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2014年12月26日

新生児発症多臓器炎症性疾患の患者さん由来iPS細胞を用いて、軟骨形成亢進のメカニズムを解析

 横山宏司大学院生(日本赤十字和歌山医療センター/CiRA増殖分化機構研究部門)、西小森隆太准教授(京都大学医学研究科)、平家俊男教授(京都大学医学研究科)、戸口田淳也教授(京都大学CiRA副所長/再生医科学研究所/医学研究科)らの研究グループは、新生児発症多臓器炎症性疾患(NOMID注1患者さん由来のiPS細胞から軟骨細胞を分化誘導して解析を行った結果、NOMID細胞は対照細胞と比較して軟骨形成能が亢進しており、かつその分子機構としてcAMP/PKA/CREB経路注2の活性化が関与していることを明らかにしました。この研究成果は201410月9日に「Arthritis & Rheumatology」でオンライン公開されました。

 NOMIDNLRP3遺伝子の機能獲得型突然変異が原因の自己炎症性疾患です。NOMID患者さんのほとんどの病態は、変異NLRP3により過剰に産生されるインターロイキン-1βによる炎症反応によるものです。しかし、主徴の1つである成長軟骨板注3の異常による骨端(四肢の骨の関節部分)の過成長に対しては、抗インターロイキン-1β治療薬は効果がなく、そのため成長軟骨の病態にはNLRP3が引き起こす炎症反応とは別のメカニズムが予想されていました。

 本研究では、体の一部の細胞に変異NLRP3遺伝子をもつ体細胞モザイク注4NOMID患者さん2名から作製した、NLRP3変異を持つiPS細胞(NOMID細胞)株と持たないiPS細胞(対照細胞)株を、それぞれ軟骨細胞へと分化させて比較検討しました。すると、変異を持つ細胞の方が軟骨基質の豊富な、大きな軟骨細胞塊を形成しました。さらにその軟骨細胞塊を免疫不全マウスに移植したところ、無秩序な内軟骨性骨化5が起こることが分かりました(Fig.1)。


Fig.1.png

Fig.1  軟骨細胞塊の移植後28日目の組織切片像
NLRP3変異をもつ細胞から作製した軟骨細胞塊からは、石灰化部位(Kossaで黒く染色されている部位)と軟骨基質(アルシアン青で青く染色されている部位)が入り乱れている


この軟骨形成能の亢進にはインターロイキン-1β、また、それを活性化させるカスパーゼ1は関与していないことが判明し、更なる解析の結果、変異NLRP3cAMP/PKA/CREB経路を通じて軟骨分化のマスター遺伝子6)であるSOX9遺伝子の発現量を増加させ、軟骨分化を促進していることが分かりました(Fig.2)。



Fig.2.png

Fig.2 変異NLRP3が引き起こすcAMP/PKA/CREB経路の活性化




 この疾患の場合、解析の材料として患者さんの成長軟骨板より細胞を採取することは、更なる成長障害を与える可能性があります。iPS細胞の応用により、患者さんに大きな侵襲を与えることなく、患者さん由来の成長軟骨細胞を解析できたことが、本研究の成果をもたらした大きな要因であると言えます。



論文名
"Enhanced chondrogenesis of iPS cells from neonatal-onset multisystem inflammatory disease occurs via the caspase-1-independent cAMP/PKA/CREB pathway"


雑誌名
Arthritis & Rheumatology


著者
Koji Yokoyama1,2, Makoto Ikeya2, Katsutsugu Umeda1, Hirotsugu Oda1,3, Seishiro Nodomi1, Akira Nasu1,2,4, Yoshihisa Matsumoto2,4,5, Kazushi Izawa1, Kazuhiko Horigome2,6, Toshimasa Kusaka2,4, Takayuki Tanaka1,2, Megumu K. Saito2, Takahiro Yasumi1, Ryuta Nishikomori1*, Osamu Ohara3,7, Naoki Nakayama8, Tatsutoshi Nakahata2, Toshio Heike1 and Junya Toguchida1,2,4,*


*)責任著者
1) 京都大学大学院医学研究科
2) 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
3) 理化学研究所統合生命医科学研究センター
4) 京都大学再生医科学研究所
5) 名古屋市立大学大学院医学研究科
6) 大日本住友製薬株式会社先端創薬研究所
7) かずさDNA研究所
8) テキサス大学健康科学センターヒューストン校Molecular Medicine研究所


本研究への支援
本研究は、以下機関より支援を受けて実施されました。
・文部科学省 科学研究費補助金
・厚生労働省 科学研究費補助金
・文部科学省 「再生医療の実現化プロジェクト」
JST 再生医療実現拠点ネットワークプログラム 「疾患特異的iPS細胞を活用した難病研究」
・セコム科学技術振興財団
iPS細胞研究基金

 

用語説明

注1:新生児発症多臓器炎症性疾患(neonatal onset multisystem inflammatory diseaseNOMID)
生後すぐに発症し、皮疹、中枢神経病変、関節症状を3主徴とする慢性炎症性疾患。慢性乳児神経皮膚関節(chronic infantile neurologic cutaneous and articularCINCA)症候群ともよばれる。NLRP3遺伝子の変異に関連して発症(優性遺伝、つまり父あるいは母の少なくとも一方からこの変異を受け継げば、子は発症する)する。2000年以降、インターロイキン-1βの過剰産生が主な原因と解明されたのちに、抗インターロイキン-1β療法が導入され、著しい効果を上げている。


注2:cAMP/PKA/CREB経路
シグナル伝達経路の1つ。細胞内cAMP(環状アデノシン一リン酸)量の増加によってPKA(タンパク質キナーゼA)の活性化(核内移行)が起こり、核内でCREBタンパクの133番目のアミノ酸であるセリンがリン酸化され、CBP/p300との結合(Fig.2中、p-CREB)が増加することにより、CREB標的遺伝子(ここでは、SOX9遺伝子)の発現が誘導される。


注3:成長軟骨板
骨端線ともよばれる長管骨の両端付近に存在する組織で、異なる形態を示す軟骨細胞によって構成されている。成長軟骨板において軟骨細胞が増殖、肥大そして石灰化の過程を繰り返すことで、長軸方向に骨が伸長する。従ってその異常は骨の短縮や変形を来す。


注4:体細胞モザイク
個体の発生過程で、一つの細胞のある遺伝子に変異が生じると、その細胞の子孫の細胞は全て変異を有することになり、一つの個体の中に、変異を持つ細胞と持たない細胞が混在する状態になる。このような状態を体細胞モザイクという。この場合、変異を持たない正常細胞は、変異を持つ細胞と変異遺伝子以外の遺伝情報は全く同一であるため、異なる個体の正常細胞との比較の際に問題となる変異遺伝子以外の遺伝子の影響を考える必要がなく、解析における理想的な対照細胞となる。


注5:内軟骨性骨化
骨が形成される過程の一つ。軟骨細胞の周りの細胞が骨を作る骨芽細胞に変わると軟骨細胞の基質の石灰化が誘導される。徐々に石灰化した軟骨組織が、骨の組織に置き換えていく。


注6:マスター遺伝子
ある細胞が特定の細胞の種類に変化するために必要な遺伝子。ここでのSOX9遺伝子は軟骨への分化に必要な遺伝子である。

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