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Home › ニュース・イベント › CiRAシンポジウム質疑応答 2011年度

CiRAシンポジウム質疑応答
Q&A session

第3回 CiRA一般の方対象シンポジウム 第2部 Q&Aセッション

パネリスト 山中 伸弥 所長(山中と表記)
江藤 浩之 教授(江藤と表記)
髙橋 政代 理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター チームリーダー (髙橋と表記)
司会者 関根 友実さん(関根と表記)

第3回 CiRA一般の方対象シンポジウム「iPS細胞 科学者たちの挑戦」第2部の質疑応答において、はじめに、参加者から事前に寄せられた質問を司会者から聞いていただき、パネリストが回答しています。残りの時間で、参加者が直接講演者に質問しました。下記の文章は、これらの質疑応答を要約したものです。

関根

それでは第2部iPS細胞Q&Aセッションを始めます。まずはシンポジウムの申込みの際にお預かりした質問について私の方から先生方にお伺いするというかたちで進めさせていただきます。まず山中先生にお伺いします。3月11日の東日本大震災は、山中先生や日本の研究者に対して影響はあったでしょうか、という質問を頂いております。

山中

3月の震災は皆様と同様に本当に辛い出来事でした。被災された方にはお見舞いを申し上げるとともに、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。いまだに行方不明の方も沢山いらっしゃいますし、本当に心苦しく思っております。私たちの研究所に対する影響ですが、3月末に予定していた国際シンポジウムはキャンセルになりましたが、そのほかについては京都ということもあり、ほとんど影響はなかったです。しかし、東北や関東方面の大学などでは多くの実験機器が壊れたり、実験に必要なサンプルを失ったり、研究を続けられなくなるような甚大な被害が出ています。私たちとしては、被災した研究機関に対して可能な支援を行っておりますが、今回の大地震は、日本の研究機関に本当に大きな影響を及ぼしていると思います。

関根

現在、iPS細胞研究所(CiRA)では、ニュースレターを発行されており、この2011年4月号にも、東日本大震災においての山中先生の心情が書かれているのですけれども、その中で私の印象に残ったのが「原点回帰」という言葉でした。あらためて決意を新たにされた部分があったのではないですか。

山中

あの時は研究所のスタッフに集まってもらって、何ができるか、何をするべきか、ということをいろいろ考えました。 結論は、1人ひとりは、被災地の方にできることをいろいろ考えよう。ただ研究所としては、iPS細胞の研究を1日も絶やさず加速するのが使命であると。だから個人で被災地のことを思い、ボランティアに行かれる、いろんなことをする、そのことと、研究所全体としての思いと2つ分けて考えよう、という話をしたことを覚えております。だから、私がそのとき言ったのは、被災地で多くの方が大変な目に遭われている、しかし同時に、それ以前から病気で苦しんでいる方もたくさんおられる。だから、両方の人たちのことを忘れてはいけない、という話をしたことを覚えています。

関根

どうもありがとうございます。続いては江藤先生へのご質問なのですけれども。iPS細胞から血液をつくるということですが、赤血球や血小板などの血液の成分という観点から、現状で最も求められている血液成分のニーズは何でしょうか。

江頭

いちばん求められていて、常に足りないのは赤血球です。皆さんは、街の献血センターのビルの前で「今日はA型の人が何人足りない」っていう看板を見かけたことがあるかもしれません。A型が足りないということはほとんど見ないかもしれませんが、O型とAB型が足りないことが非常に多いです。結局、日本中で一般的には、常に赤血球が足りないという状態になっています。 血小板は、先ほども説明いたしましたが、4日で捨てなければいけないということで、余っているときと、逆に足りないというところで、「バランスが悪い」というのが現状です。例えば、大阪とか神戸のような大都市ではけっこう足りています。 とにかく一定の比率で足りないというのは赤血球。ただし、血小板は、地域とか時期とか、季節によって全然バランスが違っていてアンバランスである、というふうにご理解いただけたらと思います。

