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iPS細胞とは? 
What are iPS cells?

iPS細胞とは?

2021年1月現在の関連情報を元に回答しています。

iPS細胞は2006年に誕生した新しい多能性幹細胞で、再生医療を実現するために重要な役割を果たすと期待されています。 しかし、そもそもiPS細胞とはどのように作られるのでしょう?iPS細胞の何が画期的なのでしょうか?そして、いつ頃、どのように医療に役立つと予測されているのでしょうか?このセクションでは、これらの疑問について、わかりやすく説明します。

Q

iPS細胞とは、どのような細胞ですか?

A

人間の皮膚や血液などの体細胞に、ごく少数の因子を導入し、培養することによって、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもつ多能性幹細胞に変化します。 この細胞を「人工多能性幹細胞」と呼びます。英語では「induced pluripotent stem cell」と表記しますので頭文字をとって「iPS細胞」と呼ばれています。 名付け親は、世界で初めてiPS細胞の作製に成功した京都大学の山中伸弥教授です。

体細胞が多能性幹細胞に変わることを、専門用語でリプログラミングと言います。 山中教授のグループが見出したわずかな因子でリプログラミングを起こさせる技術は、再現性が高く、また比較的容易であり、幹細胞研究におけるブレイクスルーといえます。


iPS細胞の樹立
doc
Q

iPS細胞は、どのように活用できると考えられているのですか?

A

iPS細胞は、再生医療や、病気の原因を解明し、新しい薬の開発などに活用できると考えられています。

再生医療とは、病気や怪我などによって失われてしまった機能を回復させることを目的とした治療法です。 iPS細胞がもつ多分化能を利用して様々な細胞を作り出し、例えば糖尿病であれば血糖値を調整する能力をもつ細胞を、神経が切断されてしまうような外傷を負った場合には、失われたネットワークをつなぐことができるように神経細胞を移植するなどのケースが考えられます。 iPS細胞から分化誘導した細胞を移植する細胞移植治療への応用が期待できます。

一方、難治性疾患の患者さんの体細胞からiPS細胞を作り、それを神経、心筋、肝臓、膵臓などの患部の細胞に分化させ、その患部の状態や機能がどのように変化するかを研究し、病気の原因を解明する研究も期待されています。 例えば、脳内にある神経細胞が変化して起こる病気は、外側からアクセスすることが難しく、また変化が進んでしまった細胞からは、正常な状態がどうであったかを推測することが難しいとされてきました。 iPS細胞を用いることで、こうした研究が飛躍的に進む可能性があります。

また、その細胞を利用すれば、人体ではできないような薬剤の有効性や副作用を評価する検査や毒性のテストが可能になり、新しい薬の開発が大いに進むと期待されています。


iPS細胞の可能性
doc
Q

iPS細胞が発明された背景は?

A

病気やケガで失われた臓器などを再生するための研究は数十年前から研究されていました。 1981年には、ケンブリッジ大学(イギリス)のマーティン・エバンス博士らが、マウスの胚盤胞からES細胞(embryonic stem cell:胚性幹細胞)を樹立することに成功しました。 ES細胞は代表的な多能性幹細胞の一つで、あらゆる組織の細胞に分化することができます。

その17年後、1998年にウィスコンシン大学(アメリカ)のジェームズ・トムソン教授が、ヒトES細胞の樹立に成功しました。 ヒトES細胞を使い、人間のあらゆる組織や臓器の細胞を作り出すことにより、難治性疾患に対する細胞移植治療などの再生医療が可能になると期待がふくらみました。

しかし、ES細胞は、不妊治療で使用されず廃棄予定の受精卵を用いるものの、発生初期の胚を破壊して作るため、子になる可能性を持った受精卵を壊すことに抵抗感を持つ人々も少なくなく、ES細胞研究に対して厳しい規制をかける国も少なくありません。 このような状況下では、研究目的といえども、ES細胞を作製することが容易ではありません。また、患者さん由来のES細胞を作ることは技術的に困難なので、他人のES細胞から作った組織や臓器の細胞を移植した場合、拒絶反応が起こるという問題もあります。

このような問題を回避する多能性幹細胞の作製方法が世界中で研究されていましたが、山中教授のグループは2006年にマウスの、2007年に人間の皮膚細胞からiPS細胞の樹立に世界で初めて成功したと報告しました。

Q

iPS細胞は、ES細胞と比べて、どのような点で画期的ですか?

