研究活動
Research Activities

研究活動
Research Activities

Home › 研究活動 › 研究成果 › 市民・研究者ともに動物の脳、配偶子へのヒト細胞が混ざることに対して懸念

研究成果 
Publications

2017年7月20日

市民・研究者ともに動物の脳、配偶子へのヒト細胞が混ざることに対して懸念

 CiRA上廣倫理研究部門の澤井努研究員、八田太一研究員、藤田みさお准教授は、国内の一般市民と研究者を対象にした意識調査注1)を行ったところ、ヒト-動物キメラ注2)注3)研究を許容すると回答した者でも、動物の脳や配偶子にヒトの細胞が混ざることに対しては大きな懸念を示すことがわかりました。この研究成果は、2017年7月1日(米国時間)に米国科学誌「STEM CELLS Translational Medicine」オンラインに掲載されました。

 2016年2月から4月の間に、日本の一般市民、および研究者を対象に、ヒト-動物キメラ胚研究に関する意識調査を実施し、一般市民520名、研究者105名から回答を得ました。その結果、ヒト-動物キメラ胚の作製に関して、一般市民の80.1%、研究者の92.4%が、またヒト-動物キメラ注2)作製に関して、一般市民の64.4%、研究者の83.8%が許容するという結果が得られました。これらの結果は、2017年3月に論文発表しています。

 従来、ヒト-動物キメラ研究に関する倫理的問題として、ヒトの細胞が動物の脳に含まれる場合、ヒト-動物キメラがヒトと同等の認知機能を有するのではないかという点、また近年では、動物の生殖細胞の系列にヒトの細胞が含まれる場合、ヒトと動物のハイブリッド注4)や動物からヒトが生まれてしまうのではないかという点が注目され、議論されています。

 そこで、この調査では、脳、肝臓、精子・卵子、皮膚、血液、心臓という6つの臓器、組織、細胞について、動物にヒトの細胞が含まれることに対する抵抗感について尋ねました。結果として、従来、倫理学の分野で議論されてきたように、一般市民も研究者もともに、他の臓器、組織、細胞に比べて、脳、精子・卵子にヒトの細胞が含まれることをより懸念することが明らかになりました(図)。

 さらに、本調査では、臓器別にどの程度であればヒトの細胞が含まれることを許容するかについても尋ねました。その結果、48.5%の一般市民、45.7%の研究者が脳にヒトの細胞が寄与することは全く許容されないと回答し、52.1%の一般市民、74.3%の研究者が生殖細胞にヒトの細胞が寄与することは全く許容されないと回答しました。

 この調査結果は、ヒト-動物キメラ研究における脳、配偶子のヒト化の問題に関しては、少なくとも当該問題を回避する方策を探究する必要性を示しています。

図 人-動物キメラの臓器等にヒト細胞が含まれることに対する抵抗感*

*この調査では、各臓器に対して、「受け入れられる」、「まあ受け入れられる」、「あまり受け入れられない」、「受け入れられない」という四つの選択肢を提示した。本図は、「あまり受け入れられない」、「受け入れられない」と回答した人の結果である。

論文情報
  1. 論文名
    The Japanese Generally Accept Human-Animal Chimeric Embryo Research but Are Concerned About Human Cells Contributing to Brain and Gametes
  2. ジャーナル名
    STEM CELLS Translational Medicine
  3. 著者名
    Tsutomu Sawai, Taichi Hatta, Misao Fujita
  4. 著者の所属機関
    京都大学iPS細胞研究所 上廣倫理研究部門
本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。

  1. 日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金
用語説明

注1)国内の一般市民と研究者を対象にした意識調査
2016年2月~4月にかけて日本でインターネット調査を実施。一般市民に関しては、調査会社のモニター会員を利用した。サンプリング方法は割当法で、サンプル数は520とした。サンプルの構成に関して、性別(男女比は均等)、年齢(20~60歳代)、在住地別(47都道府県)に関して、日本の人口構成比に基づき割付を実施した。研究者に関しては、京都大学iPS細胞研究所に所属する研究者352名に対して、質問紙のURLを貼付する形でメールを一斉送信し、105名から回答を得た。研究者の回答率は、29.8%であった。

注2)ヒト-動物キメラ
異なる遺伝情報をもつ細胞が混ざって存在している動物をキメラ動物という。とくに動物の胚にヒトの細胞(iPS細胞やES細胞など)を注入して生まれてきた、両者の細胞をもつ個体をヒト-動物キメラという。

注3)胚
多細胞生物の個体発生過程において、受精卵が分裂を開始してある程度経った段階までの、ごく初期の段階にあるものを胚という。

注4)ハイブリッド
種が異なる動物から生まれる子孫。雑種。例えば、イノシシとブタから生まれた「イノブタ」やライオンとヒョウから生まれた「レオポン」などが知られる。

go top