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2017年3月2日

iPS細胞から血小板を効率よく製造するための低分子薬剤の開発

ポイント

  1. トロンボポイエチン(TPO)注1に代わる血小板産生を促進する薬剤の開発が求められている。
  2. 造血幹細胞から巨核球への分化を促進する化合物としてTA-316を見出した。
  3. TA-316は巨核球株の増殖能や血小板産生能に対して、TPOと同等以上の能力がある。
1. 要旨

 江藤浩之教授CiRA臨床応用研究部門)らの研究グループは、日産化学工業株式会社らとの共同研究により、iPS細胞から培養によって大量に高品質で血小板を製造するために必要なトロンボポイエチン(TPO)という増殖因子と同じ作用を持つ低分子を開発することに成功しました。

 TPOは、すべての血液細胞を供給する造血幹細胞の維持増殖および血小板産生前駆細胞である巨核球の分化成熟に必須な生体内因子です。TPOに似た、赤血球産生に必須のエリスロポエチン(EPO)注2は現在、生物製剤(リコンビナントタンパク質注3製剤)が貧血の患者さんに使用されています。同様にリコンビナントTPOを用いて、血小板減少症の患者さんに向けた治療効果を観察する臨床試験が実施されましたが、リコンビナントTPOを投与された複数の被験者において、TPOに対する抗体が体内で産生されて、逆に血小板減少が悪化したために、リコンビナントTPOの実用化が頓挫した歴史があります。そこで、現在ではTPOの受容体であるMPLに作用する抗体医薬や化合物の開発が行われるようになってきました。

 今回江藤教授らの研究グループは、ヒト骨髓の細胞からCD34注4を発現している細胞(造血幹細胞を含む細胞集団)から巨核球への分化を優先的に促進する化合物としてTA-316を見出しました。最近、複数の他グループの研究によって、造血幹細胞からは巨核球への分化が直接起きることが証明されてきており、この現象を生体外で起こす化合物を選別する戦略によって発見しました。実際、この化合物は、江藤教授らのグループが開発した巨核球株(研究成果 2014年2月14日)の増殖および血小板産生を促しました。その能力はリコンビナントTPOと同等あるいはそれ以上であり、現在血小板減少症の薬として臨床現場で使われているエルトロンボパグよりも高い効果が見られました。

 TA-316により、iPS細胞から作製した巨核球株から輸血に必要な大量の血小板をより効率よく製造できるようになると考えられます。

 この研究成果は2017年2月28日(米国東部時間)に米国血液学会が発行するオンライン雑誌「Blood Advances」に掲載されました。

Figure 血小板の産生能力
巨核球細胞株にTPO (20, 50, 100 ng/mL)、TA-316 (50, 100, 200, 400 ng/mL)および エルトロンボパグ(Eltrombopag 300, 1000, 3000 ng/mL)を作用させて15日後の血小板産生量を比較した。 エルトロンボパグではほとんど血小板が産生されていないが、TA-316を作用させるとTPOよりも多くの血小板が作られていることがわかる。
Vehicle: ネガティブコントロール

2. 論文名と著者
  1. 論文名
    "Novel TPO receptor agonist TA-316 contributes to platelet biogenesis from human iPS cells"
  2. ジャーナル名
    Blood Advance
  3. 著者
    Ayako Aihara1, Tomo Koike2, Natsuki Abe1, Sou Nakamura2, Akira Sawaguchi3, Takanori Nakamura1, Naoshi Sugimoto2, Hiromitsu Nakauchi4, Taito Nishino1 and Koji Eto2,5
  4. 著者の所属機関
    1. 日産化学工業株式会社
    2. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
    3. 宮崎大学医学部
    4. 東京大学幹細胞治療研究センター
    5. 千葉大学大学院医学研究院
3. 本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。

  1. AMED 再生医療実現拠点ネットワークプログラム「再生医療の実現化ハイウェイ」
  2. 厚生労働省/AMED 厚生労働科学研究費
  3. AMED 再生医療実現拠点ネットワークプログラム「iPS細胞研究中核拠点」
4. 用語説明

注1) トロンボポイエチン
巨核球などの増殖や分化を刺激して、血小板産生を促すタンパク質。主に肝臓で作られる。

注2) エリスロポエチン
赤血球を作る際に中心的な役割を果たすタンパク質。腎臓で作られる。

注3) リコンビナントタンパク質
遺伝子組換え技術によって人工的に作製されたタンパク質のこと。大腸菌や動物・昆虫などの細胞株を使って大量にタンパク質を作らせる。

注4) CD34
CD(Cluster of Differentiationの略)抗原の一種。CD34は最も未分化な多能性幹細胞と造血前駆細胞に発現している。

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