A

ES細胞は受精後6、7日目の胚盤胞から細胞を取り出し、それを培養することによって作製されます。一方、iPS細胞は皮膚や血液など、採取しやすい体細胞を使って作ることができます。 また、ES細胞と違って、iPS細胞は患者さん自身の細胞から作製することができ、分化した組織や臓器の細胞を移植した場合、拒絶反応が起こりにくいと考えられます。

Q

山中教授のグループは最初にどのようにしてiPS細胞を作ったのですか?

A

山中教授は、ES細胞の遺伝子に関心を持ち、奈良先端科学技術大学院大学の助教授(現在の准教授)だった2000年頃から、新しい多能性幹細胞の作製方法の研究に取り組んでいました。 数多くの遺伝子の中から、ES細胞で特徴的に働いている4つの遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を見出し、レトロウイルス・ベクター注)を使って、これらの遺伝子をマウスの皮膚細胞(線維芽細胞)に導入し、数週間培養しました。 すると、送り込まれた4つの遺伝子の働きにより、リプログラミングが起き、ES細胞に似た、様々な組織や臓器の細胞に分化することができる多能性幹細胞ができました。これが2006年に世界で初めて報告されたマウスiPS細胞の誕生です。

その後、山中教授のグループでは、工夫を重ねて、同様に上記の4遺伝子を人間の皮膚細胞に導入してヒトiPS細胞の作製に成功したと2007年11月に発表しました。

注) レトロウイルス・ベクター:
ウイルスを用いた遺伝子導入用DNAの一種。目的遺伝子をウイルスに組み込み細胞に感染させることにより、遺伝子を導入する。 このようなウイルス・ベクターには、レンチウイルスやアデノウイルスを用いたものがある。ベクターとは、遺伝子を細胞内に運ぶ役割をはたすものです。

Q

iPS細胞の作製方法は、他にもありますか?

A

世界中の大勢の研究者が様々なiPS細胞の作製方法を開発しています。例えば、山中教授のグループと同時期にヒトiPS細胞の作製に成功したトムソン教授は、Oct3/4, Sox2, Nanog, Lin28の4つの遺伝子を使いました。

また、レトロウイルス・ベクターの代わりに、レンチウイルスやアデノウイルスをベクターとして用いてiPS細胞を作製した研究者や、遺伝子を用いず、化合物を用いて、iPS細胞を作製したという報告もあります。

CiRAでは、その後さまざまな作製法の研究を進めた結果、当初の作製法からより安全性の高い方法を確立することに成功しており、例えばがん化の危険性を高めると考えられたc-Myc遺伝子をL-Mycに変更する、 また、細胞が持つもともとのゲノム情報を傷つけ、がん化を引き起こすとされたウイルス・ベクターを用いずに、エピソーマル・プラスミドを使ってヒトiPS細胞を作製することにも成功しています。

Q

iPS細胞は、どんな年齢の人の体細胞からも作製できるのですか?

A

はい、できます。山中教授のグループでは、6歳から81歳まで様々な年齢の日本人の皮膚細胞からiPS細胞の作製に成功しています。それらのiPS細胞の多能性に大きな違いはありません。

Q

iPS細胞を利用した新しい薬の開発(創薬)や再生医療への応用はいつ頃実現するのですか?

