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研究成果 
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2016年10月28日

ヒトiPS細胞由来軟骨組織は免疫原性が低く移植用組織への利用が期待できる

ポイント

  1. 軟骨は一旦傷つくと修復が難しい組織であり、軟骨損傷に対して移植しか根本的な治療法がない。
  2. 海外では同種軟骨移植が行われているが、ドナー不足である。
  3. ヒトiPS細胞由来軟骨は免疫原性注1がヒトの体内にある軟骨とほとんど差がないことを確かめた。
  4. iPS細胞由来軟骨は移植用組織への利用が期待できる。
1. 要旨

 木村武司研究生、妻木範行教授(京都大学CiRA増殖分化機構研究部門)および大薗恵一教授(大阪大学大学院医学系研究科小児科学)らの研究グループは、ヒトiPS細胞由来軟骨の免疫原性はヒトの体内にある軟骨と同程度で、移植用組織への利用が期待できることを見出しました。

 関節軟骨は一旦傷つくと自然には治らず、最終的には充分な機能を果たせなくなります。軟骨細胞や組織を移植することで傷ついた軟骨を修復することができますが、患者さん自身から得られる軟骨は限られていました。軟骨では免疫反応があまりおこらないため、細胞の型であるHLA注2を合わさなくても移植可能で、海外では軟骨の同種移植が効率よく行われてきました。しかし軟骨の供給は少なく、必要な軟骨を得ることが難しい状況でした。iPS細胞はこうした軟骨を作るための細胞源として期待できます。

 そこで今回、妻木教授らの研究グループはヒトiPS細胞由来の軟骨が新しい移植用の細胞/組織の供給源となり得るかどうか評価するために、ヒトiPS細胞由来軟骨細胞や組織の免疫原性を測定しました。その結果、生体内から採取した軟骨細胞や組織と比較しても免疫原性に大差がなく、免疫反応がほとんど起こらないことがわかりました。

 この研究成果は2016年10月20日(米国東部時間)に「Tissue Engineering Part A」でOnline版が公開されました。

2. 研究結果

 ヒトiPS細胞から軟骨組織(iPS-Carts)を誘導し(Fig. 1)、そこから細胞外マトリックス注3を取り除いた細胞の部分(hiPS-Chon)を分離した。比較として、ヒトの軟骨組織を取り出して培養した細胞(hPC)や末梢血単核球(hPBMC)注4をもちいて、主要な免疫反応の元となるHLAの発現を、そのタイプ(HLA-ABCあるいはHLA-DRDPDQ)についてそれぞれ調べた。すると、体中の多くの細胞に発現しているHLA-ABCは、hiPS-Chonではあまり発現しておらず、免疫細胞に主に発現しているHLA-DRDPDQについてもほとんど発現していなかった(Fig. 2)。

Fig. 1 ヒトiPS細胞由来軟骨組織
左上...軟骨塊の様子、右...軟骨塊の組織切片をSafranin O-fast green-iron hematoxylin染色したもの。赤く染まっている部分が軟骨組織になっている。
(スケールバー: 左上 5 mm、右上と右下 100 μm)

Fig. 2 細胞表面の抗原タンパク質の発現量
フローサイトメトリーにてHLA型のうち、HLA-A、B、CとHLA-DR、DP、DQについて、それぞれの細胞での発現を比べた。赤いラインが計測値で黒いラインがコントロール。コントロールのピークからから右にずれているピーク部分がHLAの量を示している。

先程の実験で、hiPS-Chon細胞で免疫反応が起きにくいことを示した。実際に移植する際にはhiPS-Chon細胞ではなく、細胞外マトリックスをまとったより軟骨組織に近いhiPS-Cartの状態で移植することが考えられる。細胞が直接免疫細胞と接触しにくいので、免疫反応は少ないと考えられる。実際にリンパ球と混合しin vitro注5で免疫反応が起きるかどうかを検証したところ、hiPS-CartとhPCの塊とでどちらも免疫反応がほとんど起きていないことが示された(Fig. 3)。

Fig. 3
赤いラインが測定値、黒いラインがPBMCのパターンを表している。
hMVECおよびIL2,PHAはポジティブコントロール。免疫反応が起きるとこのようなグラフになる。

3. まとめ 

 ヒトiPS細胞から作製した軟骨組織は、形態的にはヒトの体から採取した軟骨組織と似ていますが、移植時の免疫反応についても同程度の低反応性が期待できるかは不明でした。今回の研究成果により、ヒトiPS細胞から作製した軟骨組織は、ヒトの体から採取した軟骨組織と同程度に免疫反応が少ないことが明らかとなりました。あくまでin vitroでの成果であり、実際にヒトに移植した際の免疫反応は検証が必要ですが、新しい軟骨組織の供給源として、iPS細胞が利用できる可能性が示されました。またHLA型を合わせなくても移植することができる可能性があります。

 またCiRAでは、健康なボランティアの方から採取した細胞を元に、品質の確認を行ったiPS細胞を予め準備しておく、iPS細胞ストックプロジェクトを進めています。このiPS細胞ストックのなかでも、軟骨の移植に適したものを選んで利用することができると考えられます。

4. 論文名と著者
  1. 論文名
    "Limited immunogenicity of human iPS cell-derived cartilages"
  2. ジャーナル名
    Tissue Engineering Part A
  3. 著者
    Takeshi Kimura1,2, Akihiro Yamashita1, Keiichi Ozono2 and Noriyuki Tsumaki1
  4. 著者の所属機関
    1. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
    2. 大阪大学大学院医学系研究科
5. 本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。

  1. 文部科学省 科学研究費 (基盤研究A 15H02561)
  2. AMED 再生医療実現拠点ネットワークプログラム(iPS細胞研究中核拠点、疾患・組織別実用化研究拠点B、疾患特異的iPS細胞を活用した難病研究)
6. 用語説明

注1) 免疫原性
免疫反応を起こしてしまう性質のこと。ヒトの場合、HLAが免疫を引き起こす抗原(タンパク質)として知られている。

注2) HLA
ヒト白血球型抗原(human leukocyte antigen)のこと。ヒトの様々な細胞の表面に存在していて、数万種類もの組み合わせがある。この組み合わせが一致していないと、免疫細胞から異物(外敵)とみなされて、免疫反応が起こる。大きくクラス1(殆どの細胞で働いている)とクラス2(主に免疫細胞で働いている)に分けられる。

注3) 細胞外マトリックス
細胞間の隙間を埋める生体高分子(コラーゲンやプロテオグリカンなど)の集合体。骨・軟骨、歯、皮膚などに多く含まれ、組織を支えてメカニカル(クッション・伸び縮みなど)な機能を果たしている。

注4) 末梢血単核球
単球やリンパ球など球状の核をもち、免疫に関係する細胞のこと。

注5) in vitro
生体内で調べたのではなく、培養皿や試験管の中など生体外での実験であるということ。

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