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Home › ニュース・イベント › CiRAシンポジウム質疑応答 2015年度

CiRAシンポジウム質疑応答
Q&A session

第7回 CiRA一般の方対象シンポジウム 第2部 Q&Aセッション

パネリスト 山中 伸弥 教授(山中と表記)
山下 潤 教授(山下と表記)
長嶋 比呂志 教授(長嶋と表記)
相澤 守 教授(相澤と表記)
長屋 昌樹 教授(長屋と表記)
司会者 桝 太一さん(桝と表記)

2015年7月26日(日)に開催された、明治大学・CiRA共催シンポジウム「iPS細胞と医農工連携 あたらしい医療を考える」において、講演後に参加者の方々からその場で質問をいただき、パネリストが回答しています。以下の文章はこの質疑応答を要約したものです。

では早速トークセッションのほうを始めましょう。ご質問のある方は挙手にてお願いします。では、まず前列の方からまいりましょう。そちらの白いワイシャツのメガネの方からマイクをお願いします。

参加者A

素敵なお話ありがとうございました。新しい医療技術ができるとそれだけ寿命が延びて、老人の方が増えて、若者としては負担が増えてしまうのが怖いなと考えています。例えば、適用する年齢を制限するという方法もあると思うのですが、それについてお話を伺いたいと思います。

最初から非常に本質的な質問といいますか。おっしゃることは非常によく分かるかと思います。長嶋先生、いかがでしょうか。

長嶋

とっても大事なご質問で、そういうことに興味持っておられるというのは素晴らしいと思います。私は医者じゃありませんが、生命科学、医学に関係する仕事をずっとやっていまして、私なりに考えていることはあります。


これまでの医学というものは、とにかく目の前の患者さんはどんな手を尽くしてでも助けなければいけない、そういうものを基準に医療・医学というものが成り立っているのだろうと理解しているわけです。


ですから、今おっしゃったようにある年齢制限をするというような考え方にも将来的にはなるかもしれないし、それとまた違った角度で、高齢者が増えて困るのは、高齢者が社会にとって負担になっていくことですから、高齢者が元気であればいいわけです。


そこまでは一気には考えられないので、今はとにかく目の前の患者さんを全力で救おうというように、生命科学の研究者、医学の研究者なんかが取り組んでいます。もう少し技術全体が熟してくると、今おっしゃったようなそういう懸念に対する方向に、研究というのは向かうかもしれないなというふうに、医師ではない立場として普段思っています。

ありがとうございます。この件に関してどうでしょうか。山中先生、お願いします。

山中

長嶋先生の言われるとおりです。今、日本は平均寿命が80歳を超えていて世界最長寿の国の一つです。問題なのは、平均寿命と、健康寿命といわれる、自分のやりたいことを自分の力でできる年齢との間に10歳ぐらい差があります。その差の10年は、介護が必要になってしまう期間であり、そこをどう減らすかが大切です。


私たちは天寿をすごく伸ばしたいと思っているわけではなくて、健康寿命を伸ばしたい。健康寿命と本当の寿命の差を、減らしていくために、私たちの場合はiPS細胞を使った研究を進めていますし、差が縮まればいろんな問題が少なくなると思います。

ありがとうございました。さあ、では続いていかがでしょうか。先ほどから手をあげていらっしゃいましたが、後方にいらっしゃる黒い服を着られた女性の方ですね。

参加者B

お話ありがとうございました。私は、山中教授がノーベル賞を取られたことをトリガーにして、日本が生命科学の分野で世界から注目されるようになったことはとても喜ばしいことだと考えております。

しかし一方で、ほかの、例えばES細胞の分野ですとか、体細胞を使った自家細胞や他家細胞の製品という研究が、ほかの欧米の国々に比べてかなり後れを取っている、特にES細胞に関しましては、論文数などは1桁アメリカと日本では違うというような現実もあるとは思います。

これからiPS細胞と同様の、もしくはもっと上のレベルの研究でしたり、ブレークスルーが他国で起こった場合に、現在日本がiPS細胞に注目しているがゆえに、ほかの分野で後れを取ってしまうということが起こる可能性があるのではないかというところに懸念を持っております。日本が取り残されないために、どのようなことが今後研究者の方々の中では必要になってくるのか、お伺いしたいと思います。

ありがとうございます。まず、質問の意図をかみ砕いておきたいところです。実際、ES細胞とiPS細胞の日本での注目度の差といいますか、差があるというのは私も記事で読んだことがあります。まずES細胞とiPS細胞の違いに関して、ちょっとご説明いただいてもよろしいでしょうか。

