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2017年6月5日

患者さん由来iPS細胞とゲノム編集技術を用いて、Blau症候群の疾患モデル構築と病態メカニズムの一端を解明

ポイント

  1. Blau症候群注1)の患者さん由来iPS細胞とゲノム編集技術注2)を用いて、炎症反応の異常を示すモデルを構築した。
  2. Blau症候群の患者さん由来iPS細胞から作製したマクロファージ注3)と、患者さんと同じ遺伝子異常を挿入した健常者由来iPS細胞から作製したマクロファージは、生理活性物質注4)のインターフェロンガンマ(IFN-γ)添加により、炎症に関わる転写因子注5)であるNFκ-Bの活性化と、炎症性サイトカインの産生が誘導された。
  3. 構築したiPS細胞モデルの利用により、希少疾患であるBlau症候群のさらなる病態解明と治療薬探索を可能にすると期待される。
1. 要旨

 高田紗奈美大学院生(千葉大学/元CiRA特別研究学生)、斎藤潤准教授(CiRA)、中畑龍俊教授(CiRA)らの研究グループは、患者さん由来のiPS細胞とゲノム編集技術を用いて、Blau症候群における炎症反応異常の一部の再現に成功しました。本研究は、千葉大学、関西医科大学との共同研究として実施されました。

 Blau症候群は、皮膚、関節、眼に肉芽腫注6)を生じる難病の一つで、NOD2注7)という炎症・免疫反応に関わる遺伝子に異常があることが分かっています。しかしながら、このNOD2の変異がどのようなメカニズムで症状を引き起こしているのかは不明です。そこで研究グループは、Blau 症候群の患者さんからiPS細胞をつくり、ゲノム編集技術(CRISPR-Cas9システム)を用いて遺伝子変異を修復した正常なiPS細胞を用意しました。さらに、健常な方からつくったiPS細胞に、同じゲノム編集技術を用いて、今度はNOD2遺伝子変異の挿入を行いました。それらのiPS細胞を、肉芽腫の形成に関わる細胞であるマクロファージへと分化させ、炎症反応の比較を行いました。ウイルスに感染した際などに体内で産生されマクロファージを活性化する生理活性物質であるIFN-γを添加したところ、NOD2変異のあるマクロファージでは、炎症性サイトカインが異常産生されました。

 この結果から、NOD2遺伝子に変異のあるBlau症候群患者さん由来のiPS細胞は、異常な炎症反応の一端を示したのと同時に、さらなる病態解明や治療薬のスクリーニングに利用するモデルとして有用であることが示唆されました。

 この研究成果は2017年6月3日に「Journal of allergy and clinical immunology」で公開されました。

2. 研究の背景

 Blau症候群は、皮膚、関節、眼に肉芽腫を生じる難病の一つで、NOD2という遺伝子の異常が関わっていることが分かっています。私たちの体の中では通常、細菌やウイルスなどの病原体が侵入した際に反応する免疫システムが存在します。NOD2は、この免疫システムに関わるひとつで、細菌の成分の一部を認識して体に炎症を引き起こすことに関わります。NOD2が病原体を認識すると、転写因子のNFκ-Bが活性化することで、生理活性物質である炎症性サイトカインが産生され、体内の免疫応答・炎症反応を引き起こします。Blau症候群の患者さんはこのNOD2遺伝子に異常があることが分かっていますが、どのようなメカニズムで患者さんの症状を引き起こしているのかは分かっていませんでした。

3. 研究結果

1) 遺伝的に背景をそろえたコントロールiPS細胞の作製
 患者さんの血液細胞からiPS細胞を作製し、患者さんがもつNOD2遺伝子の変異をゲノム編集技術で修復して、遺伝的に背景をそろえてNOD2遺伝子のみが違うコントロールiPS細胞を作りました。同様に、今度は健常な方から作ったiPS細胞にゲノム編集技術を用いて、患者さんと同じNOD2の遺伝子変異を入れたコントロール細胞を作製しました。それらのiPS細胞から、細菌などの異物を捕食することで免疫機能に関わり、また肉芽腫を作り出すのに関わる、マクロファージという細胞を作りました(図1)。

図1: 患者さん由来iPS細胞とゲノム編集技術を用いた本研究のモデル図

2) IFN-γで活性化した、患者さん由来iPS細胞から作製したマクロファージでは、NFκ-Bの異常活性化や炎症性サイトカインの異常産生がみられる
 患者さん由来iPS細胞から作製したマクロファージやそのコントロール細胞を比較したところ、通常時は差がないものの、マクロファージを活性化してNOD2の量を増やすIFN-γを加えると、患者さんのモデル細胞でNFκ-Bの活性化と炎症性サイトカインの産生が増加していました(図2)。また、健常者由来細胞に変異を導入した細胞でも、同様にNFκ-Bの活性化と炎症性サイトカインの産生が増加しました(図2)。このことから、本来は病原体に対して反応し炎症を引き起こすNOD2が、遺伝子の変異によってIFN-γに対して異常な炎症を引き起こしていることが示唆されました。

