臨床応用研究部門の江藤浩之教授らのグループによる研究成果が2月13日に米国科学雑誌「セル・ステム・セル」に掲載されました。研究内容の詳細について江藤教授にお話を伺いました。
記者会見で話す江藤教授
血小板って何ですか?
血を止める際に重要な働きをする核のない小さな血液細胞で、巨核球という細胞からちぎれるようにしてつくられます。自ら分裂して増えることはできないので、常に巨核球から作られ、必要な量が補充されています。深刻な貧血や出血を起こすような血液の病気を持つ患者さんは、血小板を輸血に頼って補っています。
献血では不十分なのですか?
少子高齢化の影響もあり、血液を提供する人の数が減っており、厚生労働省の統計によると、2027年には日本で必要な輸血量に対して20%程不足すると発表されています。そのため、献血に代わる新しい方法で血液の細胞を用意する必要があります。
どうやって血小板をつくるのですか?
これまでの研究でiPS細胞から血小板を作る方法は分かっていました。しかし、iPS細胞からスタートして血小板を作っていては、工程数が多く、多くの時間と費用がかかってしまいました。より効率よく血小板をつくるために、我々は血小板の一つ前の細胞である巨核球という細胞に注目しました。遺伝子を導入して自己増殖できる巨核球を作り、これを冷凍保存しておいて必要なときに使うというシステムを作りました。これにより、輸血に必要な1000億個の血小板を作ることが出来るようになります。
その細胞はがんになったりしませんか?
細胞を移植する前には放射線を当てるので、巨核球など核を持ったがん化の可能性がある細胞は死滅します。核を持たない血小板は放射線の影響を受けず、がん化のリスクはまず無いと言えます。
新しいシステムのメリットは?
短期間で大量に血小板をつくることができるというのが大きなメリットです。また、巨核球の状態で冷凍保存しておき、必要なときに必要な量だけの血小板を作ることが出来ます。iPS細胞ストック計画と連携することで、特殊なタイプの血小板を持つ患者さんにも安定して血小板を提供することが出来るようになると考えられます。

複製可能な巨核球の作製方法
近いうちに人での治療に応用されますか?
このシステムを用いた臨床研究を平成27~28年にも開始したいと考えています。最終的には臨床試験を経て10年後の実用化を目指して研究を進めています。
赤血球などは作れるのですか?
血小板と同じような方法で、自己増殖できる赤血球前駆細胞をつくり、大量に赤血球の元となる細胞をつくりだすことに成功し、2013年の12月に「ステム・セル・リポーツ」という科学誌で報告しました。こちらについても赤血球輸血の安定供給に役立てられるように、より成熟した赤血球を誘導する方法を開発しています。
筆頭著者紹介
中村 壮(なかむら・そう)
1980年神奈川県生まれ。子供の頃は釣りをしたり、泳いだり、磯遊びをしたりと、海で遊ぶことが好きでした。大学でバイオサイエンスを専攻し、横浜市立大学大学院に進みました。その後、江藤研究室に参加し、現在は今回発表した技術を臨床応用へ向けて、改良を進めています。今後の目標は、「研究者として半人前なので日々精進していきたいと思うとともに、健康第一でいきたいなぁ」とのことです。
血小板の成果
【論文名】
Expandable megakaryocyte cell lines enable clinically-applicable generation of platelets from human induced pluripotent stem cells
【著者名】
Sou Nakamura, Naoya Takayama, Shinji Hirata, Hideya Seo, Hiroshi Endo, Kiyosumi Ochi, Ken-ichi Fujita, Tomo Koike, Ken-ichi Harimoto, Takeaki Dohda, Akira Watanabe, Keisuke Okita, Nobuyasu Takahashi, Akira Sawaguchi, Shinya Yamanaka, Hiromitsu Nakauchi, Satoshi Nishimura and Koji Eto
赤血球の成果
【論文名】
Immortalization of erythroblast by c-MYC and BCL-XL enables large-scale erythrocyte production from human pluripotent stem cells
【著者名】
Sho-ichi Hirose, Naoya Takayama, Sou Nakamura, Kazumichi Nagasawa, Kiyosumi Ochi, Shinji Hirata, Satoshi Yamazaki, Tomoyuki Yamaguchi, Makoto Otsu, Shinya Sano, Nobuyasu Takahashi, Akira Sawaguchi, Mamoru Ito, Takashi Kato, Hiromitsu Nakauchi, and Koji Eto