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研究成果 
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2018年2月8日

高効率で自在なゲノム改変技術の開発に成功

ポイント

  1. CRISPR-Cas9注1の活性を自在に制御できるpiggyBacベクター注2を開発し、iPS細胞での一塩基注3ゲノム編集効率を劇的に向上させた。
  2. ゲノム上の一塩基を任意の塩基に置き換えるだけでなく、ランダムに置き換えることも可能となり、遺伝子機能解析や疾患研究を加速させるツールになると期待される。
1. 要旨

 石田賢太郎研究員(京都大学CiRA未来生命科学開拓部門)および堀田秋津講師(京都大学CiRA同部門)らの研究グループは、iPS細胞において、CRISPR-Cas9ゲノム編集技術を改良することで、一塩基改変効率を大きく向上させることに成功しました。

 CRISPR-Cas9を用いたゲノム編集技術は、ゲノム上の狙った箇所を切断してDNA修復機構を活性化することにより、塩基の欠失や配列組換えを誘導する技術です。しかしiPS細胞をはじめとするヒト培養細胞において、30億塩基からなるゲノムの一塩基だけを狙った通り精密に改変するのは非常に効率が悪く、困難でした。

 堀田講師らの研究グループは、iPS細胞内にCRISPR-Cas9をあらかじめ組み込んでおくことで、ゲノム編集効率を高めることにしました。この際、Cas9注1が常に働いてしまうと、意図しない欠損ばかりが発生してしまうため、Cas9の活性を二重に薬剤で制御する方法を開発しました。この結果、ゲノム編集を誘導したい時だけにCas9を活性化させることに成功し、これまでにない高効率での一塩基配列置換が誘導可能となりました。これらの結果は、iPS細胞を用いた遺伝子機能解析や疾患研究を加速することが期待されます。この研究成果は2018年1月11日午前2時(日本時間)に英国科学誌「Scientific Reports」でオンライン公開されました。

2. 研究の背景

 何百万もの既知の遺伝的変異の中で、単一塩基の変異は疾患関連遺伝子変異の半分以上を占めます。従って、病態を再現したり、遺伝的変異の影響を調べるために、培養細胞で疾患に関連する一塩基変異を導入したり修復したりすることは非常に重要です。

 ヒト培養細胞において、ゲノム編集技術で一塩基改変を行う場合、改変したい部位のゲノム配列をガイドRNA注1とCRISPR-Cas9で切断しつつ、目的とする配列へと書き換えるために、一本鎖DNAを鋳型として供給する方法が一般的です。この方法により、ゲノム上の任意の場所の塩基を任意の他の塩基へと変換することができるのですが、成功確率は一般的に1%未満で、百株を超えるような多数の細胞を用いて、ようやくゲノム編集に成功した細胞を樹立できるかどうかという効率の低さが課題でした。

3. 研究結果

 培養細胞でゲノム編集効率が低い理由の一つに、CRISPR-Cas9とガイドRNA、そして一本鎖DNAの鋳型が、細胞内に取り込まれる確率が低い点が挙げられます。そこで研究者らは細胞の中にあらかじめCRISPR-Cas9とガイドRNAを組み込んでおき、ゲノム編集を行いたい時だけ、鋳型となる一本鎖DNAを導入する方法を試すこととしました。今回実験を行ったiPS細胞をはじめ、ヒト培養細胞へ効率的にCas9とガイドRNAを導入できるよう、比較的大きな遺伝子でも搭載可能なpiggyBacベクターを導入に利用しました。Cas9とガイドRNAが常に働き続けると、鋳型DNAを導入する前に細胞内のゲノムの切断と欠失が起こってしまい、目的の一塩基改変が誘導できません。そこで、Cas9のDNA切断活性を自在に制御するために、薬剤に応答して遺伝子のオン・オフを切り替えられるプロモーター(Dox誘導型プロモーター)と、Cas9が核内に入ってゲノムにアクセスするための核移行を別の薬剤で制御可能なシステムの二種類を組み合わせた、CRONUSシステムを開発しました。