関根

季節によってというのも非常に意外なのですが、やはり暑かったら献血に行くのはしんどいかなとか、そういうことですか、季節変動というのは。

江頭

冬になりますとインフルエンザがはやったりします。そうすると、そういった時には献血をしてくれる方が非常に少なくなります。病気の人とか、血液が必要だという患者さんは常に一年中いるわけで、その数が冬になったら減るわけではないので、どうしても冬には足りない、ということが現状ではあります。

関根

ありがとうございます。今、その血液型というお話が出ましたが、第一部の山中先生のご講演の中でHLAという、細胞にも血液型のような型があるとおっしゃられたと思うのですが、まさしく江藤先生がおっしゃるように、献血に行って必ず血を採る、そこからHLAを調べることも可能なのでしょうか。

山中

理論的には可能です。ただ、HLAを調べるのは血液型を調べるよりかなり費用もかかりますので、現状では通常の献血の方の全員の種類を調べているということはありません。骨髄バンクの場合はもちろん調べています。また臍帯血バンクでも調べています。

関根

そういった、このiPS細胞の、HLAホモの方たちを捜そうとされるということなのですが、ほんとにここにおられるたくさんの方、そして病気を持たれた方、皆さんの中にはiPS細胞研究に何か貢献できないかと思われている方が多いと思うのですけれども、例えば自分のHLAがもしホモだったらとか、そういうふうに思われている方がいらっしゃると思います。が、そういう形で貢献する道は開かれるのでしょうか。

山中

まだ開始していませんが、体制が整い次第、そのHLAホモの方を探索するような窓口といいますか、そういう形で協力をお願いしますというアナウンスをする時期が来ると思います。今はまだ始めていませんが、遠くない未来に、いろいろな方にお願いする予定です。統計上の話ですが、もし75名のHLAホモの方を見つけたら、日本人の80パーセントがカバーできると。これから、その75名の方を捜そうとすると4万人ぐらいの方の検査をする必要がありますが、その4万人中に75名が見つかる、という試算があります。まあ、この探索はそんなに簡単ではなく、かなりのことをしないとダメなのですが。 ただ、先ほど言いましたように、もしかしたら骨髄バンクですとか臍帯血バンクのデータを利用できる可能性もあります。ただ、いろんな問題もありまして、倫理的な問題とかインフォームド・コンセントの問題がありますので、ちょっと今そのへんを整備しているところです。

関根

さまざまな懸案はありつつも、未来に向けて踏み出しつつあるということなんですね。そして髙橋先生、iPS細胞を使った網膜再生は、病気以外の事故やケガでダメージを受けた場合というか、外傷性の場合でも治療が可能になるのか、というご質問をいただいているのですけれども。

髙橋

講演の中でも少し述べましたが、治療が可能かに答えるには「網膜のどの部分か」という問題になるんですね。外傷の場合、いちばん多いのは網膜全体、全層が悪くなる場合、あと視神経の部分が切断されてしまう場合とかで、それは最初に言ったように、網膜一部だけを治す対象には、残念ながら入っていないのが現状ですね。

関根

さらに、先ほどの講演の中でも「遠くない未来に、もう思っているよりも早く、でも思っているよりも遅い」という、ご自身でも禅問答だとおっしゃっていたような時期についての質問があります。なかなか明確にはできないかもしれないのですが、いつごろに治療が始まるでしょうかとかですね。他には、患者がすべきこと、協力できることは何かないか、という質問もあります。

髙橋

はい、そうです、その禅問答の答えを言うのを忘れていました。「思ったよりも早い」というのは、皆さん、iPSは全然使えないと思っている方もいらっしゃると思いますけど、3年後には本当にやろうと思っています。ただそれは、皆さんが思う再生医療のイメージとは違うかもしれない、という意味ですね。 最初に、3年後にやろうと計画している臨床研究は、加齢黄斑変性の患者さんで視力が0.1以下、いろいろな治療をしたあとでも0.1以下という限られた人ですし、10人弱の方だけを対象にする予定です。ですからそれは、再生医療ができますかという質問のイメージとは違うと思います。そのイメージに合った「だれもが再生医療で治療できる」という時期を聞かれると、それは思うよりは遠い。 そのときによく例えるのは、飛行機の発達で例えるのですが、最初のライト兄弟が空を飛んだというのが最初の1例目・2例目という話で、みんなが海外旅行に行けるようになった時期というのとのギャップを考えてもらうとわかりやすいかと思います。 それと、患者さんが何をすればいいかということですが、ぜひお願いしたいのは、講演でも言いましたように「正しく理解していただく」ということですね。例えば治療が始まったときに、「なんだ、この程度か」ということになってしまうと進んでいかないので、そこをぜひ理解していただきたいということです。今回のような会に来ていただいたということが正解だと思います。

