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2015年3月5日

膵臓再生メカニズムの新たな手がかりを発見

人間のからだは、怪我や病気によって損なわれた機能を自然に修復しています。例えば、皮膚や腸では体性幹細胞が次々と新たな細胞を生み出し、肝臓では肝細胞が自己複製して再生・修復することが知られています。膵臓の再生については、はたして成体の膵管細胞が腺房細胞(膵液を作る消化器官としての働きをもつ)や膵島細胞(インスリン等のホルモンを作って血糖を調節する)に分化しているのかどうかに関し、長年の議論になっていました。

CiRA臨床応用研究部門の川口義弥教授のグループは、今回の論文において、膵管細胞は腺房細胞に分化するものの、膵島細胞には分化しないことをマウス実験で確認し、報告しました。

胎生期の膵臓形成には、様々な因子が働く事が知られています。今回の研究で注目されたのは、Sox9、Notch、そしてHes1と呼ばれる3つの因子です。「腺房細胞と膵島細胞の両方が胎生期の膵管細胞から発生します。Sox9は膵管細胞にのみ発現し、Sox9の発現が低下したり、Hes1を不活化すると細胞分化がうまくいかないこと、NotchはHes1を活性化すると同時にSox9の発現量も調節することが以前の研究で分かっていました」と、本論文筆頭著者の細川慎一研究生(京都大学大学院医学研究科)は説明します。しかし、これら3因子が成体膵臓の再生においてどのような関わりがあるのかについては、これまで調べられていませんでした。

研究グループは、以前に、成体膵管細胞から持続的に腺房細胞を供給するマウスを報告していました。今回の研究では、このマウスの成体膵管細胞の可塑性(他の種類の細胞へ変化できる能力)が、どのように制御されているのかを調べました。その結果、1)このマウスのSox9発現量は、出生直後は野生型マウスと同等でしたが、成体期では低くなっていること、2)Notchの活性化を促進すると膵管細胞から腺房細胞に分化する量が減少し、逆にHes1を不活化すると腺房細胞分化が促進されたこと、3)Notchを活性化するとSox9の発現量が増加したが、Hes1の不活化ではSox9の発現量は変わらなかったことが分かりました。これらのことから、研究グループは、Notchが独自の経路を通ってSox9とHes1の両方をコントロールすることで、成体膵管細胞の可塑性を調整していると結論づけています。その一方で、Hes1を不活化し、更に膵臓再生を促す別の刺激を加えても膵島細胞への分化は認められませんでした。

今回の研究は、成体膵管細胞の可塑性とそれに関与する3つの因子に関する新たな発見を報告しています。これらの結果は、発生の研究で確認されている結論と酷似しています。細川研究生は、「驚くような結果ではないのですが、成体期と胎生期の膵臓で同じメカニズムが働いて細胞の可塑性を制御していることを初めて示すことができました」と話しました。

 

<論文情報>

Hosokawa et al. (2015) Impact of Sox9 Dosage and Hes1-mediated Notch Signaling in Controlling the Plasticity of Adult Pancreatic Duct Cells in Mice. Scientific Reports 5:8518.

Published online on February 17, 2015

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