 これにより、iPS細胞の中のCas9の活性を二種類の薬剤で自在に制御することが可能となり、またCas9とガイドRNAを毎回細胞内へ導入する必要もないため、ゲノム編集効率が大きく向上することが分かりました。さらに、一塩基を置換するための一本鎖DNAを導入すると、これまでの効率を大幅に上回る、20%から30%もの効率で狙った一塩基改変が誘導可能であることが分かりました。さらに、これまでのゲノム編集実験では、元の一塩基から別の一塩基へと一つ一つ改変する方法が主流で非効率的でしたが、CRONUSシステムを利用することにより、ある一つの配列における複数の箇所で異なる塩基配列をそれぞれもった細胞を一度に作製可能であることも分かりました。例えば、二箇所の塩基を改変することにより、42 = 16種類の配列を持った細胞を作製できたほか、八箇所の塩基を改変すれば、48 = 6万5千通りのランダムな配列組合せを一度に作製可能であることが分かりました。

4. まとめ

 本研究成果は、二重制御Cas9をpiggyBacベクターでヒト細胞にあらかじめ導入することによって、これまでにない高効率での一塩基改変が可能であることを示しました。狙った箇所の塩基配列に様々な塩基への変換をランダムに誘導することも可能になったため、疾患変異配列と正常配列をそれぞれ持った細胞を同時に作製して比較解析したり、遺伝子の配列を様々に変化させてより機能性の優れたタンパク質を作り出したりすることが可能となります。本手法ではCas9を細胞内ゲノム上にあらかじめ組み込んでおく必要があるため、組み込まれたiPS細胞を直接細胞治療へ用いることは難しいですが、遺伝子変異が原因で引き起こされる疾患を細胞レベルで再現するための非常に強力なツールとなることが期待されます。

5. 論文名と著者
  1. 論文名
    "Site-specific randomization of the endogenous genome by a regulatable CRISPR-Cas9 piggyBac system in human cells"
  2. ジャーナル名
    Scientific Reports
  3. 著者
    Kentaro Ishida1, Huaigeng Xu1, Noriko Sasakawa1, Mandy Siu Yu Lung1, Julia Alexandra Kudryashev2, Peter Gee1 & Akitsu Hotta1,3
  4. 著者の所属機関
    1. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
    2. マサチューセッツ工科大学
    3. 京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)
6. 本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。

  1. 文部科学省 科学研究費補助金 「若手研究A」
  2. AMED再生医療実現拠点ネットワークプログラム iPS細胞研究中核拠点
  3. AMED再生医療実現拠点ネットワークプログラム 技術開発個別課題
7. 用語説明

注1) CRISPR
CRISPR:Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeatの略 細菌が持つウイルスに対する防御機構の一種。Cas9というDNA切断酵素と、切断させたい場所へとCas9を誘導するガイドRNAを使い、細菌に感染したウイルスのDNAを切断することで細菌をウイルス感染から守っている。ガイドRNAのターゲット配列を、細菌ウイルスではなく任意のヒトゲノム配列に変えてやることで、ヒト細胞内においてゲノム上の一箇所を見つけ出し、そこのDNAだけを特異的に切断することができる。

注2) piggyBac (ピギーバック)ベクター
最初、蛾(イラクサギンウワバ)で見つかったトランスポゾンの一種。トランスポゾンとは、ゲノム上から自身を切り出して、ゲノム上の別の箇所に挿入することが可能であり、この性質を利用することによって、細胞の外部から任意の遺伝子をターゲット細胞のゲノムに組み込むことを可能としたのが、トランスポゾンベクターである。piggyBacベクターは数あるトランスポゾンベクターの中でも、搭載可能な遺伝子のサイズが大きく、Cas9のように大きな遺伝子(4.2 kb)に様々な制御配列を付加した配列であっても導入が可能となる。

注3) 塩基
糖やリン酸とならび、核酸(DNAやRNA)を構成する。DNAを構成する塩基には、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類がある。遺伝情報はこれら4種類の塩基配列により規定される。

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