A

iPS細胞研究は、標準的なiPS細胞の基準作り、安全なiPS細胞の作製方法の確立、動物を用いた治療効果と安全性の確認など、iPS細胞が発表された 2006年と比較すると大きく研究が進展しました。加齢黄斑変性をはじめ、いくつかの疾患に対して、iPS細胞を使った臨床研究や治験が本格的にヒトで実施されています。2014年には、加齢黄斑変性の患者さんに患者さんの体細胞から作ったiPS細胞由来の網膜の細胞を移植する臨床研究が始まり、 2018年には再生医療用iPS細胞ストックから作ったドパミン産生神経細胞をパーキンソン病の患者さんに移植する治験が始まりました。

また、患者さんの細胞から作ったiPS細胞由来の細胞を用いて、難病治療薬を探索する研究も進んでおり、2017年にはFOP(進行性骨化性線維異形成症)の候補薬の治験、2019年には筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者を対象とした創薬治験、2020年には家族性アルツハイマー病患者を対象とした創薬治験が開始されました。

国内外の研究者たちは、一日でも早く多くの患者さんの元へとiPS細胞を利用した新しい医療が届けられるように研究を続けています。

Q

iPS細胞からどんな組織や臓器の細胞を作ることができるのですか?

A

現在の国内外の研究成果を調べると、iPS細胞から神経、心筋、血液など様々な組織や臓器を構成する細胞に分化することが報告されています。 ただし、細胞や組織というものは臓器という立体的なものの一部にすぎません。そのため、立体的な臓器をつくる試みもなされており、小さな肝臓などを作ったという報告(Nature. 2013 July 25; 499: 481-484)や ミニ多臓器(肝臓・胆管・膵臓)の作製の報告(Nature 2019 Sept 25; 574: 112–116)もありますが、 人間のサイズに見合う、あるいは人間の体内で機能するような大きく立体的な臓器ができたという報告はまだありません。今後、3Dプリンターやバイオマテリアルなど、さまざまな素材や技術と組み合わせ、発展が期待されている分野といえるでしょう。

Q

iPS細胞技術が確立し、医療への応用が可能になったとしたら、どんな病気やケガでも治療可能になるのですか?

A

理論上、身体を構成する細胞であれば、iPS細胞はどのような細胞へも分化できますが、それが何にでも応用可能であるとは限りません。 例えば、記憶を司る脳が損なわれてしまう場合などは、神経科学の分野においても記憶の形成などはいまだ大きな謎の一つでもあります。

また、細胞移植を行うことなく、新規の薬剤や治療機器の登場を待つほうがよい場合もあると考えられます。 したがって、他の研究分野の発展とも並行し連携しながら、どのような疾患の治療にiPS細胞技術が有効であるかを検討する必要があります。

Q

iPS細胞が免疫拒絶を起こすという話を報道で見ました。iPS細胞は本当に免疫拒絶を起こすのでしょうか?

A

2011年5月にマウスから作ったiPS細胞を遺伝的に全く同じと言えるマウスにiPS細胞を移植した結果、ES細胞よりも免疫反応が引き起こされやすい可能性があることが報告され、各メディアでも取り上げられました。(Zhao et al. Nature. 2011 May 13;474(7350): 212-215.) iPS細胞を移植した時にどのような反応が起きるのかについて、これまできちんと解析されていなかった状況の中での重要な報告ではありますが、 CiRAではさらに詳細な検証が必要と考え、米国雑誌で見解を発表しました。(Okita et al. Circulation Research. 2011 Sep. 16;109(7):720-721.

Zhaoらの論文では、未分化なiPS細胞を移植していますが、実はこれは医療応用の現実とかけ離れたものです。未分化なiPS細胞を移植すると、テラトーマと呼ばれる奇形腫(良性腫瘍)をつくってしまうので、医療の現場で用いる場合には、しっかりと目的の細胞に分化させ、未分化な細胞を取り除いてから、移植することが必要です。 私たちの体内で腫瘍が形成される時、免疫系が反応し、これを排除しようとする現象があります。 ですから、いくら自己の細胞から作製したiPS細胞であっても、未分化なまま移植して奇形腫を作らせたら、Zhaoらの論文のように、これを排除しようとする免疫反応が起きても不思議ではありません。

2013年にはCiRAの髙橋淳教授らのグループが、サルを使った研究で、iPS細胞から作製した神経細胞を脳内に移植する実験を行い、 自己の細胞から作製した細胞の場合は殆ど免疫反応が起こらないことを報告しています。

また、2017年にはMHCという、免疫反応の関わる遺伝子を多く含む抗原(ヒトの場合はHLA)を適合させることによって、 他者の細胞からの場合でも免疫反応をある程度抑えられることをサルを使った研究で報告しました。

2019年には、CiRAの金子新教授堀田秋津講師らの研究グループはゲノム編集技術を用いて拒絶反応のリスクが少ないiPS細胞を作製したこと発表しました。このように実際にiPS細胞を用いた移植に際し、免疫反応を抑制するための研究が進んでいます。

Q

iPS細胞の安全性に関してどのような課題がありますか?

