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研究成果 
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2020年11月13日

ヒトiPS細胞から長期維持可能な高純度心室筋細胞の特異的誘導方法の開発

ポイント

  1. ヒトiPS細胞から高純度心室筋細胞を作製する方法を確立し、その作製した心室筋細胞は、精製のステップなしに高純度状態を長期間維持培養が可能である。
  2. 作製した高純度心室筋細胞の長期間の維持培養により、形態学的および電気生理学的成熟を認め、心臓毒性試験、疾患モデリングに有用である。
1. 要旨

 山下潤教授CiRA増殖分化機構研究部門)らの研究グループは、ヒトiPS細胞から長期維持可能な高純度心室筋細胞を作製する技術を開発しました。

 この研究成果は 2020年11月2日(米国東部時間)に米国のオンライン・ジャーナル「PLOS ONE」で公開されました。

2. 研究の背景

 ヒトiPS細胞からの心筋細胞は、心臓毒性スクリーニング、創薬、疾患モデリングなどのさまざまな応用へ期待されています。そのため、高純度のヒトiPS細胞由来心筋細胞の安定した作製は、ますます需要が高まっています。しかしながら、現在のヒトiPS細胞からの心筋細胞の作製方法では、ヒトiPS細胞をすべて心筋細胞に分化させられるわけではないため、高純度の心筋細胞を確保するために、作製の最終段階に精製ステップが必要となっています。また、これらの方法で作製された心筋細胞には、生体の心室筋細胞様、心房筋細胞様、ペースメーカー細胞様など、様々な性質を有する細胞が混ざり合って構成されていることが知られています。

 本研究では、これまでの分化誘導方法を手掛かりにして、心筋細胞の精製ステップなしに高純度の心室筋細胞を作製する方法の開発を試みました。

3. 研究結果

 山下教授らの研究グループは、これまでの心筋分化誘導方法を手掛かりに、心筋細胞への分化能を有する中胚葉細胞集団(血小板由来成長因子受容体-α(PDGFRα)陽性細胞)を誘導および収集し、2種類のWntシグナル阻害剤(XAV及びIWP4)を用いて選択的に分化段階に応じた刺激を与え、強力に心筋細胞へ誘導することによって、高純度の心筋細胞を作製することに成功しました(図1)。

 この改善された心筋細胞の作製方法では、高純度の心筋細胞が安定して得られるだけでなく、心筋細胞の精製ステップなしに、200日を超える長期間培養においても、高純度の状態を維持し続けました(図2)。さらに、これらの心筋細胞のほとんどは、心室筋の特異的マーカーであるミオシン軽鎖(MLC) 2vを発現し、長期間の培養によってその発現はより特異的になりました (図3)。また、長期培養した心室筋細胞は、横紋(サルコメア)構造の成熟化(Z帯、M帯などの形成、サルコメア長の延長)、ミトコンドリアの増加・成熟化、さらには成体の成熟化した心筋細胞の構造であるT管様構造を認めました(図4)。電気生理学的にも心室筋細胞の成熟の特徴である最高拡張期電位(MDP)の低下、電位ピーク(Peak)、AP増幅(APA)、及びAP上昇の最高上昇速度(dV/dtmax)の上昇を示し(図5)、QT延長を示す薬剤に対しても、生体の心室筋と同様の反応を示しました。

図1 ヒトiPS細胞から高純度心室筋細胞を作製する方法
中胚葉細胞集団(血小板由来成長因子受容体-α(PDGFRα)陽性細胞)を誘導および収集し、2種類のWnt阻害剤(XAV及びIWP4)によって、心筋細胞への分化を強力に刺激し心室筋細胞を作製した。

図2 高純度心室筋細胞の長期培養
高純度心室筋細胞作製後(d21)は、精製ステップをなしに200日を超える長期間培養(d201)においても、純度は変わらずに高く維持される。

図3 長期培養した高純度心室筋細胞
ミオシン軽鎖(MLC) 2a(緑), ミオシン軽鎖(MLC) 2v(赤)。
MLC 2vは心室筋に特異的に発現する。一方でMLC 2aは心房筋及び幼弱な心筋で発現する。
MLC2vを発現する心室筋様細胞が特異的に分化。

図4 長期培養した心筋細胞の電子顕微鏡的所見 (培養231日目)
A: 成熟した横紋構造、ミトコンドリアを認める。B: T管様構造を認める。
スケールバー: 1μm (A), 400 nm (B),

図5 高純度心室筋細胞の電気生理学的成熟
最高拡張期電位(MDP)、電位ピーク(Peak)、AP増幅(APA)、及びAP上昇の最高上昇速度(dV/dtmax)を示す。心室筋細胞は、成熟するにつれて、MDPの低下とPeak、APA、及びdV/dtmaxの上昇を示す。

4. まとめ

 今回、改善した心筋細胞の作製方法は、高純度の心筋細胞を安定して作製することを可能にし、心筋細胞の精製のステップなしに高純度状態を200日以上の長期間維持培養が可能です。作製した心筋細胞は、心室筋様の表現型を示し、形態学的および電気生理学的成熟を確認しました。この作製技術は、心臓毒性試験、疾患モデリングなどの新たな研究用ツールとしての応用が期待されます。

5. 論文名と著者
  1. 論文名
    Specific induction and long-term maintenance of highpurity ventricular cardiomyocytes from human induced pluripotent stem cells
  2. ジャーナル名
    PLOS ONE
  3. 著者
    Hiroyuki Fukushima1*, Miki Yoshioka1, Masahide Kawatou1,2,3, Víctor López-Dávila1,
    Masafumi Takeda1,3, Yasunari Kanda4, Yuko Sekino5, Yoshinori Yoshida1, Jun K. Yamashita1**
    *筆頭著者 **責任著者
  4. 著者の所属機関
    1. 京都大学iPS細胞研究所
    2. 京都大学大学院医学研究科
    3. 京都大学医学部附属病院 先端医療研究開発機構
    4. 国立医薬品食品衛生研究所
    5. 東京大学大学院薬学系研究科
6. 本研究への支援

本研究は、AMED課題番号JP15km0908001; JP16mk0104027h0402; JP17mk0104027h0403 及び科研費・基盤研究(A)JP18H04048の資金的支援を受けて実施されました。

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