山下

ES細胞は、受精卵から少し発生したところの胚盤胞というごく初期の胚の中から胎児になる部分を取り出して培養したもので、ES細胞をつくるときに初期の胚を壊さないといけないという問題があります。


マウスで研究をしている場合にはそれでよいのですが、ヒトの場合には、ヒトで受精卵から少し発生してきた初期の胚を壊すということは倫理的に大丈夫なのかという懸念があって、日本ではヒトのES細胞を使うための規制が非常に厳しくなりました。それによって、なかなかヒトのES細胞の研究が進みにくかったという側面があります。


そこで山中先生がiPS細胞をつくられて、初期胚を壊す必要がなくて、皮膚の細胞だとか血液の細胞から同じような細胞がつくれるため、倫理的な問題がなくなり利用が広がったというふうに理解しています。

まさに、ES細胞の問題をクリアしたのがiPS細胞かと思いますが、ご質問者の方は、その結果、逆にiPS細胞のほうに集中してしまうことに懸念をしているということです。山中先生、ここはお答えいただけますでしょうか。

山中

今のようなご指摘というのはよくあるのですが、ES細胞とiPS細胞というのは由来が違うだけで、ほかはすべて一緒です。だから、どちらかの研究だけが進むということはあり得なくて、両方の研究が一緒に進んでいます。僕たちも、ES細胞ももちろん使っていますし、区別していません。あとは倫理的な考えで、受精卵を使っていいのかどうかというところだけの差が、一番大きな今差として残っています。


ただ、今のご質問は、ES、iPSというそういう限局したことを聞かれているのではなくて、今後も同じような新しい発見が日本発からどんどんできていく環境が整っているかどうかということだと思います。


それは、日本という国は、結構できていると思います。僕も、今からわずか10数年前は誰からも注目されていなくて、年間の研究費も何百万円しかなくて、その中でiPSに行き着いたのですが、本当に無名で実力もない研究者であっても、何とか研究を継続させるような制度が日本はあります。


アメリカは本当にシビアです。上位の数%の人だけが高額の研究費をもらって、それ以外の人はもらえない。日本は、比較的小規模な研究費をたくさんの若手の方に援助するというシステムをずっと取っています。


決して日本がアメリカに比べて今後もiPSのようなブレークスルーができにくいということはなくて、むしろ日本のほうが起こりやすい、起こる可能性は十分あるというふうに考えています。(iPS細胞は)私がアメリカにいてできた仕事ではなくて、日本に帰ってきてからできた仕事ですので、日本も本当にいい国だなと思っています。

ありがとうございます。では、続いてのご質問お願いします。では、手前にいきます。学生さんもいらっしゃいますね。そちらの白いワイシャツの方。

参加者C

貴重なお話ありがとうございました。iPS細胞についての質問ですが、悪くなった臓器などの代わりをつくって延命治療をするということだったのですけれども、将来そういった技術を使って本来の寿命を大きく上回る年月生きることができるような技術ができるとしたら、先生方はどういうふうに思われますか。倫理的な面ではなく、先生方一人一人の考えをというふうに思っています。

では、これは医学博士でもいらっしゃいます長屋さんから伺ってよろしいでしょうか。お一人ずつ伺っていきたいと思います。

長屋

非常にいい質問だと思います。江戸時代のころですと、だいたい40代の終わりで寿命は終わりますので、壇上に立っている人たち全員もう死んでいる年です。一方で、今の日本の社会は、この年代が何とか日本を支えようと努力している年代になっています。


山中先生がおっしゃったように、どれだけ健康でいられるか。健康でいられれば、その年が長くなってもこれは大きな問題ではないと思うのですね。


人間というのは自分の持っている能力の10%、20%しか使えないと言われているのです。それがもう少し伸びるということは、より人間の機能を使えるようになってきただけの話であって、別に寿命は自分たちが決めなくていいと思います。答えになってますでしょうか。

参加者C

はい。ありがとうございます。

ありがとうございます。相澤先生、いかがでしょうか。

相澤

質問ありがとうございます。


今日僕は骨を再生するとか肝臓を再生するとかの話をしました。例えば、本当に病気になってしまって肝臓だけが悪い。だけど、iPSを使って新しい肝臓ができると病気が治ってまた元気になると。その結果として寿命が延びるということは、それはハッピーでいいのかなというふうに思っています。


やっぱり、ただ長生きするのではなくて、健康でアクティブに活動しながら生きていけるというのがたぶん大事だと思うので、その結果としてiPS細胞を使って元気よく過ごせるのであれば、それはいいことなんじゃないかなというふうに思っています。

