SOCIETY
社会に広がるiPS 細胞
価値あるiPS 細胞を、
誰もが利用できるようにする事業
iPS 細胞技術は、新たな産業を生み出すパワーを持った発明です。そこで重要になるのが、関連する特許を使ってもらうこと。2008年に京都大学が中心となって設立し、iPS細胞のライセンス事業に取り組むiPSアカデミアジャパン株式会社の代表取締役社長の工藤周三氏に、特許の意義やCiRA との関わりについて話を聞きました。
iPS 細胞技術の普及と、ライセンス事業の関係
iPS アカデミアジャパンは、iPS 細胞技術に特化して特許ライセンス事業を行う会社です。大学の研究活動成果のなかには、「特許」という知的財産があります。この特許を使いたい企業に向けて、大学の代わりに特許使用権の有償販売を行っています。
ライセンス活動において、当社は「承認TLO(技術移転機関)」という地位を得ています。TLO は、大学で生まれる研究成果に経済的な価値を持たせ、大学の代わりに事業化をコーディネートする外部組織です。「承認TLO」の称号は、文科省と経産省から事業計画が承認されていることの証です。当社は、大学で生まれる知財のなかでもiPS 細胞技術に特化しているのが特徴です。
特許ライセンス事業とは何か
どんな技術も、特許として認められれば独占権が発生します。企業が研究成果の特許を取るのは、ほかの人がその技術を勝手に使えないようにするためです。他社に特許使用を認める場合は、ライセンスして対価(お金)を得ることができます。CiRA の所長を務める山中先生は、iPS 細胞技術の特許を大学が取得する理由について「企業が特許を取って独占すると技術が普及しない。だから大学が特許を取得し、使いたい人に広くライセンスする」とおっしゃっています。
特許の有効期間は20年。期限が過ぎれば誰でも自由に使えるようになりますが、それまでは、正当な権限を持って特許発明を使わないと権利侵害行為になります。iPS 細胞技術に関しては、当社がCiRA(京都大学)から特許発明の使用を許可する権利を得ています。
iPS 細胞の産業利用は、創薬や再生医療・細胞治療など多岐にわたります。当社のライセンス事業の結果、iPS 細胞に起因した薬や医療が世の中に提供され、人々がその恩恵を受ける。当社はそのような形で社会とつながっています。
2021 年2 月時点の特許ライセンス先企業の累計は、国内約120 社、海外約130 社となっています。日本では、2008 年にiPS 細胞の基本特許が成立した当初から、iPS 細胞技術は認知されていたため、特許ライセンスも堅調でした。それが、2012 年に山中先生がノーベル医学・生理学賞を受賞されたことが追い風となって、海外での認知度も高まり、海外企業への特許ライセンス数も年々増え続けています。
PICK UP
研究機関向けのライセンスポリシー
※大学や国立の研究機関など、公的な研究機関が、非商業目的で特許を利用する場合は、iPS アカデミアジャパンから特許ライセンスを受ける必要はない。
※出典: iPS アカデミアジャパンWeb サイト。
CiRAとiPS アカデミアジャパンの関係性
特許の出願・取得はCiRA 内部で行われます。それらの特許に関して契約を交わすことで、当社はCiRAの特許発明の使用を第三者に許可する権利を与えられます。この権利をもとに、当社は特許を利用したい企業を探して契約を結びます。そうして得たライセンス収入の一定割合を、権利者のCiRA(京都大学)に返しています。CiRAはそのお金を特許取得の経費の回収に充てたり、発明者への報償や新しい研究開発活動の資金にしたりします。
CiRA と当社は、車の両輪のような関係にあります。CiRAが発明を生みだして、特許を取得し、当社がそれを第三者にライセンスする。どちらか一方だけでは、iPS細胞関連の発明は世の中に浸透していきません。ですので、両者の連携がスムーズに進むよう、工夫を続けながら活動していければと思います。大学発ベンチャーの立ち上げも増えており、CiRA 発ベンチャーも例外ではありません。ベンチャー企業は、特許ライセンスを受けることで、外部からの資金調達が可能となるケースがあります。特許を活用し、CiRAとともに、iPS細胞技術の普及に取り組んでいきます。
工藤 周三
iPS アカデミアジャパン株式会社 代表取締役社長
京都大学をはじめ、大学で生まれたiPS 細胞関連特許について企業に有償ライセンスをおこない、iPS細胞技術の社会的普及を支える。