A

病気や怪我で機能が失われた細胞をiPS細胞から作製して移植する、再生医療の実現を目指した研究が国内外で行われています。 iPS細胞を用いた再生医療における安全性の課題として、腫瘍が形成されるのではないかという懸念があるため、 これまで、世界中でiPS細胞の安全性の向上に関する研究が行われてきました。とりわけ、CiRAでは研究所をあげてこの課題に取り組んできました。 その結果、懸念された課題を解決し、大幅に安全性を高めることに成功しています。

iPS細胞の腫瘍化については、大きく分けて2つのメカニズムが考えられてきました。 1つは細胞に導入された初期化因子が再活性化すること、あるいは人工的に初期化因子を導入するため、もともとの細胞がもつゲノムに傷がつくことでiPS細胞が腫瘍化してしまう、というものです。 これについては、再活性化を起こさない最適な初期化因子が探索され、また、初期化因子が細胞の染色体に取り込まれない(ゲノムに傷をつけない)iPS細胞の作製方法が開発されています。 もう1つは、未分化細胞が残存すること等によって引き起こされる、テラトーマと呼ばれる奇形腫(良性腫瘍)の形成です。これについては、iPS細胞の増殖や分化に関する研究を進めており、着実に成果をあげつつあります。

1. 最適な初期化因子の探索
山中伸弥教授らが、2006年に発表した論文でマウスiPS細胞を作製するときに用いた初期化因子の一つc-Mycは、がん原遺伝子として知られています。 この遺伝子が細胞内で活性化し、腫瘍が引き起こされる可能性が指摘されてきました。しかし、CiRAの中川誠人講師らは2010年に、 c-Mycの代替因子としてL-Mycが有望であることを報告しました。 L-Mycを用いて作製したiPS細胞は、腫瘍形成がほとんど無く、かつ作製効率や多能性も高いことを示しています。

2. 最適なベクターの探索
iPS細胞の作製に必要な初期化因子を皮膚細胞などの体の細胞に導入するとき、当初は、レトロウイルスやレンチウイルスをベクターとする方法が使われました。 これは、目的の遺伝子をウイルスの中に取り入れ、そのウイルスを細胞に感染させて、目的の遺伝子を細胞の中に導入するというものでした。 レトロウイルスやレンチウイルスをベクターとして用いると、ウイルスが細胞のゲノムDNAにランダムに組み込まれてしまい、その細胞にもともとある遺伝子が失われたり、 あるいは逆に活性化されたりする可能性があり、その結果、細胞が腫瘍化する危険性がありました。 しかし、CiRAの沖田圭介講師らは、 2008年にプラスミドと呼ばれる、 細胞の染色体に取りこまれることのない環状DNAをベクターとして用いることで、初期化因子が細胞の染色体に取り込まれないiPS細胞の作製方法を開発しました。 さらに、沖田講師らは、2011年に、Oct3/4, Sox2, Klf4, Lin28, L-Myc, p53shRNAという6つの因子を、 自律的に複製するエピソーマル・プラスミドを用いて導入することで、作製効率を高めることに成功しました。