ありがとうございます。長嶋先生、お願いします。

長嶋

人間はある年齢、特に高齢期に達しますと、そこから先は、自分の身体を含めて人生は自分の思い通りにはなかなか運ばないわけですよね。それを、いかに自分の思い通りにこれから進めていくかというのは医学もまだ踏み込めていないのだけれども、これから恐らく人間は踏み込みたくなるのです。


私の死に方の理想は、もうこれは駄目だと死を悟ったときに、座禅でも組みながらパッと死ぬ。昔の剣豪のような、現実にはなかなか難しいのですけれども、理想だと思います。


恐らく寿命が伸びるということは長さが問題なんじゃなくて、そのクオリティーですよね。そこにどのように社会と技術がうまく考え方を共有して進んでいくかというような、そういう時代になるのではないかと思っています。

ありがとうございます。山中先生、お願いします。

山中

寿命が、例えば世界、ギネスブックに載るような世界最長齢の人は120歳位だから、今のところ、恐らく限界が120ぐらいだと思います。じゃあ、それが何らかの方法で伸びたら本当に幸せかということを考えると寝られなくなります。


若いときと同じような明瞭な記憶力とか判断力がそのままずっと本当に100年、200年続いたらいいですけども。恐らく、最初は間違いなく記憶力もものすごく低下し、判断力も低下し、紫外線を浴びているだけでどんどん全身に変異が蓄積し、がんになります。


今でさえ3人に1人はがんで亡くなりますが、死因ががんではない方もがんができる前にほかの病気で死んでしまっただけで、長生きすれば必ず人間はがんができます。そうすると、寿命が100歳超えて200歳とかになると、その人は一つ治ったらまた別できるということで、常に癌と戦うことになります。


さっきも言ったように健康寿命をどうやって伸ばそうかと、そちらを考えるのが間違いなく人類のためになる、自分のためにもなると思いますから、当面はそっちを頑張りたいと思っています。

ありがとうございます。山下先生。

山下

私としては、健康寿命が伸びているぶんにはいくら伸びても構わないと思っています。健康寿命が伸びているというのは連続的に価値観が変わっているだけですけど、死ななくなるというのは不連続に生きている意味を変えてしまいますから、死ななくなるというのはまた別の問題として考えないといけないだろうなと思っています。

ありがとうございました。

参加者C

ありがとうございました。

では、はい。大きな声で「はい」とあがりましたけども。では。

参加者D

山中先生自身は非常に苦労されてこういう栄冠を得たわけでありますが、研究者も役者と一緒で、あんまり身分安定すると仕事しなくなる。腹6分か4分ぐらいでいい。あんまり儲かると仕事しなくなるからね。やっぱり苦しい状態で努力させるというのが、私はいいんじゃないかと思います。これは1点。
それから、山下先生、心臓の移植にはどれくらい、あとかかりそうですか。心臓をつくって。

実際に心臓の移植というものが臨床レベルで実現するまでにどれくらいということでしょうか。

山下

われわれの今の技術では、心臓の一部になり得るものをつくって移植して、心臓をサポートするというのはできますけれども、心臓を丸々外でつくるのは、ほとんど無理だと思っています。動物の体の中で作るのならまだ可能性がありますけれども。

参加者D

それは技術的に無理なんですか。

山下

はい。相当難しいと思っています。

それで、ご質問の回答としましては、現時点では心臓そのものを外でつくり出して移植するという技術に関しては、現時点で山下先生の個人の考えとしては、何年後という具体的なことというのは現時点では考えられないという回答になりますね。よろしいでしょうか。

参加者D

はい。

山中

一つ目のことはものすごく大切なことです。一つ目に言っていただいた、研究者があんまり安定してしまうとそれ以上伸びなくなると、僕も思っています。私たち研究者は、舞台でいうと役者と一緒なんですね。常に上を目指して、活動の場も世界で、今に満足せず、チャンスがあれば上を目指して、世界中どこでも飛んでいくべきだと僕は思っています。


でも、舞台もそうですが、役者だけいくらいても全然できません。年末に紅白歌合戦の審査員させていただいたのですが、歌手の方の素晴らしさもびっくりしましたが、その回り、テレビカメラの人とか、掃除の方との、すごい動きに一番びっくりしたのです。そういう人たちがすごく大切なのです。そういう人たちは、世界中どこでも行けと言っても無理なのです。やっぱり、このある会場に付いている舞台裏の人たちが、そこである程度保証されて、役者さんを支えると。


