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―ヒトSOD1遺伝子バリアントを単一コピーで導入した前臨床研究プラットフォーム―

研究成果 
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2026年8月20日

ALSゲノム編集治療開発に向けた遺伝子改変マウスモデルを開発
―ヒトSOD1遺伝子バリアントを単一コピーで導入した前臨床研究プラットフォーム―

ポイント

  1. 筋萎縮性側索硬化症(ALS)のうち約10%は遺伝性(家族性ALS)であり、SOD1遺伝子バリアント(変異)はその主要な原因の1つです。
  2. CRISPR/Cas9を用いてマウスRosa26 遺伝子座にヒトSOD1ゲノム配列を挿入し、ALSに関連するSOD1遺伝子バリアントを単一コピーで有する遺伝子改変マウスを作製しました。
  3. 本研究で作製された遺伝子改変マウスは、SOD1遺伝子バリアントの修復を対象としたゲノム編集治療開発研究のための前臨床動物モデルとして期待されます。
1. 要旨

 奥宮太郎特定助教(京都大学CiRA臨床応用研究部門)、井上治久教授(京都大学CiRA臨床応用研究部門)らの研究グループは、家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)のゲノム編集治療開発に向けて、単一コピーのヒトSOD1注1)注1)SOD1(Superoxide dismutase 1)
細胞内の活性酸素を分解する酵素。SOD1をコードするSOD1遺伝子は1993年にALSの原因遺伝子のひとつであることが報告された。
変異ゲノムを有する2種類の遺伝子改変マウス注2)注2)遺伝子改変マウス
生物の設計図であるゲノムに、人為的に遺伝子を導入したり、変異を加えたりして、改変を加えたマウス系統。
を作製しました。これらのマウスは、プロモータ領域ならびに全エキソンおよびイントロンを含むヒトSOD1遺伝子を単一コピー有しており、SOD1遺伝子の修復を標的としたゲノム編集技術注3)注3)ゲノム編集
CRISPR/Cas9に代表される、目的のDNA配列を選択的に切断・書き換えをすることができる技術。ゲノム編集技術のうち、塩基編集とプライム編集は、DNAを切断することなく病的バリアントを修復可能である。
を用いた創薬プラットフォームとして活用されることが期待されます。

 本研究成果は2026年8月8日に、日本実験動物学会の機関誌である「Experimental Animals」にてオンライン公開されました。

2. 研究の背景

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロンの変性・脱落により、全身の筋力低下をきたす進行性の神経変性疾患です。ALSの進行を遅らせる治療薬は存在しますが、進行を停止させる根本的な治療法はいまだ確立されていません。ALS患者さんの約10%は家族性ALSとされ、その主要な原因の一つとして、SOD1(superoxide dismutase 1)遺伝子の病的バリアント(変異)が知られています。

 近年、CRISPR/Casシステムを応用したゲノム編集技術により、病的バリアントを修正する治療法の開発が進められています。とくに、塩基編集やプライム編集は、DNAを切断することなく病的バリアントを修復可能な技術として注目されています。ゲノム編集による治療効果を生体内で評価する方法の一つとして、モデル動物を用いた検証が挙げられます。しかし、SOD1遺伝子に関連するALSの病態モデルとして広く用いられているマウスの多くは、疾患関連バリアントを有する遺伝子を高コピー数注4)注4)コピー数
ゲノムがもつ特定の遺伝子の数。通常、遺伝子は父と母から1コピーずつ、あわせて2コピーをもちます。SOD1関連ALSでは、1コピーのSOD1遺伝子バリアントによってALSを発症することが多い。
で導入し、過剰発現させたトランスジェニックマウスです。これらのマウスは、ALS患者さんに類似した運動麻痺や運動ニューロンの脱落を早期に示すため、病態モデルとして有用です。一方、SOD1遺伝子バリアントのコピー数が実際のALS患者さんとは大きく異なることから、ゲノム編集技術の有効性を評価するモデルとしては課題がありました。そのため、患者さんの遺伝的背景により近い、ヒトSOD1遺伝子バリアントを単一コピーで有するモデルマウスの作製が求められていました。

3. 研究結果

1)モデルマウスの作製
 研究グループは、CRISPR/Cas9を介した相同組換え修復を用い、マウスのRosa26 遺伝子座注5)注5)Rosa26 遺伝子座
マウスの第6染色体に位置し、タンパク質ではないノンコーディングRNAをコードする領域。外部から導入した遺伝子を安定的かつ均一に発現させやすい領域とされる。
に11-kb超のヒトSOD1ゲノム断片(プロモーター領域ならびに全エキソンおよびイントロンを含む)を挿入し、SOD1 L126S変異を持つRosa26-hSOD1L126Sマウスを作製しました(図1)。複数の検証によりRosa26 遺伝子座への正確な挿入と、目的外の染色体への挿入がみられないことを確認しました。さらに、同じ方法によって、SOD1 G93S変異を持つRosa26-hSOD1G93Sマウスを作製しました。このようにして、単一コピーのヒトSOD1遺伝子バリアントをもつマウスを作製しました。

(図1)ヒトSOD1遺伝子バリアントを有する遺伝子改変マウスの作製方法(模式図)