図2: 患者さん由来iPS細胞から作製したマクロファージでのNFκ-Bの活性化と炎症性サイトカインの産生

A: NFκ-Bの活性化を比較。IFN-γを加えた際に、NOD2遺伝子に変異のある細胞ではそのコントロール細胞と比較してNFκ-B活性が高くなっている。

B, C: 炎症性サイトカイン産生を比較。IFN-γを加えた際に、NOD2遺伝子に変異のある細胞ではそのコントロール細胞と比較して炎症性サイトカイン(インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン8(IL-8))の産生量が多くなっている。

3) 患者さん由来iPS細胞から作製したマクロファージでは、IFN-γを加える前から炎症シグナルが動き出している

 RNAシークエンス注8)で、患者さん由来iPS細胞から作製したマクロファージとコントロール細胞を比較すると、IFN-γを加える前の定常状態で、患者さんモデル細胞の中ではすでに炎症シグナルが動き出していることがわかりました。このことから、定常状態でもすでに変異をもつNOD2は炎症を引き起こす動き出しをしており、IFN-γを加えることで異常な炎症が引き起こされる可能性が示唆されました。

4. まとめ

 本研究では、病態を表す適切なモデルが確立されていなかったBlau症候群について、患者さん由来iPS細胞を用いたモデルを構築し、異常な炎症を引き起こすメカニズムの一端を明らかにしました。さらに、ゲノム編集技術を用いて、変異を修復したコントロール細胞では異常な炎症が抑えられること、健常者由来細胞に変異を挿入した細胞では異常な炎症が引き起こされることを示しました。今回の研究成果は、Blau症候群のさらなる病態解明とともに、肉芽腫を生じる他の疾患や治療薬の探索に貢献するものと期待されます。

5. 論文名と著者
  1. 論文名
    Pluripotent stem cell models of Blau syndrome reveal an IFN-γ-dependent inflammatory response in macrophages
  2. ジャーナル名
    Journal of allergy and clinical immunology
  3. 著者
    Sanami Takada1, 2*, Naotmo Kambe3, Yuri Kawasaki1, Akira Niwa1, Fumiko Honda-Ozaki1, Kazuki Kobayashi1, Mitsujiro Osawa1, Ayako Nagahashi4, Katsunori Semi5, Akitsu Hotta5,7, Isao Asaka4, Yasuhiro Yamada PhD5,7, Ryuta Nishikomori6, Toshio Heike6, Hiroyuki Matsue2,8, Tatsutoshi Nakahata1 , Megumu K. Saito1**
    * 筆頭著者
    ** 責任著者
  4. 著者の所属機関
    1. 京都大学 iPS細胞研究所 臨床応用研究部門
    2. 千葉大学 大学院医学研究院 皮膚科学
    3. 関西医科大学 皮膚科学
    4. 京都大学 iPS細胞研究所 基盤技術研究部門
    5. 京都大学 iPS細胞研究所 未来生命科学開拓部門
    6. 京都大学 大学院医学研究科 発達小児科学
    7. 京都大学 物質-細胞統合システム拠点
    8. 千葉大学 真菌医学研究センター 感染免疫分野
6. 本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。

  1. AMED 再生医療実現拠点ネットワークプログラム「iPS細胞研究中核拠点」
  2. AMED 再生医療実現拠点ネットワークプログラム「疾患特異的iPS細胞を活用した難病研究」
  3. AMED 免疫アレルギー疾患等実用化研究事業(免疫アレルギー疾患実用化研究分野)
  4. AMED 難治性疾患実用化研究事業
  5. AMED 再生医療実用化研究事業
  6. 日本学術振興会・文部科学省 科学研究費補助金
7. 用語説明

注1) Blau症候群
主に4歳以下の小児期に発症し、皮膚、関節、眼に肉芽腫注6)を生じる病気。病原体の侵入がなくても炎症が自発的に起こる「自己炎症性疾患」のひとつ。若年発症サルコイドーシスとも呼ばれる。厚生労働省が定める指定難病に含まれ、日本国内には30〜50人程度の患者さんがいる。

注2) ゲノム編集技術
細胞内の遺伝子を切り貼りして編集する技術。CRISPR-Cas9システムなど、いくつかの方法がある。

注3) マクロファージ
白血球のひとつで、体内に侵入した異物や病原体を自分の細胞内に取り込み、分解して排泄する細胞。他の免疫に関わる細胞に異物の侵入を伝える(抗原提示)役割も持つ。肉芽腫注6)の形成に関わる。

注4) 生理活性物質
体内の働きを調節する役割をもつ物質。その中で、免疫システムに関わる細胞から分泌されるタンパク質をサイトカインといい、炎症反応を促進する働きを持つものを特に炎症性サイトカインと呼ぶ。IFN-γはサイトカインのひとつで、マクロファージを活性化する。

注5) 転写因子
遺伝情報を記録しているDNAに結合し、遺伝子の発現を制御しているタンパク質。NFκ-Bは転写因子のひとつで、主に炎症反応に関わる遺伝子の発現を制御している。

注6) 肉芽腫
慢性的な炎症によってできる病変のひとつ。組織に侵入した異物や病原体に対して防御反応として炎症が生じ、炎症に関わる細胞が集合して異物を隔離するために作られると考えられている。

注7) NOD2
細胞内にある、細菌の成分の一部を認識する受容体のひとつ。細菌成分を認識すると活性化し、炎症反応を引き起こすためのシグナルを伝える役割を持つ。

注8) RNAシークエンス
細胞内で発現している遺伝子の種類・量を網羅的に調べる解析方法。

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