だから、今の日本の研究環境で問題なのは、研究者は随分昔に比べたらよくなっているのですが、舞台裏の人たちの安定な雇用ができないと。役者ばっかりを育てようとしていて、舞台裏の人は後回しになってしまうというのが日本の問題だと思っています。

ありがとうございます。では、続いての質問お願いします。では、先ほどからあげてらっしゃいますが、手前の方。男性の方、お願いします。

参加者E

いろいろ貴重な話ありがとうございました。最近、メディアを通じて糞便移植法とか、腸内フローラの話があって、難病を克服したようなことをよく聞くのですけども。それとiPS細胞との関連性といいますか、影響性といいますか、その辺、交互作用的な研究とかは着手されているのですか。

山中

着手は今のところしていませんが、私たちの三つ目の目標であるiPS細胞を使って新たな医療技術とか医学研究を進めていきたいという中には、今言われたような研究も入ってきます。腸内フローラというのは、人間と動物で全く違っています。いくら実験動物を使っても、なかなか人間のこの腸内の細菌の研究というのはできないのです。


何とかiPS細胞の幹細胞と動物を組み合わせて、腸管だけ人間の細胞を持っている実験動物がつくれるかもしれません。そういったヒト型の実験動物がつくれると、研究が今まで以上に一気に進みますので。そういった組み合わせですね。今までの動物実験と、それから人間の幹細胞を組み合わせて、今までできなかったような実験をできるようにするというのも、私たち長期の目標として持っています。

ありがとうございます。では、男性が続きましたので女性の方にも伺いましょうか。そちらの奥の黒い服を着られた女性の方、お願いいたします。

参加者F

今日は、群馬県からはるばる来たかいがありました。本当にありがとうございました。先生方が現在の地位に至るまでに先生方を支えられた座右の銘があったら、ぜひお聞きしたいです。お願いします。

非常に取材陣としては嬉しい質問だと思います。これから研究者目指す若人もいます。長屋先生から伺ってよろしいでしょうか。

長屋

なかなか、時代の流れがありますので座右の銘というのも難しいのですが、そろそろ僕も体を鍛えようかなと思っていまして。先日、たまたまテレビを見ていたときに、「人間失敗をする唯一の方法は諦めることだ」という言葉が出ました。今話題のライザップですけど。それを聞いたときに、今しばらくはこれ使えるかなと思っています。

ありがとうございます。長嶋先生、お願いします。

長嶋

実は座右の銘と趣味は何ですかと聞かれるのが一番困るのですが、それに代わるものは二つあります。一つは「人生いつも関ヶ原」。私の大学時代の恩師が常に「今日は関ヶ原だよ」とか言っているのをずっと吹き込まれまして。いつもそこで人生の転機を迎えるぐらいのつもりでやっていると、知らないうちに大事な発見をしているとかいうようなことがあるのだなというふうに、若いときから経験してきたので、「人生いつも関ヶ原」というのが一つです。


もう一つは、私は実は熱狂的な阪神ファンでして、野球が大好きなのです。で、「人生3割」ということを考えています。私にとってあこがれの掛布選手でさえも、結局引退するまでに3割しか打てない。大リーグのイチロー選手も3割そこそこです。ですから、どんなに頑張っても3割。あとの7割は失敗する。だけど、全力で取り組んでいるから3割成功するということも言えるので、人生3割成功したら御の字だというふうに思って。


「人生3割」というのと、「人生常に関ヶ原」というのが、一応モットーということにはしております。

ありがとうございます。では、山中先生お願いします。

山中

僕は、座右の銘いっぱいあるのですが、一つだけご紹介するとすれば「人間万事塞翁が馬」ということで、何がいいことで何が悪いことかは分からないというのを座右の銘にしています。

ありがとうございます。そして、山下先生お願いします。

山下

私は座右の銘としてはっきりしたものはないのですが、意外とこれまでの人生を支えている考え方は、「しょうもないことでは運が悪いけど、人生左右するぐらい大事なことでは運がいい」と思い込んでいることですね。


これは、実は究極のポジティブシンキングでして、何かひどい目にあったとしても、「これは、きっとそんな人生左右するほどひどくないんだ」と思って、なんか頑張れます。

ありがとうございました。ご質問もありがとうございます。大変まだ質問もたくさんあるかと思うのですけども、実はお時間の都合で、ここでトークセッションのほうを打ち切らせていただきます。申し訳ございません。iPS細胞に関するお話、先ほどもご紹介しましたが、会場外のブースにて受け付けておりますので、どうぞそちらのほうにもお立ち寄りください。先生方、本当に今日はありがとうございました。

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