関根

知識を持つ、正しい情報を得る、ということはとても大切なことだとは感じるのですけれども、例えば、そのライト兄弟が飛行機を初めて発明してから海外旅行ができるまでというのは、とても時間を要したのですが、最近のIT技術の発展とかほんとに日進月歩だと思うのですね。iPS細胞にしても全世界で研究が行われて、ほんとに目まぐるしい進歩がみられると思うのですけど、ほんとに、そうやって応用範囲が広がっていく未来というのは、そのスピードは、予測もできないんですよね。

髙橋

予測はできないのですけれども、どういう順番で来るかというのはわかりますし、その年月もある程度は想定できると思います。ざっくり言うと、20年前の医療で治らなかったものが、今は治るようになった例がたくさんあるのを考えると、「20年」というのは、すごく変化のある期間なのかなと思っています。

関根

ありがとうございます。また江藤先生にご質問なのですが、先ほど、もしかしたらがんのすばらしい治療方法が、T細胞ですね、リンパ球を使ってできるかもしれないというふうなお話をいただいていますが、iPS細胞からつくった血液はがん化の危険性はないのか、どんな病気の治療に使えるんでしょうか、というご質問をいただいております。

江頭

「がんにならないのか」という質問に先に答えさせていただきますと、それがやはり医療にとっては重要なキーワードになりますね。だからこそ細胞核の無い血小板とか赤血球で、最初は特定の非常に限られた患者さんにしか適用できないかもしれませんが、まずは、iPS細胞が人に使えるんだということを示せるのではないかと考えています。 iPS細胞は安全性の面で非常にリスクが高いともいわれています。それは今、山中先生を含めてわれわれ全員がそうならないように研究していても、100%安全だとどこで言うかというのはやはり難しいのです。 それだったら、がんの危険性がないといわれている、放射線をかけるという前処置がスタンダードになっている血小板とか赤血球であればハードルが低い。それを突破口にして、やはり安全なんだということを証明するという戦略です。 血小板と赤血球は、おそらくがんは起きないだろうと、100%ではないけれども、ほぼ100%に近い確率で起きないだろう、といえると思います。ただ、そのほかの血液細胞に関しては、もちろん他の細胞と同じで、細胞自体ががんを起こすかどうかということは、まだ研究の段階ですが、やはり確率論からすると血小板や赤血球よりずっと起きる可能性は高いかもしれません。すべての血小板・赤血球以外の血液細胞に対してそれは言えると思います。ただ、網膜の細胞はがんが起きにくく、細胞の環境の問題もあるますので、一概にがん化の可能性を危険視できない面もあり、とても難しい課題だとも思います。

関根

どうもありがとうございます。とても細やかに解説していただきました。先ほど、髙橋先生のご講演の中でも、安全性はとても大事なことだけれども、リスク・コスト、そしてその人たちの持つ倫理観ですね。それから、いろいろな問題を含むと思うのですが、山中所長は、その安全性の問題についてはどのようなご意見をお持ちでしょうか。

山中

安全性がいちばんのポイント、重要課題であるんだろうというのは、もう疑いの余地がないことでございまして、私たちもそれを最重要課題にして、そのことばかりを考えて研究しています。特に私のグループでは、「どうやって臨床に使えるようなグレードのiPS細胞をつくるか」というところに90%以上の力を割いています。ですので、どんどんその安全性は高まっています。しかし、ではどこまで行けば臨床研究を進めてもよいというゴーサインを出せるのか、私たちとして出せるのか、また規制当局が出せるのか、という点。ここがなかなか難しいのです。 どんな医療でも100%安全な医療というのはありません。歯医者さんへ行って麻酔をする。めったに変なことは起こりませが、時どき重篤な副作用が起こることもあります。他にも医療行為ではありませんが、飛行機に乗る。だいたい大丈夫ですが、しかしやはり世界中を見ていると毎年、必ずどこかで飛行機事故が起こって、多くの人が命を落としているわけです。 医療だけではなくて、科学技術で100%安全ということはあり得ないんですね。この再生医療というのは、今までなかった新しい科学技術を実際の臨床に応用する場合に、「100%はあり得ないのならどこまでだったらいいんだ?」という問いに対して、今は誰も答えがない、というのが現状です。ですから、今日ご紹介したような研究に加えて、その安全性、リスクとベネフィット、患者さんの思いと研究者の思いと、そしてそれを規制する当局の思いを、どうまとめていくかという学問、それをレギュラトリー・サイエンス(regulatory science)、規制科学というような新しい学問が今できつつあります。そういった学問が非常に大切ではないかと思っています。

