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2011年7月28日

効率よくヒトES/iPS細胞から造血細胞を誘導する新しい培養法 PLoS ONEに掲載

中畑龍俊教授(京都大学iPS細胞研究所副所長)、齋藤潤講師(京都大学iPS細胞研究所)の研究グループの丹羽明研究員は、平家俊男教授(京都大学大学院医学研究科発達小児科学)らとの共同研究で、ヒトES細胞(注1)およびiPS細胞(注2)から、動物由来の要素を含まない無血清(注3)培地で高効率かつ再現性よく中胚葉(注4)前駆細胞を経て造血細胞を産生する、新たな培養法を樹立しました。

 ヒトES/iPS細胞は、試験管内で無限に増殖し、体を形づくる様々な細胞に分化することができます。そのため、ヒトの発生過程や疾患の成り立ちを推しはかるツールとして、また再生医療の新たな資源として期待されています。血液学の分野でも、これまでにES/iPS細胞から造血細胞を誘導する方法が報告されてきました。しかし、動物由来の血清やストロマ細胞を使用する点、煩雑な分化誘導方法である点、血清の質に分化効率が左右されやすい点など、今後の疾患解析や再生医療への応用に向けて改善すべき課題も多く残されていました。

 本研究では、無血清培地を用いて培養皿の上でヒトES/iPS細胞を培養し、投与するサイトカイン(注5)の濃度や時期を詳細に検討し、好中球や赤血球など様々な血液細胞を産生することを目指しました。ヒトの胚発生過程同様にES/iPS細胞からまずは原始線条(注6)、次に中胚葉系前駆細胞と段階的に誘導し、最終的には種々の血液細胞を産み出すことに成功しました。サイトカインの組み合わせ次第で目的の血液細胞を効率よく誘導することができるようになり、得られた好中球や赤血球は生体の血球同様に働くことが分かりました。また、中胚葉系前駆細胞を一細胞ずつ分取してその分化能を解析することで、生体と同様に血球と内皮双方への分化能を有する「ヘマンジオブラスト」が含まれることを明らかにしました。

 本研究で樹立された段階的に細胞を誘導する無血清培養法は、従来法より簡便で、高効率かつ再現性のよい新たな手法であり、今後の疾患解析や再生医療応用へ向けた研究の加速に役立つことが期待されます。

 この研究は、京都大学小児科、京都大学再生医科学研究所、WASEDA Bioscience Research Institute in Singaporeとの連携の元で実施されました。この研究成果は、米国科学誌「PLoS ONE」7月27日号に掲載されました。

論文名
"A novel serum-free monolayer culture for orderly hematopoietic differentiation of human pluripotent cells via mesodermal progenitors"

著者
Akira Niwa, Toshio Heike, Katsutsugu Umeda, Koichi Oshima, Itaru Kato, Hiromi Sakai, Hirofumi Suemori, Tatsutoshi Nakahata, and Megumu K. Saito

雑誌web site:  PLoS ONE

注1:ES細胞
胚性幹細胞(ES細胞:embryonic stem cell)のこと。初期胚の胚盤胞から将来からだになる部分へ成長する細胞(内部細胞塊)を取り出し、それを培養することによって作製する多能性幹細胞の一つ。あらゆる組織の細胞に分化することができる。ヒトES細胞は1997年に始めて樹立された。

注2:iPS細胞
人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)のこと。皮膚などの体細胞に特定因子を導入することにより作製する。胚性幹細胞(ES細胞)のように無限に増え続ける能力と体のあらゆる組織細胞に分化する能力を有する多能性幹細胞である。2006年にはマウスで、2007年にはヒトで、iPS細胞樹立が報告された。

注3:血清
凝固した血液の上澄みの部分のこと。細胞培養の際には、ウシ胎仔血清がよく補助試薬として添加され、細胞増殖を維持するのに役立っている。しかし、血清には多種多様な未知の成分が含まれており、血清の良否に実験が左右されるなどの問題もある。

注4:中胚葉
動物の発生初期の胚で、未分化な細胞の塊が次第に外胚葉・中胚葉・内胚葉という3層の胚葉構造に分かれる。中胚葉からは血液細胞や心筋、血管、腎臓などができる。

注5:サイトカイン
さまざまな細胞から分泌され、特定の細胞の働きに作用するタンパク質のこと。現在は種々のサイトカインが人工的に大量生産され、研究や臨床に用いられている。

注6:原始線条
ヒトの胚発生初期には、最初に胚の外側の外胚葉と内側の内胚葉が分かれ、次に外胚葉の一部が増殖し原始線条と呼ばれる線が現れる。原始線条の細胞は外胚葉と内胚葉の間に潜り込んで中胚葉と呼ばれる新たな細胞集団を形成するようになる。

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