研究活動
Research Activities
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研究成果
Publications
2013年12月25日
FOP患者さん由来のiPS細胞で病態を再現することに成功
松本佳久大学院生(京都大学CiRA/再生医科学研究所/名古屋市立大学大学院)、池谷真准教授(京都大学CiRA)、戸口田淳也教授(京都大学 CiRA/再生医科学研究所/医学研究科)、エドワード・シャオ博士(グラッドストーン研究所/カリフォルニア大学サンフランシスコ校)らの研究グループは、FOP患者さんの細胞から作製したiPS細胞を用いて、FOPの病態を再現することに成功しました。
この研究成果は2013年12月9日に「Orphanet Journal of Rare Diseases」に公開されました。
1. ポイント
- FOP(Fibrodysplasia Ossificans Progressiva; 進行性骨化性線維異形成症)患者さん由来のiPS細胞を骨・軟骨へと分化誘導したところ、骨化・軟骨化が進みやすい細胞であることを見出した。
- この細胞をFOPのモデル細胞として利用することで、FOPに効果のある薬を探索することができる。
FOPは筋肉や腱、靭帯などの柔らかい組織の中に、徐々に骨ができてしまう病気で、200万人に1人程度の割合で患者さんがいると言われている希少難病の一つです。これまでの研究により、ACVR1と呼ばれる遺伝子に変異が生じて過剰に働くとFOPとなる事がわかっていました。しかし、FOP患者さんから組織サンプルを採取すると骨化を促進してしまうことや、マウスを使ったFOP病態モデル注1)の限界から、FOP発症の詳細なメカニズムについては不明でした。
これまでにFOP患者さんから採取した細胞を使ってiPS細胞を樹立することはできていましたが、iPS細胞の分化能について評価されていませんでした。そこで、戸口田教授らのグループでは、iPS細胞から骨・軟骨への分化誘導法を確立し、FOP患者さん由来のiPS細胞の骨・軟骨への分化能について検討を行いました。本研究では5名のFOP患者さんから採取された皮膚の線維芽細胞を用い、iPS細胞を樹立しました。
1)FOP患者さんから樹立したiPS細胞は骨化しやすい
まず4種のFOP患者さん由来のiPS細胞と2種のコントロール用iPS細胞を作製しました。これらはいずれも3胚葉に分化する能力をもっており、多分化能を持った細胞でした。これらの細胞を骨化が促進される条件下で15日間培養した所、コントロールの細胞よりもFOP患者さん由来の細胞で骨化がより進行していました。(Fig. 1)
Fig. 1 骨化が進む環境でiPS細胞を培養すると、FOP患者さん由来の細胞ではより骨化が進行していた
iPS細胞を、骨へと誘導する環境で培養し、1、6、15日目に骨化の度合いを測定するコッサ染色注2を行った。15日目には黒く検出されるようになるが、FOP患者さん由来のiPS細胞はより濃く染まっており、骨化がより進行していることがわかる。
2)FOP患者さん由来のiPS細胞はより大きな軟骨を形成した
次にコントロール用のiPS細胞2種類とFOP患者さんから樹立したiPS細胞3種を軟骨へと誘導するペレット培養を行った所、コントロールと比較してFOP患者さん由来の細胞ではより大きな軟骨を形成しました。
Fig. 2 軟骨へと誘導すると、FOP患者さん由来のiPS細胞の方が大きな軟骨を形成した
赤:細胞核 青:軟骨の部分 バーは黒が200 μm、赤が50 μmを示す
本研究により、FOPの病態を体の外で一部再現することができ、骨化・軟骨化を緩和するような薬の候補となる物質を探すための評価系を確立しました。これにより、FOPの創薬研究が一層加速することが期待されます。またFOPのみならず、希少疾患の患者さんから研究試料の採取が困難な疾患について、iPS細胞技術を活用してその病態を再現できる可能性を示し、創薬研究ならびに疾患メカニズムの解明に、iPS細胞技術が利用できることを示しました。
- 論文名
Induced pluripotent stem cells from patients with human fibrodysplasia ossificans progressiva show increased mineralization and cartilage formation - ジャーナル名
Orphanet Journal of Rare Diseases - 著者
Yoshihisa Matsumoto1,2,3†, Yohei Hayashi4†, Christopher R Schlieve4,5†, Makoto Ikeya2*, Hannah Kim6, Trieu D Nguyen4, Salma Sami4, Shiro Baba4, Emilie Barruet6, Akira Nasu1,2,7, Isao Asaka2, Takanobu Otsuka3, Shinya Yamanaka2,4, Bruce R Conklin4,6, Junya Toguchida1,2,7*, Edward C Hsiao4,6*
*:責任著者 - 著者の所属機関
- 京都大学再生医科学研究所
- 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
- 名古屋市立大学大学院医学研究科
- グラッドストーン研究所
- Duke-NUS Graduate Medical School
- カリフォルニア大学サンフランシスコ校
- 京都大学医学研究科 整形外科学講座
本研究は、下記機関より支援を受けて実施されました。
- National Institutes of Health (NIH)
- California Institute of Regenerative Medicine/ Gladstone Institutes CIRM Fellowship
- UCSF Department of Medicine, and March of Dimes Basil O'Connor Starter Grant
- Duke-NUS Graduate Medical School Singapore 3rd-year Research Program
- California Institute of Regenerative Medicine/UCSF CIRM Fellowship
- Grants-in-aid for Scientific Research from JSPS
- 文部科学省「再生医療の実現化プロジェクト」
- JST 再生医療実現拠点ネットワークプログラム「疾患特異的iPS細胞を活用した難病研究」
- 上原記念生命科学財団
- USCF Program for Breakthrough Biomedical Research
- 内閣府「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」
- 文部科学省・日本学術振興会 科学研究費補助金
- 医薬基盤研究所
- L K Whittier Foundation
- Rodenberry Foundation
注1)病態モデル
その病気に特徴的な症状や性質を再現したもの。研究を行う際には、病態モデルを用いて病気の原因究明を行う。これまでも病態を再現した実験動物が、病態モデルとして多くの基礎研究に利用されていた。しかし、ヒトと実験動物とではシステムが異なることもあり、有効な病態モデルが得られないこともあった。ヒトの疾患特異的iPS細胞から病態が再現できれば、ヒト細胞を用いた基礎研究が容易になることが期待されている。今回の成果はまさにその一例にあたる。
注2)コッサ染色
組織中のカルシウムを検出する方法。本研究では骨化の指標としてカルシウムの量を検出している。