3. 安全な細胞を樹立・選別する方法の確立
上述のように適切な遺伝子や遺伝子導入法を用いて樹立したiPS細胞を目的の体の細胞に分化させた場合、分化した後の細胞が再びiPS細胞に戻ることはありません。 しかし、目的の細胞に分化しきれていない未分化な細胞が少しでも残っていた場合、その細胞が腫瘍になってしまうことが考えられます。 これまで、iPS細胞は同じ人から同じ方法で作った場合でも、細胞株によって、増殖や分化する能力にばらつきが見られることがわかっていました。 つまり、分化能力が低いiPS細胞を用いると、細胞の集団の中に分化しきれていない細胞が残ってしまい、テラトーマと呼ばれる奇形腫(良性腫瘍)を形成してしまう危険があったのです。 しかし、2013年に、CiRAの髙橋和利准教授らは、神経細胞への分化能力の高いiPS細胞株を簡単に選別する方法を開発しました。 また、iPS細胞樹立時や、その後の培養時に発生するゲノム等の傷が、腫瘍の原因となる可能性もあります。 最新の機器を用いてiPS細胞に存在するゲノム等の傷を鋭敏に検知する研究も進んでいます。

4. 目的の細胞に確実に分化させる方法の開発
細胞移植治療を行う場合、iPS細胞をそのまま人体に移植するのではなく、目的の体の細胞に分化させた細胞を移植します。 したがって、iPS細胞から目的の細胞に確実に分化させる方法を開発することが重要と考え、CiRAでは様々な細胞への分化技術の開発に取り組んでいます。

例えば、CiRAの髙橋淳教授らは、iPS細胞からドパミン産生神経細胞を効率良く分化させる方法を開発し、2018年にはパーキンソン病患者に対する治験を開始しました。 また、CiRAの江藤浩之教授らは、2014年にiPS細胞から血小板を大量かつ安定的に産生する方法を報告し、2018年には血小板輸血不応症を合併した再生不良性貧血患者を対象とする臨床研究を開始しました。

Q

安全性の課題は、いつ頃克服されるのですか?

A

2006年にiPS細胞の樹立を初めて報告してから、世界中の研究により樹立方法は大きく進歩し、また品質の評価方法も確立されつつあります。 実際、iPS細胞由来の網膜色素上皮細胞を加齢黄班変性の患者さんに移植する再生医療について、動物実験による安全性の検証を経て、2013年に臨床研究を開始することが厚生労働省により承認されました。 2014年には、患者さんの体の細胞から作ったiPS細胞由来網膜色素上皮細胞がその患者さんに移植され、1年を経過下段階では経過は良好で異常は見られていません。

また、脊髄損傷、パーキンソン病(2017年08月31日:プレスリリース2013年9月27日:プレスリリース2012年1月24日:プレスリリース)、 心不全、再生不良性貧血などの血液疾患に関しては、iPS細胞を使った再生医療の安全性が動物実験で検証され、少数の患者さんに細胞を移植し安全性を確認する治験や臨床研究がはじまっています。

Q

患者さん由来のiPS細胞から作った患部細胞を使用して、薬の効果や副作用、毒性検査を実施したり、新しい薬や治療法を開発することが期待されています。これらを実現するために、どのような課題がありますか?

A

患者さん由来のiPS細胞から作製された細胞を用いる研究は、動物細胞を用いる場合などと比較して、ヒトの病気のメカニズムをさらに忠実に反映したモデルと考えられます。 つまり、これまでより詳細に「なぜ病気がおこるのか?」という仕組みを知ることができ、病気の進行を止めたり、遅らせたり、あるいは治癒する薬剤の探索への応用が期待されています。

また、さまざまな遺伝的背景を持つiPS細胞を樹立することで、心臓や肝臓など、薬の副作用が出やすい臓器の細胞を作製して、薬のもととなる化合物を投与し、本来の機能が失われないか(副作用が出ないか)を調べることも出来ます。 こうした研究は、より多くの患者さんへと治療法を提供することにつながるため、今後は、より強力に進めることが望まれます。

ただし、細胞レベルで認められる異常が、実際の患者さんの病気の本当の原因であるかは、実際の患者さんの病態を再現しつつ、注意深く解析する必要があります。 また、iPS細胞を使って見つかった薬剤が、患者さんにどのくらい有効であるか、また十分な安全性があるかについて、幅広く確認していく必要もあります。 そのために、2017年にはFOP(進行性骨化性線維異形成症)の候補薬の治験、2019年には筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者を対象とした創薬治験、2020年には家族性アルツハイマー病患者を対象とした創薬治験が開始されました。

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