという不安定な状況だと小山さんは指摘します。

小山さんには、もう一つの重要な仕事があります。昨年10月1日に、京大は効率的な事務組織運営を目指して、病院西地区の三つの研究所-CiRA、再生医科学研究所、ウイルス研究所ーの事務組織を再編し、共通事務部を設置しました。これは、三つの研究所に共通する事務処理を行う部門で、小山さんはその組織の長でもあります。
このような事

このような事務部門の効率化は、京都大学の中でも比較的新しい試みです。「国の予算で得られた研究成果を世の中に還元するのが京大の研究所の役割です。研究を主体に物事を進めながらも、いかに運営業務の効率化を実現するかを模索しています。」と小山さんは話します。

"既存の京都大学のルールを守りながら、いかに山中所長の新しい考えをCiRAの運営に反映するか、
バランス感覚が必要だと感じています。"

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News

CiRAアップデート

3/31

2010年度のアニュアル・レポート (日本語版・英語版)を発行いたしました。ウェブサイトから無料でダウンロードできます。

3/23-25

第5回ヒトiPS細胞樹立・維持培養講習会、実技トレーニングをCiRA研究棟で開催しました。

3/17

山中伸弥教授が、アルバニー・メディカル・センター賞をジェームズ・トムソン教授(ウィスコンシン大学)、エレーヌ・フックス教授(ロックフェラー大学)と共同受賞しました。

3/15-4/8

CiRA Ground Floor Activity サイラ・グラウンドフロア・アクティビティ第2弾として、CiRAメンバーによるサイエンス・フォト・コンテストを開催しました。(写真参照)

2/26

山下潤准教授(京大再生医科学研究所兼務)と中尾一和教授(京大医学研究科内分泌代謝内科)らのグループによる、サイクロスポリンAがマウス/ヒトiPS細胞からの心筋や心筋前駆細胞の誘導効率を向上することを明らかにした論文が米科学誌に掲載されました。

2/17

山中教授が、ウルフ賞医学部門をルドルフ・イェーニッシュ教授(マサチューセッツ工科大学)と共同受賞しました。

2/4

山中教授が、BBVA財団Frontiers of Knowledge Award 生物医学部門賞を受賞しました。

2/3

CiRAと島津製作所は、iPS 細胞のバイオマーカー探索のための共同研究契約締結の記者会見を行いました。

2/1

京都大学はiPSアカデミアジャパン社を通じてiPierian社にiPS細胞関連特許のライセンスを許諾し、同社保有のiPS細胞特許が京大に譲渡されました。(8ページ参照)

1/24

ウクライナのヴィクトル・フェドロヴィチ・ヤヌコーヴィチ大統領がCiRAを訪問し、講演を行いました。

1/18

山中教授が、キング・ファイサル国際賞をジェームズ・トムソン教授 (ウィスコンシン大学)と共同で受賞しました。

iPS細胞 何でも

Q&A

特許制度とは、どのような仕組みですか?

まず、新規性や進歩性があると考えられる発明を、特許庁に特許出願します。出願ルートには、各国の特許庁に特許出願する「各国ルート」と、特許協力条約(PCT)に基づき世界知的所有権機関(WIPO)に出願する「国際出願ルート (PCTルート)」があります。国際出願は、1回の出願申請で、約150の条約加盟国の行政機関に出願が可能となります。国際出願後、一定期間後に、出願人が希望する国に、国際出願を移行させます。 その後各国の特許庁が出願内容を審査し、各国で特許権付与の可否判断がなされます。付与された特許権の権利期間は、特許出願日から20年間です。

日本と米国の特許制度には、どのような違いがありますか?

日本や欧州などの米国以外の国では、同じ発明については、先に特許庁に出願した人に特許権が認められます。これを先願主義と言います。一方、米国では最初に発明した人に特許権が認められ、これを先発明主義と言います。

ですから、同一または類似した発明の特許出願が、異なる出願人から2件以上申請されると、米国ではどの出願人の発明日が先かを調べます。発明日とは、発明がなされた日のことですが、研究者がつけている実験ノートなどに記載されている記録によって証明できます。

米国iPierian社が京都大学に譲渡した特許とは、どのようなものですか?

京都大学に譲渡された特許(特許出願を含む)は、バイエル薬品株式会社神戸リサーチセンターで、桜田一洋センター長らの研究グループにより行われていたiPS細胞に関する研究成果から生じたものです。

2008年に、ドイツのバイエル社がこの特許を、iPierian社の前身であるiZumi Bio社に譲渡しました。京大に譲渡された特許の中には、2010年2月10日に英国で成立した「3因子によるiPS細胞の樹立方法」に関する特許も含まれています。

(8ページのコラム「ランドスケープ」参照) 

 

 

 

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