関根

そういう学問の分野ができつつあるということなんですね。髙橋先生、先ほどおっしゃいましたように、患者さん自身のご負担を考えたり、あとコストとそのリスクの問題といったようなものを教えていただいたのですが、山中先生のお話を聞いてご意見はどうでしょうか。

髙橋

そうです。まさにそのとおりで、リスクとベネフィットを常に考えていかないといけないのです。今、規制の話が少し出ましたが、厚労省の方たちもすごく協力的です。日本再生医療学会にはガイドライン委員会というのがつくられていて、厚労省などの規制当局にガイドラインをこうしてくださいといったような、要望を出しています。こういった要望をしっかり受け止めてくれていると感じられます。産官学全部が一体になっている感じがあります。 ただ、それでも厚労省がなぜ厳しくならざるをえないかというと、それはやはり一般の方の認識が「リスクは絶対にあってはならないもの」というふうになってしまうと、厚労省はブロックせざるをえない、ということだと思います。

関根

いろいろな面から、患者さんが、どこを再生とするのか、というところが問われてくるような患者さん自身の問題でもある感じがしてきたのですが、その患者さんからもご質問が事前にありました。 先ほど、山中先生がご講演の中で筋萎縮性側索硬化症(ALS)の話をされたのですが、本日、会場の中にはSMAとよばれております脊髄性筋萎縮症の患者さんもお越しいただいております。SMAについては、そのiPS細胞を使った病態モデルや原因の解明などは現在どのような状態なのでしょうか、教えてくださいということです。

山中

ALSと同じように患者さんからiPS細胞がすでにつくられています。私たちのところでも作っていますし、世界的に見ても複数のところで作っています。そして、いろいろな企業で、患者さんの細胞から作ったiPS細胞から運動神経を作り、これを使って創薬を目指した研究を始めている会社もあると聞いておりますので、研究はどんどん進んでいます。薬がいつ見つかるかというのは、これはどうやってスクリーニングするかになるのですが、運も必要ですし、その予想というのはなかなか簡単にはできないですけど、ただ多くの人がトライすればトライするほどチャンスも増えてくることになりますので、SMAやALSだけではなくて、いろいろな病気で今そういう創薬を目指した研究がどんどん進行しています。

関根

ではもう世界各地で研究者が取り組んでいる、もちろん難病についても取り組んでいる状態である、ということなんですね。 さて、ここからは会場の皆様からの質問を受け付けたいと思います。 挙手にて、ご質問がある方、どうぞよろしくお願いいたします。

参加者A

わたくしが今日参りましたのは、5年何カ月前に車のブレーキを踏まずに追突されました。その衝撃で頭がものすごく痛くなって、熱が37~38度、40度ずっと続く日もありました。そして動けなくなり、立てなくなりました。先日も、いろいろな先生に相談してここに至っておりますが、今の私は、腰が痛くて、杖がなくては歩けない状態なので、1日も早く治りたいと思いますので、どのようにすればいいか、ちょっとお答えを聞きとうございます。

関根

どうもありがとうございます。そのほかにも事例等として、外傷性の事故に遭われて脊髄損傷された方などから、iPS細胞がどの時期に応用が可能なのか、臨床活用できるのか、というような切実な思いも届いているのですけれども、それについていかがでしょうか。

