PEOPLECiRA研究支援者の想い
正しく測る“実験の職人”技術員の仕事

後藤萌(ごとうめぐみ)さんは京都大学大学院医学研究科を経て、難治性筋疾患の研究をしているCiRA櫻井英俊研究室で技術員の仕事をしています。研究室では、研究の理論や仮説を確かめるための実験が行われています。技術員の仕事は、いわば実験を支える職人です。技術員の仕事と後藤さんが日頃大切にしていることについて聞きました。
技術員として、実験で使うiPS細胞の培養、必要な試薬の注文、実験機器の修理対応、実験用のマウスの維持管理といった仕事をしています。中でも櫻井研究室で私が立ち上げに携わった仕事は、マウスの筋力測定です。櫻井研究室では筋ジストロフィー(※)などの難治性筋疾患の治療法を、iPS細胞を使って開発しています。治療の効果を確かめる上で重要になるのがマウスの筋力測定です。
筋力測定といっても、マウスは気分で動き回ります。こちらの要望を聞いてくれるわけではありません。気分で発揮された筋力を実験で測定しても何の意味もありません。しかし、治療したマウスとしていないマウスで、純粋な筋力に差があるかどうかを確かめなければならないのです。
筋力測定のために、マウスに貼り付ける電極の位置を微調整するなどの条件検討を、研究員のみなさんと数ヶ月かけて行いました。筋肉は外部から電気刺激を加えることで収縮させることができます。電気刺激によって収縮した筋力を測定することで、マウスの気分に左右されない再現性のある実験方法をつくることができ、治療効果の測定に成功したのです。現在はマウスにダンベル運動のような動きをさせて、筋持久力を測定するなど、病態の評価に適した筋力測定の方法を探っています。
私が大きな喜びを感じる瞬間は、治療を待っている患者さんに良い研究成果の報告ができるときです。櫻井先生は、定期的に患者さんとの意見交換の場を設けており、実験の成功や良い結果を報告するたび、患者さんは明るい希望を抱いてくださってるように感じます。患者さんのために実験をしている、自分の仕事が治療法の開発につながっているということを再確認できる、とても大切な時間なのです。
治療法のない病気を患う患者さんに治療を届けることは、私のキャリアにおいて常に大きなモチベーションでした。そのきっかけは学部4回生の頃に行った病院での実習でした。私は脊髄損傷や脳卒中、中枢神経系の疾患の患者さんを担当したのですが、リハビリなどの治療をしても、身体に麻痺が残ったり、一生車椅子生活になる患者さんを目の当たりにし、私にできることがないことがとても悔しかったのです。
治療法のない病気を治すためにはどうすれば良いかと大学院に進みました。その後、縁あって櫻井研究室に入りました。これからは知識をもっとたくさん身につけて、自分で実験を組み立てていけるような思考力を持つ技術員になりたいですね。そして、患者さんに一日でも早く治療を届けたいと思います。
※ 筋ジストロフィー:骨格筋の壊死・再生によって、筋力低下を呈する遺伝性疾患。