トップ > もっと知るiPS細胞 > CiRAシンポジウム質疑応答 2009年度

| パネリスト | 山中 伸弥センター長(山中と表記) 中畑 龍俊副センター長(中畑と表記) 戸口田 淳也副センター長(戸口田と表記) |
| 司会者 | 関根友実さん(関根と表記) |
最初の約25分間は、参加者から事前に寄せられた質問を司会者に聞いていただき、パネリストが回答しています。
残りの約20分間は、参加者が直接講演者に質問しました。下記の文章は、これらの質疑応答を要約したものです。
関根
山中先生がiPS細胞研究を始めるきっかけとなった出来事は何ですか。
山中
関根
iPS 細胞は時計の針を逆戻りさせるという発想でしたが、日々、どのような視点で研究 をされているのですか。
山中
関根
ALS、パーキンソン病、筋ジストロフィー、三好型ミオパチー、I型糖尿病、膠原病、腎不全、骨粗鬆症、リューマチ、胆道閉鎖症、魚鱗癬、性同一性障害、等々、さまざまの難病を抱える方々から多くの質問が寄せられています。それぞれの疾患に対して、現在、日本では、あるいは京都大学ではどのような疾患特異的iPS細胞研究が行われているのでしょうか。
中畑
京都大学ではiPS 細胞技術を必要とするすべての難病疾患の患者からiPS 細胞を作製することが京大医の倫理委員会で承認されており、いろいろな診療科の先生たちが取り組まれて、iPS 細胞作りが始まっています。(CiRA HP参照)ひとりの患者さんからiPS 細胞を作るにはかなり長い時間と膨大な労力が必要なので、希望されるすべての患者さんをすぐにお引き受けして、次々と作製することは困難です。
京都大学では、ALSについては、CiRAの井上治久先生が主体となって、iPS細胞を樹立しています。脂肪委縮症は内科の中尾一和先生の教室ですでに樹立されていますし、多嚢胞腎はCiRAの長船健二先生が樹立されています。我々のところでは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、CINCA症候群、血液中の好中球と神経に異常をきたすコストマン症候群のiPS 細胞も樹立されて、その解析が行われています。

関根
難病に苦しむ方やご家族の方は、iPS細胞技術の医療応用の実現を待ち望んでいら っしゃると思います。いつ頃実現するとお考えでしょうか?
中畑
関根
どの疾患について、iPS細胞技術の実用化がされるのでしょうか。
中畑
関根
iPS細胞から分化誘導された人体の組織にはどのようなものがあるのですか。
また、将来、自分の細胞を使って臓器そのものを作り出すことができるようになるのでしょうか。
戸口田