山中

今ご質問していただいた方の状態というのは、いろいろな症状が重なっていると思いますので、なかなか簡単にはお答えできないのですけれど、今、関根さんが言われた脊髄損傷に限ってお答えさせていただきますと、先ほど言いましたように慶応のグループが一所懸命やっています。海外ではベンチャー企業なども研究しています。それで脊髄損傷の場合、の治療に、iPSなりES細胞を使った治療の対象になるまず最初は急性期の患者さんです。けがをして数週間、1カ月という方がまず対象で、アメリカではES細胞を使った臨床研究が始まっています。それで、すでにけがをされた慢性期の方については、それよりは、さらに時間がかかります。ただ、全然進んでいかないかというと、そういった慢性期の方でも、なんとか少しでも回復できないかという研究は進められています。しかしそれは、iPSを使った細胞移植だけではだめで、いろいろな薬であるとか、リハビリテーションであるとか、いろいろな面からの治療法をあわせて総合的にやろうということが必要なようです。そういうことも一所懸命、慶応のグループとかいろいろなグループとやっていますので、少しずつではありますが、変わっていくと思います。ですから、なかなか「いつ」というのは、言えないのですけれど。

関根

治りたいという思いは、皆さんそれぞれに切実なものを抱えていらっしゃるということなのですけど、日々、全世界で治療法については開発に取り組まれているということで、研究者の吉報を待ちたいと思っております。ほかにご質問、ございませんでしょうか。

質問者B

自分の病気は脳炎による後遺症で、大脳皮質の部分がやられていると聞いているのですが、その大脳皮質を治す方法というのは、現在あるかないか教えていただけますか。

関根

現在の症状は?

質問者B

視覚障害です。

関根

それでは髙橋先生、おそらく先ほど先生のご講演を聞かせていただいたら、対象疾患にはあたらないのではないかと思われるのですけれども。

髙橋

そうですね、私たちが研究の対象としている視覚障害ではないのですが、脳の皮質に関しては、神戸の理化学研究所の同僚の笹井先生がES細胞から脳の皮質の再生の研究をしていて、胎児レベルのものでしたらつくれるようにはなってきています。ただ、脳の損傷というのは広い範囲を治さないといけないので、それはけっこう難しいんですね。小さい部分ですと治せるんだけど、広い範囲となるとまたハードルが上がる、というところがあります。

関根

では、その小さいところから、徐々に時間をかけて進歩があれば広がっていく可能性は、どうなのでしょうか。

髙橋

可能性としてはもちろんあるわけです。もう1つ、中枢神経というのは、もうコンピューターのように複雑なネットワークで、それをどれだけ再現できるかというのは未知の部分があります。

関根

ありがとうございます。山中先生、再生医療における夢とか希望とかを託されている患者さんがたくさんいるのですが、先ほど、病態モデルの解明であったりとか、あとは創薬とか、そういったことの重要性というのも、また今日教えていただきました。本日たくさんの視覚障害をお持ちの方もいらっしゃっています。患者さんに対して、山中先生の思いは昨年の研究所開設の時に「患者さんにまずお礼を言いたい」というお言葉を私は耳にしたとき、すごくじんときたのですが、そういった意味で、患者さんに対しての、山中先生の今の思い、いろいろなかたちで再生医療に対する難しさはあると思いますが、お言葉を聞かせていただけますか。

