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主任研究者
Principal Investigators

未来生命科学開拓部門 中川 誠人 講師

中川 誠人 写真
中川 誠人 Ph.D.
研究概要

iPS細胞は私たちの体の様々な細胞へ分化でき、次世代の再生医療への応用が期待されています。ヒトの体の細胞(血液中の細胞や皮膚細胞)に4つの因子を導入することでiPS細胞を作ることができます。これら4つの因子(Sox2, Oct3/4, Klf4, c-Myc)は遺伝子の発現を制御する転写因子として知られており、体細胞に発現させることで細胞内の遺伝子発現状態を変化させ、細胞の初期化(リプログラミング)を起こすものと考えられます。 我々はリプログラミングの機能解明を通じて細胞の謎を明らかにすることを目標に基礎研究を行っています。そして、初期化メカニズムとiPS細胞の性質を完全に理解することで再生医療の発展に貢献したいと考えています。

以前から当グループでは初期化因子(山中因子)のひとつであるMYCの機能解析を進めてきました。マウスの細胞を使った研究結果から、c-Mycを使って作ったiPS細胞は癌化の危険性があることがわかりました(導入に使っていたレトロウイルスの関係)。この課題を克服するためにMYCを用いることなくiPS細胞を作ることができることを見出しました(Nakagawa et al., 2008)。しかし、MYCを使わずに作ったiPS細胞は「質」の点で劣ることがわかり、スタートに戻ることとなりました。その後、c-MYCの代わりとなり、癌化の危険性のないiPS細胞を作ることができる初期化因子としてMYCL (L-MYC) を発見しました(Nakagawa et al., 2010)。

c-MYCとMYCLはMYC family遺伝子として知られており、保存された機能ドメインはよく似たアミノ酸配列から構成されています。そのため、c-MYCとMYCLの機能が違うことは驚きであり、非常に面白いと考え、さらなる研究を進めています。

2021年末にはMYCLの初期化における機能の一端を明らかにした論文を発表しました(Akifuji et al., 2021)。

初期化促進にがん抑制遺伝子p53の機能阻害が効果的であることがわかっています(Hong et al., 2009)。MYCはがん関連遺伝子なので、初期化という現象は分化した体細胞(皮膚や血液などの細胞)をがん化させているということになります。しかし、作られたiPS細胞はがん細胞と違い正常に自己複製(増えること)し、さまざまな細胞に分化(変化)することもできます。

基礎研究として「初期化メカニズムの解明」「未分化維持機構の解明」を行うことは「新しいiPS細胞の樹立法の開発」「効率的なiPS細胞の培養法の開発」につながります。さらに、iPS細胞を活用した臨床応用の発展に貢献できると考えています。実際に、当グループで開発したiPS細胞の新たな培養方法は、現在臨床応用で使われているiPS細胞ストック(現在は京都大学iPS細胞研究財団で製造中)の製造・培養法として活躍しています(Nakagawa et al., 2014)。また、我々が見つけた初期化因子のMYCLも製造に使われています(Nakagawa et al., 2010)。

将来は個人個人のiPS細胞を作り、それらを中心とした情報解析(ビックデータ、AIの活用)による公衆医療への貢献ができればと考えています。そしてその先にはオーダーメイド医療の実現を夢見ています。ビックデータを活用して、その人に合った薬・治療などを導き出せる世の中になれば面白いだろうと考えています。

私は基礎研究者ですが、iPS細胞研究に携わることで、基礎研究を進めることが応用研究・臨床応用につながることを実感してきました。応用の場面で生まれた課題は基礎研究で解決し、それを応用することでステップアップしていくことが可能と考えています。基礎研究は地味な印象があるかもしれませんが、「基礎研究を極めればおのずと応用につながる」と確信しています。

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