2)表現型解析
 作製したマウスでは、脊髄全体の運動ニューロンにおいて、ヒトSOD1の強い発現が認められました(図2)。このことから、Rosa26 遺伝子座に挿入したヒトSOD1遺伝子が適切に転写・翻訳されており、Rosa26 遺伝子座がヒトSOD1遺伝子の挿入部位として適していることが示されました。本研究で作製したRosa26-hSOD1L126SマウスおよびRosa26-hSOD1G93Sマウスでは、限られた観察期間において、従来の多コピーSOD1遺伝子を有するALSモデルマウスでみられる運動機能障害や脊髄運動ニューロンの脱落は認められませんでした。

 以上の結果から、本研究で作製したマウスは、明らかな運動機能障害や運動ニューロンの脱落を示さない一方で、SOD1遺伝子バリアントに関連する分子病態を再現するモデルであることが示されました。本マウスモデルは、SOD1遺伝子バリアントの修復を目的としたゲノム編集効率の評価など、ALSのゲノム編集治療開発を支える前臨床研究プラットフォームとしての活用が期待されます。

(図2)作製した遺伝子改変マウスの脊髄における免疫組織化学像

野生型マウスの運動ニューロン(右上:コリンアセチルトランスフェラーゼ[choline acetyltransferase:ChAT]注6)注6)コリンアセチルトランスフェラーゼ
アセチルコリンの合成酵素で、コリン作動性神経細胞の細胞質のみに存在する。コリン作動性神経細胞の最良のマーカータンパク質。
陽性細胞)に比べ、Rosa26-hSOD1L126Sマウスの運動ニューロン(右下:ChAT陽性細胞)では、ヒト変異型SOD1タンパク質の蓄積が認められる(左下)。スケールバー:500 µm

4. まとめ

 本研究で作製した遺伝子改変マウスは、ALS関連バリアントを有するヒトSOD1遺伝子を単一コピーで保持しており、SOD1関連ALS患者さんの遺伝的背景により近い状態を再現しています。SOD1遺伝子では200種類以上のALS関連バリアントが報告されていますが、本研究で確立した手法を応用することで、さまざまなSOD1遺伝子バリアントを有する遺伝子改変マウスを作製することが可能です。

 今後、本研究で確立した手法およびマウスモデルは、多様なSOD1遺伝子バリアントに起因するALSに対して、ゲノム編集技術を用いた治療法の開発や有効性を評価するための前臨床研究プラットフォームとして活用されることが期待されます。

5. 論文名と著者
  1. 論文名
    Generation of mutant human SOD1 knock-in mouse lines at the Rosa26 locus as a platform for developing genome-editing therapies for amyotrophic lateral sclerosis
  2. ジャーナル名
    Experimental Animals
  3. 著者
    Taro Okunomiya1, Tomoki Sakasai1, Kayoko Tsukita1, Rina Shimizu1, Aya Okusa1, Masahiro Adachi1,
    Saki Tomita1, Akito Tanaka1, Takayuki Kondo1, Keiko Imamura1, Haruhisa Inoue1*
  4. 著者の所属機関
    1. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
6. 本研究への支援

本研究は、下記機関より支援を受けて実施されました。

  1. 日本学術振興会(JSPS)科研費(JP23K14776)
  2. 日本医療研究開発機構(AMED)

    - 再生・細胞医療・遺伝子治療実現加速化プログラム
    「次世代医療を目指した再生・細胞医療・遺伝子治療研究開発拠点(JP23bm1323001)」
    「SOD1変異ALSに対する遺伝子編集治療法の開発(JP23bm1223013)」
    「機能性オルガノイドを用いた運動ニューロン疾患遺伝子治療薬スクリーニング系の確立(JP23bm1423014)」

    - 再生医療等実用化研究事業
    「近位筋優位遺伝性運動感覚ニューロパチーに対する遺伝子治療開発に向けた非臨床試験(JP24bk0104169)」

7. 用語説明

注1)SOD1(Superoxide dismutase 1)
細胞内の活性酸素を分解する酵素。SOD1をコードするSOD1遺伝子は1993年にALSの原因遺伝子のひとつであることが報告された。

注2)遺伝子改変マウス
生物の設計図であるゲノムに、人為的に遺伝子を導入したり、変異を加えたりして、改変を加えたマウス系統。

注3)ゲノム編集
CRISPR/Cas9に代表される、目的のDNA配列を選択的に切断・書き換えをすることができる技術。ゲノム編集技術のうち、塩基編集とプライム編集は、DNAを切断することなく病的バリアントを修復可能である。

注4)コピー数
ゲノムがもつ特定の遺伝子の数。通常、遺伝子は父と母から1コピーずつ、あわせて2コピーをもちます。SOD1関連ALSでは、1コピーのSOD1遺伝子バリアントによってALSを発症することが多い。

注5)Rosa26 遺伝子座
マウスの第6染色体に位置し、タンパク質ではないノンコーディングRNAをコードする領域。外部から導入した遺伝子を安定的かつ均一に発現させやすい領域とされる。

注6)コリンアセチルトランスフェラーゼ
アセチルコリンの合成酵素で、コリン作動性神経細胞の細胞質のみに存在する。コリン作動性神経細胞の最良のマーカータンパク質。

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