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研究成果 
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2015年3月18日

ファンコニ貧血における胎児期の造血細胞機能異常の原因の一部を明らかに

CiRA臨床応用研究部門の中畑龍俊教授、斎藤潤准教授、鈴木直也大学院生らの研究グループは、ファンコニ貧血の患者さんの細胞からiPS細胞を樹立し、病態を再現することに成功しました。この研究成果は、この血液難病に対する有効な薬剤の探索や治療法開発に向けた足がかりとなる可能性があります。この研究は、京都大学iPS細胞研究所、京都大学放射線生物研究センター、京都大学大学院医学研究科発達小児科学及び東海大学附属病院細胞移植再生医療科の共同研究によって行われました。

ファンコニ貧血はまれな遺伝性の難病で、患者さんは生まれつきDNAに傷がつきやすく、先天奇形・高発がん・骨髄不全注1をきたします。骨髄不全については、造血幹細胞注2移植が唯一の治療法ですが、患者さんは遺伝子異常のために放射線や抗がん剤治療に対して極めて敏感であり、骨髄移植は大きなリスクを伴います。ファンコニ貧血患者さんが骨髄不全を起こす原因については様々な報告がありますが、恐らく患者さんは生まれる前から造血幹細胞の機能異常があり、そのために血球が生まれた後に次第に枯渇していくと考えられています。しかし、患者さんの胎児期の血球細胞を取り出して調べることは極めて困難です。

そこで、研究グループの鈴木直也大学院生らは、東海大学医学部の研究グループと協力し、ファンコニ貧血でよくみられるFANCA遺伝子の変異をもつ6人の患者さんの線維芽細胞からiPS細胞を樹立しました。ファンコニ貧血患者さんからのiPS細胞樹立は困難であることが知られていますが、同グループは、このうち2人の患者さんのiPS細胞を安定して増やすことに成功し、これを胎生期の未成熟な血球・血管内皮共通前駆細胞注3に分化誘導し、FANCA遺伝子を補充したiPS細胞と比較しました(図1)。

fanconi_fig1.jpg図1:研究の流れ。FA:ファンコニ貧血、HAPCs:血球・血管内皮共通前駆細胞

解析の結果、ファンコニ患者さんの皮膚の細胞(線維芽細胞)から作ったiPS細胞(FA-iPS細胞)は、DNAの傷が増加していること、FA-iPS細胞から誘導した血球・血管内皮共通前駆細胞は血球や血管内皮細胞へ分化する割合が大きく減少していることがわかりました。

従来、ファンコニ貧血の骨髄不全の原因は、造血幹細胞のDNAが傷つくために、この細胞が死んでしまったり、増えなくなってしまうためだと考えられていました。しかし、研究グループがこの原因を詳しく調べたところ、FA-iPS細胞由来の血球・血管内皮共通前駆細胞から血球が分化するのに必要な遺伝子の発現量が軒並み低下していることがわかりました(図2)。

fanconi_fig2.jpg
図2:造血関連遺伝子の発現量。FA02, FA07:患者さんの細胞、cFA02,cFA07:遺伝子補充した対照細胞

一連の研究結果は、ファンコニ貧血の原因となる血球細胞の異常が血球分化の最も早い時期に始まることをiPS細胞を用いて示唆したものです。また、骨髄不全の原因として、血球分化に必要な遺伝子の働きが低下していることが考えられました。これを手がかりとして、治療法の開発に向けた研究が進むことが期待されます。


注1 骨髄不全
ヒトの血球は骨髄で産生されます。骨髄不全は、様々な原因により、骨髄の血球を作る機能が低下し、血球が減少してしまう病態です。治療がなされないと、致命的になりえます。

注2 造血幹細胞
血液に含まれる細胞を作り出すもとになる細胞(幹細胞)。骨髄移植は、ドナーの骨髄に含まれる造血幹細胞を患者さんに移植する治療です。

注3 血管内皮共通前駆細胞
発生の初期段階では、血球と血管内皮細胞は共通の前駆細胞(もとになる細胞)からできてくることが知られています。iPS細胞からの分化誘導では、胎児期に存在するこのような前駆細胞を作製することができます。


<論文情報>
Naoya M. Suzuki et al. (2015) Pluripotent Cell Models of Fanconi Anemia Identify the Early Pathological Defect in Human Hemoangiogenic Progenitors. Stem Cells Translational Medicine
First published online in SCTM on March 11, 2015.



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