山中

病気の種類というのはものずごい数で、同じ名前の病気でも1人ひとりでずいぶん症状も違います。今日お話ししたように、iPS細胞を使った再生医療という点では、幾つかの疾患については進んでいます。ときにiPS細胞が万能細胞と呼ばれることがあるのですが、それはどの病気にも効くという意味ではないのです。いろいろな細胞になれるという意味で万能といわれることはあっても、現状ではどんな病気でも治せるという意味ではありません。 ですから、いつもいろいろな患者さんとお話をして、例えば髙橋先生がされているような疾患の方であれば、かなりポジティブなことを言えるときもあるのですが、しかしそうではない病気の方のほうが圧倒的に多いですので、私たちだけではなかなか「なんとかできます」ということは言えないので、もうほんとにつらい状況です。 そういった治療というのは、先ほどの脊髄損傷もそうですが、再生医療、いわゆる細胞移植というのは1つのパズル、ジグソーパズルの1個1個のピースみたいなものです。病気によってはそのピースが大きくて、そのピースでかなりのことが期待できる病気もあります。しかし、多くの病気では再生医療というのは、ほんの1つのピースに過ぎない。ほかの部分の研究、先ほども言いましたけど薬であるとかリハビリであるとか、そういったところもどんどん進んでいって、ようやく全部が集まって、今までと比べて治療法が進歩する、というのが本当の状況だと思います。それぞれのピースの研究もどんどん進んでいます。ただ、やはり時間がかかるのも事実ですし、いつかという予想ができないのも事実です。 iPS細胞というこの技術も、10年前から私は研究していましたが、いつできますかと聞かれたら、「わかりません」「一所懸命やっています」「できないかもしれません」という答えしかできませんでした。でも今、あとから考えると、そのわずか数年後にできました。そういうことあります。ただ、5年でできると思っていて10年20年かかることもよくあります。一所懸命研究しているのは事実なんですけれど、なかなか皆さんのご期待にすぐに「はい、私たちがなんとかします!」とは言えないというのが本当の状況です。ただ、着実にみんな一所懸命やっているという点はご理解いただきたいと考えています。

関根

ありがとうございます。まさに世界に先駆けてヒトiPS細胞の樹立されたということで、まさにチーム・ジャパンとして、このiPS細胞を使った臨床応用など、さまざまな研究に取り組まれていると思うのですが、東大から移ってこられた江藤先生もiPSにかける思いがあると思うのですが、どのような、思いですか。

江頭

CiRAのように、みんながiPSをやって、お互いに刺激し合いながら早く患者さんに還元したいという環境に身を置くことで、研究へのモチベーションも高まります。こういう環境が、やはり人を育てるというか、自分のところにいる若い人を含めて、患者さんにできるだけ早く還元できるようにするという気持ちの一層の高まりを今感じているところで、非常に幸せに感じていますので、ぜひがんばっていきたいと思っています。

関根

ありがとうございます。環境というと髙橋先生のいらっしゃる理化学研究所では、臨床から応用まで、さまざまな研究が行われているとお聞きしました。またiPS細胞研究所はオープンラボといいまして、研究者同士が互いに話を進めながら、臨床の研究をされている方から基礎研究の方まで一緒にいらっしゃるということなのですが、髙橋先生、iPS細胞研究所について。

髙橋 iPS細胞研究所についてというか、iPSに関して、こういう研究に私が携わらせてもらって、こういう時期にできるというのも、本当に幸せなことだなと思って感謝しています。やはりその喜びというのは、最終的には患者さんと一緒に味わいたいというのは、すごく思っていることですね。
関根 どうもありがとうございます。「患者さんのために」というお言葉がありました。山中先生もずっとその思いで研究に取り組まれていると思いますが、結びといたしまして「これから本格的にiPS細胞の研究を進めていくうえで、どのようなインフラが必要になるのでしょうか」というご質問が届いておりますので、それにお答えください。
山中

私たちの研究所は去年にできました。建物がまずできて、それまでは別々の建物にいた人が集まり、そして1年以上かけて、江藤先生をはじめ何人かの新しい先生に来ていただき、ようやく研究者の陣容が8割9割ぐらい固まりました。ですから、これからが本当の意味の私たちの研究のスタートと考えております。先ほど「まず10年」と言いました。iPS細胞研究が10年で終わるとは全く思っていません。ただ、10年たった段階で方向性を見直すことは必要だと思っています。研究そのものは10年でなく、20年30年、40年と続かないと治らない病気がいっぱいあると思います。ですから、私たち急いでいます。ものすごく急いで研究していますが、焦って変なことをしたり間違えたりということは絶対にあってはならないことですから、急ぎはするけれども焦らずに、腰を落ち着けて研究していきたい。そんなふうに考えています。  これからも私たち、定期的に日本のいろいろなところで一般の方、患者さんを、このような場を設けて、けして一方通行にならない、独りよがりにならないということを心がけていきたいと思いますので、またいつか神戸にも来ると思いますので、そういう時に研究の進展を楽しみにしていただいたらと思っております。 本当に今日はこんなにたくさん集まっていただいて感激しています。本当にありがとうございます。

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