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2018年9月12日

成熟度合いを可視化した巨核球株を用い、血小板産生を促進する薬剤を探索

ポイント

  1. 血小板注1産生につながる成熟状況がモニター可能なレポーター巨核球注2株をiPS細胞から樹立した。
  2. レポーター巨核球株は、血小板産生の薬剤スクリーニングシステムを可能とし、血小板産生メカニズムの解析にも有用であった。
1. 要旨

 江藤浩之教授CiRA臨床応用研究部門)らの研究グループは、 レポーター巨核球株を作出し、血小板産生効率を定量的に評価可能なスクリーニングシステムの開発と候補薬剤の同定に成功しました。同時に、本レポーター細胞は巨核球成熟メカニズムの解析にも有用であることを見出しました。

 本研究成果は、2018年9月11日に米国科学誌「Blood Advances」でオンライン公開されました。

2. 研究の背景

 血小板は生体内において巨核球から産生され、止血に重要な役割を果たす細胞です。臨床における血小板輸血製剤は献血ドナーの血液から製造されていますが、 献血ドナーのみに依存した血小板供給システムは、先進国で進む高齢化によるドナー不足が懸念され、血小板輸血不応症およびウイルスや細菌感染等のリスクも完全な排除は困難です。 献血ドナーに依存しない血小板輸血システムはそれらの問題を解決すると期待されます。

 以前に同じ研究グループによって作製されたiPS細胞由来の不死化巨核球前駆細胞株注3は、生体外で増幅・成熟可能であることから新たな血小板供給源として有力視されています(Nakamura et al., Cell Stem Cell, 2014)。 一方、静置培養条件ではこの巨核球株の成熟は不完全で、生体内の巨核球に比べ血小板産生効率が極度に低いことが課題でした。そこで本研究グループは、よりよい培養条件を探索するため、 巨核球の成熟度合いを可視化し、血小板産生効率を上げる薬剤を探索するためのハイスループットスクリーニング系注4の開発を試みました。

3. 研究結果

 今回、江藤教授らのグループは、巨核球成熟に伴って発現が高くなることが知られているβ1チューブリン注5に着目し、 β1チューブリンの発現レベルを反映することが可能な蛍光発色レポーター遺伝子を、CRISPR/Cas9法注6を用いて以前に樹立作製した不死化巨核球前駆細胞株に組み込むことにより巨核球株の成熟の可視化に成功しました。 このレポーター巨核球を用いてハイスループットスクリーニングシステムを開発した結果、5000種以上の薬剤ライブラリから巨核球を成熟させ血小板産生を促進する候補薬剤を複数種(Wnt-C59,TCS-359など)同定しました。 候補薬剤の多くは、それぞれの既知の機能に起因した作用ではなく、芳香族炭化水素受容体 (aryl hydrocarbon receptor : AhR) 経路を競合阻害していることから、 研究グループがすでに発表しているAhR経路の抑制が巨核球成熟に重要な役割を担っていること(Ito et al., Cell, 2018)が再確認されました。 さらに複数の薬剤の作用を解析することにより、AhR経路には関わらない巨核球成熟促進経路の存在が示唆されました。 今後、見出した薬物を使って、巨核球成熟のメカニズムを探索することも可能になると考えられます。

 以上、本研究において開発したレポーター巨核球と血小板産生評価システムは、血小板の体外製造と臨床応用を推し進めるだけでなく、 未だ明らかにされていな血小板造血メカニズムの詳細を明らかにする革新的なツールとなる可能性を示しました。

図の説明:
不死化巨核球前駆細胞に対し、発見した各種薬剤を7日間添加し、血小板数を測定した。特にWnt-C59,TCS-359において血小板産生数が大きかった。コントロール群を0、SR1(陽性コントロール:Ito et al., Cell 2018 Figure 1より)群を100とし、相対値化(RV)している。

4. 論文名と著者
  1. 論文名
    A β1-tubulin-based megakaryocyte maturation reporter system identifies novel drugs that promote platelet production
  2. ジャーナル名
    Blood Advances
  3. 著者
    Hideya Seo1,2,*, Si Jing Chen1,*, Kazuya Hashimoto1,2, Hiroshi Endo1, Yohei Nishi1, Akira Ohta1, Takuya Yamamoto1, Akitsu Hotta1, Akira Sawaguchi3, Hideki Hayashi4, Noritaka Koseki4, George J. Murphy5, Kazuhiko Fukuda2, Naoshi Sugimoto1, Koji Eto1,6,**
    *:共同筆頭著者 **:責任著者
  4. 著者の所属機関
    1. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
    2. 京都大学大学院医学研究科 麻酔科学分野
    3. 宮崎大学医学部 解剖学講座
    4. 大塚製薬株式会社 医薬品事業部
    5. ボストン大学医学部 血液・腫瘍学部門
    6. 千葉大学 再生治療学研究センター
5. 本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。

  1. AMED 再生医療実現拠点ネットワークプログラム 再生医療の実現化ハイウェイ
    「iPS細胞技術を基盤とする血小板製剤の開発と臨床試験」
  2. AMED 再生医療実現拠点ネットワークプログラム iPS細胞研究中核拠点
  3. AMED 再生医療実用化研究事業「同種血小板輸血製剤の上市に向けた開発」
  4. 日本学術振興会 基盤研究
  5. iPS細胞研究基金
6. 用語説明

注1)血小板
血液に含まれる細胞成分であり、出血の際、血小板の活性化が起こって血小板どうしが凝集して傷口を塞ぐ働きをする。巨核球から分離して作られる。 

注2)巨核球
造血幹細胞から作られる細胞で、血小板を生み出す細胞。巨核球は成熟すると核分裂はするが細胞分裂はしないという特殊な分裂を行い、大型で多核の細胞になる。 

注3)不死化巨核球前駆細胞株
iPS細胞から誘導した巨核球前駆細胞に遺伝子操作を加え、ドキシサイクリンの有無により、その増殖と成熟(血小板の産生)を容易に切り替えることができる細胞株。

注4)ハイスループットスクリーニング
多種多様な化合物を収納したカタログ(化合物ライブラリー)などの膨大な試験対象の中から、自動検出装置・解析ソフトウェアなどを利用して、目的の化合物などを迅速に選び出す技術のこと。

注5)β1チューブリン
巨核球に特異的に発現するタンパク質の一種。多数が重合して繊維状の構造(微小管)をつくり、血小板産生に必要な巨核球の突起をつくる。

注6)CRISPR/Cas9法
Cas9というゲノムを切断する酵素を利用してゲノムの狙った特定配列を特異的に切断し、もともと細胞に備わっている修復機構を利用して特定の配列を削除したり、新たな配列を置換・挿入できるゲノム編集技術のひとつ。

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