体の最小単位は細胞で、細胞が集まって組織になり、組織が集まって個々の臓器になります。iPS細胞研究で、現在、行っているのは細胞を作るということす。しかし、組織を作る段階までは至っていません。細胞を試験管の中で作ることは、例えば、神経の細胞、血液の細胞、心筋の細胞などを作ることには成功しています。細胞を培養する際にタンパク質を加えたり、3 次元といって、かたまりで増やすなどさまざまな工夫によって様々な細胞を作ることはできますが、試験管の中で組織を作ることはまだできていません。
一つの臓器、たとえば、肝臓についていうと、肝臓の細胞、血管の細胞、胆管の細胞など、複数の細胞が肝臓を形成するために必要なわけで、それらを人間の力で組み合わせて、もともとあったような肝臓という臓器を作り出すことは、現時点では不可能です。細胞だけではなく、他の分野の進歩、例えば、工学、医学などの進歩とともに、将来は可能になるかも知れませんが、今のところ、まず目指しているのは効率よく特定機能を持つ細胞を作製することです。関根
もしiPS細胞治療が実現した場合、治療費はどれくらいになるでしょうか?
戸口田
関根
初めてiPS細胞作製の成功を発表されたとき、チーム日本となって、日本全体がこの誇らしい研究をサポートして行っていかなければならない、と言われたことが記憶に残っています。それから3年経った今の研究をめぐる状況をどのようにご覧になられていますか?
山中
参加者A
iPS細胞とがん化との関係についてどのようにお考えでしょうか。
山中
iPS細胞を作る過程とがんを作る過程と共通点が多いことは研究を開始したときから理解していました。しかし、全く同じというわけではありません。異なる点もたくさんあるので、そこをうまく分けて、いかにがんにならないiPS細胞を作るかということを研究しています。樹立方法や分化誘導方法を工夫することによって安全性を高めていくことができると考えています。4因子のうちのc-Mycという遺伝子ががんを作らせる危険がありますが、今はc-MycなしでもiPS細胞を作ることができます。2因子でも1因子でもiPS細胞を作製できますが、効率が下がるので、バランスで考える必要があります。その方面の技術改良は世界中で切磋琢磨されておりますので、技術面はおそらく1、2年のうちに解決できるのではないかと楽観的に考えています。
参加者B
山中先生は日本中で、世界中でひとりで頑張っておられると思いますが、 これからの医学生の養成についてはどのようにお考えでしょうか。
山中
中畑
参加者C
弟は脊髄損傷を患っています。お話を伺かがっていると、iPS細胞が実際に治療に使われるようになるには時間がかかるということがわかりました。すると弟の病状は安定します。弟のほかにも、病気の方は、病気が進んだり、安定したりすると思いますが、このような場合でもiPS細胞技術は有効なのでしょうか。
中畑
関根
最適な時機に移植するためにiPS 細胞を作製するには時間がかかりすぎるという問題 があると思います。その点についてはどうですか。
山中
参加者D
戸口田先生がお話された骨が壊死した患者さんの手術に成功したというのは、 iPS細胞を用いた治療だったのでしょうか。
戸口田
参加者E
今、新型インフルエンザが流行しており、日本でもすでに少なくない命が失われています。現在のインフルエンザはまだタミフルが有効のようですが、これから先、異なるタイプのインフルエンザが現れた場合、iPS 細胞の研究がワクチン開発や治療に役立つ可能性はあるのでしょうか。
山中
ちょっと難しいご質問です。考えられることは、iPS細胞からインフルエンザに感染するような人間の細胞を作り出して、そのモデルで感染を再現することは考えられると思います。人によって感受性が異なる場合、なぜ異なるのかをiPS細胞を使って解明することも考えられるのではないかと思います。ワクチン製造については、製造過程がある程度確立しているので、その方法にiPS細胞が置き換わることは当面はないのではないかと思います。
iPS細胞は「万能細胞」と言われていますが、どんな細胞でも作り出せるという意味で「万能」なのであって、残念ながら、すべての病気を治せるという意味の「万能」ではありません。戸口田先生が講演で言われたように、細胞移植で治せる病気と治せない病気があり、まず、その細胞移植で治せる病気を何とかしたい。それから、iPS細胞を使って初めて治療薬が開発できるというようなことは一日も早くやりたい、というのが現状です。
約10年ほど前に奈良先端科学技術大学院大学で初めて自分の研究室を持つことができまして、研究室のテーマを決めようとしたのが、ちょうど、ヒトのES細胞(胚性幹細胞)の樹立が報告された翌年でした。(ヒトES細胞は)期待も大きかったが、倫理的、宗教的な面から問題点も多かった。アメリカではちょうどブッシュ大統領の就任が決まって、ES細胞には強く反対されていました。そういう状況で何とかES細胞の良いところだけを伸ばして問題点を解決できないだろうかという発想で研究を始めました。
昔の研究者の研究成果で、最も自分自身にインパクトがあったのはショウジョウバエを使った研究でした。ショウジョウバエの触角のところにたった一つの遺伝子を働かせると、本来触覚が生えるはずの部分に足が発生したという有名な結果があります。その遺伝子はアンテナペディア遺伝子と呼ばれているもので、アンテナは触覚、ペディアは足という意味です。その後、哺乳類でも一つの遺伝子によって皮膚細胞が骨格筋細胞に変わることも報告されていました。非常に大事な遺伝子を見つければ、1個あるいは数個の遺伝子が細胞の運命を変えることができます。このようなことが分かっていたので、ES細胞以外の細胞、皮膚細胞に何個か遺伝子をいれると、ES細胞のようになるのではないかと考えました。昔の方の研究からそういうことができるのではないかと考えたのがきっかけです。